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第四章『輝宗の死』
伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参漆
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目が覚めると、見知らぬ天井が視界に入る。起き上がると、治療室にいた。そして思い出す。俺は戦場で刺されたんだ。
「戦は! 戦はどうなった!?」
俺の叫びに誰も反応はしなかった。仕方ないから体を起こし、出口を確認する。刺された部分は痛いが、この程度なら我慢は出来る。
胸を押さえながら、猫背のような体勢で治療室を出る。今はあの戦から何日が経過したのだろうか。
長い廊下を抜けて、小十郎の部屋に到着する。重い扉を開ける力は俺はなく、やむなく扉を破壊した。この扉は重いが、それに対して耐久力は低いのだ。
「名坂! 動いても大丈夫なのか?」
「ああ、それは大したことはない。それより、俺が負傷してから何日が経過したんだ?」
「何週間から一ヶ月程度、かな」
「そんなにか!」
「まあね。その間だけは輝宗が指揮をして戦を進めていた」
「そうか。なら、この怪我が治るまでは、俺は安静にしているとしよう」
小十郎は苦笑した。「思う存分休むと良いよ。成実と景頼を呼んでくるか?」
「まずは輝宗と愛姫に会いに行こうと思う。この時代に合った行動をするべきだからな」
「んじゃ、頑張れよ」
「おう! ──痛っ!」
急に激しい行動をしたら、痛くなってしまった。胸が貫かれた記憶があるが、こうして生きているんだからそれは記憶違いだろうな。
俺は輝宗が鎮座する部屋に入り、ひざまづいた。
「政宗! 治ったのか!?」
「はい、父上。何とか動けるくらいにはなりました」
「そうか。では、楽な姿勢になってよい」
「では、失礼して」
俺は姿勢を崩した。
「父上。私はこの傷が完全に治るまで休みたい次第です」
「良いのだ。それまでは指揮をする。政宗は奇跡的に死ななかったみたいだしな」
「へ?」
「刀が政宗の胸を貫いていたのだ」
マジかよ! ってことは、本当に生きていたのが奇跡みたいなものか。
「──では、失礼いたします」
俺は頭を下げて、部屋から立ち去った。次は愛姫に会いに行く。最近は愛姫と会っていなかったから、また怪我をして怒られそうだ。
愛姫の部屋は、確かあそこだったか。俺は廊下を進んで、愛姫のいる部屋に足を踏み入れた。
「愛姫!」
「わ、若様!」
愛姫は涙ながらに立ち上がり、俺に近づいてきた。
「泣くな、愛姫」
「ですが、若様が胸を貫かれたと聞いたら、誰でも死んでしまったと考えますよ! 若様が死なずにこうして動いている状態を見れて、私は嬉しいです!」
「まだ痛いと言えば痛いが、死ぬことはないだろうよ。だから安心しろ」
俺が励まされたかったが、まさか愛姫を励まされる側になるとは思いもしなかった。正直、傷口をえぐられた気分だ。
「若様、どうかこれからも死なないでください。そして、若様の望む世界にしてください」
「そのつもりだ。俺の望む世界を、愛姫に見せてやる。異国に進行する時も、俺の傍らにいると良い」
「ありがとうございます。いつまでも、私を傍らに置いておいてください」
「ああ」
俺は愛姫を抱きしめて、それから小十郎の元へ戻る。奴はすでにくつろいでいて、寝そべりながら仁和から貰った漫画を読んでいた。
「俺が大変な時に呑気な奴だなぁ!」
「お、帰ってきたな。成実と景頼を呼ぶぞ」
「そうしてくれ」
小十郎は成実と景頼を引き連れて、部屋に帰ってくる。
成実は袖で涙を拭い、俺にしがみついた。「良かったです、若様! 治って良かったです!」
するとさすがの俺も、成実に引っ張られて傷口が痛くなるわけだ。「イタタタタタタ!」
「すみません、若様!」
「あ、安心しろ。俺は成実のお陰で無事だぜ」
成実は取り乱しつつ、背筋をピンと伸ばして俺を見た。「若様を乗せて走った馬が早かったため、何とか間に合いました」
「早い馬? 名前はどんなのだ?」
「サイカイテイオーです」
その名前を聞いた小十郎は、飲んでいたお茶を吹き出した。そこまで笑うことでもないだろ!
