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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆漆

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 震えるでもなく怒りをあらわにする少年は、一番近くにいた俺に襲いかかった。たけり狂った少年の力は半端ではなく、やはりこの少年は鍛えれば戦力になると確信した。
「おい少年。お、俺達はお前の敵じゃない」
「ガルルルルル」
「ちょっ!? 止まれ馬鹿! 俺達はキリシタン宗から逃げてる異端者の集団で、お前を殺そうともしない。というかこれからキリシタン宗を倒すためにお前に協力してもらいたいんだ」
「協......力?」
「そうだ、協力。仲間になろうってこと」
「信用......出来ないっ!」
 語尾とともに繰り出された少年のパンチをうまく受け流しつつ蹴り飛ばそうと試みるが、獣人のもの凄い脚力がそれをはばむ。蹴りに回転によって生まれる威力を上乗せするが、それでも小さき少年の体は直立不動である。
『困っているようだな、政宗』
「当たり前だ。こいつの力はどうなってんだよ!」
『仁和の言ったように彼は獣に相当する力を有している。キリスト教から仮にも''悪魔の化身''と呼ばれているだけあって、獣人は単体でもかなり強いよ』
「獣人はこいつ以外にもいるってのか?」
『いる。確かに存在するんだ。獣人は悪魔の化身ではなく人間の亜種なんだ。言わば''亜人''とでも呼ぶべきだろう。その亜人は人間の愚かな実験によって数百体ほど生み出されたが、キリスト教などの勢力によって大半が殺されてしまった』
「こいつは獣人の生き残りの希少種ってことかよ」
『絶滅危惧種と言ったらわかりやすいかな。彼は殺しては駄目だよ』
「わかってるって。それより俺の筋力を倍にしてくれ」
『注文の多い奴だな。まあ良い。貴様の筋力を一時的に倍にしてやるから、せいぜい励みたまえ』
 皮下に収まらないのではないかと錯覚するほど俺の筋力は倍増し、少年を死なないギリギリの力にセーブして殴りつける。すると思った通り少年は気絶し、俺はため息をついた。
「大丈夫ですか!?」仁和はいつになく心配そうな表情だった。「まさか彼が急に襲いかかるとは思っておらず......」
「まあ無事だったし気にしてねぇよ。それよりこいつは仲間にしたいな。接近戦でここまで俺を追い込む奴は早々見つからないぞ」
「政宗殿が良いのでしたら私は賛成です」
「うっしゃ! んじゃこいつがまた起きるまで慧に錬金術でも教えてもらおうぜ! 錬金術は謎に包まれた学問だし前々から興味あったんだよね」
 唐突に話しを振られた慧は唖然としていたが、すぐに笑顔で錬金術について話し始めた。
「錬金術とは読んで字のごとく、卑金属や貴金属から金を精錬することを目的とした学問になります。しかし卑金属から貴金属の精錬や、私の悲願である死者蘇生などの魂を対象とする研究も錬金術には含まれます。鉛を金に変えるというのは錬金術の代表的な例ではありますが、これは難しいというか不可能です。仁和さんによると四百年後の技術では不可能ではないようですが、現代の技術では実現は無理でしょう」
「マジか。錬金術で金が精錬出来ればキリシタン宗とやり合う時のための資金が手に入ると思っていたんだが」
「あ、ですが鉛から金を抽出したりすることは可能です。膨大な量の鉛を必要としますが、実際に金が抽出出来ます」
「ほお。じゃあ金の調達は可能か?」
「はい!」
「ならば錬金術を使って資金を集めるのを慧に頼もう。藤堂にも手伝わせればやりやすいだろう。何せ藤堂は研究のために錬金術も多少は学んでいたしな」
「ええ」藤堂はうなずく。「彼女と僕が一緒ならば金の調達は容易いでしょう」
「頼りにしているぞ。資金源は今現在では二人が頼りなんだ」
 二人はやる気に満ちた顔で自分の胸を軽く叩いた。俺はそれを見て少し笑うと、それに反応したのか獣人は起き上がり、それと同時に俺の顔を見て震え上がった。
「ハハハ! お前さ、獣人か何だか知らんが一対一でお互い素手で殴り合って負けたことなかったろ?」
 獣人の少年は視線をキョロキョロと動かしつつ、一度だけうなずいた。
「だろーな。上には上がいるってことだ、少年よ。時に、少年の名前は何と言うんだ?」
「な......名前?」
「生まれた時に親から授けられた己の名のことだ」
「俺、親、知らない。気付いた時に、はすでに、一人だった......」
「マジかよ。ずっと一人でキリシタン宗みたいな奴らから逃げてたってか!?」
「うん。俺、頑張った」
「すげーよ。今まで大変だったな。でももう安心しても良いぜ。俺達はテメェの味方だ」
「うん。あ、俺の、名前、思い、出した」
「マジ? 何て名前だ?」
「皆には''獣ちの狩人かりうど''と、呼ばれて、いた」
 獣堕ちの狩人......。獣に堕ちてしまった狩人、か。蔑称なのは明白なのに、こいつはそれに気付いていないのか? いや、意味はある程度理解しているはすだ。
 彼にちゃんとした名前はなく、ずっと''獣堕ちの狩人''としか呼ばれてこなかったということか。
「なら俺が名付けてやるよ。ええと、お前は力強く孤高だから、九頭竜くずりゅうろうってのはどうだ? 九頭竜の意味は頭が九つある竜のことで、力強く感じる。狼は孤高な感じがするからそうした。姓名ともに獣にちなんでるってのがカッコイイだろ!」
「く、九頭竜狼?」
「おお! 気に入ったのか?」
 獣人の少年、もとい九頭竜は少し頬を緩めた。九頭竜が自分の名前を気に入ったようなので俺は満足し、腕を組んで首を縦に何度か振った。
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