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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参漆
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今し方、主様と仁和様の二人は斉京勇という者から得た情報を元にして江渡弥平達を倒す計画を改めて練っている。僕は新参者だから、その会議に参加出来なくても何とも思わない。
僕は椅子に腰を下ろすと筆を持ち、筆の先に墨を付けて地球の研究を再開させた。この命が尽きるまでに、地球の全てを解き明かしたいと思っている。それほどまでに地球の研究には熱中しているのだ。
地球一周の距離と並行して研究しているのは''地揺れ''であり、仁和様によると我が国では地揺れは頻繁にに起こってしまうという。彼女らは''地震''と呼んでいる。
地が揺れる理由は何個かあり、どれも''板''が原因だと説明を受けた。プレートは大地のことで、何と驚くことに地は長い年月を掛けて動くようである。この動くことが地震に繫がるが、これ以降の説明は僕でさえ理解しがたいものだった。
まず僕がやるべきは地震の予測だ。地震が予測出来れば恐れることもなく、揺れの大きさがわかれば尚良い。そして予測するためには地震の情報が多く必要で、データを集めるためには地震を計測する機械の用意が必須となる。
この機械の用意は簡単だ。粘土を丸くして球体に成形し、糸を繋げて天井に吊す。この球体粘土の地面へ向いている部分に筆を設置すると、あとは振り子の要領で地震がくれば筆が勝手に動いて揺れを記録してくれる。
これを製作していると、部屋の扉がノックされた。
「誰ですか?」
「ホームズだ。暇だから部屋に入れてくれないか?」
「構いません。入ってください」
扉が開くとホームズが足を踏み入れ、机に高く積まれた帳面を楽しそうに読んでいた。
「この帳面に書いてあるのは全て君が研究したことなのかな?」
「ええそうです。八年くらい前から帳面に研究成果を記録しているのです」
「ほお。政宗や仁和より頭が良いことがにじみ出てわかる文章だな。地球についての記述が多いようだが?」
「僕は地球が一番好きなのです。現在確認出来る星々で唯一生命が生活をしているのが地球ですから」
「ふむ。聖書に正しいと書かれている地球中心説を否定しているね」
「お気に召しませんでしたか? 見たところ、あなたはキリスト教徒ではありませんか?」
「聖書を信じている、とだけ述べておこう。まあ聖書に反している説を唱えているからといって、別に君をどうこうしようとは考えていないよ。記述が興味深いから、その点を尋ねただけだ」
「......その帳面を差し上げましょうか? それは清書ではないので」
「聖書とか清書とか、やはり日本語は難しいな」
「そう言えばホームズ様は日本語がかなり得意ですよね」
「元々日本が好きで、日本語はある程度学んでいたんだ。だが政宗と話すためにちゃんと日本語を勉強した」
「なぜ主様と話すために?」
「奴は面白い男だ。仁和も確かに面白い奴だが、政宗とは話していて飽きないのだ」
「仁和様よりも、ですか?」
「信じられぬか? 頭が良い奴より馬鹿な奴の方が行動が読めないから、見ていて面白い。しかし予想の出来る行動をする奴を見ていて面白いと思えるわけがない」
「言われてみるとそうですね」
「馬鹿と天才は紙一重、という言葉が日本にあったな。政宗は馬鹿だが、時には天才的な力を発揮する。奴を馬鹿と思った人物は足元をすくわれる」
伊達氏は主様によるものではなく、仁和様をはじめとする優秀な配下の力によって成り立っている。主様だけの力では伊達氏が支えられるわけがない。だからこそ、ホームズ様の言っていることは理解に苦しむ。
「理解が出来ないのであれば己の目で見るのが良い。理解出来ずとも知ることは可能だからね」
主様は僕から見れば無能も同然。しかしなぜか、周囲の者を魅了する不思議な力を主様は有している。主様の人を魅了する力が恐怖から生まれるものではなく人望から生まれるものだということは、ホームズ様を見ていればわかる。
主様の力は敵と戦うためにあるものではなく、伊達氏を支えるためにある力、つまり統治する者が持つべき力なのだ。主様はこの国の中核になるために必要なお方。それをホームズ様によって知ることとなった。
仁和は眉をひそめながら、真剣に悩んでいた。「斉京殿の言っていることを素直に信じるのは難しいでしょう」
「なぜだ」俺は机を叩く。「斉京は元は舞鶴の上司で、しかも奴は以前俺が救った。斉京は俺に恩があるし、嘘を言うわけがない」
「ハッキリと申し上げましょう。元夜盗の方々は有能ではなく無能です。斉京殿も例に漏れません」
「確かに夜行隊に鼬鼠殺しが紛れ込んでいたことは事実だが、二度とそんなことが起こらぬように今は舞鶴が尽力して身元確認をしている。斉京だってそれなりに信用出来るぞ」
「斉京殿や夜行隊を戦力として数えるのは私も納得しています。しかしながら、斉京殿が江渡弥平達に騙されている可能性は否めませんよ?」
「斉京達と俺達との接点を江渡弥平達が見抜けるはずがない。俺達が斉京達と出会ったのは戦に向かう最中だったから、接点があったとバレてはいないだろう」
