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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その漆
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夜行隊は順調に力を増していった。俺の指導の賜物だ(根拠はない)。
さて、夜行隊の指導を初めて早一週間が経過した。そろそろ現実に目を向けなくてはなるまい。俺は仁和と二人で密かに会い、小声で話し合った。
「夜行隊は政宗殿が外部から人員をスカウトして出来た隊です。つまり、外部から簡単に伊達氏に入ってきた者の集まりになります」
「ああ、そうだな」
「夜行隊の中に敵の間諜(スパイ)がいる可能性は極めて高いでしょう」
「夜行隊の中に間諜がいるとして、そいつは俺の命を狙っているということなのか?」
「ほぼ十割、間諜は政宗殿の命を狙っていると考えて差し支えはありません」
「だよな。夜行隊の個々の能力も目を見張るほど成長したし、そろそろ本格的に俺を狙ってくる頃だろう」
「よくおわかりで。政宗殿が夜行隊に指導なんてしなければ、まだ対処する方法はありましたが......」
「悪かったよ。あいつら信用出来そうな顔をしてたから」
「人間というものは、恐怖で支配してくる人より優しくしてくれる人間を裏切ります。お気を付けて」
「まあな。だけど、歴史の出来事を鑑みても恐怖政治が成功するわけがない。俺は奴らを信じている」
仁和は腕を組み、うなり声を発した。「まあ、今はまだ様子見ですね。我々未来人衆も政宗殿を守るような対策を考えているので、くれぐれも不意を突かれてやられないようにしてください」
「心得ている。江渡弥平がもうじき暗躍を再開する頃だし」
俺は仁和の姿が見えなくなるまで手を振ってから、薬学書を本棚から取り出した。
「間諜に備えて、毒物の対策を考えてみようか」
毒物と言ってもたくさんの種類が存在する。銀食器もかなり前に言った通り、ヒ素とかの毒物にしか反応しない。
鍋みたいなので全員で食うような手もあるが、それは信用のおけぬ相手と食事をするような時でしか有効ではない。もし鍋を一緒に食べる奴の中に犯人がいなくては意味がない。ただいたずらに仲間を失うだけになる。
毒味役は信用出来ない。かといって信用出来る家臣を毒味役に使ってしまったら、信用出来る仲間が死ぬ可能性もある。
だから毒物の対策は難しい。もう少し考えを練る必要がある。
しかし俺が持っている薬学書では毒についてくわしく書かれているものは少ない。毒物のことが記された書物を取り寄せてみるか。
それにしても、毒か。前世での死因も毒の摂取だったし、何としてでも毒で死にたくはない。やはり、仁和を頼るしかないのか。
半年後、間諜は動いた。伊達政宗が食べる食膳を見つけると、そこに猛毒を混入させた。
あとはその食膳が政宗の前に運ばれるのを見守り、政宗は何の疑いもせずに箸をつけて食べ始めた。間諜は心の中で大笑いをした。
しかし、竜と例えられているだけあった。政宗は即効性の猛毒を口にしたが、倒れることはなかった。
怪奇、怪奇である。間諜は部屋を退出してから廊下を駆けて、刀を鞘から抜いた。その刀に毒を塗ると、また鞘に収めて政宗の元へと向かった。
扉を蹴破ると、鞘から抜き出した猛毒の付着した刀を振り下ろして政宗の頬を切り裂いた。
「グアアアァァーーー!」
傷口から体内に侵入した猛毒は血の流れに乗って全身を巡り、数秒も経たぬうちに床に倒れ込んだ。
「クハハハハ! ついに、ついに政宗を討ち取ったり!」
だがしかし、間諜は慎重な奴だった。政宗が生き残ってしまう可能性を考慮し、政宗の口を無理矢理開けて猛毒を流し込んだのだ!
吐き出そうとする政宗の口を押さえつけ、力尽くで猛毒を飲み込ませた。猛毒を飲み込んでしまった政宗は体を小刻みに震わせ、助けを呼ぼうと声を出そうとするが不可能だった。
「ハハハハハ! こやつは断末魔すら発することが出来ずに死におったわ!」
ここで間諜が大声を出したため、陽月斬を帯刀した景頼が駆けつけた。
「おや、もう来てしまったのか」
「なっ! き、貴様は夜行隊の鼬鼠殺し!」
間諜、もとい鼬鼠殺しは口が裂けんばかりの笑みを浮かべた。そして猛毒が刃に塗られた刀を構えると、政宗から教わった戦い方を思い出す。
「独眼竜・伊達政宗と言ってもバカだな。敵に戦い方を教えるとは、まさに滑稽!」
「口を慎め! 若様の御前であるぞ!」
「お前の言う''若様''はすでに事切れている。死人に口なしと言うのだから、伊達政宗の死体の前で何をしようが罰は当たらん」
「ま、誠に殺したのか!?」
「猛毒を直接口に流し込んで飲み込ませた。これで死なない奴はいないぞ。口には何の細工もされていなかったし、本当に猛毒を飲み込んだ。これで終わりだ」
「ちくしょう!」怒り狂った景頼は怒号を放ちながら鼬鼠殺しに接近した。「死ねぇ!」
「死ぬのはお前だ」
鼬鼠殺しは政宗にしたように刀で頬を切り裂き、倒れたところで口に猛毒を注ぎ入れた。それを飲み込ませると、額の汗を拭いながら窓からの逃走を図る。
