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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆壱
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異国の宣教師は木箱の上へ乗り、咳払いをしてから話し始めた。無論、異人宣教師の使う言語は日本語ではないので、傍らにいた通訳の者が瞬時に訳していた。
その通訳者は背筋を伸ばして、宣教師に視線を移す。「この方はキリシタン宗(キリスト教)の宣教師です。天竺というところから海路を船で進むこと数ヶ月、この島国に到着したという高僧のようです」
すると宣教師の話しを聞いていた一人が通訳者へ向けて言い放つ。「坊さんなのに髪を生やしているじゃないか!」
「に、日本のお坊様とは勝手が違うようで......。ええと、キリシタン宗が崇めるのは、この世界の創造主デウス様です」
とここまで通訳すると、宣教師の方は怒ったように地団駄を踏みながら話しを続ける。この宣教師の様子を不思議に思った何人かが通訳者に尋ねる。
「なぜ天竺からいらした高僧様はお怒りになられているのだ!?」
「あ、それは」通訳者は顔を上げる。「ここら辺一帯を収める領主である伊達政宗公の思想が聖書に反し、宇宙ではなく太陽が宇宙の中心だという説を唱えているからです。あろうことか世界は球体であると言って''地球''と名付け、太陽の周りを自転・公転している、ということを主張しているのです。これに対してキリシタン宗一同は憤慨しています」
傍聴する一人がつぶやく。「やっぱり若くして当主になった奴は駄目だな」
そのつぶやきに周囲も同調する。「そうだそうだ!」
このような場面を宿の窓から覗いていたホームズは、読唇術を駆使して盗み聞いた会話を政宗に伝えた。
「報告ご苦労」俺は歯ぎしりをする。「このままではキリシタン宗の信仰者は増えるばかりだな」
家臣の中から隠れキリシタンを探し出して斬首した後に、体感出来るほどの地揺れは起こらなかった。地震が体感出来なかったことを発端に、城下町に住む者達は俺達伊達氏を異端者だと言い始めた。
結果的に城下の者のほとんどが米沢城を取り囲むように集まりだし、このままでは江渡弥平とは戦うどころではないので伊達氏の主要十数人とともに逃げた。そして宿屋のこの部屋へと行き着いたのだ。
主要十数人の説明からしよう。伊達氏にとって主要な十数人のことを指しているわけで、頭脳担当や戦闘担当、頭脳と戦闘に優れた万能担当の三つの分野に分かれて選出されている。
頭脳担当の筆頭は当然仁和、次いで藤堂、小十郎と続く。頭脳担当が異様に少ないぞ......。戦闘担当はジョー、クローク、鬼庭、八巻、二階堂、東野、忠義、舞鶴、斉京といった感じで、万能担当は一番が俺(自称)、ホームズ、成実、景頼という少数精鋭の計十六人。加えて身を案じて愛姫を連れてきたので、今の人数は十七人だ。
作戦会議は基本的に仁和と藤堂の二人で行い、先ほどのような偵察や盗み聞きは十八番のホームズに任せた。
仁和は挙手をする。「ホームズ殿とジョー殿にバテレン(キリスト教の宣教師)と名乗らせ、我々はキリシタン宗の布教中だと言えば当面の間は狙われないでしょう。それに布教していれば自然とキリシタン宗の情報も入ってきますし」
俺は一度手を叩き、採用、と言い放つ。「ホームズとジョーはバテレンへ化けてくれ。俺は通訳のフリをして布教に参加しよう。頭脳担当の仁和と藤堂も着いてこい」
「「はっ!」」
まずは仁和にバテレンと同じ服を二着だけ調達してくるように命じ、俺は息抜きのために藤堂の地震研究を記したノートを読みふけった。
藤堂は地震とナマズとの関係についても調べていて、非常に充実した研究内容だった。しかしさすがは藤堂だ。ナマズによって地震が起こるということを科学的に否定し、爪を例に挙げて地が揺れることを書いている。
「おい藤堂、地震を爪に例えて説明したあれを記すなと言ったよな? よくも書いてくれたなっ!?」
「あ、すみません。つい......」
「ついじゃねーよ! マジで末代までの恥だよ、まったく」
俺は躊躇なく藤堂のノートを引き裂き、刀で切り刻んだ。
「あ、主様!」
「悪かったな、ついムカついたもんで」
「いえ、写本が米沢城に何冊かあるので、その一冊を破いても意味はありませんよ!」
「馬鹿にしてるよな? 俺を馬鹿にしてるな? な?」
その後色々あって久々の休暇に浮かれた一同は宿にある酒を飲み、騒ぎ歌い談笑をした。その間にバテレンの服を調達した仁和は、皮肉を言いながら床に腰を下ろす。
「だから酒を飲んでたのは悪かったって謝ってるだろ?」
「私が服の調達をしている最中に良いご身分ですね。キリスト教を敵に回していることを忘れていませんか?」
「忘れてないって。酒がな、酒がおいしかったから」
「......まあキリスト教の布教を始めるのは明日からですし、今日は許すとしましょう。しかし寝込みを襲われる可能性もあるので、罰として政宗殿には寝ずに見張りを頼みましょう」
「あのさ、俺はお前の上司なんだけど!? ついでに言うと伊達氏の当主なんだが!?」
「お飾りの当主、ですか?」