「バレている可能性の方が高いです」
「......」
反論が出来ず、黙るしかなかった。仁和の言っていることは正しいが、やはり頭が良い奴は常人とは少しズレている。
僕は椅子に腰を下ろすと筆を持ち、筆の先に墨を付けて地球の研究を再開させた。この命が尽きるまでに、地球の全てを解き明かしたいと思っている。それほどまでに地球の研究には熱中しているのだ。
地球一周の距離と並行して研究しているのは''地揺れ''であり、仁和様によると我が国では地揺れは頻繁にに起こってしまうという。彼女らは''地震''と呼んでいる。
地が揺れる理由は何個かあり、どれも''板''が原因だと説明を受けた。プレートは大地のことで、何と驚くことに地は長い年月を掛けて動くようである。この動くことが地震に繫がるが、これ以降の説明は僕でさえ理解しがたいものだった。
まず僕がやるべきは地震の予測だ。地震が予測出来れば恐れることもなく、揺れの大きさがわかれば尚良い。そして予測するためには地震の情報が多く必要で、データを集めるためには地震を計測する機械の用意が必須となる。
この機械の用意は簡単だ。粘土を丸くして球体に成形し、糸を繋げて天井に吊す。この球体粘土の地面へ向いている部分に筆を設置すると、あとは振り子の要領で地震がくれば筆が勝手に動いて揺れを記録してくれる。
これを製作していると、部屋の扉がノックされた。
「誰ですか?」
「ホームズだ。暇だから部屋に入れてくれないか?」
「構いません。入ってください」
扉が開くとホームズが足を踏み入れ、机に高く積まれた帳面を楽しそうに読んでいた。
「この帳面に書いてあるのは全て君が研究したことなのかな?」
「ええそうです。八年くらい前から帳面に研究成果を記録しているのです」
「ほお。政宗や仁和より頭が良いことがにじみ出てわかる文章だな。地球についての記述が多いようだが?」
「僕は地球が一番好きなのです。現在確認出来る星々で唯一生命が生活をしているのが地球ですから」
「ふむ。聖書に正しいと書かれている地球中心説を否定しているね」
「お気に召しませんでしたか? 見たところ、あなたはキリスト教徒ではありませんか?」
「聖書を信じている、とだけ述べておこう。まあ聖書に反している説を唱えているからといって、別に君をどうこうしようとは考えていないよ。記述が興味深いから、その点を尋ねただけだ」
「......その帳面を差し上げましょうか? それは清書ではないので」
「聖書とか清書とか、やはり日本語は難しいな」
「そう言えばホームズ様は日本語がかなり得意ですよね」
「元々日本が好きで、日本語はある程度学んでいたんだ。だが政宗と話すためにちゃんと日本語を勉強した」
「なぜ主様と話すために?」
「奴は面白い男だ。仁和も確かに面白い奴だが、政宗とは話していて飽きないのだ」
「仁和様よりも、ですか?」
「信じられぬか? 頭が良い奴より馬鹿な奴の方が行動が読めないから、見ていて面白い。しかし予想の出来る行動をする奴を見ていて面白いと思えるわけがない」
「言われてみるとそうですね」
「馬鹿と天才は紙一重、という言葉が日本にあったな。政宗は馬鹿だが、時には天才的な力を発揮する。奴を馬鹿と思った人物は足元をすくわれる」
伊達氏は主様によるものではなく、仁和様をはじめとする優秀な配下の力によって成り立っている。主様だけの力では伊達氏が支えられるわけがない。だからこそ、ホームズ様の言っていることは理解に苦しむ。
「理解が出来ないのであれば己の目で見るのが良い。理解出来ずとも知ることは可能だからね」
主様は僕から見れば無能も同然。しかしなぜか、周囲の者を魅了する不思議な力を主様は有している。主様の人を魅了する力が恐怖から生まれるものではなく人望から生まれるものだということは、ホームズ様を見ていればわかる。
主様の力は敵と戦うためにあるものではなく、伊達氏を支えるためにある力、つまり統治する者が持つべき力なのだ。主様はこの国の中核になるために必要なお方。それをホームズ様によって知ることとなった。
仁和は眉をひそめながら、真剣に悩んでいた。「斉京殿の言っていることを素直に信じるのは難しいでしょう」
「なぜだ」俺は机を叩く。「斉京は元は舞鶴の上司で、しかも奴は以前俺が救った。斉京は俺に恩があるし、嘘を言うわけがない」
「ハッキリと申し上げましょう。元夜盗の方々は有能ではなく無能です。斉京殿も例に漏れません」
「確かに夜行隊に鼬鼠殺しが紛れ込んでいたことは事実だが、二度とそんなことが起こらぬように今は舞鶴が尽力して身元確認をしている。斉京だってそれなりに信用出来るぞ」
「斉京殿や夜行隊を戦力として数えるのは私も納得しています。しかしながら、斉京殿が江渡弥平達に騙されている可能性は否めませんよ?」
「斉京達と俺達との接点を江渡弥平達が見抜けるはずがない。俺達が斉京達と出会ったのは戦に向かう最中だったから、接点があったとバレてはいないだろう」
「バレている可能性の方が高いです」
「......」
反論が出来ず、黙るしかなかった。仁和の言っていることは正しいが、やはり頭が良い奴は常人とは少しズレている。
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