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第四章『輝宗の死』
伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参弐
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この難問を解決するにはどうすれば良いのか。配置図を睨むくらいしかまだしていないし、なぜ負けてしまったのか考えようがない。
「行ってみるか、現場」
俺のつぶやきに、景頼と小十郎は唖然とした。現場に行くということに、そんなに驚いたのか。
「現場、つまり戦場だ。ただ、今日はもう遅い。明日になったら戦場に行ってみよう。だから、安心しろ」
「いやいや」小十郎は右手を顔の前で横に振った。「こんな夜遅くに現場に戻ることに驚いてるんじゃなくて、わざわざそこまでするのかってことに驚いているんだ」
「マジ!? そこに驚いたわけじゃないの!? だって、俺って安楽椅子探偵気質じゃないから現場には行くでしょ」
「......言われてみればそうか。今までもたびたび現場には赴いていたな」
小十郎は俺のことをどのように認識しているのか気になったが、それは後回しだ。
「今日はもう寝るとして、成実と仁和は目覚めたのか?」
景頼は腕を組む。「まだではないでしょうか? 仁和殿はともかく、成実殿は起きたら必ず、若様を探しに動くはずですから」
「んじゃ、二人の容態を確認してから寝るか」
「わかりました」
「わかった」
この三人の中で景頼だけが成実と仁和の居場所を知っている。景頼に案内を任せると、最初は成実の寝ている元に連れて行かれた。その枕元には、米沢城三の丸幽霊騒動の時に成実に渡した日本刀が置かれていた。俺はそれを掴み、鞘から抜いた。手入れもしっかり出来ていて、刀は輝いていた。大切にしているようだ。
刀を元の位置に戻し、元気になるのだぞ、と言い残すと部屋を立ち去った。
次に景頼が案内した場所にいたのは、もちろん仁和である。こちらも成実同様に眠っていて、俺は成実に掛けたのと同じ言葉を言い残した。
廊下に出ると、小十郎は鞘に収まった刀を握っていた。「どう思う? 名坂は」
「何をだ?」
「この世界のことだ」
そう言って小十郎は、鞘から刀を抜いた。すると刀には、血が付着していた。
「死人の出ない世界は存在しない」
「名坂の言うとおりだ。前世でだって殺人はあった。ただこの世界じゃ、日常的に人を殺している。異常だ」
「そうだよな。殺生は俺でもまだ慣れていない」
「だよな」小十郎は刀を鞘に入れた。「俺はこの世界から......殺生をなくしたい」
「どうするつもりだ?」
「世界を変えたい。そのためには、トップになるかトップに近い存在となるか。トップ、つまり名坂だ」
「ハハハ。俺がトップ、か。俺の目標は今のところは史実通り奥州を手に入れることだけど、大丈夫か?」
「名坂ならアジア統一くらいなら出来るんじゃないかな?」
「そうなることを願おう」
俺は小十郎の前に右手を差し出した。小十郎も右手を出し、握手をした。
小十郎は手を離すと、珍しく無言で廊下の奥へ消えていった。俺は後ろを振り向き、景頼を見た。
「景頼ももう帰って良いぞ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
頭を下げた景頼も見えなくなると、俺も部屋に戻った。するとそのまま、脳は睡眠へと移行された。
朝に目が覚めると、小十郎と景頼はすでに準備が出来ていた。俺は急いで準備をして、二人と合流した。
「成実と仁和は起きたか?」
俺がそう尋ねると、小十郎も景頼も首を横に振った。俺は肩を落としてから、用意された馬に乗った。それに続いて小十郎も景頼も馬に乗る。
先頭を俺として出発し、現場へ向かって突き進んだ。そして見覚えのある場所に着いた。昨日まで戦場だった場所だ。俺は馬から降りると、生々しい地面を見た。戦があったのは昨日のことだから、屍が転がっている。それは異臭を放ち、見るに見られなかった。
戦のない世の中。それを小十郎が欲する意味はわからなくない。地獄に存在する悪魔は神様に比べたら良い。クロークだってヘルリャフカだって優しい方だ。神様が悪魔と言われるべきであり、地上にも悪魔は存在している。人間だ。
戦が無意味なことだと人類が気付かない限り、地上の悪魔は消え去ることはない。のさばり続ける。
神も悪魔も人間も同類だが、最低な度合いは人間こそが一番高いかもしれない。同族で殺し合っているからだ。それは大罪である。
「人類が生まれて数百万年が経過している。それなのに、何も学んじゃいない。神辺の言うとおり、二十一世紀になったって殺人はある。優れた知性を持ったからって人類が最強だと勘違いをしている。最強なのは人類というより、哺乳類だ。コウモリなんか、哺乳類で唯一空へ羽ばたける。超音波で敵の居場所がわかって脳内で地図まで作れる。人類はいずれ別種族に淘汰される」
「言い得て妙だ」小十郎も馬から降りて、屍が持っていた弓を取る。「こいつは敵方、あいつは味方の屍か。んで、名坂は何かわかったか?」
