218 / 245
第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆伍
しおりを挟む
鉄から不純物を取り除く高い技術力。そんな技術がこの時代にあるのだとすれば、是非とも確保しておきたい。それには藤堂や慧の力が必須だ。今のうちに慧と仲良くなっておこう。
「慧が今まで研究していたのはどんな錬金術なんだ?」
「錬金術の完成形とも言われる死者蘇生です。死者蘇生が出来るようになれば両親とまた一緒に暮らせるので......」
「死者蘇生か。そう言えば江渡弥平っていう俺達の因縁の相手がいてな、そいつらの計画が死者蘇生に似ているんだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
「その計画とやらを教えてくださいっ!」
俺はまず足音を立てずに仁和が寝ている布団まで近づき、仁和のまぶたを触る。別に変な気を起こしたわけではなく、睡眠の深さを確認していたのだ。
睡眠には二種類あり、レム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。レム睡眠は眠りが浅く、ノンレム睡眠は眠りが深い。寝ている間にこの二つの睡眠は繰り返されていて、レム睡眠の間に夢を見ている。つまり一回の睡眠で何個かの夢を見ていることになるが、見た夢をほとんど覚えていない場合が多い。
レム睡眠とノンレム睡眠を見分ける方法は眼球運動にある。レム睡眠時には眼球が動いており、ノンレム睡眠時には眼球は静止している。もしまぶたに触れて眼球が動いていればレム睡眠時であり、眠りが浅いのだとわかる。
仁和のまぶたに触れたところ眼球の動きは確認出来ないため、俺は仁和の眠りが深いのだと判断した。つまり小さな物音程度では目が覚めない。俺は仁和が起きないように細心の注意を払いつつ、江渡弥平達のゾンビについての研究結果の記された帳面を引っ張り出す。
その帳面を慧に渡すと、彼女は食い入るように読んでいった。ページをめくるスピードは速く、かなり速読のようだ。俺は慧の傍らで眠気覚ましとして宿屋のコーヒーを啜っていると、いつの間にか帳面を読み終えていた。
「どうだった?」
「死者蘇生というより不死に近い感じですね」
「その通りだ。実際は不死ですらないんだが、どうやらこのウイルスに感染した人間は痛みを感じにくいらしく、骨が折れて物理的に動けなくならない限りは動き続ける。要は痛覚のない最恐の兵士ってわけだ」
「まあ死者蘇生に近いことは認めますが、不死の下位互換と言ったところでしょうか」
「そんな感じだな」
慧の読み終えた帳面をこっそりと元の位置に戻そうとすると、仁和が起き上がって俺を睨んだ。
「何度も言いますが、帳面を勝手に持ち出さないでくださいよ。この帳面を落としてしまったら大騒ぎになります」
「起きていたのか!? いつからだ?」
「最初からです。あなたが私の眼球運動を確認する以前から、と言ったらわかりますか?」
「最初っから盗み聞きしていたんだな」
「あんなに大きな声で会話していたら、聞こうとしなくても聞こえてしまいます」
そうしていると皆が起き始めたので、俺はお寺へ行く準備を始めた。米沢城から辛うじて持ち出せた荷物は少なく、準備もそこまで時間が掛からなかった。
準備が出来次第宿屋を発ち、地図を見ながら道なき道を進んだ。非力な仁和や藤堂などの頭脳担当は進行に遅れが出る可能性を考慮して荷物をあまり持たず、逆に力が有り余る戦闘担当の奴らは荷物を多く持つ。
「すみません、若様」良直は息を切らせながら頭を下げた。「もっと若かったら力があったのですが、もう歳ですかね」
「隠居したとはいえ良直はまだまだ役に立つだろ? 元気出せよ戦闘担当!」
「ありがたきお言葉! 一生若様にお供いたします!」
「おう!」
良直を励ましたものの、俺の体力はすり減る一方である。元々前世から体力に自信がある方ではなく、それは伊達政宗に転生してからも変わらない。
