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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その伍零

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 少年は魔女に、あなたを何と呼べばいいのか、と尋ねた。魔女は少し迷ったが、自分の通り名を彼に教えた。
「私は人々に''生命の魔女''と呼ばれて恐れられている。通り名の由来は私が生命を主題に研究を行っているからだろう」
「生命の、魔女?」
「そう、生命の魔女だ。私は生命について熱心に研究し、そして真理に辿り着くために全てをささげているのだ」
 野生の勘は鋭いが知能は劣る獣人の少年は、なぜ魔女が全てを捧げてまで''生命''を主題に研究をするのかがわからなかった。
「なぜ、研究、する? なぜ、真理、に、辿り着き、たい?」
「生命は永遠に続くわけじゃない。終わりがある。そもそも''永久不滅''というものはこの世界には存在していない。永久不滅だと信じて疑われていなかった星々の輝きですら、とある魔女によって『永久不滅ではない』と結論付けられたんだ。永久機関なるものを作り出すために尽力する者もいるが、外部から何らかの力を受けずに永久的に動き続ける機械など存在するはずもない。私は永久機関には否定的だよ。だが、それでも私は......」
 不死、もしくは不老不死、他には死者の蘇生など。これら(または、これらに準ずるもの)は古くから実現出来ないか何度も試行錯誤されてきた。すなわち、古代から人間は永遠の命を欲していたのだ。そしてそれは生命の魔女とて例外ではなかった。
 彼女──生命の魔女は永遠の命が実現出来るのか、その真理へ辿り着くために全てを捧げている。その副産物として、命に関しての知識量は圧倒的に増加した。副産物の中には複数の生物を合体させて強力な生物を生み出す、というものも含まれる。つまり、俗に合成生物キメラなどと呼ばれるものだ。
 このキメラは科学的にも生み出すことは可能とされ、そして生命の魔女もそのことを理解している。付け加えるべきは少年が、このキメラに極めて似ているという点だ。無論、見た目でなく二つの異なる遺伝子情報を持つということでだが。
 生命の魔女は少年とキメラが生物学的にかなり近い存在だと理解し、どのように生物同士を合成させるかの方法を探るために少年を保護した。彼女は実際にキメラを作り出すことが出来るのは知っていたが、作り出す方法は知らなかったからである。
「私は必ず永遠の命を手に入れたい。そのために研究を続けている。それと並行して生物全般もちゃんと研究している。だから君の生態には非常に興味があるね。
 そういえば知り合いの魔女が生物のことで面白いことを言っていたな。炎は酸素を取り込んで燃える力へと変換し、そして二酸化炭素を排出する。炎も呼吸をしているわけだ。では炎は生きているのではないか、と彼女は言ったんだよ。傑作だ」
 少年は少し黙り込んだが、すぐに口を開いた。
「......俺、で、良けれ、ば、研究を、手伝、う」
 クスリと笑う生命の魔女を見ながら、少年もつられて笑った。そして二人は笑い合い、親しくなり、その後共同生活を始めることとなる。生命の魔女は基本的に家に引きこもり、食料の調達は少年が担った。食料調達は主に狩りであるが、時には町まで行って加工食品を入手した。
 以前までは少年が獣人だと人に知られたら、有無うむを言わさずに石を投げられていた。しかし生命の魔女の息がかかる獣人だという話しが広がっていたその町では、石を投げられることはなかった。
 彼女と出会ってから良いことばかりだ。少年はそう思いながら帰宅する。
「ああ、帰ったか。ちょうどいい。今やっている実験を手伝ってくれないか?」
 一度うなずいた少年は黒く塗り替えられた机の前に立ち、生命の魔女の実験を手伝う。彼女いわく、机を黒く塗り替えたのは薬品をこぼしても取り除きやすいからだそうだ。
「薬品、は、取り除か、ないと、ダメ、なのか?」
「私が扱う薬品には有害なものも多くあるから、机にこぼして取り除かずに放置しておけば大変なことになってしまう。薬品は白い色のものが多いから、黒い机だとこぼしたことがわかりやすくなるんだ。人間は毒に弱いからね」
「毒に、弱い......?」
「人間は毒に耐性がないんだよ。ただ他の生物の中には毒に耐性のあるものもいるし、毒を体内で生成したり蓄積ちくせきしたりして武器として使用する生物も存在しているよ」
「うん。理解、した」
 薬品は丁寧に扱うように生命の魔女に釘を刺された彼は、重い物を持っているかのごとく小刻みに腕を震わせながら薬品を持ちながら実験を手伝った。生命の魔女はその光景を横目に薬品を混ぜ合わせ、早々に実験を終わらせようとした。彼女には何とも言い表せぬ嫌な予感がしたのだ。残念なことにその予感は的中することになる。
 家の扉がものすごい勢いで開け放たれ、武装した数十人が横一列で並んでいた。
「思ったより早いな......」生命の魔女は一歩ずつ後退し、少年のいる方を向く。「君は何としてでも逃げろ」
 来訪者の一人が叫ぶ。「やっと見つけたぞ、原初の魔女の一角いっかく・生命の魔女!」
「原初の魔女? 私はそんな風に呼ばれているのか」
「貴様は神聖なる死者蘇生を行った。その行為は我々キリシタン宗に背くものであり、キリスト様への冒涜ぼうとくである。よって、最優先抹殺対象とされる貴様を今ここで処分する!」
 聖書には処刑されたはずのイエス・キリストが三日後に復活したという記述が見られ、死者が蘇ることはキリスト教にとって神聖なものだとされている。
 そんな死者蘇生を実際に行えるか試みた生命の魔女はキリスト教に敵視されていた。そのため、彼らがこの家の場所を突き止めるのは時間の問題であった。
 困惑する少年を見兼ねた生命の魔女は窓を蹴破り、少年を外へ逃がす。窓から身を乗り出した彼女は少年に逃げるように指示し、泣きながらも背を向けて走る姿を見送る。少年の姿が見えなくなる前に彼女の心臓が鼓動をやめたのを、か弱き彼は本能で察していた。
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