207 / 245
第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参肆
しおりを挟む
藤堂のことで騒ぎが起きているが、それは有象無象が騒ぎ立てているに過ぎない。何も困ることはないのだ。もし困ることがあるとすれば、騒がしくて会議に集中が出来ない程度。セミの鳴き声のそれと変わりはない。
風物詩とばかりに微笑みながら眺め、そして藤堂と仁和の元へ戻った。
「主様」藤堂は俺に視線を向ける。「騒がしかった理由はわかりましたか?」
「ん? ああ、太陽中心説──いわゆる地動説に反対的な集団が米沢城の前で騒いでいるだけだった」
「......僕のせいですね」
「いや、俺も仁和も地動説が正しいと知っている。それに神が創造した地球こそ宇宙の中心だ、なんて主張は傲慢だとは思わないか?」
すると仁和も俺の意見に同調した。「政宗殿の言うとおりです。フリードリヒ・ニーチェは言いました。人間は神の失敗作なのか、それとも神が人間の失敗作なのか、とね。それにヒューゴ・デ・ガリスの考えでは、神が人間を作ったのではなく人間が神を発明したようです。神がいると信じれば心の平安が得られるなどのメリットがあるのが、その理由だとしています。
つまり、神のお陰で地球が出来たわけではありません。それこそ奇跡によって地球に生命が生まれたのです。神が地球の創造に関わっていないのならば、神は宇宙の中心に地球を置く理由なんてありませんよ」
「まあそういうことだ。気にするなよ藤堂!」
仁和の説明はややこしいが、要約してみると意外に仁和の言っていることは的確だ。もう少しわかりやすい方が好ましいが、それが結果として藤堂への最適解となっているのだから何も言えまい。
「仁和様、主様。励ましていただき、ありがとうございます。我が忠誠を誓う相手が間違っていなかったと、改めて思いました。僕は幸せです」
「そんなことよりも、一刻も早くゾンビウイルスへの対策を──」
「その件なのですが、犬を使ってみてはどうでしょうか?」
「江渡弥平らが考えるゾンビウイルスは狂犬病が土台になっているのですよ? 犬を使って発症者と戦ったとして、噛まれたら犬にも感染の可能性があります」
「犬は古来から人間とともに生活してきました。最初は狩猟用として飼われ、後に愛玩用や食用としても用いられました。人を襲うことに適した犬種も存在し、闘犬などを使うのが良いでしょう。それに犬はある程度躾ければ言うことを聞くようになるので、扱いやすいですし」
「犬を使うことの利点はわかりました。しかしゾンビウイルスの感染者や発症者は完治すれば元に戻ります。幸いにも致死率は低いようですし、そんな感染者や発症者を犬に襲わせるのはどうかと思いますが」
「ですが発症者は正常な意識を保てないのが狂犬病であり、ゾンビウイルスによる症状もそれに酷似していると考えて良いでしょう。一時的にで良いですから、人権を剥奪するべきです」
「完治して人権を戻したとしても、人として扱われなかった元発症者は我々を恨むでしょう。元発症者が束になって暴動を起こしてしまえば、我々はその対策に忙殺されてしまい近隣の大名から攻め入られてしまう可能性が増します。一時的な人権剥奪は避けるべきです」
「では発症者をどのように捕らえるべきとお考えで? このゾンビウイルスは接触感染だけでなく空気感染もするような強力なものならば、犬を使うのが最善です。空気感染するかはわかりませんが、ゾンビウイルスが体内で変異して空気感染もするウイルスに変わることもあり得ます」
「空気感染するゾンビウイルスに変異する危険性は否定出来ません。ですが、人権剥奪だけは認められないです」
議論が白熱する中で俺は意見を出さず、一人で頭を働かせていた。発症すると凶暴化して周囲の者を襲いだしてしまうウイルス。この感染者は隔離して拘束、完治するまで治療する。だが発症者は凶暴化しているので、どうやって確保すれば良いのか。
一人一人捕らえていくのでは時間が掛かりすぎる。昔からペストなどの不治の病の感染者・発症者はひとまとめに焼かれたが、俺はそんなことをしたくはない。かと言って人権剥奪も認めたくはない......。
『政宗よ。大変なことになっているな』
こんな時にどうしたんだ? 俺は真剣に考えている最中なんだが。
『いや、確かホームズの奴は犬についての論文を書いていたような記憶があってな』
犬で発症者を襲わせたくはない。
『発症者を犬に襲わせるのではなく、犬を使って発症者を誘導したりは出来ないものか?』
そうか、そういう誘導に適した犬種もいるにはいる。発症者を束にして確保すれば良いんだな。
「二人とも聞いてくれ。誘導などが得意な犬を使って発症者を一個所にまとめてから捕らえてはどうだろう?」
仁和はうなずく。「なるほど。戦う以外に犬を用いることも可能ですね。早速それに取り掛かりましょう。私と藤堂殿はワクチンの研究に取り組むので、政宗殿主導で最適な犬を躾けてください」
「わかった。ではワクチンは頼んだぞ」
「江渡弥平達によるゾンビウイルスの研究と実験が記された帳面にはワクチンについてもそれなりに書かれているので、そう遠くないうちに完成するはずです」
