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第四章『輝宗の死』

伊達輝宗、走馬灯を見るのは伊達じゃない その参

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「重岡十吉」アーティネスは俺をあざ笑うかのような目で見ていた。「やっと、あなた自身が井原甲太郎を裏切ったことを思い出しましたか?」
かすかに、だが......俺は確かに甲太郎を裏切ったんだ」
「やっとですか」
 俺が甲太郎を裏切っていたと悟ったのは、甲太郎が一万円札二枚を盗んだ事件から数年が経過した時だろう。
 俺は大学を卒業してから、就職先を探していた。といっても、学のない俺に普通の仕事を出来るわけがない。中坊の勉強なら理解出来ると見切り発車し、中学校の生徒の家庭教師となった。
 家庭教師を派遣する会社があり、難なく入社。家庭教師として仕事を開始した。
「重岡!」
「あ、秋山あきやま先輩!」
 秋山先輩。家庭教師の先輩であり、俺の教育係を任されていた。本名は秋山郷士ごうし。格好良い名前だ。
「今日は僕の家庭教師を見て勉強してくれ」
「と、言いますと?」
「今日は、君は金魚のフンとなって僕に着いてこい」
「わかりましたっ!」
 金魚のフン、という比喩ひゆに苦笑しつつ、俺は秋山先輩の後に続いた。
 高級そうなスーツに袖を通していた秋山先輩は、車の運転席に乗り込む。俺は助手席に乗って、シートベルトを締めた。
「何やってんだ、重岡?」
「え? 助手席に乗りましたけど......!?」
「後部座席に座れ。助手席には家庭教師に使う資料を置きたいんだ」
「すみません!」
 急いで車を飛び降りて、後部座席に滑り込んだ。発車した車が向かうのは、某中学校の生徒とのこと。授業に追いつけず、家庭教師を依頼したらしい。
 秋山先輩は駐車してすぐにネクタイの位置を整えた。
「身なりは大切にしろよ」
「身なり、ですね? わかりました」
 ネクタイを整えてから、袖を気にして引っ張っていた。
「遅い! 早くしろ」
 何をしても怒られるな、と落ち込みつつ車を降りる。結構金持ってそうな家だ。家庭教師を頼むのもわかる。
 秋山先輩がインターホンをプッシュ。玄関の扉が開いて女性が姿を現した。この女性は、これなら秋山先輩が教える生徒のお母さんなのだろう。
「家庭教師の秋山郷士です」
「同じく、重岡十吉です」
「母の恵子けいこです。私の息子に勉強を教えてください」
「わかりました。本日は初日なので、学力を確かめるために簡単なテストをします」
「ええ、承知しております。息子の部屋に、案内します」
「ありがとうございます」
 玄関の脇にある階段を上がると、また廊下が伸びる。その廊下の右奥に、生徒の部屋があった。ノックしてから扉を開けた秋山先輩は、営業スマイルを意識して笑みを浮かべた。
「これからよろしくね。家庭教師の秋山です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「簡単なテストなので、肩の力を抜いて楽に受けてください。無理はせず、わからない問題は飛ばしても大丈夫ですからね」
 テストと聞いて強張こわばっていた生徒の緊張を、秋山先輩は丁寧にほぐしていった。数分で生徒の心を掴み、テストを自分の意志で受けさせる。秋山先輩のは勉強になるな!

「──はい。テストは八十三点です。これなら、すぐにでも学校の授業に追いつけるくらいの学力を付けることは可能です。明日からは本格的な授業をしていきましょう」
「うん! ありがと、秋山先生!」
「いえ、君の集中力の賜物たまものだよ。自信を持っても良いよ」
 励ますだけ励ましてから、秋山先輩は家庭教師を終わらせた。車に乗り込んでから、秋山先輩は深いため息をもらした。
「どうだ? 少しは家庭教師の勉強にでもなったか?」
「はい! あざやかなですね!」
「だーかーらー! 毎回言ってんだろ! って言うなよ」
「あ、すんません」
 それからも秋山先輩の手口を学んだ。その内に、秋山先輩は優しくて頭の良い人だとわかった。最初は優しいとは思わなかったが、一緒にいると案外優しい一面も見ることが出来た。
 秋山先輩が頭の良い家庭教師だと知ると、騙したくなってくるのが俺のさがだ。熱心に計画を立てていった。
 四日後。秋山先輩に、俺が作った宝くじを渡した。
「何だ、この宝くじは?」
「最近宝くじにハマっているんですが、なかなか当選しません。なので、先輩にも分けようと」
「そうか。ま、貰っとく」
 計画通りだ! 秋山先輩は電子機器に弱く、持っている連絡ツールはガラパゴスケータイのみ! この宝くじが存在しないことがバレるわけがない。
 あとは少し経ってから他の奴に協力させて、俺が作った新聞を秋山先輩に渡させる。俺が作った新聞の名前は実際にあるが、内容は俺が考えた。秋山先輩は新聞も読まないし、朝刊も取っていないらしい。完璧だ。
 二日後。同僚の家庭教師に協力をあおぎ、偽の新聞を秋山先輩に渡させた。これで宝くじが当選したと、秋山先輩が勘違いするはずだ。
波乱はらん万丈ばんじょうの人生を送る男に一筋の光り』という見出しのあるページの最下部に、『宝くじ』の枠がある。その枠の中に、俺が秋山先輩に渡した偽宝くじの番号が''当選している''と書き込んだ。
 新聞の全てに目を通した秋山先輩は、宝くじを懐から取り出した。「重岡! 俺を騙そうとしても無駄だ!」
 何でわかるんだよっ!
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