馬にトウカイテイオーという有名なのがいる。東海帝王をもじり、西海帝王とした。つまり、サイカイテイオーである。
「サイカイテイオー、走るの早かったんだ。名前を付けた時は、そうは感じなかった。今度、俺が乗って試してみよう」
「そうすると良いでしょう。あの馬は若様のために、急いで走ったのです」
「いや、成実の手腕だと思うよ」
俺が成実と握手をすると、次に景頼も握手を求めてきた。「若様、無事でなりよりです」
そうしている横で、小十郎は吹き出したお茶を拭いていた。何やっているんだ、まったく......。
「俺達の代わりに戦場で力を発揮していたと耳にした。良くやってくれたよ、景頼」
「いえ、あれは若様が特注してくれた刀があったからです。それに、若様から教わった体の構え方も」
「構え方は景頼が体得したものだ。景頼の頑張りが実っただけだよ」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
小十郎はお茶を拭き終わり、フゥ、とため息をついた。というか、俺は小十郎が笑うほどネーミングセンスがないのか? ウルトラウィークという名前もサイカイテイオーという名前も、小十郎には笑われた。安静にしている間に、ネーミングセンスは磨けると良いが。
「戦は! 戦はどうなった!?」
俺の叫びに誰も反応はしなかった。仕方ないから体を起こし、出口を確認する。刺された部分は痛いが、この程度なら我慢は出来る。
胸を押さえながら、猫背のような体勢で治療室を出る。今はあの戦から何日が経過したのだろうか。
長い廊下を抜けて、小十郎の部屋に到着する。重い扉を開ける力は俺はなく、やむなく扉を破壊した。この扉は重いが、それに対して耐久力は低いのだ。
「名坂! 動いても大丈夫なのか?」
「ああ、それは大したことはない。それより、俺が負傷してから何日が経過したんだ?」
「何週間から一ヶ月程度、かな」
「そんなにか!」
「まあね。その間だけは輝宗が指揮をして戦を進めていた」
「そうか。なら、この怪我が治るまでは、俺は安静にしているとしよう」
小十郎は苦笑した。「思う存分休むと良いよ。成実と景頼を呼んでくるか?」
「まずは輝宗と愛姫に会いに行こうと思う。この時代に合った行動をするべきだからな」
「んじゃ、頑張れよ」
「おう! ──痛っ!」
急に激しい行動をしたら、痛くなってしまった。胸が貫かれた記憶があるが、こうして生きているんだからそれは記憶違いだろうな。
俺は輝宗が鎮座する部屋に入り、ひざまづいた。
「政宗! 治ったのか!?」
「はい、父上。何とか動けるくらいにはなりました」
「そうか。では、楽な姿勢になってよい」
「では、失礼して」
俺は姿勢を崩した。
「父上。私はこの傷が完全に治るまで休みたい次第です」
「良いのだ。それまでは指揮をする。政宗は奇跡的に死ななかったみたいだしな」
「へ?」
「刀が政宗の胸を貫いていたのだ」
マジかよ! ってことは、本当に生きていたのが奇跡みたいなものか。
「──では、失礼いたします」
俺は頭を下げて、部屋から立ち去った。次は愛姫に会いに行く。最近は愛姫と会っていなかったから、また怪我をして怒られそうだ。
愛姫の部屋は、確かあそこだったか。俺は廊下を進んで、愛姫のいる部屋に足を踏み入れた。
「愛姫!」
「わ、若様!」
愛姫は涙ながらに立ち上がり、俺に近づいてきた。
「泣くな、愛姫」
「ですが、若様が胸を貫かれたと聞いたら、誰でも死んでしまったと考えますよ! 若様が死なずにこうして動いている状態を見れて、私は嬉しいです!」
「まだ痛いと言えば痛いが、死ぬことはないだろうよ。だから安心しろ」
俺が励まされたかったが、まさか愛姫を励まされる側になるとは思いもしなかった。正直、傷口をえぐられた気分だ。
「若様、どうかこれからも死なないでください。そして、若様の望む世界にしてください」
「そのつもりだ。俺の望む世界を、愛姫に見せてやる。異国に進行する時も、俺の傍らにいると良い」
「ありがとうございます。いつまでも、私を傍らに置いておいてください」
「ああ」
俺は愛姫を抱きしめて、それから小十郎の元へ戻る。奴はすでにくつろいでいて、寝そべりながら仁和から貰った漫画を読んでいた。
「俺が大変な時に呑気な奴だなぁ!」
「お、帰ってきたな。成実と景頼を呼ぶぞ」
「そうしてくれ」
小十郎は成実と景頼を引き連れて、部屋に帰ってくる。
成実は袖で涙を拭い、俺にしがみついた。「良かったです、若様! 治って良かったです!」
するとさすがの俺も、成実に引っ張られて傷口が痛くなるわけだ。「イタタタタタタ!」
「すみません、若様!」
「あ、安心しろ。俺は成実のお陰で無事だぜ」
成実は取り乱しつつ、背筋をピンと伸ばして俺を見た。「若様を乗せて走った馬が早かったため、何とか間に合いました」
「早い馬? 名前はどんなのだ?」
「サイカイテイオーです」
その名前を聞いた小十郎は、飲んでいたお茶を吹き出した。そこまで笑うことでもないだろ!
馬にトウカイテイオーという有名なのがいる。東海帝王をもじり、西海帝王とした。つまり、サイカイテイオーである。
「サイカイテイオー、走るの早かったんだ。名前を付けた時は、そうは感じなかった。今度、俺が乗って試してみよう」
「そうすると良いでしょう。あの馬は若様のために、急いで走ったのです」
「いや、成実の手腕だと思うよ」
俺が成実と握手をすると、次に景頼も握手を求めてきた。「若様、無事でなりよりです」
そうしている横で、小十郎は吹き出したお茶を拭いていた。何やっているんだ、まったく......。
「俺達の代わりに戦場で力を発揮していたと耳にした。良くやってくれたよ、景頼」
「いえ、あれは若様が特注してくれた刀があったからです。それに、若様から教わった体の構え方も」
「構え方は景頼が体得したものだ。景頼の頑張りが実っただけだよ」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
小十郎はお茶を拭き終わり、フゥ、とため息をついた。というか、俺は小十郎が笑うほどネーミングセンスがないのか? ウルトラウィークという名前もサイカイテイオーという名前も、小十郎には笑われた。安静にしている間に、ネーミングセンスは磨けると良いが。
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