隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也

文字の大きさ
上 下
222 / 245
第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆玖

しおりを挟む
 眠った少年の手足と口を縛った店主は、彼を荒々しく袋へ入れた。その袋をかつぎ、裏口から静かに運び出す。そして少年は珍獣として売り払われてしまった。
 目が覚めた少年は自分がおりに入れられていることに気付き、鉄格子てつごうしを掴みながら叫んだ。
「おいおい」少年の叫びに反応し、中年の男性が近づいてくる。「そんなに騒ぐな。うるさいぞ」
「あの武器屋の、店主は、どうし、たんだ? 俺を、売った、のか?」
「人と獣の混じりもののくせに、やけに察しが良いじゃないか。君は売られたんだよ」
「騙され、たのか......」
「獣人でも落ち込むのか。まあ関係ない。君はこれから別の人物の手に渡る。そこで見世物となるか愛玩されるかはわからん。出来るだけ高く売れることを願うよ」
 中年男は檻に布を掛け、腰をさすりながら立ち去った。少年は不衛生で汚らしい檻の中で、食事もまともに与えられずに何ヶ月も過ごすことになる。
 元から獣臭い少年は何ヶ月も体を洗わなかったことで更に臭くなり、たまに様子を見に来る中年男も嫌な顔をするようになった頃のことだ。
「おいお前、すごく獣臭いな。毛深いってだけじゃなくて本当に獣の血も混じってるんじゃないのか?」
「それが、どうし、た」
「気に入らねぇ態度だな。んなことより檻から出すから暴れるなよ」
「買い手が、見つかった、のか?」
「その通りだ。まずは体を洗わないとな」
 檻から出された少年は手枷てかせを付けたまま水風呂に突っ込まれ、灰汁あくを使って洗われた。
「何だ、これ、は? すご、く泡立つ」
「灰を水にぶち込んで、その上みをすくったもんだ。灰汁って言うんだよ」
「汚れ、が、落ちる、ぞ」
 綺麗になった少年は見窄みすぼらしい服を着させられ、首輪を付けられた。
「この首輪、はなん、だ」
「買い手の奴が首輪を付けさせることを望んでいるんだよ」
「気に、入らん」
 加えて、少年の買い手は四つん這いになることも彼に命じた。これには少年も怒り、買い手へ襲いかかる。しかし従者がそれを阻み、逆にしつけをされてしまう。
「貴様は四つん這いになってワンと鳴けば良いのだ!」
「ふざ、けるなっ!」
「飼い主であるワシを愚弄ぐろうするとは、それでも貴様は犬か!」
「人間だ! 俺は、獣、じゃない!」
「黙れ! まずは犬らしく''ワン''以外しゃべるな。あと服を脱げ。獣は服なんて着ない!」
 こうして少年は買われ、犬のように扱われることとなる。散歩の時も服は着させてもらえず、裸のまま町を四つん這いで歩かされた。買い手が少年に石を投げても良いと町人達に許可をすると、たちまち少年は石の雨にう。彼は頭を手で覆って小さく固まるしかなかった。
 少年が買い取られて一年も経つ頃には今の生活にも慣れ、波風立てぬように日々を過ごすすべを身につけた。
「おい犬」買い手は手を差し出す。「お手」
「ワン!」
「お座り」
「ワンワンッ!」
 命令に従順じゅうじゅんとなった少年は言われるがままにお手をしお座りをし、遠くに投げられた骨を追いかけてしゃぶるようになった。
「お前は偉いなあ~」
「ワンッ! ワンワンッ!」
「よしよ~し!」
 そうしていつもと同様に散歩へ出掛け、町人に石を投げられている最中のことである。石つぶての流れ弾が見物していた少女の方へ向かって飛んでいくのを見た少年は、自分の危険をかえりみずに少女の前に立つ。
 少女に当たるはずだった石は少年の頭に直撃したわけだが、彼の元へ心配して駆け寄る者は一人もいなかった。町人達が心配したのは少年ではなく少女であり、助けたはずの少年はののしられた。
 あろうことか少年に助けられた少女は心底嫌な顔をし、そして少年に向かって吐き捨てた。
「醜い獣の分際ぶんざいで私に近づかないで!」
 少年はその時、ついに動き出したのである。自分を罵倒した少女へ飛びかかった少年はまず両目を潰し、それから遠くへ蹴り飛ばした。町人達はうろたえるが、一人の勇敢な青年が少年の前に立ちはだかる。
 しかしさすがは獣人だ。少年は青年の腕を噛み千切り、久々のエサとばかりにおいしそうに食した。
「そいつを捕らえろ! 化け物だ!」
「この野郎! よくもやりやがったな!」
 少年は人々を痛めつけ、邪魔する者を蹂躙じゅうりんして進んだ。山の中を進み、追ってから逃れながら安全な地を目指す。そうして辿り着いたのが、少年と同様に人間から迫害はくがいを受けた魔女の住まう家だった。
 鋭い目付きの魔女は気を失っている少年を山で見つけ、隠れ家へ連れ帰った。その魔女は少年に優しく、容姿も美しかった。今まで優しくされたことがなかった少年は魔女にかれたが、同時にまた裏切られるのではないかと警戒もしていた。けれど魔女は少年に人間らしい生活をさせ、食べ物も満足に与えた。
「君に名前はないのかい?」
「俺に、名前、ない」
「そうなのか。私も名前はないようなものなんだ。似たもの同士だな」
「お前、は、俺が、怖く、ないの、か?」
「怖いのか、それで? むしろカッコイイじゃないか」
「カッコ、イイ?」
「うん! すごくカッコイイじゃん!」
 次第に打ち解けた二人の会話には笑顔が見られるようになり、二人が出会ってから二ヶ月ほど経つと魔女の研究を少年も手伝うようになった。そんな生活が長く続くことはないとも知らずに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

処理中です...