半分ほど歩いたところで俺は力尽き、肩で息をしながら地面に腰を下ろした。
「俺はもう限界だ。歩けん!」
「では休憩としましょう。政宗殿は何か体力の回復するようなものを口にしてください」
「体力回復? あいにくだが、食べられる物は城から持ち出せてないぞ」
「そう思って町で海藻類を買ってきました。携帯しやすいので便利ですしね」
「ああ、助かった」
海藻を受け取り、少しずつ口へ放り込んだ。生の状態の海藻だな。乾燥させた方が保存が利くが、手間が掛かっていない分だけ生の方が値段が安かったのだろう。
「うわあっ!」ジョーは驚き、後ずさりした。「海藻を生で食べてるの!?」
「ん? どうしたんだよ、ジョー」
「いや、海藻は生では食べられないはずだ。消化が出来ないよ?」
「そんなことねぇよ。海藻は生でも食える」
そんな会話をしていると、ホームズが笑いながら説明を始めた。「日本人は昔から海藻を食べる習慣があり、そのため日本人の腸内には生の海藻でも消化出来るほどの力を持ったバクテリアがいるんだ。僕や君は生で海藻を食すことは無理だけど、彼ら日本人にとっては普通のことなんだよ」
「な、なるほど」
「ちなみにですが」仁和はホームズの説明に補足を加えた。「生の海藻を消化出来るのは腸内にバクテロイデス・プレビウスというバクテリアを保有する日本人だけです。お二人が海藻を食べたいのでしたら、今ここで焼きましょうか? ちょうど海藻と一緒に町で燃料を買ってきたので」
と言って仁和は乾燥した馬糞の入った袋を取り出した。馬糞などは乾燥させて燃料などにも使えるが、俺は海藻を食べている最中だったので気分が悪くなった。馬は草食動物だから肉食動物の糞に比べると臭いもそれほどしないが、それでも気分が悪くなるのは当然だ。
「慧が今まで研究していたのはどんな錬金術なんだ?」
「錬金術の完成形とも言われる死者蘇生です。死者蘇生が出来るようになれば両親とまた一緒に暮らせるので......」
「死者蘇生か。そう言えば江渡弥平っていう俺達の因縁の相手がいてな、そいつらの計画が死者蘇生に似ているんだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
「その計画とやらを教えてくださいっ!」
俺はまず足音を立てずに仁和が寝ている布団まで近づき、仁和のまぶたを触る。別に変な気を起こしたわけではなく、睡眠の深さを確認していたのだ。
睡眠には二種類あり、レム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。レム睡眠は眠りが浅く、ノンレム睡眠は眠りが深い。寝ている間にこの二つの睡眠は繰り返されていて、レム睡眠の間に夢を見ている。つまり一回の睡眠で何個かの夢を見ていることになるが、見た夢をほとんど覚えていない場合が多い。
レム睡眠とノンレム睡眠を見分ける方法は眼球運動にある。レム睡眠時には眼球が動いており、ノンレム睡眠時には眼球は静止している。もしまぶたに触れて眼球が動いていればレム睡眠時であり、眠りが浅いのだとわかる。
仁和のまぶたに触れたところ眼球の動きは確認出来ないため、俺は仁和の眠りが深いのだと判断した。つまり小さな物音程度では目が覚めない。俺は仁和が起きないように細心の注意を払いつつ、江渡弥平達のゾンビについての研究結果の記された帳面を引っ張り出す。
その帳面を慧に渡すと、彼女は食い入るように読んでいった。ページをめくるスピードは速く、かなり速読のようだ。俺は慧の傍らで眠気覚ましとして宿屋のコーヒーを啜っていると、いつの間にか帳面を読み終えていた。
「どうだった?」
「死者蘇生というより不死に近い感じですね」
「その通りだ。実際は不死ですらないんだが、どうやらこのウイルスに感染した人間は痛みを感じにくいらしく、骨が折れて物理的に動けなくならない限りは動き続ける。要は痛覚のない最恐の兵士ってわけだ」
「まあ死者蘇生に近いことは認めますが、不死の下位互換と言ったところでしょうか」
