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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その弐捌
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『政宗。アドレナリンの分泌の調整くらいは我には容易いが、やってやろうか?』
アドレナリンか。仁和いわく、アドレナリンは逃げるか戦うかする行動に大きな影響を及ぼすようだ。アドレナリンによって逃げるか戦うかの判断をするわけだが、その分泌を調整出来るとは大したものだ。
『大したものだろ?』
「俺の思考に割り込んでくるなっ!」
地図を取り出すと周辺の地形や建物などを確認した。すると運良く近くに廃虚と化したビルがある。ここで敵を迎え撃ってはどうかと柳生師範に提案すると、勝機があるならばと受け入れてくれた。
「それで名坂少年はどのような作戦を考えているんだい?」
「柳生師範に買ってくるように頼んだ中に丸鋼がありましたよね?」
「ああ、あったな。その丸鋼を武器にしたりするんじゃないのかな?」
「丸鋼は長いものを頼みましたが、さすがにこれで叩こうとは思いませんよ。ちゃんとした作戦があります」
「それは頼もしい。君を信用している」
「ありがとうございます」
明日まで逃げ切れば戦国時代に戻れる。この武器も持って帰れれば良いんだが、それはどうやら無理みたいだ。まあ構わないが。
でも待てよ......廃虚のビルならば鉄筋くらい何本かは手に入りそうだな。丸鋼を用意した意味はなかったということか。
「ん? あっ! 柳生師範、車二台に追われています!」
「こちらから銃撃は出来そうか?」
「距離があるので俺達が持っている銃では射程外です。しかし向こうの所持する武器は射程距離の長いものだと見受けられます! スピードを上げて早く廃虚のビルへ行きましょう!」
「急ごう!」
一応俺もイングラムM10を構えたが、牽制にすらなっていない。ならば煙幕花火と爆竹を使うしかない。
「ライターありますか?」
「煙草の横に置いてあるぞ」
「あ、ありました!」
柳生師範のライターを手に取ると、窓を開けて煙幕花火を後方へ投げた。そうしたら白い煙が充満し、奴らの視界は完全に閉ざされたことだろう。
もし視界が閉ざされたら、運転手は窓から身を乗り出すはずだ。そこで俺は爆竹を投げつけた上で、催涙剤をプッシュした。
スプレーというものは意外と風に乗って遠くへと流れる。俺も前世で姉を怒らせた際に、ハッカのスプレーを顔に吹き掛けられたことがある。咄嗟に背を向けて口を覆ったが、背中側から吹き掛けられたハッカの粒子が口に入ってきた。そして苦しくなったのだ。スプレーは侮れん。
思惑通りに催涙剤が後方へと風に乗って流れ、身を乗り出していたであろう何人かの悲鳴が聞こえた。運転手が催涙剤を食らったら車は制御不能となる。二台は一列に並んで俺達を追っているので、先頭を走る車がコントロール出来なくなると後ろの車も巻き込まれる。
「二台ともに倒しました」
「さすが名坂少年だ。恐れ入るよ」
「光栄ですが、廃虚のビルへ急いだ方が良さそうです」
「他にも追われているのは確かだな」
思い切りアクセルを踏まれた車は法定速度を無視して突っ走り、あっという間に目的地に到着した。戦国時代とは比べものにもならない文明の利器に感謝をしつつ、各々が武器を持って廃虚のビルに足を踏み入れた。
一階の床が崩れる可能性は低いだろうが、壁や天井が崩れないという保証はどこにもない。けれど柳生師範と愛華はそんなことを意に介さずに階段を駆け上がっていった。
「さすがは剣道親子、と言ったところか」
俺も二人に続いて階段を上がると、二階で立ち止まって通路を吟味した。この廃虚のビルは壁がほとんどなく、狭まった通路というものがない。狭いところと言えば階段がある部分だけなので、罠を仕掛けるべきはここしかない。
「この階段に罠を仕掛けることにしましょう。丸鋼を五本ほど出してください」
受け取った丸鋼を階段を塞ぐように横にして縦一列に等間隔に並べて設置すると、あり合わせのもので丸鋼に電気を流した。
「確かに電気を流すのは良いアイディアだが、丸鋼の設置個所はガムテープで貼ってあるだけだ。蹴られればすぐに破られてしまう」
「この丸鋼が蹴られる、という可能性は低いです。階段に仕掛けたので、侵入者からすると少し高い位置にあることになるので足が上がらないでしょう。仮に足が上がったとして、階段は幅が狭いので思うように動かせないですし」
「なるほど。だけどこんな足止めはすぐに攻略されると思うのだが」
「電気が流れていることを知らない敵は、丸鋼がガッチガチに固められているだけだと考えるはずです。そしてまずは手で丸鋼を握ろうとする──それが作戦の本命です」
「本命?」
見ていればわかると言い、敵が来るのを待った。二階に通じるのが階段以外にないと知った敵は疑いもなく階段を上がり、丸鋼をつい掴んでしまった。
「うわああああぁぁぁーーーーーっ!」
電気が流れている丸鋼を掴んだバカは、それでも手を離そうとしない。正確には、手が離れないのだ。手の平で触れてしまうと感電した際に反射的に握ってしまうのだが、その後も手が離れなくなる。
そのバカの後ろにいた奴は丸鋼から手を離させようとそいつの肩に両手を置いたが、骨を通じて感電するため二人目も手が離れなくなった。
