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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参肆
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藤堂のことで騒ぎが起きているが、それは有象無象が騒ぎ立てているに過ぎない。何も困ることはないのだ。もし困ることがあるとすれば、騒がしくて会議に集中が出来ない程度。セミの鳴き声のそれと変わりはない。
風物詩とばかりに微笑みながら眺め、そして藤堂と仁和の元へ戻った。
「主様」藤堂は俺に視線を向ける。「騒がしかった理由はわかりましたか?」
「ん? ああ、太陽中心説──いわゆる地動説に反対的な集団が米沢城の前で騒いでいるだけだった」
「......僕のせいですね」
「いや、俺も仁和も地動説が正しいと知っている。それに神が創造した地球こそ宇宙の中心だ、なんて主張は傲慢だとは思わないか?」
すると仁和も俺の意見に同調した。「政宗殿の言うとおりです。フリードリヒ・ニーチェは言いました。人間は神の失敗作なのか、それとも神が人間の失敗作なのか、とね。それにヒューゴ・デ・ガリスの考えでは、神が人間を作ったのではなく人間が神を発明したようです。神がいると信じれば心の平安が得られるなどのメリットがあるのが、その理由だとしています。
つまり、神のお陰で地球が出来たわけではありません。それこそ奇跡によって地球に生命が生まれたのです。神が地球の創造に関わっていないのならば、神は宇宙の中心に地球を置く理由なんてありませんよ」
「まあそういうことだ。気にするなよ藤堂!」
仁和の説明はややこしいが、要約してみると意外に仁和の言っていることは的確だ。もう少しわかりやすい方が好ましいが、それが結果として藤堂への最適解となっているのだから何も言えまい。
「仁和様、主様。励ましていただき、ありがとうございます。我が忠誠を誓う相手が間違っていなかったと、改めて思いました。僕は幸せです」
「そんなことよりも、一刻も早くゾンビウイルスへの対策を──」
「その件なのですが、犬を使ってみてはどうでしょうか?」
「江渡弥平らが考えるゾンビウイルスは狂犬病が土台になっているのですよ? 犬を使って発症者と戦ったとして、噛まれたら犬にも感染の可能性があります」
「犬は古来から人間とともに生活してきました。最初は狩猟用として飼われ、後に愛玩用や食用としても用いられました。人を襲うことに適した犬種も存在し、闘犬などを使うのが良いでしょう。それに犬はある程度躾ければ言うことを聞くようになるので、扱いやすいですし」
「犬を使うことの利点はわかりました。しかしゾンビウイルスの感染者や発症者は完治すれば元に戻ります。幸いにも致死率は低いようですし、そんな感染者や発症者を犬に襲わせるのはどうかと思いますが」
「ですが発症者は正常な意識を保てないのが狂犬病であり、ゾンビウイルスによる症状もそれに酷似していると考えて良いでしょう。一時的にで良いですから、人権を剥奪するべきです」
「完治して人権を戻したとしても、人として扱われなかった元発症者は我々を恨むでしょう。元発症者が束になって暴動を起こしてしまえば、我々はその対策に忙殺されてしまい近隣の大名から攻め入られてしまう可能性が増します。一時的な人権剥奪は避けるべきです」
「では発症者をどのように捕らえるべきとお考えで? このゾンビウイルスは接触感染だけでなく空気感染もするような強力なものならば、犬を使うのが最善です。空気感染するかはわかりませんが、ゾンビウイルスが体内で変異して空気感染もするウイルスに変わることもあり得ます」
「空気感染するゾンビウイルスに変異する危険性は否定出来ません。ですが、人権剥奪だけは認められないです」
議論が白熱する中で俺は意見を出さず、一人で頭を働かせていた。発症すると凶暴化して周囲の者を襲いだしてしまうウイルス。この感染者は隔離して拘束、完治するまで治療する。だが発症者は凶暴化しているので、どうやって確保すれば良いのか。
一人一人捕らえていくのでは時間が掛かりすぎる。昔からペストなどの不治の病の感染者・発症者はひとまとめに焼かれたが、俺はそんなことをしたくはない。かと言って人権剥奪も認めたくはない......。
『政宗よ。大変なことになっているな』
こんな時にどうしたんだ? 俺は真剣に考えている最中なんだが。
『いや、確かホームズの奴は犬についての論文を書いていたような記憶があってな』
犬で発症者を襲わせたくはない。
『発症者を犬に襲わせるのではなく、犬を使って発症者を誘導したりは出来ないものか?』
そうか、そういう誘導に適した犬種もいるにはいる。発症者を束にして確保すれば良いんだな。
「二人とも聞いてくれ。誘導などが得意な犬を使って発症者を一個所にまとめてから捕らえてはどうだろう?」
仁和はうなずく。「なるほど。戦う以外に犬を用いることも可能ですね。早速それに取り掛かりましょう。私と藤堂殿はワクチンの研究に取り組むので、政宗殿主導で最適な犬を躾けてください」
「わかった。ではワクチンは頼んだぞ」
「江渡弥平達によるゾンビウイルスの研究と実験が記された帳面にはワクチンについてもそれなりに書かれているので、そう遠くないうちに完成するはずです」
