隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也

文字の大きさ
上 下
220 / 245
第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆漆

しおりを挟む
 震えるでもなく怒りをあらわにする少年は、一番近くにいた俺に襲いかかった。たけり狂った少年の力は半端ではなく、やはりこの少年は鍛えれば戦力になると確信した。
「おい少年。お、俺達はお前の敵じゃない」
「ガルルルルル」
「ちょっ!? 止まれ馬鹿! 俺達はキリシタン宗から逃げてる異端者の集団で、お前を殺そうともしない。というかこれからキリシタン宗を倒すためにお前に協力してもらいたいんだ」
「協......力?」
「そうだ、協力。仲間になろうってこと」
「信用......出来ないっ!」
 語尾とともに繰り出された少年のパンチをうまく受け流しつつ蹴り飛ばそうと試みるが、獣人のもの凄い脚力がそれをはばむ。蹴りに回転によって生まれる威力を上乗せするが、それでも小さき少年の体は直立不動である。
『困っているようだな、政宗』
「当たり前だ。こいつの力はどうなってんだよ!」
『仁和の言ったように彼は獣に相当する力を有している。キリスト教から仮にも''悪魔の化身''と呼ばれているだけあって、獣人は単体でもかなり強いよ』
「獣人はこいつ以外にもいるってのか?」
『いる。確かに存在するんだ。獣人は悪魔の化身ではなく人間の亜種なんだ。言わば''亜人''とでも呼ぶべきだろう。その亜人は人間の愚かな実験によって数百体ほど生み出されたが、キリスト教などの勢力によって大半が殺されてしまった』
「こいつは獣人の生き残りの希少種ってことかよ」
『絶滅危惧種と言ったらわかりやすいかな。彼は殺しては駄目だよ』
「わかってるって。それより俺の筋力を倍にしてくれ」
『注文の多い奴だな。まあ良い。貴様の筋力を一時的に倍にしてやるから、せいぜい励みたまえ』
 皮下に収まらないのではないかと錯覚するほど俺の筋力は倍増し、少年を死なないギリギリの力にセーブして殴りつける。すると思った通り少年は気絶し、俺はため息をついた。
「大丈夫ですか!?」仁和はいつになく心配そうな表情だった。「まさか彼が急に襲いかかるとは思っておらず......」
「まあ無事だったし気にしてねぇよ。それよりこいつは仲間にしたいな。接近戦でここまで俺を追い込む奴は早々見つからないぞ」
「政宗殿が良いのでしたら私は賛成です」
「うっしゃ! んじゃこいつがまた起きるまで慧に錬金術でも教えてもらおうぜ! 錬金術は謎に包まれた学問だし前々から興味あったんだよね」
 唐突に話しを振られた慧は唖然としていたが、すぐに笑顔で錬金術について話し始めた。
「錬金術とは読んで字のごとく、卑金属や貴金属から金を精錬することを目的とした学問になります。しかし卑金属から貴金属の精錬や、私の悲願である死者蘇生などの魂を対象とする研究も錬金術には含まれます。鉛を金に変えるというのは錬金術の代表的な例ではありますが、これは難しいというか不可能です。仁和さんによると四百年後の技術では不可能ではないようですが、現代の技術では実現は無理でしょう」
「マジか。錬金術で金が精錬出来ればキリシタン宗とやり合う時のための資金が手に入ると思っていたんだが」
「あ、ですが鉛から金を抽出したりすることは可能です。膨大な量の鉛を必要としますが、実際に金が抽出出来ます」
「ほお。じゃあ金の調達は可能か?」
「はい!」
「ならば錬金術を使って資金を集めるのを慧に頼もう。藤堂にも手伝わせればやりやすいだろう。何せ藤堂は研究のために錬金術も多少は学んでいたしな」
「ええ」藤堂はうなずく。「彼女と僕が一緒ならば金の調達は容易いでしょう」
「頼りにしているぞ。資金源は今現在では二人が頼りなんだ」
 二人はやる気に満ちた顔で自分の胸を軽く叩いた。俺はそれを見て少し笑うと、それに反応したのか獣人は起き上がり、それと同時に俺の顔を見て震え上がった。
「ハハハ! お前さ、獣人か何だか知らんが一対一でお互い素手で殴り合って負けたことなかったろ?」
 獣人の少年は視線をキョロキョロと動かしつつ、一度だけうなずいた。
「だろーな。上には上がいるってことだ、少年よ。時に、少年の名前は何と言うんだ?」
「な......名前?」
「生まれた時に親から授けられた己の名のことだ」
「俺、親、知らない。気付いた時に、はすでに、一人だった......」
「マジかよ。ずっと一人でキリシタン宗みたいな奴らから逃げてたってか!?」
「うん。俺、頑張った」
「すげーよ。今まで大変だったな。でももう安心しても良いぜ。俺達はテメェの味方だ」
「うん。あ、俺の、名前、思い、出した」
「マジ? 何て名前だ?」
「皆には''獣ちの狩人かりうど''と、呼ばれて、いた」
 獣堕ちの狩人......。獣に堕ちてしまった狩人、か。蔑称なのは明白なのに、こいつはそれに気付いていないのか? いや、意味はある程度理解しているはすだ。
 彼にちゃんとした名前はなく、ずっと''獣堕ちの狩人''としか呼ばれてこなかったということか。
「なら俺が名付けてやるよ。ええと、お前は力強く孤高だから、九頭竜くずりゅうろうってのはどうだ? 九頭竜の意味は頭が九つある竜のことで、力強く感じる。狼は孤高な感じがするからそうした。姓名ともに獣にちなんでるってのがカッコイイだろ!」
「く、九頭竜狼?」
「おお! 気に入ったのか?」
 獣人の少年、もとい九頭竜は少し頬を緩めた。九頭竜が自分の名前を気に入ったようなので俺は満足し、腕を組んで首を縦に何度か振った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

処理中です...