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第四章『輝宗の死』
伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その拾肆
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ホームズは肘をテーブルに付けた。「その明智探偵に一度会ってみたいものだね」
「君が負けるよ」
「それは楽しみだ」
ルパンは椅子から立つと、ホームズの伝記本を十冊取り出した。
「私はいつも、君の活躍を見守っていた。だがね、ちと推理ミスが目立っている気がするんだ」
「それはわかっている。君との推理勝負でも、僕は推理ミスをしたりした。自分の実力は自分がよくわかっている」
「『まだらの紐』では、作中で語られたような強力な毒を保有する蛇はいないし、『マスグレーヴ家の儀式』は暗号を解読する物語だが、暗号は二百年以上前のもので、大木の影を目印にしているが、二百年以上も枯れたり成長したりしない樹木があるとでも思うか? これは決定的な推理ミスだ」
「そうだね。どちらも解決はしたが、解決に行き着くまでの推理にミスがあった。それは認める」
「キルクによると、兄のマイクロフトは君より頭の回転が良いと聞く。君はイージーミスが多い」
「そんなことより」ホームズは声を荒げて、ルパンを怒鳴るような口調になる。「どうやってモリアーティ一味の残党から逃れるんだ!」
「なぁに、簡単なことだ」
「ほう? 何か策があるのかね?」
「ある。もちろんね」
ルパンは本を本棚に戻し、準備を始めた。逃走に必要な道具を鞄に詰めているのだ。
ホームズは安楽椅子で、モリアーティ一味の残党を倒す算段を頭の中で練っていた。
「さあ、私は準備が出来たぞ」
「どこに行く?」
「明智君に会うのも悪くないだろ?」
「日本か!」
「もちろん! ジェット機をくすねたから、それに乗るんだ」
ホームズは意外な返答に、終始口を大きく開けた。「ハァ......日本か。煙草はあるかな?」
「あるよ。君はビリヤードパイプを愛用しているから、それも用意した」
「すまないね」
ホームズはルパンからパイプと煙草を受け取って、口にくわえた。煙を吐き出しながら、ホームズはゆっくりと煙草をたしなんだ。その後、ホームズはジェット機に乗り込んでルパンが操縦を勤める。
ジェット機は海を越え、上空で旋回を繰り返して神秘の島国が視界に入ってくる。
「キレイな島、ここが日本さ。私は二度目だが、前回同様に魅了されているよ」
「緑が多い」
「イギリスのロンドンと違って、スモッグもないんだ」
「素晴らしい」
当時のロンドンは工場の煙などでスモッグが充満していた。そのことによって付いた名前が『霧のロンドン』。霧と聞いたら神秘なものを想像するが、ロンドンの霧は黄色く汚い。ホームズは日本の空気を吸い込み、スモッグはどこにもないことに驚く。
「空気が美味しい!」
「ハハハ。──あそこにジェット機を着陸させる!」
ルパンは手慣れた手付きでジェット機を目的の場所に着陸させ、ジェット機から降りた。
「ルパンのアジトはどこだ? 以前に来たときにアジトを作っただろ」
「大仏をアジトに利用したが、爆発してしまった」
「それも明智にやられたのか?」
「まあ、そんな感じだな」
「僕以外に負けることはこれからは許さないからな」
「もちろん、心得ているよ」
ルパンはジェット機を隠す工作をし、以前と変わらぬ町並みを遠くから眺めた。
ホームズはビリヤードパイプを吹かし、スモッグのない日本に少量の有害な煙を排出した。けれどその程度で日本の空気は汚くならず、ホームズは澄んだ空気を体に取り込んだ。
ルパンとホームズはまず、新たなアジトの建設を開始した。ホームズも、今回ばかりはルパンの悪行に手を貸すしかなかった。
「わかっていると思うが、私が日本に来てアジトを作ったりしたことは他言無用。誰かに言ったら、怪盗紳士の私でも容赦はしない。他言しないなら、私は全面協力で君を助ける」
「今はモラン大佐らに追われている身。ルパンに協力してもらうためなら、犯罪に手を貸してやる」
「良い利害関係にあるね」
かくして、ホームズはルパンに助けてもらったことをワトスンにすら言えなくなった。後世のシャーロキアンらは、ホームズが失踪した数年を追いかけるが、ライバルの二人がお互いに助け合ったとは夢にも思わなかった。
数ヶ月後、日本は再び恐怖のどん底へとたたき落とされることになる。数年前に日本の宝を漁り、妖術を使うかのように警察の手から逃れたあの黄金仮面、もとい怪盗紳士アルセーヌ・ルパンが復活を遂げたのである。
ルパンは警視庁に犯行予告をした。これはホームズのすすめによるものだ。
この予告によると、ルパンはこの世にまたとないブルーダイヤモンドを狙っていて、早速捜査網が敷かれ、明智が呼び出された。
「波越警部! 黄金仮面......アルセーヌ・ルパンの奴が現れたというのは本当でしょうか?」
「残念だがね、明智さん。奴は懲りずに現れましたよ。しかも、犯行予告をして」
「奴は何を盗むといっているのですか?」
「ブルーダイヤモンドさ。見てみるかい?」
