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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆陸
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「おいコラくそ仁和! 食事中に汚ねぇものを見せんな!」
「袋に入れていますから、政宗殿は実質的には見ていませんよね? 馬は草食なので糞の臭いもそれほどありませんし」
「気分が悪くなんだよ!」
「それは政宗殿個人の問題でしょう?」
「俺は一応お前の上司なんだが」
「上司に意見出来る部下は重宝されます。大切にしてくださいね?」
「テメェ......」
仁和との口論の末に、ハーフである慧は生で海藻を消化出来るのかというくだらない疑問について話し合っていた。
「慧が食えば答えがわかんだろ」
「しかし政宗殿、その場合もし柏木殿が消化出来なかったら大変なことになりますよ」
「そん時はそん時だろーが」
そんな会話を聞いていた慧は心底震え上がり、端の方でうずくまって下を向いていた。クズな俺だからビビる慧を笑いながら見つつ酒を飲めば楽しそうだと思ってしまったが、たまには仲間を大切にしてみよう。
俺は慧の元へ近づき、しゃがみ込んで顔を覗き込む。「悪かったな。ついふざけちまったんだ。慧は消化出来ない場合を考慮して生で海藻は食うなよ」
「わ、わかりました」
「これから慧、ホームズ、ジョーのために海藻を焼こう。一緒にやるか?」
「はいっ!」
乾燥した馬糞や油分を多く含んでいる杉の枯れ葉など、他にも乾燥していた枝などを用いて急ごしらえで焚き火をした。その火を使って海藻は焼かれ、ついでに料理も行われた。
作られた料理を焚き火を囲みながら皆で食べ、俺の体力がある程度回復してきたので再度前進を続けた。
寺に到着したらバレないように遠くから観察し、弱味を握って主導権を得る。この役目は仁和に向いている。なので仁和に丸投げすることにしよう。
すると突然、黙々と歩いていた仁和は何かに気づいて動きを止めた。「皆さんは動かないでください。獣の臭いがします。先ほどの料理の香りで獣を引きつけてしまったのでしょう」
そして仁和の指示で忠義と東野が弓を引き、ジョーと成実が周囲を警戒する。俺は石を拾って構えた。だがしかし、俺らの目の前に現れたのは獣ではなく、紛れもなく人間の少年だった。慧と同い年くらいに見える少年は三歩ほど進むと倒れ、藤堂が近づいて体調を確認する。
「今は気を失った状態です。気を失った直接の原因は空腹によるもので、我々が食べていた料理の香りに引き寄せられたのでしょう。この少年は獣臭いので獣と一緒にいた可能性が高いですね。そんなことよりも彼の背中には矢が突き刺さっており、この処置を急いだ方が良いです。仁和様は傷薬と包帯を持っていますか?」
「持っています。処置は私がやりましょう」
傷薬と包帯を取り出した仁和は少年の服を脱がせ、背中の矢を引き抜いた。すると少年の体毛が異常に濃いことがわかり、傷薬を塗った包帯を巻いてから改めて少年の体を確かめた。
調べた結果、彼の全身は獣のような体毛で覆われていた。この体毛は肌に直に生えており、加えて肉の付き方が人間より獣に近い。
これらのことから仁和は、この少年は俗に『獣人』と呼ばれる者ではないかと結論付ける。更に背中に矢が刺さっていたのは人間に追われていたからだと推測した。
「何で人間がこの少年を追うんだ?」
「こんな見た目の人が近くにいたら普通の人間は恐ろしくなり、殺される前に殺そうとしますよ。それにキリシタン宗は獣人を悪魔の化身と考え、魔女と同一視しています。もしかすると彼を追っていたのはキリシタン宗かもしれませんね。今私達はキリシタン宗と敵対する立場ですし、この少年を仲間にしてはいかがですか?」
「......そもそも獣の特徴を持つ人間なんて空想上の話しだろ? 実際に存在しうるのかよ」
「理論上は存在します。例えば獣と人間の間に生まれた子だったり、獣の遺伝子情報を持つ人間だったりなど。あとは人狼と言われて迫害された獣人の記録が実際に存在していますが、これは狂犬病に感染して狂化した人間だという説もあります」
「狂犬病か。ゾンビウイルスと共通点があるな。江渡弥平がゾンビウイルスを生み出す最中に生まれてしまった偶然の産物ってことか?」
「もしくはキリシタン宗から逃げ回る我々のような異端者が実験で生み出した可能性もあります」
「何にしろ少年を保護することに異論はないようだな。キリシタン宗から追われる立場も同じだし、仲良くなれるかもしれん」
この少年を仲間にするとかなりメリットがある。まず彼と俺達の境遇が酷似していることだ。境遇が似ている者同士ならば団結力が生まれる。もう一つのメリットは戦力。獣の特徴を持ち、肉付きが獣に近いならば素手でも結構強いはずだ。
そんな打算に満ちた考えで少年を助けたわけだが、かわいそうだと少なからずは思っていた。俺も人の子なのだ。こんなか弱い少年に矢が刺さっているのに、下卑た考えだけで助けるなど人の道理から外れてしまう。まあ打算的考えがあったことを否定しないのが俺っぽいよな。
