上 下
209 / 245
第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参陸

しおりを挟む
 斉京勇が夜盗の頭をしていた時の部下であった舞鶴紀子は、後に伊達氏に仕えた。そして舞鶴は夜行隊という夜襲を仕掛けることに特化した隊の長を務め、それなりの武功ぶこうを立てたと斉京は聞き及んでいた。
 しかし夜行隊には身元もハッキリとしない者が多数所属し、現に江渡弥平の手の者も身を潜めていたようだ。結果として政宗らは死にかけたようだ。
 身元確認などの作業を得意としていないのが舞鶴であり、内通者や暗殺者が夜行隊に所属していても気付かないだろう。
 舞鶴は一つの隊を統率する程度ならば問題ないほどに育てたつもりだったが、味方に敵がまぎれていることを見抜くということまでは教えてなかった。やはり彼女が隊長を務めるのはまだ早かったのか。
 伊達氏領内では斉京の元部下の夜盗メンバー達が、舞鶴を含めて楽しく暮らしていた。夜行隊に所属する者達は気性が荒いものの手練れも多く、かなりの功績を残している。よって、夜行隊に所属する面々は、当時の平民からすると非常にうらやましいほどの待遇たいぐうなのである。
 そのことを知っていた斉京は、最近は空腹だったために美味しい料理の数々を想像した。そうしている内に米沢城に到着し、安心して膝から崩れ落ちた。

 米沢城付近で倒れている斉京を見つけたのは他ならぬ舞鶴だった。舞鶴からその報告を受けた俺は、ひとまず斉京を個室に運び入れて布団に寝かせた。
 仁和と藤堂を呼び出すと、斉京の体調を診るように言った。二人は真剣に斉京の体を調べたが、ただの空腹によって気を失っただけだとわかった。
 すると俺は栄養剤を引っ張り出し、斉京の口へ注ぎ込んだ。仁和によると、あと何時間かすれば起きるのではないか、とのことだ。
 俺は斉京のために料理人に美味しい料理を作らせた。この料理さえ食べれば、すぐに元気が回復するはずだ。
「仁和と藤堂はゾンビウイルスの対策の準備へ戻ってくれ。俺はここで斉京が起きるまで待っている」
 仁和はため息をついた。「政宗殿も看病はほどほどにしてください」
「わかってるよ。それより、久々の再会なんだから舞鶴も来れば良いのだがな。あ、仁和が舞鶴を呼んで来いよ」
「舞鶴殿をですか? 彼女は今、夜行隊に所属する者達の身元を照らし合わせているようですよ」
「せっかく元上司がやって来たというのに......。舞鶴らしいな」
 俺は久々に会う相手が来たならば、仕事なんかせずに会いに行くが。というか仕事をしなくて良いのなら泣いて喜ぶぞ。
 ってそんなことより、斉京が米沢城にわざわざ来たということはかなり重大な事件があったと見て間違いない。もしかすると助けを呼んで来るために斉京は米沢の地に足を運んだのかもしれない。
「!?」急に起き上がった斉京は、俺の姿を見つけて安心したような表情になった。「この斉京勇、またあなた様に会えたことを光栄に思います!」
「敬語を使わなくたって良いぞ。あまり敬語で話すのは好きじゃないからな」
「では改めて、久々であったな。俺は他の元夜盗の者達とともに村で集まって暮らしていたのだが、とある集団に襲われた際に俺以外の元夜盗の者達が捕まってしまった。俺は逃げることが出来たので助けを呼ぼうと思い、急ぎ馳せ参じたのだ」
「その仲間を助けてほしいと?」
「ああ。奴らが人を捕まえたのは、新たな病気の症状を確かめるためのようだ。その新型病原体を奴らは''生ける屍ゾンビ''と呼んでいた。捕まえる人間は出来るだけ手練れであった方が良かったようで、それが原因で俺もかなり追われた」
「......待て、ゾンビと言ったか?」
「人間の人格がなくなることで人を襲う人間兵器と化す計画。この計画を完遂かんすいするために俺達は捕まったのだ」
 そんな計画を進めているのは江渡弥平達くらいしかいない。となると斉京が狙われた理由は、人間をゾンビウイルスで兵器化する際に手練れであった方が強くなるからだと思われる。
「斉京達を襲った奴らの本部へ突っ込んで、捕まった奴らを助けに行ってほしいというのが斉京の希望か?」
「そうなる」
「頑張ってみよう。現在は対策を練っている段階だが、準備が出来次第奴らの本部には突っ込もうと思っていたのだ」
「奴らと知り合いだったのか?」
「まあな。因縁の相手だ」
 ゾンビウイルスの症状を確かめるために江渡弥平達はどうしていたのかと思っていたが、まさか無関係のところから被験者を調達していたということか。
 もし他にも捕らえられて無理矢理被験者をやらされている人がいたら、そいつらも助けないといけない。つまり、江渡弥平達の本部には被験者(一般人)もいることになる。迂闊うかつに銃撃出来ないし、被験者が人の盾になっているわけだ。
 こうなると銃だけじゃなく火薬の類いも使えないし、本部へ踏み込むには計画をもっと煮詰める必要がある。
「斉京は用意してある料理を食っていろ。俺はやらなくてはいけないことが出来ちまった!」
 このことを仁和達にいち早く伝えて作戦を新しく考え直そう。藤堂は合理的な思考の持ち主だから人の盾ごと敵を倒そうとするだろうが、俺と仁和はそんな考えには至らない。藤堂を抜きにして仁和と二人で考えなくてはならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...