上 下
74 / 245
第三章『家督相続』

伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その拾

しおりを挟む
 寝起きを頭を回転させて、俺がやるべきことを行った。目覚めて三十分も経ったら目も開くようになり、眠気も感じなくなった。あくびを噛み殺すと、馬にまたがって前進を始めた。
 テントは二階堂と忠義が丁寧に片付けた。未来人だし、戦国時代に来たばかりだから未来の物にまだ慣れているんだろう。だが、二年か三年もしたら戦国時代の生活に体が慣れてしまうからいずれ未来では当然のことも出来なくなるぞ(実体験から学んだ)。
「前方! 何者かが近づいてきている!」
 忠義の大声で、全員が前を向いた。俺は身構えて、戦いの準備をする。
「忠義! 離れて弓で攻撃だ! 二階堂は接近戦、仁和はサポート! 小十郎は刀を抜け!」
「「了解!」」
 俺は馬から飛び降りて、王水の入ったビンを取り出した。
「汝、強キ者ヨ」
 片言な言語だ。以前のヘルリャフカは片言ではなかったし、苗床を変えたことで片言になるのか? 考えても仕方ない。目の前にいる奴を倒す。
「お前はヘルリャフカか?」
「我ハ上級悪魔ヘルリャフカ。マタ会エタナ、伊達政宗!」
 今度のヘルリャフカの苗床には、見覚えがあった。白髪はくはつで目はキリッとしていて、鋭い眼光。鎧を装着し、体にまとったオーラは禍々まがまがしい。あの姿は......牛丸だった。
「牛丸!」
 俺は騒然とした。牛丸の遺体はヘルリャフカの手に渡っていたのだ。牛丸は、ヘルリャフカの苗床として生きていた。
「伊達政宗、ツイニ勝負ノ時ダ」
 俺にはヘルリャフカを倒すことが出来なかった。ここはどうするのが最善か......。どうすればいいんだ。
「撤退、撤退だっ!」
 即座に撤退を決断し、ヘルリャフカに背中を見せた。その瞬間、小十郎の胸を槍がつらぬいた。血を吹き出し、うつ伏せで倒れ込む。静寂の二秒間に、小十郎の胸から流血が酷くなる。
「小十郎! 小十郎!」
「な、名坂......」
「神辺! 死ぬな! 死ぬな!」
 小十郎はそこで、息絶えた。
 俺は牛丸を倒すことも、小十郎を助けることも出来ず、小十郎の抜け殻を馬に乗せて逃げ帰った。もちろん、ヘルリャフカと距離をとってから、すぐに転移をしただけだ。
 米沢城に着くと、小十郎の遺体を安置した。小十郎は助けることが出来なかった。どちらも選ぶことが出来ずに、どちらも失う。だけど、涙は流れない。戦国時代で暮らしている内に心までも戦国時代に染まったんだ。残酷で冷徹な、戦国時代に染まったことを......自覚した。

 若様が転移によって米沢城に帰還した、という知らせを受けた。私は急いで、若様のところへと向かった。
「若様!」
「ああ、俺は大丈夫なんだが」
 少し顔色の優れない若様の視線の先には、小十郎殿がいた。仰向けに寝かされていて、息をしているようには思えない。
「若様......まさかっ!」
「神辺は死んだ」
 若様の右腕である小十郎殿が逝去せいきょなされた。私にはそれが理解出来ませんでした。まさか、若様がヘルリャフカなどに負けるはずもなく、それでも小十郎殿が亡くなっていることも事実。現状がうまく把握はあく出来ないのですが──。
「若様......な、何が道中であったのですか!?」
「ヘルリャフカの苗床が、牛丸だったんだ。もう、意味がわからねぇ」
「牛丸殿がヘルリャフカの苗床となっていたのですか!」
「そうだ。俺は牛丸を倒す勇気がなかった。だから、撤退の命令を出した。それでヘルリャフカに背を見せた瞬間に、神辺は槍で貫かれたんだ」
「胸中、お察しします......」
 これでは、若様はヘルリャフカを倒すことは無理だということでしょう。牛丸殿がヘルリャフカの苗床となっているのなら、若様は攻撃することは不可能。つまり、ヘルリャフカを攻略することはおよそ九割の確率で失敗します。
「私と成実殿で、ヘルリャフカ討伐の遠征に行きます。若様は、心の傷をやしてください」
「なあ、景頼」
「何ですか?」
「俺さ、わからないんだ」
「何がわからないのですか?」
「それがわからない。牛丸が死んだ時も、神辺が死んだ時も涙は一滴も流れ落ちない。悲しいはずなのに、涙は流れない。戦で同朋の者が倒れていっても、見向きもしなかった。俺は......最低だ」
「若様、この戦国の世では仕方が無いことです」
「仕方が無いって何だ? 何が正しくて何が正しくないんだ? 何が間違っている? 俺は悲しくはならなかったんだ! 大切な仲間が死んでも!」
「わ、若様」
「一人に......してくれ」
 私は若様の元から姿を消して、成実殿に会いに行った。
「成実殿!」
「屋代殿。どうしたのですか? そんなに急いで」
「小十郎殿がヘルリャフカを倒すための遠征中に絶えて、若様が憔悴しょうすいしているのです」
「ま、誠か!? 小十郎殿が亡くなっただと?」
「さようです」
「なぜ、若様は憔悴を?」
「若様は、自分の無力さと感情の無さを呪っているのです。小十郎殿が亡くなっても、悲しくならないという現実を受け入れたくない様子」
「若様......」
 成実殿は真剣に悩んでいるのでしょう。腕を組んで、口を堅く結んでいます。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。  ●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

処理中です...