上 下
180 / 245
第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その漆

しおりを挟む
 夜行隊は順調に力を増していった。俺の指導の賜物たまものだ(根拠はない)。
 さて、夜行隊の指導を初めて早一週間が経過した。そろそろ現実に目を向けなくてはなるまい。俺は仁和と二人で密かに会い、小声で話し合った。
「夜行隊は政宗殿が外部から人員をスカウトして出来た隊です。つまり、外部から簡単に伊達氏に入ってきた者の集まりになります」
「ああ、そうだな」
「夜行隊の中に敵の間諜かんちょう(スパイ)がいる可能性は極めて高いでしょう」
「夜行隊の中に間諜がいるとして、そいつは俺の命を狙っているということなのか?」
「ほぼ十割、間諜は政宗殿の命を狙っていると考えて差し支えはありません」
「だよな。夜行隊の個々の能力も目を見張るほど成長したし、そろそろ本格的に俺を狙ってくる頃だろう」
「よくおわかりで。政宗殿が夜行隊に指導なんてしなければ、まだ対処する方法はありましたが......」
「悪かったよ。あいつら信用出来そうな顔をしてたから」
「人間というものは、恐怖で支配してくる人より優しくしてくれる人間を裏切ります。お気を付けて」
「まあな。だけど、歴史の出来事をかんがみても恐怖政治が成功するわけがない。俺は奴らを信じている」
 仁和は腕を組み、うなり声を発した。「まあ、今はまだ様子見ですね。我々未来人衆も政宗殿を守るような対策を考えているので、くれぐれも不意を突かれてやられないようにしてください」
「心得ている。江渡弥平がもうじき暗躍あんやくを再開する頃だし」
 俺は仁和の姿が見えなくなるまで手を振ってから、薬学書を本棚から取り出した。
「間諜に備えて、毒物の対策を考えてみようか」
 毒物と言ってもたくさんの種類が存在する。銀食器もかなり前に言った通り、ヒ素とかの毒物にしか反応しない。
 鍋みたいなので全員で食うような手もあるが、それは信用のおけぬ相手と食事をするような時でしか有効ではない。もし鍋を一緒に食べる奴の中に犯人がいなくては意味がない。ただいたずらに仲間を失うだけになる。
 毒味役は信用出来ない。かといって信用出来る家臣を毒味役に使ってしまったら、信用出来る仲間が死ぬ可能性もある。
 だから毒物の対策は難しい。もう少し考えを練る必要がある。
 しかし俺が持っている薬学書では毒についてくわしく書かれているものは少ない。毒物のことが記された書物を取り寄せてみるか。
 それにしても、毒か。前世での死因も毒の摂取だったし、何としてでも毒で死にたくはない。やはり、仁和を頼るしかないのか。

 半年後、間諜は動いた。伊達政宗が食べる食膳を見つけると、そこに猛毒を混入させた。
 あとはその食膳が政宗の前に運ばれるのを見守り、政宗は何の疑いもせずに箸をつけて食べ始めた。間諜は心の中で大笑いをした。
 しかし、竜と例えられているだけあった。政宗は即効性の猛毒を口にしたが、倒れることはなかった。
 怪奇、怪奇である。間諜は部屋を退出してから廊下を駆けて、刀を鞘から抜いた。その刀に毒を塗ると、また鞘に収めて政宗の元へと向かった。
 扉を蹴破けやぶると、鞘から抜き出した猛毒の付着した刀を振り下ろして政宗の頬を切り裂いた。
「グアアアァァーーー!」
 傷口から体内に侵入した猛毒は血の流れに乗って全身を巡り、数秒も経たぬうちに床に倒れ込んだ。
「クハハハハ! ついに、ついに政宗を討ち取ったり!」
 だがしかし、間諜は慎重な奴だった。政宗が生き残ってしまう可能性を考慮こうりょし、政宗の口を無理矢理開けて猛毒を流し込んだのだ!
 吐き出そうとする政宗の口を押さえつけ、力尽くで猛毒を飲み込ませた。猛毒を飲み込んでしまった政宗は体を小刻みに震わせ、助けを呼ぼうと声を出そうとするが不可能だった。
「ハハハハハ! こやつは断末魔すら発することが出来ずに死におったわ!」
 ここで間諜が大声を出したため、陽月斬を帯刀した景頼が駆けつけた。
「おや、もう来てしまったのか」
「なっ! き、貴様は夜行隊の鼬鼠殺し!」
 間諜、もとい鼬鼠殺しは口が裂けんばかりの笑みを浮かべた。そして猛毒が刃に塗られた刀を構えると、政宗から教わった戦い方を思い出す。
「独眼竜・伊達政宗と言ってもバカだな。敵に戦い方を教えるとは、まさに滑稽こっけい!」
「口をつつしめ! 若様の御前であるぞ!」
「お前の言う''若様''はすでに事切れている。死人に口なしと言うのだから、伊達政宗の死体の前で何をしようがばちは当たらん」
「ま、誠に殺したのか!?」
「猛毒を直接口に流し込んで飲み込ませた。これで死なない奴はいないぞ。口には何の細工もされていなかったし、本当に猛毒を飲み込んだ。これで終わりだ」
「ちくしょう!」怒り狂った景頼は怒号を放ちながら鼬鼠殺しに接近した。「死ねぇ!」
「死ぬのはお前だ」
 鼬鼠殺しは政宗にしたように刀で頬を切り裂き、倒れたところで口に猛毒を注ぎ入れた。それを飲み込ませると、額の汗を拭いながら窓からの逃走を図る。
 犯人が立ち去ったあとに仁和が駆けつけて二人の様子を確認し、至急伊達氏の家臣を招集した。
「政宗殿と景頼殿は絶命してしまわれた!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おれは忍者の子孫

メバ
ファンタジー
鈴木 重清(しげきよ)は中学に入学し、ひょんなことから社会科研究部の説明会に、親友の聡太(そうた)とともに参加することに。 しかし社会科研究部とは世を忍ぶ仮の姿。そこは、忍者を養成する忍者部だった! 勢いで忍者部に入部した重清は忍者だけが使える力、忍力で黒猫のプレッソを具現化し、晴れて忍者に。 しかし正式な忍者部入部のための試験に挑む重清は、同じく忍者部に入部した同級生達が次々に試験をクリアしていくなか、1人出遅れていた。 思い悩む重清は、祖母の元を訪れ、そこで自身が忍者の子孫であるという事実と、祖母と試験中に他界した祖父も忍者であったことを聞かされる。 忍者の血を引く重清は、無事正式に忍者となることがでにるのか。そして彼は何を目指し、どう成長していくのか!? これは忍者の血を引く普通の少年が、ドタバタ過ごしながらも少しずつ成長していく物語。 初投稿のため、たくさんの突っ込みどころがあるかと思いますが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...