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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その拾伍

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 途中で目を覚ますと目隠しをされているようで周囲は見えなかったが、体の感覚はちゃんと機能していた。手足は拘束され、口もしゃべれないように縛られていた。
 誰かの肩に担がれて運ばれていく感覚があり、椅子に座らされたかと思うと目隠しと口を縛る縄が取り外された。
「やあ、もう目を覚ましていたのか」
「江渡弥平か。鐵は策略家として大成するだろうな」
「彼は我々のところに以前いた仁和君より優秀な参謀だ。御影要は強いから、君が本気を出しても敵わないよ?」
「優秀な手駒を揃えたな。俺側にいる軍配士の仁和の裏を掻くのが鐵の役目で、本気になった俺を倒すのが御影の役目ってことか」
「適材適所という奴だ。何たって、御影の右に出る者はいないからね」
「右だけ警戒していたら、背後や正面、左や真上から攻撃される可能性が高くなるぞ」
「面白い冗談だね。ハハハハハ」
「何を笑っていやがる」
「これは失敬。君の冗談があまりにも面白くてね、つい笑ってしまった」
 江渡弥平はただ笑っているだけだが、手はうまく動かせていない。おそらく、俺が前に切った神経やら腱やら筋やらが原因で意のままに手や指を動かせないのだろう。もうこいつは拳銃はおろか、箸ですら握ることは叶わない。
 俺が捕らわれているこの部屋には江渡弥平以外に鐵と御影も隅の方で待機している。神力を使えばすぐにでも脱出出来るが、この部屋では神力が使えない。自力での脱出は不可能に近い。他力本願をしたいところだ。
 逃げ道は一つある扉だけで、ここから逃げるには神力を使える範囲まで行くしかない。足は拘束されているからウサギ跳びのようにしないと移動出来ないから、何としてでも縄を切らないといかん。
 まずは時間稼ぎをしておく必要がある。こいつらとの会話を出来るだけ引き延ばしてみよう。
「おい江渡弥平! 貴様、手をうまく動かせていないようだが?」
「テメェ、わかっていて言っているな?」
 あ、地雷踏んじまった。江渡弥平が顔面を真っ赤にして怒っている。怒っているのは間違いない。
「待て待て待て。暇だから何か話しをしないか?」
「何だ、こんなになってまでこちら側の情報を引き出したいのか?」
「当然だ」
「良いだろう。鐵と御影にお前の話し相手となってもらうか」
 二人は江渡弥平に呼ばれ、両者は腕を組みながら俺の前に立った。
「はあ」鐵は肩を落とした。「ボスがお前を警戒していたからもっと腕が立って頭が良い奴だと思っていたが、あんなので気を失ってしまうとは。はっきり言って拍子抜けだよ」
 御影も口を開いた。「然り。右に同じだ」
「俺らを舐めていると痛い目に遭うからな。覚悟しておけ」
「そんなことは構わない。何人で攻めてきたのか、隊の編成と人数、主力格の名前と容姿などを教えろ。使う武器や戦法を教えてくれれば助かるんだが」
「は? 教えるわけねぇだろ」
 俺が教えることを拒むと、鐵の合図とともに御影が俺の側頭部に蹴りを入れた。
「ガハッ!」俺の口からは血が垂れ出てきた。「ぶっ殺してやるぞ!」
「ぶっ殺すぶっ殺さない、なんてどうでも良い。さっき僕が言ったことを素直に吐かないと、また御影の蹴りが入るぞ」
 ここで嘘を言ったとしても後々バレてしまう。かといって何も言わないのはまずい。せめて神力が使えたらこんな奴らなんて倒せるんだが、神力に依存し過ぎるのは良くない。
 まずはこの二人を褒め殺してみよう。俺は前世から口八丁手八丁だからな。
「やっぱりお前らはすごいぜ。鐵は作戦を立てたりする時に大いに役立つし、御影ならば俺は勝てる気がしない。ぶっちゃけると、安倍晴明よりすごいんじゃないか? 安倍晴明なんか、奥さんが弟子の蘆屋あしや道満どうまんと浮気をした挙げ句、呪い殺されているじゃないか」
 二人を褒めたつもりだったが安倍晴明をバカにしたのが間違いだったか。
 御影は無表情で殺気立った。「貴様は安倍晴明様を愚弄ぐろうしているのか? それに安倍晴明様は二人に殺されたあとで唐にいた師によって生き返らせてもらい、見事二人を殺している」
 二人はブチ切れた。特に御影が。
「残念だが、俺の奥さんは俺を裏切るようなことはしないぞ。安倍晴明とその奥さんの仲が悪かったんじゃないか?」
「言わせておけば......殺す!」
 御影に脇腹を蹴られると、部屋の隅まで吹っ飛んで床に叩きつけられた。
 念じながら、呪縛と唱えた御影によって俺の体は金縛りにあった。指一本も動かせない。さすがは化け物と戦っている陰陽師だ。神力を使わなければ太刀打ち出来ない。
 江渡弥平は御影を止めた。「そいつは殺すんじゃない。これから二十一世紀の日本へと送り込む予定なんだから」
 二十一世紀の日本へ送り込む、だと!? それをする意味が江渡弥平にあるのか?
 そんなことを考えていると、昔見たことがあるタイムマシンに乗せられた。外から遠隔えんかくに操作され、周りの景色が一瞬にして変わったかと思うと超高層ビル群と産業革命によって一気に汚れてしまった空が広がっていた。
 タイムマシンから下りると、コンクリートの壁に縄をこすり付けて千切った。そしてタイムマシンをぶち壊してゴミ処理場に捨てて、まずは何県にいるのか西暦何年なのか確かめるために動き出した。
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