波越警部は明智にブルーダイヤモンドを見せびらかした。無論、ガラスの通してのことである。明智はブルーダイヤモンドの美しさを目に焼き付け、ルパンを今度こそ捕まえるために動き出したのであった。名探偵ホームズがルパンに手を貸しているとも知らずに。
「君が負けるよ」
「それは楽しみだ」
ルパンは椅子から立つと、ホームズの伝記本を十冊取り出した。
「私はいつも、君の活躍を見守っていた。だがね、ちと推理ミスが目立っている気がするんだ」
「それはわかっている。君との推理勝負でも、僕は推理ミスをしたりした。自分の実力は自分がよくわかっている」
「『まだらの紐』では、作中で語られたような強力な毒を保有する蛇はいないし、『マスグレーヴ家の儀式』は暗号を解読する物語だが、暗号は二百年以上前のもので、大木の影を目印にしているが、二百年以上も枯れたり成長したりしない樹木があるとでも思うか? これは決定的な推理ミスだ」
「そうだね。どちらも解決はしたが、解決に行き着くまでの推理にミスがあった。それは認める」
「キルクによると、兄のマイクロフトは君より頭の回転が良いと聞く。君はイージーミスが多い」
「そんなことより」ホームズは声を荒げて、ルパンを怒鳴るような口調になる。「どうやってモリアーティ一味の残党から逃れるんだ!」
「なぁに、簡単なことだ」
「ほう? 何か策があるのかね?」
「ある。もちろんね」
ルパンは本を本棚に戻し、準備を始めた。逃走に必要な道具を鞄に詰めているのだ。
ホームズは安楽椅子で、モリアーティ一味の残党を倒す算段を頭の中で練っていた。
「さあ、私は準備が出来たぞ」
「どこに行く?」
「明智君に会うのも悪くないだろ?」
「日本か!」
「もちろん! ジェット機をくすねたから、それに乗るんだ」
ホームズは意外な返答に、終始口を大きく開けた。「ハァ......日本か。煙草はあるかな?」
「あるよ。君はビリヤードパイプを愛用しているから、それも用意した」
「すまないね」
ホームズはルパンからパイプと煙草を受け取って、口にくわえた。煙を吐き出しながら、ホームズはゆっくりと煙草をたしなんだ。その後、ホームズはジェット機に乗り込んでルパンが操縦を勤める。
ジェット機は海を越え、上空で旋回を繰り返して神秘の島国が視界に入ってくる。
「キレイな島、ここが日本さ。私は二度目だが、前回同様に魅了されているよ」
「緑が多い」
「イギリスのロンドンと違って、スモッグもないんだ」
「素晴らしい」
当時のロンドンは工場の煙などでスモッグが充満していた。そのことによって付いた名前が『霧のロンドン』。霧と聞いたら神秘なものを想像するが、ロンドンの霧は黄色く汚い。ホームズは日本の空気を吸い込み、スモッグはどこにもないことに驚く。
「空気が美味しい!」
「ハハハ。──あそこにジェット機を着陸させる!」
ルパンは手慣れた手付きでジェット機を目的の場所に着陸させ、ジェット機から降りた。
「ルパンのアジトはどこだ? 以前に来たときにアジトを作っただろ」
「大仏をアジトに利用したが、爆発してしまった」
「それも明智にやられたのか?」
「まあ、そんな感じだな」
「僕以外に負けることはこれからは許さないからな」
「もちろん、心得ているよ」
ルパンはジェット機を隠す工作をし、以前と変わらぬ町並みを遠くから眺めた。
ホームズはビリヤードパイプを吹かし、スモッグのない日本に少量の有害な煙を排出した。けれどその程度で日本の空気は汚くならず、ホームズは澄んだ空気を体に取り込んだ。
ルパンとホームズはまず、新たなアジトの建設を開始した。ホームズも、今回ばかりはルパンの悪行に手を貸すしかなかった。
「わかっていると思うが、私が日本に来てアジトを作ったりしたことは他言無用。誰かに言ったら、怪盗紳士の私でも容赦はしない。他言しないなら、私は全面協力で君を助ける」
「今はモラン大佐らに追われている身。ルパンに協力してもらうためなら、犯罪に手を貸してやる」
「良い利害関係にあるね」
かくして、ホームズはルパンに助けてもらったことをワトスンにすら言えなくなった。後世のシャーロキアンらは、ホームズが失踪した数年を追いかけるが、ライバルの二人がお互いに助け合ったとは夢にも思わなかった。
数ヶ月後、日本は再び恐怖のどん底へとたたき落とされることになる。数年前に日本の宝を漁り、妖術を使うかのように警察の手から逃れたあの黄金仮面、もとい怪盗紳士アルセーヌ・ルパンが復活を遂げたのである。
ルパンは警視庁に犯行予告をした。これはホームズのすすめによるものだ。
この予告によると、ルパンはこの世にまたとないブルーダイヤモンドを狙っていて、早速捜査網が敷かれ、明智が呼び出された。
「波越警部! 黄金仮面......アルセーヌ・ルパンの奴が現れたというのは本当でしょうか?」
「残念だがね、明智さん。奴は懲りずに現れましたよ。しかも、犯行予告をして」
「奴は何を盗むといっているのですか?」
「ブルーダイヤモンドさ。見てみるかい?」
波越警部は明智にブルーダイヤモンドを見せびらかした。無論、ガラスの通してのことである。明智はブルーダイヤモンドの美しさを目に焼き付け、ルパンを今度こそ捕まえるために動き出したのであった。名探偵ホームズがルパンに手を貸しているとも知らずに。
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