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第四章『輝宗の死』
伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参参
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戦場を歩き回ること数時間。景頼も小十郎も飽きてきていた。正直俺も飽きている。まったく手掛かりは見つからないからだ。
ホームズも連れてくるべきだったと後悔して、俺は馬の元まで引き返そうと振り返った。
「おい」小十郎は俺を呼び止めた。「どうしたんだ?」
「何もわからないから帰ろうかと思ってな。さあ、馬に乗って帰るぞ」
「結局何もわからなかったのか?」
「まあな。ただ、収獲はあるにはあったぜ」
小十郎は首を傾げていた。俺がここに来て手掛かりが得られなかったのは事実だが、収獲を得ることは出来た。
「収獲ってなんだ?」
「この屍が語っている収獲だよ。見てわからないか?」
「見てわかるようなことなのか」
小十郎は一体の屍の鎧を拾い上げ、じっくりと観察を始めた。しかし目に映るのは血ばかりで、収獲を見つけるには至らなかったようだ。
「小生にはわからないようだ」
なぜそんなに腰が低いのか気になったが、さほど重要なことじゃないから無視しよう。「神辺は視野が狭いんだ。もっと視野を拡げてみろよ!」
「視野を拡げる!?」
「そうだ。屍を一体見るわけじゃない。全体を見るべきだよ、特に今回のような場合はね」
「全体......全体を見回したが、ここから何がわかると言うんだ?」
「神辺にはわからないか? なら──景頼はわかるか?」
小十郎と同様に首を回して周囲を見ていた景頼は、少しばかり驚いた顔で答えた。「私ですか? ええと、味方の屍の方が多い印象を受けますが」
「その通り。帰還しなかった兵士の数と味方の屍の数は一致するだろう。これが俺の言う、収獲だ」
「その収獲がどう手掛かりになるってんだ?」
「まあ待て。収獲した米がスーパーで売ってるような奴になるにはかなり手間が掛かる。俺が得たこの収獲も、手間を掛けなければ手掛かりにはならない。まだ他に収獲が必要だ」
「収獲が手掛かりになっても、戦に負けかけた理由がわかるわけじゃない。どれだけの手間を掛けるつもりだ?」
「米は八十八の手間が掛かるって言うから、多分それ以上は掛かる可能性もある」
「おいおい、マジかよ」
「マジだ。さあ馬に乗れ。城に帰ろう」
ここでの収獲は一つ。あともう一つくらい収獲が欲しい。そうすれば、必ず手掛かりにはなる。答えにも繫がる。
馬に乗ると、猛スピードで元来た道を引き返した。まったく疲れない馬の根性に驚きつつ、俺は城を目指した。
「急げ、スピードを上げる! 馬の出力は全開だ!」
俺がスピードを上げるのと同時に、二人も馬を早く走らせた。ドラマで聞くような大きさではないが、パカパカという馬の足音が聞こえた。これで気付いたことがある。ドラマでたまに聞こえる馬の足音って、作られた効果音なんだな。
城に戻ると、やけに騒がしかった。何だろうと思っていたら、騒がしいのは未来人衆のようだ。騒がしい理由は見当が付く。未来人衆が騒いでいるのは、仁和が関係しているのだろう。
「仁和に何かあったのか!?」
俺は階段を駆け上がった。それが急なことだったらしく、小十郎と景頼は呆気に取られていたと聞いている。
俺は騒がしい場所まで行き、予想が当たったことを確認した。目覚めた仁和を未来人衆が全員で囲んで歓声を上げていた。
「仁和! 起きたか」
俺が仁和に声を掛けると、未来人衆の奴らは若旦那とか若殿と俺を呼んで、奇声を上げた。やめてくれ。耳も頭も痛くなる。
「政宗殿」
「おお、仁和。元気になったか?」
「ええ。今は何をしていたのですか?」
「成実と小十郎が主戦力になり、仁和が作戦を立てて、精鋭である未来人衆もいた軍が劣勢になっていた原因を突き止めて次に活かそうと思ってな。戦場に行っていた」
「何かわかりましたか?」
「収獲はあった」
「では」仁和は立ち上がって、体勢を崩してふらついた。「もう一つの収獲を差し上げるとしましょう」
「もう一つの収獲?」
まさか仁和は劣勢だった理由を知っているのではないか? そんなことあるのだろうか。
「その収獲を聞きたいですか?」
「聞かせてくれ」
「あの戦では、私達の方が個々の力は強かったでしょう」
「......それだけか?」
「はい。政宗殿ならそれだけのことで推理は可能でしょう」
俺は二つ手に入れた収獲を頭の中で比べたり吟味したりして、劣勢だった理由を考えてみたがまだ手掛かりに過ぎない。答えに辿り着くにはもう一押し欲しいところだ。
「んじゃ、仁和。俺はもう行くが、元気にしていろよ」
「わかっています」
俺は仁和に向かって手を振りながら、小十郎と景頼がいた場所に行った。二人とも馬に手入れをしていた。
「名坂! 仁和の具合はどうだった?」
「元気になってピンピンしてた。それに新たな収獲も得ることが出来た」
「収獲?」
「ああ。馬の手入れが終わったら、そのことについて丁寧に話してやるよ」
「わぁった」