俺は米沢城内にある犬について触れられている文献を掻き集めてから、それを自室に積み上げた。あとはアマテラスに頼んでホームズを呼び出してもらおう。
風物詩とばかりに微笑みながら眺め、そして藤堂と仁和の元へ戻った。
「主様」藤堂は俺に視線を向ける。「騒がしかった理由はわかりましたか?」
「ん? ああ、太陽中心説──いわゆる地動説に反対的な集団が米沢城の前で騒いでいるだけだった」
「......僕のせいですね」
「いや、俺も仁和も地動説が正しいと知っている。それに神が創造した地球こそ宇宙の中心だ、なんて主張は傲慢だとは思わないか?」
すると仁和も俺の意見に同調した。「政宗殿の言うとおりです。フリードリヒ・ニーチェは言いました。人間は神の失敗作なのか、それとも神が人間の失敗作なのか、とね。それにヒューゴ・デ・ガリスの考えでは、神が人間を作ったのではなく人間が神を発明したようです。神がいると信じれば心の平安が得られるなどのメリットがあるのが、その理由だとしています。
つまり、神のお陰で地球が出来たわけではありません。それこそ奇跡によって地球に生命が生まれたのです。神が地球の創造に関わっていないのならば、神は宇宙の中心に地球を置く理由なんてありませんよ」
「まあそういうことだ。気にするなよ藤堂!」
仁和の説明はややこしいが、要約してみると意外に仁和の言っていることは的確だ。もう少しわかりやすい方が好ましいが、それが結果として藤堂への最適解となっているのだから何も言えまい。
「仁和様、主様。励ましていただき、ありがとうございます。我が忠誠を誓う相手が間違っていなかったと、改めて思いました。僕は幸せです」
「そんなことよりも、一刻も早くゾンビウイルスへの対策を──」
「その件なのですが、犬を使ってみてはどうでしょうか?」
「江渡弥平らが考えるゾンビウイルスは狂犬病が土台になっているのですよ? 犬を使って発症者と戦ったとして、噛まれたら犬にも感染の可能性があります」
「犬は古来から人間とともに生活してきました。最初は狩猟用として飼われ、後に愛玩用や食用としても用いられました。人を襲うことに適した犬種も存在し、闘犬などを使うのが良いでしょう。それに犬はある程度躾ければ言うことを聞くようになるので、扱いやすいですし」
「犬を使うことの利点はわかりました。しかしゾンビウイルスの感染者や発症者は完治すれば元に戻ります。幸いにも致死率は低いようですし、そんな感染者や発症者を犬に襲わせるのはどうかと思いますが」
「ですが発症者は正常な意識を保てないのが狂犬病であり、ゾンビウイルスによる症状もそれに酷似していると考えて良いでしょう。一時的にで良いですから、人権を剥奪するべきです」
「完治して人権を戻したとしても、人として扱われなかった元発症者は我々を恨むでしょう。元発症者が束になって暴動を起こしてしまえば、我々はその対策に忙殺されてしまい近隣の大名から攻め入られてしまう可能性が増します。一時的な人権剥奪は避けるべきです」
「では発症者をどのように捕らえるべきとお考えで? このゾンビウイルスは接触感染だけでなく空気感染もするような強力なものならば、犬を使うのが最善です。空気感染するかはわかりませんが、ゾンビウイルスが体内で変異して空気感染もするウイルスに変わることもあり得ます」
「空気感染するゾンビウイルスに変異する危険性は否定出来ません。ですが、人権剥奪だけは認められないです」
議論が白熱する中で俺は意見を出さず、一人で頭を働かせていた。発症すると凶暴化して周囲の者を襲いだしてしまうウイルス。この感染者は隔離して拘束、完治するまで治療する。だが発症者は凶暴化しているので、どうやって確保すれば良いのか。
一人一人捕らえていくのでは時間が掛かりすぎる。昔からペストなどの不治の病の感染者・発症者はひとまとめに焼かれたが、俺はそんなことをしたくはない。かと言って人権剥奪も認めたくはない......。
『政宗よ。大変なことになっているな』
こんな時にどうしたんだ? 俺は真剣に考えている最中なんだが。
『いや、確かホームズの奴は犬についての論文を書いていたような記憶があってな』
犬で発症者を襲わせたくはない。
『発症者を犬に襲わせるのではなく、犬を使って発症者を誘導したりは出来ないものか?』
そうか、そういう誘導に適した犬種もいるにはいる。発症者を束にして確保すれば良いんだな。
「二人とも聞いてくれ。誘導などが得意な犬を使って発症者を一個所にまとめてから捕らえてはどうだろう?」
仁和はうなずく。「なるほど。戦う以外に犬を用いることも可能ですね。早速それに取り掛かりましょう。私と藤堂殿はワクチンの研究に取り組むので、政宗殿主導で最適な犬を躾けてください」
「わかった。ではワクチンは頼んだぞ」
「江渡弥平達によるゾンビウイルスの研究と実験が記された帳面にはワクチンについてもそれなりに書かれているので、そう遠くないうちに完成するはずです」
俺は米沢城内にある犬について触れられている文献を掻き集めてから、それを自室に積み上げた。あとはアマテラスに頼んでホームズを呼び出してもらおう。
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