「名ばかり当主とでも言いたいのか? 俺もそれなりに役立っていると思うのだがな」
バテレンの服を仁和から受け取ると、ホームズとジョーに投げて渡した。十字架は隠れキリシタンだった家臣が持ってたから良いが、明日までに聖書を用意しないとな。
その通訳者は背筋を伸ばして、宣教師に視線を移す。「この方はキリシタン宗(キリスト教)の宣教師です。天竺というところから海路を船で進むこと数ヶ月、この島国に到着したという高僧のようです」
すると宣教師の話しを聞いていた一人が通訳者へ向けて言い放つ。「坊さんなのに髪を生やしているじゃないか!」
「に、日本のお坊様とは勝手が違うようで......。ええと、キリシタン宗が崇めるのは、この世界の創造主デウス様です」
とここまで通訳すると、宣教師の方は怒ったように地団駄を踏みながら話しを続ける。この宣教師の様子を不思議に思った何人かが通訳者に尋ねる。
「なぜ天竺からいらした高僧様はお怒りになられているのだ!?」
「あ、それは」通訳者は顔を上げる。「ここら辺一帯を収める領主である伊達政宗公の思想が聖書に反し、宇宙ではなく太陽が宇宙の中心だという説を唱えているからです。あろうことか世界は球体であると言って''地球''と名付け、太陽の周りを自転・公転している、ということを主張しているのです。これに対してキリシタン宗一同は憤慨しています」
傍聴する一人がつぶやく。「やっぱり若くして当主になった奴は駄目だな」
そのつぶやきに周囲も同調する。「そうだそうだ!」
このような場面を宿の窓から覗いていたホームズは、読唇術を駆使して盗み聞いた会話を政宗に伝えた。
「報告ご苦労」俺は歯ぎしりをする。「このままではキリシタン宗の信仰者は増えるばかりだな」
家臣の中から隠れキリシタンを探し出して斬首した後に、体感出来るほどの地揺れは起こらなかった。地震が体感出来なかったことを発端に、城下町に住む者達は俺達伊達氏を異端者だと言い始めた。
結果的に城下の者のほとんどが米沢城を取り囲むように集まりだし、このままでは江渡弥平とは戦うどころではないので伊達氏の主要十数人とともに逃げた。そして宿屋のこの部屋へと行き着いたのだ。
主要十数人の説明からしよう。伊達氏にとって主要な十数人のことを指しているわけで、頭脳担当や戦闘担当、頭脳と戦闘に優れた万能担当の三つの分野に分かれて選出されている。
頭脳担当の筆頭は当然仁和、次いで藤堂、小十郎と続く。頭脳担当が異様に少ないぞ......。戦闘担当はジョー、クローク、鬼庭、八巻、二階堂、東野、忠義、舞鶴、斉京といった感じで、万能担当は一番が俺(自称)、ホームズ、成実、景頼という少数精鋭の計十六人。加えて身を案じて愛姫を連れてきたので、今の人数は十七人だ。
作戦会議は基本的に仁和と藤堂の二人で行い、先ほどのような偵察や盗み聞きは十八番のホームズに任せた。
仁和は挙手をする。「ホームズ殿とジョー殿にバテレン(キリスト教の宣教師)と名乗らせ、我々はキリシタン宗の布教中だと言えば当面の間は狙われないでしょう。それに布教していれば自然とキリシタン宗の情報も入ってきますし」
俺は一度手を叩き、採用、と言い放つ。「ホームズとジョーはバテレンへ化けてくれ。俺は通訳のフリをして布教に参加しよう。頭脳担当の仁和と藤堂も着いてこい」
「「はっ!」」
まずは仁和にバテレンと同じ服を二着だけ調達してくるように命じ、俺は息抜きのために藤堂の地震研究を記したノートを読みふけった。
藤堂は地震とナマズとの関係についても調べていて、非常に充実した研究内容だった。しかしさすがは藤堂だ。ナマズによって地震が起こるということを科学的に否定し、爪を例に挙げて地が揺れることを書いている。
「おい藤堂、地震を爪に例えて説明したあれを記すなと言ったよな? よくも書いてくれたなっ!?」
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俺は躊躇なく藤堂のノートを引き裂き、刀で切り刻んだ。
「あ、主様!」
「悪かったな、ついムカついたもんで」
「いえ、写本が米沢城に何冊かあるので、その一冊を破いても意味はありませんよ!」
「馬鹿にしてるよな? 俺を馬鹿にしてるな? な?」
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「だから酒を飲んでたのは悪かったって謝ってるだろ?」
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「忘れてないって。酒がな、酒がおいしかったから」
「......まあキリスト教の布教を始めるのは明日からですし、今日は許すとしましょう。しかし寝込みを襲われる可能性もあるので、罰として政宗殿には寝ずに見張りを頼みましょう」
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バテレンの服を仁和から受け取ると、ホームズとジョーに投げて渡した。十字架は隠れキリシタンだった家臣が持ってたから良いが、明日までに聖書を用意しないとな。
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