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第三章『家督相続』

伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その捌

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 俺は胸に刺さった正論に、どうすることも出来ない。俺には、正論を弾きかえすほどの口先を持ち合わせていないし、正論に言いかえす余地はない。
「俺は.......どうすればいいんだ?」
「今ある命を尊重し、ヘルリャフカを倒してください。それは必ず、伊達政宗が天下を統一する糧となる」
 俺は涙をこらえた。アーティネスは神様だから、下界で俺が泣いてるかどうかはすぐにわかる。けど、さすがに目の前では涙を見せることは駄目だ。それは、牛丸が死んだことをアーティネスのせいにしてしまった俺の最後の意地なのだ。
「牛丸のことは一生忘れない。アーティネスに助けられたことも、俺はその全てを糧とする」
「それがいいでしょう」
 アーティネスは重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのように笑みを浮かべ、俺に責任の一端がないことを強調する。
「今回の件で、全面的に私が悪いです。あなたが責任を感じることはありません」
 俺はこの時、つくづく良縁だと理解する。前世では他の者の気持ちを考えたことはなかった。だから、武中に殺された。きっと神様達は、俺の考えを改めさせるために転生させたのかもしれない。他人を思いやる気持ちを、俺に尊重させるために......。
「では、名坂横久の意識を伊達政宗の体に戻します」

 気付いた時には伊達政宗の体に帰ってきていた。俺は天を仰ぎ見てから、泣き崩れた。
「うおっ! 大丈夫か、名坂!」
 小十郎は俺を心配して、俺の元に駆け寄ってきた。本当に、意味のある転生だったのかもな。
「安心しろ。つい、生死の重みに堪えきれなくなった」
 牛丸たった一人の命でも、それは命なんだから軽くあっていいはずがない。けど、全員の命よりはマシだった。天秤てんびんに掛けたら、誰だって牛丸一人の犠牲を選ぶだろう。それが何より、俺には不可能だ。皆を助けるために、誰か一人を殺すことでさえ躊躇ためらわずにはいられない。足踏みしてしまう。
 どれが間違っていて、どれが正しいのか。命は軽んじられない。ヘルリャフカが俺の前に現れた時、俺はどんな行動をすることがベストだったのか......。後悔だけが頭の中を巡り続けた。

── 一方、神界では、レイカーが伊達政宗を見下ろしていた。
「アーティネスにしては、良い奴に使者の資格を与えたね。彼、名坂横久はかなり紳士的じゃないか」レイカーは苦笑し、緩んだ口元をキュッとめた。「名坂君なら、神の使者としての仕事をまっとうして、いずれ神の一柱になるだろう」
 すると、レイカーの部屋にバルスが足を踏み入れた。
「やあ、バルスじゃないか」
「レイカーも、元気そうだな」
「うん。ちょうど今、名坂君の様子を確認していたんだ」
「名坂横久。アーティネスが見つけたあの逸材か」
「アーティネスも見る目があるよ。それに、口も達者になった。名坂君に嘘を言って、無理矢理にも認めさせたんだ?」
「どういうことだ?」
「名坂君は、アーティネスが牛丸を殺したことを知って、アーティネスに今し方言及したんだ。だけど、アーティネスはうまく言いくるめた。名坂君もまさか、牛丸は意味なく殺されたってことまでは気付かないか」
「しょうがないだろ。牛丸は犠牲いけにえではなく、ただアーティネスが苗床を確保するためだけだったんだからな」
「アーティネスが牛丸を殺して苗床とし、苗床牛丸を使ってヘルリャフカに攻撃をしたとは夢にも思うまい。これからずっと、牛丸の遺体はアーティネスによって酷使され続けるんだ。達の玩具がんぐとしてね!」
 レイカーとバルスは気味の悪く笑い始めた。伊達政宗は、いつも神達のてのひらで操られて行動していたに過ぎない。今までの行動は全て、アーティネスを始めとする神達によって誘導されていたのだ。

 アーティネスに牛丸の件を言及してから二日後。俺は重い体を無理矢理にでも動かして、布団から這い出た。牛丸のことは忘れなければならない。これからは、未来をずっと見つめるのだ。
 ヘルリャフカ殲滅せんめつ作戦の段取りは粗方決まった。愛姫に関しては、危険すぎるから待機、というのは当然として、主戦力である成実も参加はしない。牛丸のような犠牲を出さないために、少数での行動だ。ヘルリャフカ殲滅には、俺、小十郎、仁和の三人と着いてくることを志願した未来人二人。二人とも男で、一人は筋肉隆々りゅうりゅうで、体術を心得ている二階堂にかいどう和哉かずや。一人は身長は低いものの、弓道を得意とする名射手である遠藤えんどう忠義ただよし。遠藤は、縁起が良いからと『忠義ちゅうぎ』と呼ばれる。
「忠義!」
「これはこれは若様。どう致しましたか?」
「仁和から作戦などは聞いているか?」
「もちろんです。私の弓が役に立つと聞いておりますよ」
「それはそうだな。忠義も重要な役割を担う。心していてくれ」
「はい。牛丸統率官のためにも......必ず役に立ちます!」
「二階堂にも伝えてくれ。生きては帰れないかもしれない」
 忠義の表情はくもった。まあ、仕方が無い。
 俺達は準備を万端とし、遠征を開始した。ヘルリャフカは強者を求めて動くと聞いたし、いずれ出会い頭に勝負となる。
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