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第四章『輝宗の死』
伊達輝宗、走馬灯を見るのは伊達じゃない その肆
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俺の計画に穴はなかったはずなんだ。なのに、なぜ秋山先輩は宝くじが偽物だとわかったんだ!?
「何でわかったんですが、先輩?」
「お前、家庭教師だろ? 逆にこんなずさんな計画で、僕を騙せるとでも思ったか?」
「思ったんですが......。それで、何でわかったんですか?」
「重岡が家庭教師として立派になったら、わかるんじゃないかな? ま、頑張ってみろよ」
なぜ宝くじが偽物だとわかったのか。その時は、秋山先輩は言ってくれなかった。
「思い出した」俺はアーティネスの顔を見た。「俺が甲太郎を裏切ったことを、秋山先輩が教えてくれたんだ」
「不完全ではありますが、ある程度は記憶が戻ったのですね。完全に思い出しましたか?」
「いや、まだのようだ」
少しは思い出せたが、俺が甲太郎をどうやって裏切っていたのか、ということははっきりとは思い出せない。
甲太郎を裏切ったことはわかっても、なぜ裏切っていたのかと聞かれると......駄目だ。記憶にない。
「仕方ないです。では、無理矢理あなたの記憶を呼び覚まします。それで思い出すことでしょう。体に負担は掛かりますが、我慢してください」
アーティネスが合掌をしたので、俺は首を横に振った。
「待て待て待て! 体に負担が掛かるんだろ!?」
「はい」
「''はい''って......。ちょっと待て。心の準備というものがあるんだ」
「そうですか。何分ほど時間を要しますか?」
「そうだな。五分から十分をくれ」
「では、十分は待ちましょう」
「その間に全てを思い出せば、体に負担を掛けなくても良いんだろ?」
「ええ」
「なら、思い出してみよう」
まずは、なぜ秋山先輩が偽物の宝くじだと特定出来たのか、記憶を辿ってみることにする。
あれは、秋山先輩に計画がバレた翌日の話しだった。
俺は秋山先輩に、なぜわかったのか尋ねてみた。
「まだそんなことが気になっているのかよ?」
「はい。非常に気になります」
「なら、新聞を丁寧に読んでいくことだな。そうしたら、いずれはわかるんじゃないか?」
「そんなぁ......」
「ハッハッハ! 家庭教師てして一人前になり、それでもわかっていなかったら答えを教えてやる」
それから、俺は一人前になるために頑張って家庭教師をした。すると次第に、単独で家庭教師の仕事を頼まれるようになった。
「重岡先生! この部分がわかりません」
「そこはこうするんだよ。あと、こことここを工夫すればどうかな?」
「あ、なるほど! ありがとうございます!」
生徒数人からも慕われるようになり、一人前の家庭教師と言っても申し分はないのではないだろうか?
そう思い、秋山先輩の元へ向かった。
「もう一人前だな、重岡」
「先輩。俺に教えてくれますか? なぜ計画がわかったのか」
「新聞を、あれから読み込んだか?」
「読み通したのですが、さっぱりわかりません」
「僕が偽物の宝くじだとわかったのは、『波乱万丈』のお陰なんだ。言わば、重岡のミスだ」
「ミス?」
「波乱万丈には二つの漢字がある。『波乱万丈』と『波瀾万丈』だ。『乱』と『瀾』が違うわけだが、この理由は知っているか?」
「さあ。てんでわかりません」
「日本は敗戦後、アメリカに統治された。アメリカは、難しい漢字のせいで日本は民主化されない、と言って漢字を廃止してローマ字に変えようとした。しかし、すぐにローマ字に変えてしまうと混乱するだろ?」
「はい」
「だから、アメリカは少しの間だけ『使っていい簡単な漢字』をまとめた。それを『当用漢字』と言い、当用漢字には『瀾』が含まれていなかった。それだと『波瀾万丈』が書けなくなる。だから、使えなくなった『瀾』の代わりに『乱』の字を使用した。だから当用漢字がなくなった今日でも、『波乱万丈』と『波瀾万丈』が存在するんだ。
お前が書いた新聞では『波乱万丈』が使われていた。新聞とか報道機関は常用漢字を使うから、『波乱万丈』と書いても良かった。が、新聞によっては『波瀾万丈』と書くものもある。お前が書いた新聞では、実際は『波瀾万丈』が使われているんだ。だからわかった」
「そういうことですか!」
秋山先輩の説明で、大体は納得した。それでも、わからないことが一つ。なぜ、秋山先輩は俺が使用した新聞では『波瀾万丈』が使われていると知っていたのか。
「何だ? なぜ、あの新聞では『波瀾万丈』が使われていると知っていたかって?」
「それが気になります!」
「家庭教師は生徒に新聞を読むことをすすめて、活字に興味を持たせる。僕は生徒に新聞を教えようと新聞について勉強した。その過程で『波乱万丈』と『波瀾万丈』の違いを知り、どの新聞では『乱』と『瀾』のどっちが使われているのか調べたんだ。それで、覚えていた」
「だから先輩は、一人前の家庭教師になれって言ったんですか」
「そういうことだ」
すごい先輩だった。頭も良く、推理力、観察力に長けている。家庭教師に向いた人物だ。俺はこの人の後を追おう。そう決意した。
記憶を辿ってみたが、俺が甲太郎をどう裏切ったのかまではわからない。このままでは、体に負担が掛かってしまう。それだけは避けたい!
また目を閉じて、昔を思い出してみる。
「何でわかったんですが、先輩?」
「お前、家庭教師だろ? 逆にこんなずさんな計画で、僕を騙せるとでも思ったか?」
「思ったんですが......。それで、何でわかったんですか?」
「重岡が家庭教師として立派になったら、わかるんじゃないかな? ま、頑張ってみろよ」
なぜ宝くじが偽物だとわかったのか。その時は、秋山先輩は言ってくれなかった。
「思い出した」俺はアーティネスの顔を見た。「俺が甲太郎を裏切ったことを、秋山先輩が教えてくれたんだ」
「不完全ではありますが、ある程度は記憶が戻ったのですね。完全に思い出しましたか?」
「いや、まだのようだ」
少しは思い出せたが、俺が甲太郎をどうやって裏切っていたのか、ということははっきりとは思い出せない。
甲太郎を裏切ったことはわかっても、なぜ裏切っていたのかと聞かれると......駄目だ。記憶にない。
「仕方ないです。では、無理矢理あなたの記憶を呼び覚まします。それで思い出すことでしょう。体に負担は掛かりますが、我慢してください」
アーティネスが合掌をしたので、俺は首を横に振った。
「待て待て待て! 体に負担が掛かるんだろ!?」
「はい」
「''はい''って......。ちょっと待て。心の準備というものがあるんだ」
「そうですか。何分ほど時間を要しますか?」
「そうだな。五分から十分をくれ」
「では、十分は待ちましょう」
「その間に全てを思い出せば、体に負担を掛けなくても良いんだろ?」
「ええ」
「なら、思い出してみよう」
まずは、なぜ秋山先輩が偽物の宝くじだと特定出来たのか、記憶を辿ってみることにする。
あれは、秋山先輩に計画がバレた翌日の話しだった。
俺は秋山先輩に、なぜわかったのか尋ねてみた。
「まだそんなことが気になっているのかよ?」
「はい。非常に気になります」
「なら、新聞を丁寧に読んでいくことだな。そうしたら、いずれはわかるんじゃないか?」
「そんなぁ......」
「ハッハッハ! 家庭教師てして一人前になり、それでもわかっていなかったら答えを教えてやる」
それから、俺は一人前になるために頑張って家庭教師をした。すると次第に、単独で家庭教師の仕事を頼まれるようになった。
「重岡先生! この部分がわかりません」
「そこはこうするんだよ。あと、こことここを工夫すればどうかな?」
「あ、なるほど! ありがとうございます!」
生徒数人からも慕われるようになり、一人前の家庭教師と言っても申し分はないのではないだろうか?
そう思い、秋山先輩の元へ向かった。
「もう一人前だな、重岡」
「先輩。俺に教えてくれますか? なぜ計画がわかったのか」
「新聞を、あれから読み込んだか?」
「読み通したのですが、さっぱりわかりません」
「僕が偽物の宝くじだとわかったのは、『波乱万丈』のお陰なんだ。言わば、重岡のミスだ」
「ミス?」
「波乱万丈には二つの漢字がある。『波乱万丈』と『波瀾万丈』だ。『乱』と『瀾』が違うわけだが、この理由は知っているか?」
「さあ。てんでわかりません」
「日本は敗戦後、アメリカに統治された。アメリカは、難しい漢字のせいで日本は民主化されない、と言って漢字を廃止してローマ字に変えようとした。しかし、すぐにローマ字に変えてしまうと混乱するだろ?」
「はい」
「だから、アメリカは少しの間だけ『使っていい簡単な漢字』をまとめた。それを『当用漢字』と言い、当用漢字には『瀾』が含まれていなかった。それだと『波瀾万丈』が書けなくなる。だから、使えなくなった『瀾』の代わりに『乱』の字を使用した。だから当用漢字がなくなった今日でも、『波乱万丈』と『波瀾万丈』が存在するんだ。
お前が書いた新聞では『波乱万丈』が使われていた。新聞とか報道機関は常用漢字を使うから、『波乱万丈』と書いても良かった。が、新聞によっては『波瀾万丈』と書くものもある。お前が書いた新聞では、実際は『波瀾万丈』が使われているんだ。だからわかった」
「そういうことですか!」
秋山先輩の説明で、大体は納得した。それでも、わからないことが一つ。なぜ、秋山先輩は俺が使用した新聞では『波瀾万丈』が使われていると知っていたのか。
「何だ? なぜ、あの新聞では『波瀾万丈』が使われていると知っていたかって?」
「それが気になります!」
「家庭教師は生徒に新聞を読むことをすすめて、活字に興味を持たせる。僕は生徒に新聞を教えようと新聞について勉強した。その過程で『波乱万丈』と『波瀾万丈』の違いを知り、どの新聞では『乱』と『瀾』のどっちが使われているのか調べたんだ。それで、覚えていた」
「だから先輩は、一人前の家庭教師になれって言ったんですか」
「そういうことだ」
すごい先輩だった。頭も良く、推理力、観察力に長けている。家庭教師に向いた人物だ。俺はこの人の後を追おう。そう決意した。
記憶を辿ってみたが、俺が甲太郎をどう裏切ったのかまではわからない。このままでは、体に負担が掛かってしまう。それだけは避けたい!
また目を閉じて、昔を思い出してみる。
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