「柳生師範、これこそが作戦です」
「納得したよ。見事だ」
こうして敵が足踏みをしている間に催涙剤を吹き掛けると、全員が行動不能となるので縄で縛り上げた。
アドレナリンか。仁和いわく、アドレナリンは逃げるか戦うかする行動に大きな影響を及ぼすようだ。アドレナリンによって逃げるか戦うかの判断をするわけだが、その分泌を調整出来るとは大したものだ。
『大したものだろ?』
「俺の思考に割り込んでくるなっ!」
地図を取り出すと周辺の地形や建物などを確認した。すると運良く近くに廃虚と化したビルがある。ここで敵を迎え撃ってはどうかと柳生師範に提案すると、勝機があるならばと受け入れてくれた。
「それで名坂少年はどのような作戦を考えているんだい?」
「柳生師範に買ってくるように頼んだ中に丸鋼がありましたよね?」
「ああ、あったな。その丸鋼を武器にしたりするんじゃないのかな?」
「丸鋼は長いものを頼みましたが、さすがにこれで叩こうとは思いませんよ。ちゃんとした作戦があります」
「それは頼もしい。君を信用している」
「ありがとうございます」
明日まで逃げ切れば戦国時代に戻れる。この武器も持って帰れれば良いんだが、それはどうやら無理みたいだ。まあ構わないが。
でも待てよ......廃虚のビルならば鉄筋くらい何本かは手に入りそうだな。丸鋼を用意した意味はなかったということか。
「ん? あっ! 柳生師範、車二台に追われています!」
「こちらから銃撃は出来そうか?」
「距離があるので俺達が持っている銃では射程外です。しかし向こうの所持する武器は射程距離の長いものだと見受けられます! スピードを上げて早く廃虚のビルへ行きましょう!」
「急ごう!」
一応俺もイングラムM10を構えたが、牽制にすらなっていない。ならば煙幕花火と爆竹を使うしかない。
「ライターありますか?」
「煙草の横に置いてあるぞ」
「あ、ありました!」
柳生師範のライターを手に取ると、窓を開けて煙幕花火を後方へ投げた。そうしたら白い煙が充満し、奴らの視界は完全に閉ざされたことだろう。
もし視界が閉ざされたら、運転手は窓から身を乗り出すはずだ。そこで俺は爆竹を投げつけた上で、催涙剤をプッシュした。
スプレーというものは意外と風に乗って遠くへと流れる。俺も前世で姉を怒らせた際に、ハッカのスプレーを顔に吹き掛けられたことがある。咄嗟に背を向けて口を覆ったが、背中側から吹き掛けられたハッカの粒子が口に入ってきた。そして苦しくなったのだ。スプレーは侮れん。
思惑通りに催涙剤が後方へと風に乗って流れ、身を乗り出していたであろう何人かの悲鳴が聞こえた。運転手が催涙剤を食らったら車は制御不能となる。二台は一列に並んで俺達を追っているので、先頭を走る車がコントロール出来なくなると後ろの車も巻き込まれる。
「二台ともに倒しました」
「さすが名坂少年だ。恐れ入るよ」
「光栄ですが、廃虚のビルへ急いだ方が良さそうです」
「他にも追われているのは確かだな」
思い切りアクセルを踏まれた車は法定速度を無視して突っ走り、あっという間に目的地に到着した。戦国時代とは比べものにもならない文明の利器に感謝をしつつ、各々が武器を持って廃虚のビルに足を踏み入れた。
一階の床が崩れる可能性は低いだろうが、壁や天井が崩れないという保証はどこにもない。けれど柳生師範と愛華はそんなことを意に介さずに階段を駆け上がっていった。
「さすがは剣道親子、と言ったところか」
俺も二人に続いて階段を上がると、二階で立ち止まって通路を吟味した。この廃虚のビルは壁がほとんどなく、狭まった通路というものがない。狭いところと言えば階段がある部分だけなので、罠を仕掛けるべきはここしかない。
「この階段に罠を仕掛けることにしましょう。丸鋼を五本ほど出してください」
受け取った丸鋼を階段を塞ぐように横にして縦一列に等間隔に並べて設置すると、あり合わせのもので丸鋼に電気を流した。
「確かに電気を流すのは良いアイディアだが、丸鋼の設置個所はガムテープで貼ってあるだけだ。蹴られればすぐに破られてしまう」
「この丸鋼が蹴られる、という可能性は低いです。階段に仕掛けたので、侵入者からすると少し高い位置にあることになるので足が上がらないでしょう。仮に足が上がったとして、階段は幅が狭いので思うように動かせないですし」
「なるほど。だけどこんな足止めはすぐに攻略されると思うのだが」
「電気が流れていることを知らない敵は、丸鋼がガッチガチに固められているだけだと考えるはずです。そしてまずは手で丸鋼を握ろうとする──それが作戦の本命です」
「本命?」
見ていればわかると言い、敵が来るのを待った。二階に通じるのが階段以外にないと知った敵は疑いもなく階段を上がり、丸鋼をつい掴んでしまった。
「うわああああぁぁぁーーーーーっ!」
電気が流れている丸鋼を掴んだバカは、それでも手を離そうとしない。正確には、手が離れないのだ。手の平で触れてしまうと感電した際に反射的に握ってしまうのだが、その後も手が離れなくなる。
そのバカの後ろにいた奴は丸鋼から手を離させようとそいつの肩に両手を置いたが、骨を通じて感電するため二人目も手が離れなくなった。
「柳生師範、これこそが作戦です」
「納得したよ。見事だ」
こうして敵が足踏みをしている間に催涙剤を吹き掛けると、全員が行動不能となるので縄で縛り上げた。
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