そんなことを考えていたら獣人の少年は起き上がり、俺達の姿を見て怒りの表情を浮かべた。矢が刺さっても逃げつづけなければならないほど追い込まれていたから、人間(得に大人)には良い感情はないんだろう。
「袋に入れていますから、政宗殿は実質的には見ていませんよね? 馬は草食なので糞の臭いもそれほどありませんし」
「気分が悪くなんだよ!」
「それは政宗殿個人の問題でしょう?」
「俺は一応お前の上司なんだが」
「上司に意見出来る部下は重宝されます。大切にしてくださいね?」
「テメェ......」
仁和との口論の末に、ハーフである慧は生で海藻を消化出来るのかというくだらない疑問について話し合っていた。
「慧が食えば答えがわかんだろ」
「しかし政宗殿、その場合もし柏木殿が消化出来なかったら大変なことになりますよ」
「そん時はそん時だろーが」
そんな会話を聞いていた慧は心底震え上がり、端の方でうずくまって下を向いていた。クズな俺だからビビる慧を笑いながら見つつ酒を飲めば楽しそうだと思ってしまったが、たまには仲間を大切にしてみよう。
俺は慧の元へ近づき、しゃがみ込んで顔を覗き込む。「悪かったな。ついふざけちまったんだ。慧は消化出来ない場合を考慮して生で海藻は食うなよ」
「わ、わかりました」
「これから慧、ホームズ、ジョーのために海藻を焼こう。一緒にやるか?」
「はいっ!」
乾燥した馬糞や油分を多く含んでいる杉の枯れ葉など、他にも乾燥していた枝などを用いて急ごしらえで焚き火をした。その火を使って海藻は焼かれ、ついでに料理も行われた。
作られた料理を焚き火を囲みながら皆で食べ、俺の体力がある程度回復してきたので再度前進を続けた。
寺に到着したらバレないように遠くから観察し、弱味を握って主導権を得る。この役目は仁和に向いている。なので仁和に丸投げすることにしよう。
すると突然、黙々と歩いていた仁和は何かに気づいて動きを止めた。「皆さんは動かないでください。獣の臭いがします。先ほどの料理の香りで獣を引きつけてしまったのでしょう」
そして仁和の指示で忠義と東野が弓を引き、ジョーと成実が周囲を警戒する。俺は石を拾って構えた。だがしかし、俺らの目の前に現れたのは獣ではなく、紛れもなく人間の少年だった。慧と同い年くらいに見える少年は三歩ほど進むと倒れ、藤堂が近づいて体調を確認する。
「今は気を失った状態です。気を失った直接の原因は空腹によるもので、我々が食べていた料理の香りに引き寄せられたのでしょう。この少年は獣臭いので獣と一緒にいた可能性が高いですね。そんなことよりも彼の背中には矢が突き刺さっており、この処置を急いだ方が良いです。仁和様は傷薬と包帯を持っていますか?」
「持っています。処置は私がやりましょう」
傷薬と包帯を取り出した仁和は少年の服を脱がせ、背中の矢を引き抜いた。すると少年の体毛が異常に濃いことがわかり、傷薬を塗った包帯を巻いてから改めて少年の体を確かめた。
調べた結果、彼の全身は獣のような体毛で覆われていた。この体毛は肌に直に生えており、加えて肉の付き方が人間より獣に近い。
これらのことから仁和は、この少年は俗に『獣人』と呼ばれる者ではないかと結論付ける。更に背中に矢が刺さっていたのは人間に追われていたからだと推測した。
「何で人間がこの少年を追うんだ?」
「こんな見た目の人が近くにいたら普通の人間は恐ろしくなり、殺される前に殺そうとしますよ。それにキリシタン宗は獣人を悪魔の化身と考え、魔女と同一視しています。もしかすると彼を追っていたのはキリシタン宗かもしれませんね。今私達はキリシタン宗と敵対する立場ですし、この少年を仲間にしてはいかがですか?」
「......そもそも獣の特徴を持つ人間なんて空想上の話しだろ? 実際に存在しうるのかよ」
「理論上は存在します。例えば獣と人間の間に生まれた子だったり、獣の遺伝子情報を持つ人間だったりなど。あとは人狼と言われて迫害された獣人の記録が実際に存在していますが、これは狂犬病に感染して狂化した人間だという説もあります」
「狂犬病か。ゾンビウイルスと共通点があるな。江渡弥平がゾンビウイルスを生み出す最中に生まれてしまった偶然の産物ってことか?」
「もしくはキリシタン宗から逃げ回る我々のような異端者が実験で生み出した可能性もあります」
「何にしろ少年を保護することに異論はないようだな。キリシタン宗から追われる立場も同じだし、仲良くなれるかもしれん」
この少年を仲間にするとかなりメリットがある。まず彼と俺達の境遇が酷似していることだ。境遇が似ている者同士ならば団結力が生まれる。もう一つのメリットは戦力。獣の特徴を持ち、肉付きが獣に近いならば素手でも結構強いはずだ。
そんな打算に満ちた考えで少年を助けたわけだが、かわいそうだと少なからずは思っていた。俺も人の子なのだ。こんなか弱い少年に矢が刺さっているのに、下卑た考えだけで助けるなど人の道理から外れてしまう。まあ打算的考えがあったことを否定しないのが俺っぽいよな。
そんなことを考えていたら獣人の少年は起き上がり、俺達の姿を見て怒りの表情を浮かべた。矢が刺さっても逃げつづけなければならないほど追い込まれていたから、人間(得に大人)には良い感情はないんだろう。
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