馬の手入れは必要不可欠である。俺はこの馬を気に入っていて、手入れを開始した。
「あれ、そういえば、名坂の馬の名前ってなんだっけ?」
「え? ウルトラウィークだけど?」
小十郎は吹き出した。
ホームズも連れてくるべきだったと後悔して、俺は馬の元まで引き返そうと振り返った。
「おい」小十郎は俺を呼び止めた。「どうしたんだ?」
「何もわからないから帰ろうかと思ってな。さあ、馬に乗って帰るぞ」
「結局何もわからなかったのか?」
「まあな。ただ、収獲はあるにはあったぜ」
小十郎は首を傾げていた。俺がここに来て手掛かりが得られなかったのは事実だが、収獲を得ることは出来た。
「収獲ってなんだ?」
「この屍が語っている収獲だよ。見てわからないか?」
「見てわかるようなことなのか」
小十郎は一体の屍の鎧を拾い上げ、じっくりと観察を始めた。しかし目に映るのは血ばかりで、収獲を見つけるには至らなかったようだ。
「小生にはわからないようだ」
なぜそんなに腰が低いのか気になったが、さほど重要なことじゃないから無視しよう。「神辺は視野が狭いんだ。もっと視野を拡げてみろよ!」
「視野を拡げる!?」
「そうだ。屍を一体見るわけじゃない。全体を見るべきだよ、特に今回のような場合はね」
「全体......全体を見回したが、ここから何がわかると言うんだ?」
「神辺にはわからないか? なら──景頼はわかるか?」
小十郎と同様に首を回して周囲を見ていた景頼は、少しばかり驚いた顔で答えた。「私ですか? ええと、味方の屍の方が多い印象を受けますが」
「その通り。帰還しなかった兵士の数と味方の屍の数は一致するだろう。これが俺の言う、収獲だ」
「その収獲がどう手掛かりになるってんだ?」
「まあ待て。収獲した米がスーパーで売ってるような奴になるにはかなり手間が掛かる。俺が得たこの収獲も、手間を掛けなければ手掛かりにはならない。まだ他に収獲が必要だ」
「収獲が手掛かりになっても、戦に負けかけた理由がわかるわけじゃない。どれだけの手間を掛けるつもりだ?」
「米は八十八の手間が掛かるって言うから、多分それ以上は掛かる可能性もある」
「おいおい、マジかよ」
「マジだ。さあ馬に乗れ。城に帰ろう」
ここでの収獲は一つ。あともう一つくらい収獲が欲しい。そうすれば、必ず手掛かりにはなる。答えにも繫がる。
馬に乗ると、猛スピードで元来た道を引き返した。まったく疲れない馬の根性に驚きつつ、俺は城を目指した。
「急げ、スピードを上げる! 馬の出力は全開だ!」
俺がスピードを上げるのと同時に、二人も馬を早く走らせた。ドラマで聞くような大きさではないが、パカパカという馬の足音が聞こえた。これで気付いたことがある。ドラマでたまに聞こえる馬の足音って、作られた効果音なんだな。
城に戻ると、やけに騒がしかった。何だろうと思っていたら、騒がしいのは未来人衆のようだ。騒がしい理由は見当が付く。未来人衆が騒いでいるのは、仁和が関係しているのだろう。
「仁和に何かあったのか!?」
俺は階段を駆け上がった。それが急なことだったらしく、小十郎と景頼は呆気に取られていたと聞いている。
俺は騒がしい場所まで行き、予想が当たったことを確認した。目覚めた仁和を未来人衆が全員で囲んで歓声を上げていた。
「仁和! 起きたか」
俺が仁和に声を掛けると、未来人衆の奴らは若旦那とか若殿と俺を呼んで、奇声を上げた。やめてくれ。耳も頭も痛くなる。
「政宗殿」
「おお、仁和。元気になったか?」
「ええ。今は何をしていたのですか?」
「成実と小十郎が主戦力になり、仁和が作戦を立てて、精鋭である未来人衆もいた軍が劣勢になっていた原因を突き止めて次に活かそうと思ってな。戦場に行っていた」
「何かわかりましたか?」
「収獲はあった」
「では」仁和は立ち上がって、体勢を崩してふらついた。「もう一つの収獲を差し上げるとしましょう」
「もう一つの収獲?」
まさか仁和は劣勢だった理由を知っているのではないか? そんなことあるのだろうか。
「その収獲を聞きたいですか?」
「聞かせてくれ」
「あの戦では、私達の方が個々の力は強かったでしょう」
「......それだけか?」
「はい。政宗殿ならそれだけのことで推理は可能でしょう」
俺は二つ手に入れた収獲を頭の中で比べたり吟味したりして、劣勢だった理由を考えてみたがまだ手掛かりに過ぎない。答えに辿り着くにはもう一押し欲しいところだ。
「んじゃ、仁和。俺はもう行くが、元気にしていろよ」
「わかっています」
俺は仁和に向かって手を振りながら、小十郎と景頼がいた場所に行った。二人とも馬に手入れをしていた。
「名坂! 仁和の具合はどうだった?」
「元気になってピンピンしてた。それに新たな収獲も得ることが出来た」
「収獲?」
「ああ。馬の手入れが終わったら、そのことについて丁寧に話してやるよ」
「わぁった」
馬の手入れは必要不可欠である。俺はこの馬を気に入っていて、手入れを開始した。
「あれ、そういえば、名坂の馬の名前ってなんだっけ?」
「え? ウルトラウィークだけど?」
小十郎は吹き出した。
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