「そんな感じだな」
慧の読み終えた帳面をこっそりと元の位置に戻そうとすると、仁和が起き上がって俺を睨んだ。
「何度も言いますが、帳面を勝手に持ち出さないでくださいよ。この帳面を落としてしまったら大騒ぎになります」
「起きていたのか!? いつからだ?」
「最初からです。あなたが私の眼球運動を確認する以前から、と言ったらわかりますか?」
「最初っから盗み聞きしていたんだな」
「あんなに大きな声で会話していたら、聞こうとしなくても聞こえてしまいます」
そうしていると皆が起き始めたので、俺はお寺へ行く準備を始めた。米沢城から辛うじて持ち出せた荷物は少なく、準備もそこまで時間が掛からなかった。
準備が出来次第宿屋を発ち、地図を見ながら道なき道を進んだ。非力な仁和や藤堂などの頭脳担当は進行に遅れが出る可能性を考慮して荷物をあまり持たず、逆に力が有り余る戦闘担当の奴らは荷物を多く持つ。
「すみません、若様」良直は息を切らせながら頭を下げた。「もっと若かったら力があったのですが、もう歳ですかね」
「隠居したとはいえ良直はまだまだ役に立つだろ? 元気出せよ戦闘担当!」
「ありがたきお言葉! 一生若様にお供いたします!」
「おう!」
良直を励ましたものの、俺の体力はすり減る一方である。元々前世から体力に自信がある方ではなく、それは伊達政宗に転生してからも変わらない。
半分ほど歩いたところで俺は力尽き、肩で息をしながら地面に腰を下ろした。
「俺はもう限界だ。歩けん!」
「では休憩としましょう。政宗殿は何か体力の回復するようなものを口にしてください」
「体力回復? あいにくだが、食べられる物は城から持ち出せてないぞ」
「そう思って町で海藻類を買ってきました。携帯しやすいので便利ですしね」
「ああ、助かった」
海藻を受け取り、少しずつ口へ放り込んだ。生の状態の海藻だな。乾燥させた方が保存が利くが、手間が掛かっていない分だけ生の方が値段が安かったのだろう。
「うわあっ!」ジョーは驚き、後ずさりした。「海藻を生で食べてるの!?」
「ん? どうしたんだよ、ジョー」
「いや、海藻は生では食べられないはずだ。消化が出来ないよ?」
「そんなことねぇよ。海藻は生でも食える」
そんな会話をしていると、ホームズが笑いながら説明を始めた。「日本人は昔から海藻を食べる習慣があり、そのため日本人の腸内には生の海藻でも消化出来るほどの力を持ったバクテリアがいるんだ。僕や君は生で海藻を食すことは無理だけど、彼ら日本人にとっては普通のことなんだよ」
「な、なるほど」
「ちなみにですが」仁和はホームズの説明に補足を加えた。「生の海藻を消化出来るのは腸内にバクテロイデス・プレビウスというバクテリアを保有する日本人だけです。お二人が海藻を食べたいのでしたら、今ここで焼きましょうか? ちょうど海藻と一緒に町で燃料を買ってきたので」
と言って仁和は乾燥した馬糞の入った袋を取り出した。馬糞などは乾燥させて燃料などにも使えるが、俺は海藻を食べている最中だったので気分が悪くなった。馬は草食動物だから肉食動物の糞に比べると臭いもそれほどしないが、それでも気分が悪くなるのは当然だ。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

戦国記 因幡に転移した男
山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。
カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
生きてこそ-悲願の萩-
夢酔藤山
歴史・時代
遅れて生まれたがために天下を取れなかった伊達政宗。その猛々しい武将としての一面は表向きだ。長く心にあった、母親との確執。それゆえ隠してきた秘密。老い先短い母親のために政宗の出来ることはひとつだった。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる