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第四章『輝宗の死』
伊達政宗、悪運の強さは伊達じゃない その拾陸
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毒ガスの初撃は成功した。あとはもう二撃か三撃くらい毒ガスを撃ち込めば、伊達軍が負けることはない。もう安心して、歴史通りの行動が出来るんだ。
よし、まずは冷静になれ。敵方を気絶させ過ぎれば伊達軍が優勢になって歴史通りではなくなってしまう。だから、やり過ぎない程度が重要だ。
焦らずにに頭を働かせれば......。考えろ、考えるんだ。それに歴史通りになったとして、鬼庭良直が人取橋の戦いで死ねば計画はご破算だ。全ての計画が無に還る。それは避けねばならない。
いや、それは考えるな。成実に見張りをさせているんだから、良直に何かがあっても大丈夫。問題はない。ならば、まずは伊達軍が負けないことは第一に、伊達軍が勝たないことを第二に考えることだ。そのためには、毒ガスをもう一撃ほど撃ち込む。
腰に付けられた容器を取り、もう一度投げつけた。別方向に飛んでいった容器は、衝撃によってフタが外れて毒ガスが周囲に散った。
「「ぐおおおぉぉーーーー!」」
「へっ! 案外と敵方には効いているようだな」
毒ガスと言ってもそこまで万能じゃない。空気より重いのが硫化水素だから、高い場所にいれば毒ガスは効かないんだ。つまり、馬に乗っている奴には効果がない。
だからこそ、見掛け倒し毒ガスである硫化水素には別の用途もあるんだ。
「成実、火をよこせ」
「はっ!」
成実から種火を貰うと、酸素を与えてそれを大きく成長させた。それからまた毒ガスを撒き散らし、そこへピンポイントに火を投げ込んだ。途端、爆発が起こる。
少々爆発の威力が大きかったのが誤算だが、第一目標である伊達軍が負けることはない。まだ誤差の範疇だ。
「次は俺が接近戦をやるから、成実はウルトラウィークの上で待機しておけよ」
「はい」
「指示があるまでは動くな」
木刀を鞘から引き抜くと、馬から降りた。まだ毒ガスは下に溜まってやがるが、大きく扇げば刺激臭を吸い込むことはなくなる。
でもまあ、溜まった硫化水素を全部一気に扇ぐことは出来ない。息をしなければ、刺激臭を吸い込む心配はなくなる。
勢いよくキレイな空気を吸い込むと、毒ガスの中を進んだ。敵方の馬の足の関節を逆さにひん曲げた。馬が一歩も進めなくなると、馬に乗っていた奴は地上に降りた。その瞬間に、地面に倒れ込んだ。
俺はついうっかり息をしてしまい、結構苦しく咳き込んだ。
「ゲホッゲホッゲホッ! ガハッガハッガハッ!」
急いで毒ガスが溜まっている地帯から離れて、深く呼吸をする。
「死ぬかと思ったぜ、ちくしょう......」
ウルトラウィークの元へ戻ると、背中にまたがった。
「若様、お戻りになられましたね」
「ああ、まあな。そろそろ本陣へ帰ろうか。毒ガスは作りすぎてしまったが、あとでイタズラ用に使うことにしよう」
「イタズラもほどほどにしてください。若様は伊達氏の現当主なのですから」
「そうだったな、俺は今は当主か」
「さようです」
自分が伊達氏の当主だということが頭から抜け落ちていた。だが、当主だからと言ってイタズラをやめないわけじゃないが。
「そんじゃま、蘆名氏・佐竹氏連合軍の撤退を待つばかりだなっ!」
本陣へ戻る前に毒ガスをもう一度撒き散らし、敵方の慌てっぷりを見下ろして高みの見物をしていた。笑いながら眺めているもんだから、ついうっかりと毒ガスの入った容器を落としてしまった。そして本陣内で毒ガスが充満した。まさに地獄絵図と化した。
「あちゃー、やっちまったな。ま、良いか。もう二個か三個ほど容器を落としてみよう!」
またまたうっかり落としてしまったという演技をし、本陣に毒ガスを撒いた。さすがにやり過ぎたと後悔しつつ、少し楽しかった。
さて、話しを本題に戻そう。この人取橋の戦いが終わるまで良直を守る。今は成実とその小隊が良直を見張っている。ここまでは完璧だ。
「名坂」小十郎は声をひそめた。「毒ガスはもう撒かないでくれ~!」
「ハッハッハッハッハッ! ちょっとした悪ふざけじゃないか」
「度が過ぎている。まったく......やめてくれないか」
小十郎は頭を抱え、深いため息をもらした。さすがにそこまでのため息をもらすこともないだろうと思ったが、地獄絵図に目を向けて納得をした。ここまで味方が毒ガスにやられていると、頭を抱えたくもなるな。
「すまなかったよ。イタズラは戦の間はしないことを約束しよう」
「戦の間は!? 戦が終わったらイタズラをするって宣言しているのと同じだろ」
「同じだな。戦が終わったらイタズラをするつもりだし」
肩を落とした小十郎は、目頭を押さえた。眉間に皺を寄せているし、怒っているのだろう。無理もない。
「なあ」小十郎は敵方を指差した。「あいつら、何か騒がしいぞ?」
「騒がしい? ──ハッ! 面白い。もう時間か」
「時間? 何だ、それは」
「蘆名氏・佐竹氏連合軍に一報が入ったんだ。どんな一報かは諸説あるんだが、有力な説だと佐竹氏当主の義重の不在のスキに佐竹氏に敵対する江戸重道が佐竹氏の領内に侵略したってのだな。そして蘆名氏・佐竹氏連合軍は撤退するんだ」
「江戸重道って江渡弥平と関係があるのか!?」
「字が違う。江戸重道は江戸時代の『江戸』だが、江渡弥平は『江』に『渡』と書くんだ。関係があるわけない。そもそも、江渡弥平の名は歴史に刻んではいけないんだ」
小十郎は、何だ別人か、と安心しきったようにつぶやいた。
よし、まずは冷静になれ。敵方を気絶させ過ぎれば伊達軍が優勢になって歴史通りではなくなってしまう。だから、やり過ぎない程度が重要だ。
焦らずにに頭を働かせれば......。考えろ、考えるんだ。それに歴史通りになったとして、鬼庭良直が人取橋の戦いで死ねば計画はご破算だ。全ての計画が無に還る。それは避けねばならない。
いや、それは考えるな。成実に見張りをさせているんだから、良直に何かがあっても大丈夫。問題はない。ならば、まずは伊達軍が負けないことは第一に、伊達軍が勝たないことを第二に考えることだ。そのためには、毒ガスをもう一撃ほど撃ち込む。
腰に付けられた容器を取り、もう一度投げつけた。別方向に飛んでいった容器は、衝撃によってフタが外れて毒ガスが周囲に散った。
「「ぐおおおぉぉーーーー!」」
「へっ! 案外と敵方には効いているようだな」
毒ガスと言ってもそこまで万能じゃない。空気より重いのが硫化水素だから、高い場所にいれば毒ガスは効かないんだ。つまり、馬に乗っている奴には効果がない。
だからこそ、見掛け倒し毒ガスである硫化水素には別の用途もあるんだ。
「成実、火をよこせ」
「はっ!」
成実から種火を貰うと、酸素を与えてそれを大きく成長させた。それからまた毒ガスを撒き散らし、そこへピンポイントに火を投げ込んだ。途端、爆発が起こる。
少々爆発の威力が大きかったのが誤算だが、第一目標である伊達軍が負けることはない。まだ誤差の範疇だ。
「次は俺が接近戦をやるから、成実はウルトラウィークの上で待機しておけよ」
「はい」
「指示があるまでは動くな」
木刀を鞘から引き抜くと、馬から降りた。まだ毒ガスは下に溜まってやがるが、大きく扇げば刺激臭を吸い込むことはなくなる。
でもまあ、溜まった硫化水素を全部一気に扇ぐことは出来ない。息をしなければ、刺激臭を吸い込む心配はなくなる。
勢いよくキレイな空気を吸い込むと、毒ガスの中を進んだ。敵方の馬の足の関節を逆さにひん曲げた。馬が一歩も進めなくなると、馬に乗っていた奴は地上に降りた。その瞬間に、地面に倒れ込んだ。
俺はついうっかり息をしてしまい、結構苦しく咳き込んだ。
「ゲホッゲホッゲホッ! ガハッガハッガハッ!」
急いで毒ガスが溜まっている地帯から離れて、深く呼吸をする。
「死ぬかと思ったぜ、ちくしょう......」
ウルトラウィークの元へ戻ると、背中にまたがった。
「若様、お戻りになられましたね」
「ああ、まあな。そろそろ本陣へ帰ろうか。毒ガスは作りすぎてしまったが、あとでイタズラ用に使うことにしよう」
「イタズラもほどほどにしてください。若様は伊達氏の現当主なのですから」
「そうだったな、俺は今は当主か」
「さようです」
自分が伊達氏の当主だということが頭から抜け落ちていた。だが、当主だからと言ってイタズラをやめないわけじゃないが。
「そんじゃま、蘆名氏・佐竹氏連合軍の撤退を待つばかりだなっ!」
本陣へ戻る前に毒ガスをもう一度撒き散らし、敵方の慌てっぷりを見下ろして高みの見物をしていた。笑いながら眺めているもんだから、ついうっかりと毒ガスの入った容器を落としてしまった。そして本陣内で毒ガスが充満した。まさに地獄絵図と化した。
「あちゃー、やっちまったな。ま、良いか。もう二個か三個ほど容器を落としてみよう!」
またまたうっかり落としてしまったという演技をし、本陣に毒ガスを撒いた。さすがにやり過ぎたと後悔しつつ、少し楽しかった。
さて、話しを本題に戻そう。この人取橋の戦いが終わるまで良直を守る。今は成実とその小隊が良直を見張っている。ここまでは完璧だ。
「名坂」小十郎は声をひそめた。「毒ガスはもう撒かないでくれ~!」
「ハッハッハッハッハッ! ちょっとした悪ふざけじゃないか」
「度が過ぎている。まったく......やめてくれないか」
小十郎は頭を抱え、深いため息をもらした。さすがにそこまでのため息をもらすこともないだろうと思ったが、地獄絵図に目を向けて納得をした。ここまで味方が毒ガスにやられていると、頭を抱えたくもなるな。
「すまなかったよ。イタズラは戦の間はしないことを約束しよう」
「戦の間は!? 戦が終わったらイタズラをするって宣言しているのと同じだろ」
「同じだな。戦が終わったらイタズラをするつもりだし」
肩を落とした小十郎は、目頭を押さえた。眉間に皺を寄せているし、怒っているのだろう。無理もない。
「なあ」小十郎は敵方を指差した。「あいつら、何か騒がしいぞ?」
「騒がしい? ──ハッ! 面白い。もう時間か」
「時間? 何だ、それは」
「蘆名氏・佐竹氏連合軍に一報が入ったんだ。どんな一報かは諸説あるんだが、有力な説だと佐竹氏当主の義重の不在のスキに佐竹氏に敵対する江戸重道が佐竹氏の領内に侵略したってのだな。そして蘆名氏・佐竹氏連合軍は撤退するんだ」
「江戸重道って江渡弥平と関係があるのか!?」
「字が違う。江戸重道は江戸時代の『江戸』だが、江渡弥平は『江』に『渡』と書くんだ。関係があるわけない。そもそも、江渡弥平の名は歴史に刻んではいけないんだ」
小十郎は、何だ別人か、と安心しきったようにつぶやいた。
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