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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その拾玖

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 目覚めると、なぜか道場の床で横になっていた。ベットで寝ていたはずなのに何でだ!?
「おやおや」柳生師範は竹刀を持ちながら腕を組んでいた。「もう目覚めたのか」
「ん、ええ。ところで、なぜ道場で寝ていたのでしょうか?」
「目覚めたらすぐに修行が出来るように、寝ている間に道場へ運んでおいたのだ。では早速、手練れと対峙たいじした場合でもある程度は戦えるすべを体にたたき込もう」
「へ?」
 頭を掻いていたら急に竹刀を振り下ろされたので、俺はそれを避けて体勢を低くすると、壁に立て掛けられていた竹刀を持った。
 深呼吸をすると竹刀をレイピアの要領で使って突き、威力を一点に集中させる攻撃をした。幼い頃から片目しかなかったので視力だけは鍛えていて、その視力で正確に柳生師範の手を突くことで竹刀を握れなくなるように痛めつけた。
 しかしたくみに避けられるだけでなく、体勢を変えることで避雷針ひらいしんのごとく威力を地面へと受け流していた。
「なっ!」
「驚いたであろう? 俺と名坂少年とでは圧倒的な力の差があるが、それでも俺は対等に君と渡り合えている。これが手練れ相手にもまともに戦えるようになる付け焼き刃の技だ」
 これはさすがの俺でも体得していない技に類する。様々な流派の動きを掛け合わせて、新たな技や動きを作り出しているな。これは見習いたい。
「まずは柳生師範のその動きを覚えろ、ということですね?」
「さようで」
 だが、この動きを見るだけで覚えるのは難しい。ただこの技はぜひとも体得したい。こと対江渡弥平戦では役に立つはずだ。未来に帰ってきたことによって、勝機を見いだせたぜ。
「これでどうだーーーっ!!」竹刀を力いっぱい振るい、柳生師範の竹刀を弾き返すことが出来た。そして力任せに振り回された俺の竹刀は真っ二つに折れた。「え!? デジャヴなんだが?」
 竹刀が折れた。柳生師範も俺も武器を失ったわけだ。さて、ここからは体術での戦闘ということになるのだろうか。
「降参だ。俺は体術が得意ではあるが、名坂少年に勝てるほどではない。剣術ならば先ほどのように君とも渡り合える技はあるが、体術でこちらに勝ち目はないね」
「それでは、この後はどうするのですか?」
「相手の懐に容易く入る方法について、多少の心得を教える」
「では、その心得を教えてください」
 柳生師範はうなずき、重心を少し動かした。その途端、一瞬で間合いを詰められた。俺は身構えていたのに、その警戒をすり抜けて懐に入られた。なぜこうも簡単に懐に入られたのか、半ば放心状態となってしまった。
「ハッハッハ! 愉快愉快。これこそ、簡単に懐へと入る動きだ。この技は非常に覚えやすい。まずは真似してくれれば良い」
「わかりました」
 柳生師範はまず、重心を少し移動させた。姿勢などから重心を計算し、俺も同じ位置に重心を移した。しかし唐突に頭を軽く叩かれた。
「俺の姿勢を見て重心を判断するでない!」
「姿勢......ではない?」
 頭を働かせてみると、柳生師範は姿勢を変えずに重心を移していたのだという結論に至った。ではどこを動かして重心を移動させていたのかと言えば、もちろん足だ。
 柳生師範が一瞬で俺の懐に入れたのは、姿勢を見ているだけでは予想出来ない動きをしたからだ。つまり姿勢を変えずに重心を移すということは、相手に予想不可能な攻撃が出来ることにもなる。
「さすがです、柳生師範」
「褒めても何も出んよ」
 俺と柳生師範の二人が笑い合っていると、道場の門が叩かれた。
「やれやれ、また入門したいとかほざいた奴が来よったか」
「意外と繁盛はんじょうしているんですね」
「まあな。ただ、入門したくて来た者を追い返しているから儲かってはいないよ」
 頭を抱えた柳生師範は、竹刀を持ってから門を開けた。すると武装した数人が道場に押し入って来たのだ。おそらく、江渡弥平の手の者だろう。早すぎるぞ、クソが。
「柳生師範! そいつらの狙いは俺です! 逃げてください!」
「し、しかし......」
 未来では神力が発動出来ないのは確認済み。アマテラスの助けも見込めない。ここは逃げの一手だ。ただ柳生師範や愛華が人質にでも取られようものなら、逃げているわけにはいかない。二人を守りつつ逃げるのが最善というわけか。
「名坂少年、刃の尖った真剣は母屋の物置部屋にある!」
「わかりましたっ!」
 母屋に駆けだして物置部屋に入ると、立派な鞘に収まった刀があった。それを掴んで道場に戻り、竹刀で応戦していた柳生師範を助けた。
「何とか間に合いましたね」
「出来れば死人は出さんでくれ」
「承りました!」
 鞘から刀を抜くと、敵数人を死なない程度に切り裂いて行動不能にさせた。
「説明はいらん。大体想像は出来ている。それより、君は早く逃げなさい」
「駄目です! 俺が迷惑を掛けましたし、あなた方が人質に取られる可能性もあります。何としてでも、死守します!」
「人質か。ならば三人での行動が望ましいね。愛華を呼んでくる」
「はい、お願いします」
 刀を鞘に戻してから腰に付けると、敵が身につけていたサイレンサー付きの拳銃を何丁か拝借した。弾もあるし、これで何とかなるな。サイレンサーが付いていると発砲音も聞こえないし、何かと便利だ。
『災難だったな、政宗よ』
「あ? アマテラスか。まだ戦国時代には戻れないんだから、これから俺はどうするべきだと思う?」
『政宗が戦国時代に戻ったとわかれば、あの二人に危害が及ぶ心配はなくなる。何とか戦国時代に戻れるまで逃げ切ってくれ』
「へいへい。んじゃまあ、テレパシーで援護えんごよろしく」
『では、早速伝えたいことがある。愛華とやらが敵に襲われているようだが?』
「はあ!? 先に言えや!」
 母屋からは愛華の悲鳴が聞こえた。
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