俺は米沢城内にある犬について触れられている文献を掻き集めてから、それを自室に積み上げた。あとはアマテラスに頼んでホームズを呼び出してもらおう。
風物詩とばかりに微笑みながら眺め、そして藤堂と仁和の元へ戻った。
「主様」藤堂は俺に視線を向ける。「騒がしかった理由はわかりましたか?」
「ん? ああ、太陽中心説──いわゆる地動説に反対的な集団が米沢城の前で騒いでいるだけだった」
「......僕のせいですね」
「いや、俺も仁和も地動説が正しいと知っている。それに神が創造した地球こそ宇宙の中心だ、なんて主張は傲慢だとは思わないか?」
すると仁和も俺の意見に同調した。「政宗殿の言うとおりです。フリードリヒ・ニーチェは言いました。人間は神の失敗作なのか、それとも神が人間の失敗作なのか、とね。それにヒューゴ・デ・ガリスの考えでは、神が人間を作ったのではなく人間が神を発明したようです。神がいると信じれば心の平安が得られるなどのメリットがあるのが、その理由だとしています。
つまり、神のお陰で地球が出来たわけではありません。それこそ奇跡によって地球に生命が生まれたのです。神が地球の創造に関わっていないのならば、神は宇宙の中心に地球を置く理由なんてありませんよ」
「まあそういうことだ。気にするなよ藤堂!」
仁和の説明はややこしいが、要約してみると意外に仁和の言っていることは的確だ。もう少しわかりやすい方が好ましいが、それが結果として藤堂への最適解となっているのだから何も言えまい。
「仁和様、主様。励ましていただき、ありがとうございます。我が忠誠を誓う相手が間違っていなかったと、改めて思いました。僕は幸せです」
「そんなことよりも、一刻も早くゾンビウイルスへの対策を──」
「その件なのですが、犬を使ってみてはどうでしょうか?」
「江渡弥平らが考えるゾンビウイルスは狂犬病が土台になっているのですよ? 犬を使って発症者と戦ったとして、噛まれたら犬にも感染の可能性があります」
「犬は古来から人間とともに生活してきました。最初は狩猟用として飼われ、後に愛玩用や食用としても用いられました。人を襲うことに適した犬種も存在し、闘犬などを使うのが良いでしょう。それに犬はある程度躾ければ言うことを聞くようになるので、扱いやすいですし」
「犬を使うことの利点はわかりました。しかしゾンビウイルスの感染者や発症者は完治すれば元に戻ります。幸いにも致死率は低いようですし、そんな感染者や発症者を犬に襲わせるのはどうかと思いますが」
「ですが発症者は正常な意識を保てないのが狂犬病であり、ゾンビウイルスによる症状もそれに酷似していると考えて良いでしょう。一時的にで良いですから、人権を剥奪するべきです」
「完治して人権を戻したとしても、人として扱われなかった元発症者は我々を恨むでしょう。元発症者が束になって暴動を起こしてしまえば、我々はその対策に忙殺されてしまい近隣の大名から攻め入られてしまう可能性が増します。一時的な人権剥奪は避けるべきです」
「では発症者をどのように捕らえるべきとお考えで? このゾンビウイルスは接触感染だけでなく空気感染もするような強力なものならば、犬を使うのが最善です。空気感染するかはわかりませんが、ゾンビウイルスが体内で変異して空気感染もするウイルスに変わることもあり得ます」
「空気感染するゾンビウイルスに変異する危険性は否定出来ません。ですが、人権剥奪だけは認められないです」
議論が白熱する中で俺は意見を出さず、一人で頭を働かせていた。発症すると凶暴化して周囲の者を襲いだしてしまうウイルス。この感染者は隔離して拘束、完治するまで治療する。だが発症者は凶暴化しているので、どうやって確保すれば良いのか。
一人一人捕らえていくのでは時間が掛かりすぎる。昔からペストなどの不治の病の感染者・発症者はひとまとめに焼かれたが、俺はそんなことをしたくはない。かと言って人権剥奪も認めたくはない......。
『政宗よ。大変なことになっているな』
こんな時にどうしたんだ? 俺は真剣に考えている最中なんだが。
『いや、確かホームズの奴は犬についての論文を書いていたような記憶があってな』
犬で発症者を襲わせたくはない。
『発症者を犬に襲わせるのではなく、犬を使って発症者を誘導したりは出来ないものか?』
そうか、そういう誘導に適した犬種もいるにはいる。発症者を束にして確保すれば良いんだな。
「二人とも聞いてくれ。誘導などが得意な犬を使って発症者を一個所にまとめてから捕らえてはどうだろう?」
仁和はうなずく。「なるほど。戦う以外に犬を用いることも可能ですね。早速それに取り掛かりましょう。私と藤堂殿はワクチンの研究に取り組むので、政宗殿主導で最適な犬を躾けてください」
「わかった。ではワクチンは頼んだぞ」
「江渡弥平達によるゾンビウイルスの研究と実験が記された帳面にはワクチンについてもそれなりに書かれているので、そう遠くないうちに完成するはずです」
俺は米沢城内にある犬について触れられている文献を掻き集めてから、それを自室に積み上げた。あとはアマテラスに頼んでホームズを呼び出してもらおう。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる