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第三章『家督相続』

伊達政宗、弱みを握るのは伊達じゃない その伍

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 リハーサルもなしに唐突に始まった本番。俺はクロークとともに庭で衝撃波や爆音の発生する殴り合いを開始した。これはもちろん冗談の喧嘩だが、これで輝宗は本丸御殿から飛び出してくる。その内に仁和が本丸御殿を調べる。
 計画は完璧だ。これなら輝宗の弱みを握れる!
 クロークと拳を交え、何発もパンチを繰り出した。それにクロークも応じて、なかなかの名勝負となった。爆音も衝撃波も出て、周囲には人が集まりだしていた。
「かなり良い感じだな」
「すごいだろ? 俺の軍配士は」
「ああ、恐れ入るよ」
 やがてこの喧嘩の仲裁に入る奴らが現れ始めた。だが、肝心の輝宗はまだここには来ていない。何でだよ!?
 三十分に及ぶ喧嘩を演じ、やっと輝宗がやって来た。
「政宗! 何をやっておる」
「これは父上。私は今、この方と力比べをしていたとこれでございます」
「やめろ政宗。ここでは目立つ」
「申し訳ございません。すぐに終わらせます」
 その後もごにょごにょ言ってから、本丸御殿へと帰っていった。
「成功か?」
「多分、成功だ」
 クロークとハイタッチして、それから仁和と合流。仁和はメモ帳をパラパラめくっていた。
「どうだった、仁和?」
「あ、はい。何となくわかった気がしますが、弱みというわけではなかったです」
「弱みじゃなかったか。で、祭りの時になぜ怒鳴ったんだ?」
「そうですね......私の推理では、寝ていたのではないかと」
「寝ていた!? はぁ?」
「畳によだれがありました。祭りの最中に寝ていたんでしょう」
「なら何で、輝宗は怒ったんだよ」
「ほら、テレビとかを付けやがら寝て、起きてから音が大きいことに気付いたことはないですか? あれですよ」
「つまり、耳が騒音に慣れていたからうるさくは感じなかったが、寝ることで慣れていた耳がリセットされ、よりうるさく感じたということか?」
「はい。そういうことでしょう」
 何ともくだらねぇな。弱みにはならないか。弱みにはなるかな、と考えていたがとんだ計算違いだぜ。輝宗をあごで使うのは難しいか。
 これで残すは伊達家の家督相続。さっさと当主になっちまうか。
「ありがとよ、仁和。助かったよ」
「ええ、それなら良いのですが」
「江渡弥平を倒す時は、頼んだぞ。牛丸がいない今、お前が一番の頼りなんだ」
「頼られると困りますが......」
 問題はまだ山積みだ。江渡弥平を倒さないと負の連鎖は止められない。伊達政宗もかなり大変だ。これだと奥州統一の前に過労死するかもしれない。気をつけておこう。
「仁和。未来人衆の奴らにも、助かった、と言っておいてくれ」
「わかりました。伝えておきます」
 これで何とか一区切り付いた。弱みは握れなかったが、まあ良いだろう。
 あとは相馬氏と戦って、輝宗が隠居する時をずっと待っていよう。

 相馬氏との戦いはかなり続いた。史実だと、政宗は対相馬氏戦で大きな功績を挙げていない。が、それくらいの歴史なら変えてもいいとは思う。
 そうして対相馬氏戦に貢献し、輝宗が望むような戦へと有利に進めていった。
 予想はしていなかったが、未来人衆が役立って相馬氏戦はこちら側が不利になることはあまりなかった。
「進め!」
 とか何とか言って、指揮を執っている風に見せてから、配下達の手柄をいただいた。未来人衆は手柄が欲しいようには見えず、ちゃっかりと未来人衆の手柄を横取り。俺の作った歴史では、政宗大活躍だ。
 その貢献を認められたのか、史実よりちょいとばかり早く輝宗は隠居を宣言した。
「政宗。お前に家督を譲りたい」
 確か政宗は最初は家督相続を固辞したんだったよな。
「父上。私では伊達の家を継ぐことは出来ません。私の力は不十分です」
「そうか? 相馬氏との戦では貢献してくれた。政宗以外に適任はいないぞ」
「ですが......」
 と、ここで小十郎が入ってきた。小十郎に、家督相続をするように俺を説得してほしいと頼んでおいたのだ。
「若様! お屋形様の言うとおり、若様以外に適任な者は存在いたしません!」
「この私に、父上のように出来るのだろうか」
「若様ならば可能です! 自分を信じてみてください!」
「こ、小十郎がそこまで言うなら......」
 ずかしい演技を終えて、輝宗に顔を向ける。
「父上。家を継ぎましょう!」
「そうか! ではただちに家臣達にこの事実を発表しよう!」
「頑張って伊達家を守っていき、成長させます!」
「頼むぞ、政宗。信頼している」
 こういうことがあり、俺が当主になることが家臣達に伝えられた。
 天正12(1584)年、史実では10月近くに家を継ぐが、俺が変えた歴史の中では8月らへんとなっていた。それくらいでは何の支障も無いから大丈夫だ。
 当主か。これでやっと戦国武将としての一歩を踏み出した。これから起こっていくイベントも楽しみだ。
「神辺。さっきは助かった」
「おめでとう、当主になったね」
「長い道のりだったが、何とか伊達家の当主になった」
 俺は父である輝宗に感謝し、米沢城の本丸御殿から町を見下ろした。本丸御殿からだと、こうも景色が変わって見える。
 ここまで来るのには、数年だった。けど、色々なことがたくさんあった。ヘルリャフカも倒した。牛丸を失ったが、その分頑張らねばならない。明日からは本格的に、どうやって豊臣秀吉と付き合っていくか考えなくては。史実通りで良いのか、それとも......。
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