犯人が立ち去ったあとに仁和が駆けつけて二人の様子を確認し、至急伊達氏の家臣を招集した。
「政宗殿と景頼殿は絶命してしまわれた!」
さて、夜行隊の指導を初めて早一週間が経過した。そろそろ現実に目を向けなくてはなるまい。俺は仁和と二人で密かに会い、小声で話し合った。
「夜行隊は政宗殿が外部から人員をスカウトして出来た隊です。つまり、外部から簡単に伊達氏に入ってきた者の集まりになります」
「ああ、そうだな」
「夜行隊の中に敵の間諜(スパイ)がいる可能性は極めて高いでしょう」
「夜行隊の中に間諜がいるとして、そいつは俺の命を狙っているということなのか?」
「ほぼ十割、間諜は政宗殿の命を狙っていると考えて差し支えはありません」
「だよな。夜行隊の個々の能力も目を見張るほど成長したし、そろそろ本格的に俺を狙ってくる頃だろう」
「よくおわかりで。政宗殿が夜行隊に指導なんてしなければ、まだ対処する方法はありましたが......」
「悪かったよ。あいつら信用出来そうな顔をしてたから」
「人間というものは、恐怖で支配してくる人より優しくしてくれる人間を裏切ります。お気を付けて」
「まあな。だけど、歴史の出来事を鑑みても恐怖政治が成功するわけがない。俺は奴らを信じている」
仁和は腕を組み、うなり声を発した。「まあ、今はまだ様子見ですね。我々未来人衆も政宗殿を守るような対策を考えているので、くれぐれも不意を突かれてやられないようにしてください」
「心得ている。江渡弥平がもうじき暗躍を再開する頃だし」
俺は仁和の姿が見えなくなるまで手を振ってから、薬学書を本棚から取り出した。
「間諜に備えて、毒物の対策を考えてみようか」
毒物と言ってもたくさんの種類が存在する。銀食器もかなり前に言った通り、ヒ素とかの毒物にしか反応しない。
鍋みたいなので全員で食うような手もあるが、それは信用のおけぬ相手と食事をするような時でしか有効ではない。もし鍋を一緒に食べる奴の中に犯人がいなくては意味がない。ただいたずらに仲間を失うだけになる。
毒味役は信用出来ない。かといって信用出来る家臣を毒味役に使ってしまったら、信用出来る仲間が死ぬ可能性もある。
だから毒物の対策は難しい。もう少し考えを練る必要がある。
しかし俺が持っている薬学書では毒についてくわしく書かれているものは少ない。毒物のことが記された書物を取り寄せてみるか。
それにしても、毒か。前世での死因も毒の摂取だったし、何としてでも毒で死にたくはない。やはり、仁和を頼るしかないのか。
半年後、間諜は動いた。伊達政宗が食べる食膳を見つけると、そこに猛毒を混入させた。
あとはその食膳が政宗の前に運ばれるのを見守り、政宗は何の疑いもせずに箸をつけて食べ始めた。間諜は心の中で大笑いをした。
しかし、竜と例えられているだけあった。政宗は即効性の猛毒を口にしたが、倒れることはなかった。
怪奇、怪奇である。間諜は部屋を退出してから廊下を駆けて、刀を鞘から抜いた。その刀に毒を塗ると、また鞘に収めて政宗の元へと向かった。
扉を蹴破ると、鞘から抜き出した猛毒の付着した刀を振り下ろして政宗の頬を切り裂いた。
「グアアアァァーーー!」
傷口から体内に侵入した猛毒は血の流れに乗って全身を巡り、数秒も経たぬうちに床に倒れ込んだ。
「クハハハハ! ついに、ついに政宗を討ち取ったり!」
だがしかし、間諜は慎重な奴だった。政宗が生き残ってしまう可能性を考慮し、政宗の口を無理矢理開けて猛毒を流し込んだのだ!
吐き出そうとする政宗の口を押さえつけ、力尽くで猛毒を飲み込ませた。猛毒を飲み込んでしまった政宗は体を小刻みに震わせ、助けを呼ぼうと声を出そうとするが不可能だった。
「ハハハハハ! こやつは断末魔すら発することが出来ずに死におったわ!」
ここで間諜が大声を出したため、陽月斬を帯刀した景頼が駆けつけた。
「おや、もう来てしまったのか」
「なっ! き、貴様は夜行隊の鼬鼠殺し!」
間諜、もとい鼬鼠殺しは口が裂けんばかりの笑みを浮かべた。そして猛毒が刃に塗られた刀を構えると、政宗から教わった戦い方を思い出す。
「独眼竜・伊達政宗と言ってもバカだな。敵に戦い方を教えるとは、まさに滑稽!」
「口を慎め! 若様の御前であるぞ!」
「お前の言う''若様''はすでに事切れている。死人に口なしと言うのだから、伊達政宗の死体の前で何をしようが罰は当たらん」
「ま、誠に殺したのか!?」
「猛毒を直接口に流し込んで飲み込ませた。これで死なない奴はいないぞ。口には何の細工もされていなかったし、本当に猛毒を飲み込んだ。これで終わりだ」
「ちくしょう!」怒り狂った景頼は怒号を放ちながら鼬鼠殺しに接近した。「死ねぇ!」
「死ぬのはお前だ」
鼬鼠殺しは政宗にしたように刀で頬を切り裂き、倒れたところで口に猛毒を注ぎ入れた。それを飲み込ませると、額の汗を拭いながら窓からの逃走を図る。
犯人が立ち去ったあとに仁和が駆けつけて二人の様子を確認し、至急伊達氏の家臣を招集した。
「政宗殿と景頼殿は絶命してしまわれた!」
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