「と言われても、俺はシャーロック・ホームズじゃないからこれだけ見ただけじゃわからんな。ひとまず、戦場を歩いて回ってみよう」
景頼も馬から降りて、三人で戦場を回っていった。だが、手掛かりという手掛かりもない。俺達は手掛かりを探すために数時間ほど歩いた。
「行ってみるか、現場」
俺のつぶやきに、景頼と小十郎は唖然とした。現場に行くということに、そんなに驚いたのか。
「現場、つまり戦場だ。ただ、今日はもう遅い。明日になったら戦場に行ってみよう。だから、安心しろ」
「いやいや」小十郎は右手を顔の前で横に振った。「こんな夜遅くに現場に戻ることに驚いてるんじゃなくて、わざわざそこまでするのかってことに驚いているんだ」
「マジ!? そこに驚いたわけじゃないの!? だって、俺って安楽椅子探偵気質じゃないから現場には行くでしょ」
「......言われてみればそうか。今までもたびたび現場には赴いていたな」
小十郎は俺のことをどのように認識しているのか気になったが、それは後回しだ。
「今日はもう寝るとして、成実と仁和は目覚めたのか?」
景頼は腕を組む。「まだではないでしょうか? 仁和殿はともかく、成実殿は起きたら必ず、若様を探しに動くはずですから」
「んじゃ、二人の容態を確認してから寝るか」
「わかりました」
「わかった」
この三人の中で景頼だけが成実と仁和の居場所を知っている。景頼に案内を任せると、最初は成実の寝ている元に連れて行かれた。その枕元には、米沢城三の丸幽霊騒動の時に成実に渡した日本刀が置かれていた。俺はそれを掴み、鞘から抜いた。手入れもしっかり出来ていて、刀は輝いていた。大切にしているようだ。
刀を元の位置に戻し、元気になるのだぞ、と言い残すと部屋を立ち去った。
次に景頼が案内した場所にいたのは、もちろん仁和である。こちらも成実同様に眠っていて、俺は成実に掛けたのと同じ言葉を言い残した。
廊下に出ると、小十郎は鞘に収まった刀を握っていた。「どう思う? 名坂は」
「何をだ?」
「この世界のことだ」
そう言って小十郎は、鞘から刀を抜いた。すると刀には、血が付着していた。
「死人の出ない世界は存在しない」
「名坂の言うとおりだ。前世でだって殺人はあった。ただこの世界じゃ、日常的に人を殺している。異常だ」
「そうだよな。殺生は俺でもまだ慣れていない」
「だよな」小十郎は刀を鞘に入れた。「俺はこの世界から......殺生をなくしたい」
「どうするつもりだ?」
「世界を変えたい。そのためには、トップになるかトップに近い存在となるか。トップ、つまり名坂だ」
「ハハハ。俺がトップ、か。俺の目標は今のところは史実通り奥州を手に入れることだけど、大丈夫か?」
「名坂ならアジア統一くらいなら出来るんじゃないかな?」
「そうなることを願おう」
俺は小十郎の前に右手を差し出した。小十郎も右手を出し、握手をした。
小十郎は手を離すと、珍しく無言で廊下の奥へ消えていった。俺は後ろを振り向き、景頼を見た。
「景頼ももう帰って良いぞ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
頭を下げた景頼も見えなくなると、俺も部屋に戻った。するとそのまま、脳は睡眠へと移行された。
朝に目が覚めると、小十郎と景頼はすでに準備が出来ていた。俺は急いで準備をして、二人と合流した。
「成実と仁和は起きたか?」
俺がそう尋ねると、小十郎も景頼も首を横に振った。俺は肩を落としてから、用意された馬に乗った。それに続いて小十郎も景頼も馬に乗る。
先頭を俺として出発し、現場へ向かって突き進んだ。そして見覚えのある場所に着いた。昨日まで戦場だった場所だ。俺は馬から降りると、生々しい地面を見た。戦があったのは昨日のことだから、屍が転がっている。それは異臭を放ち、見るに見られなかった。
戦のない世の中。それを小十郎が欲する意味はわからなくない。地獄に存在する悪魔は神様に比べたら良い。クロークだってヘルリャフカだって優しい方だ。神様が悪魔と言われるべきであり、地上にも悪魔は存在している。人間だ。
戦が無意味なことだと人類が気付かない限り、地上の悪魔は消え去ることはない。のさばり続ける。
神も悪魔も人間も同類だが、最低な度合いは人間こそが一番高いかもしれない。同族で殺し合っているからだ。それは大罪である。
「人類が生まれて数百万年が経過している。それなのに、何も学んじゃいない。神辺の言うとおり、二十一世紀になったって殺人はある。優れた知性を持ったからって人類が最強だと勘違いをしている。最強なのは人類というより、哺乳類だ。コウモリなんか、哺乳類で唯一空へ羽ばたける。超音波で敵の居場所がわかって脳内で地図まで作れる。人類はいずれ別種族に淘汰される」
「言い得て妙だ」小十郎も馬から降りて、屍が持っていた弓を取る。「こいつは敵方、あいつは味方の屍か。んで、名坂は何かわかったか?」
「と言われても、俺はシャーロック・ホームズじゃないからこれだけ見ただけじゃわからんな。ひとまず、戦場を歩いて回ってみよう」
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