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第三章『家督相続』
伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その漆
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景頼の説明によると、硫酸は金を溶かすことが出来ないらしい。王水は濃塩酸と濃硫酸を混ぜたもので、王水は金をも溶かすとのこと。ヘルリャフカの苗床を覆う鎧を完全に溶かすには硫酸と王水を併用することが良いそうだ。
さて。俺は仁和の元に帰った。
「仁和、話しの続きだ」
「はい。実際に王水などを創るとなると時間をかなり要するので、政宗殿の神力によって生成してもらいましょう」
「どうやって創るんだ?」
「それは後で話します。今は作戦会議中です。......で、ヘルリャフカを倒すには攻撃以外にも必要なことがあります」
「防御か?」
「ええ」
ヘルリャフカのすさまじい攻撃を防ぐことが、はたして可能なのだろうか。俺の体なんか、結構遠くまで吹き飛ばされたんだが......。
「攻撃を防御するってことは盾か?」
「いえ、私もあの場に居ましたが、ヘルリャフカの攻撃を盾ごときで防ぐことは出来ないでしょう」
「なら、どうするというんだ?」
「ヘルリャフカの攻撃は特徴的でした。相手には触れず、爆風のようなもので攻撃を繰り出していました。つまり、爆風に身を任せればいいんです」
「それじゃあ飛ばされるだけだ」
「そこが肝なんですよ」
仁和はニヤリとほくそ笑んだ。
牛丸の後継者である仁和との軍事会議を終えた俺は、体を軽く伸ばしてから小十郎と景頼に合流した。
「よう名坂。仁和との会議はどうだった?」
「ヘルリャフカを倒すための作戦は完璧で抜かりがなかった。さすが未来人って感じだ。俺達も未来人なんだけど、仁和には頭がある。学があるんだ」
「まあ、そうだな」小十郎は刀を鞘に収めた。「これからが本題だ。信長救出だろ?」
「織田信長が殺される6月2日まではあと半年程度か。本格的に作戦を練ろう」
「って言っても、無謀だろ」
「いや、そうでもねぇよ。神力があるから、何とかなる。いや、何とかしてみせる」
俺は扉を閉めて、腰を下ろした。
問題は織田信長と江渡弥平の関わりなんだ。安土城にあった未来の馬の足跡......。江渡弥平が味方をしている可能性は否めない。
「牛丸殿のためにも、私もヘルリャフカを倒したいです」
「もちろんだ。景頼の言うとおり、牛丸という優秀な未来人衆統率官を奪った罪は重い。けど、俺はアーティネスの方が許せねぇんだ」
小十郎も景頼も、首を縦に振った。俺の考えに納得だ、という意思表示だな。
それよりもアーティネスだ。ヘルリャフカの苗床を倒した方法が気に入らない。それだけは許すことが出来ない。
俺は耳を掻いてから、立ち上がった。すると、目の前がパッと白に包まれた。また神界に連れてこられた。しかし、そこにいたのはレイカーではなかった。
「アーティネス!」
「名坂横久、度々神界に連れてきたことは謝ろう」
「本当だよ。いくら何でも俺が神界に来る比率が高すぎるだろ。ちょっとは調整しろよ」
「微調整しておきましょう」
「''微''調整!?」
「はい」
『微』がいらない、などという前置きは吹っ飛ばす。「アーティネス」
「何でしょう?」
「牛丸の件だ」
「ああ......なるほど。レイカーから事情諸々を聞いています」
「じゃあ、俺が言いたいことは全てわかってるんだな?」
アーティネスは小さくうなずいた。
「牛丸を生け贄とし、ヘルリャフカを苗床から引きずり出したんだな?」
「はい」
牛丸の遺書には『犠牲』という単語があった。しかし、犠牲には『犠牲』と読む以外にも読み方がある。『犠牲』だ。本質的な意味は変わらないが、唯一変わることがある。
「犠牲は、神様への供物として生きた動物を捧げることだ。牛丸を犠牲として殺し、牛丸の死の力を使ってやったんだな?」
「その通りです。牛丸を殺したのはヘルリャフカではなく、私です」
「テメェ、何て言ってるかわかってんのかっ!」
「前にも言ったでしょう? 神は下々に力を酷使出来ないと。それの抜け道が犠牲なのです。彼のお陰で、あなたは死なずにすんだ。私があなたたちの犠牲を牛丸一人に縮小してあげたのですよ?」
アーティネスの言っていることは正論だ。アーティネスがヘルリャフカを苗床から出さなければ、俺達は全員戦死したはずだ。だが、それでも......牛丸を殺した事実は変わらない。
「アーティネス! 世の中、正論が良いって訳じゃない。社畜として生きた前世の知人の持論だった」
「ええ。しかし、あなたが今ここで生きていることもまた事実。いちいち計算せずとも、見ただけで一目瞭然です。私の行いが正しかった」
「......牛丸を生き返らせろ」
「無理ですよ? 神の使者として認められているのは名坂横久だけですから」
俺は唇を噛みちぎった。下唇から血が垂れて、それが顎にまで達したが関係ねぇ。牛丸を復活させる。
「アーティネス、貴様の都合でアーティネスは死んだ」
「それはそうですが......牛丸以外の名も無き者だったら誰でも良いんですか? そういうことではないですよね?」
アーティネスの言っていることは全てが正論。だからだろう。一語一句、胸に刺さる。
さて。俺は仁和の元に帰った。
「仁和、話しの続きだ」
「はい。実際に王水などを創るとなると時間をかなり要するので、政宗殿の神力によって生成してもらいましょう」
「どうやって創るんだ?」
「それは後で話します。今は作戦会議中です。......で、ヘルリャフカを倒すには攻撃以外にも必要なことがあります」
「防御か?」
「ええ」
ヘルリャフカのすさまじい攻撃を防ぐことが、はたして可能なのだろうか。俺の体なんか、結構遠くまで吹き飛ばされたんだが......。
「攻撃を防御するってことは盾か?」
「いえ、私もあの場に居ましたが、ヘルリャフカの攻撃を盾ごときで防ぐことは出来ないでしょう」
「なら、どうするというんだ?」
「ヘルリャフカの攻撃は特徴的でした。相手には触れず、爆風のようなもので攻撃を繰り出していました。つまり、爆風に身を任せればいいんです」
「それじゃあ飛ばされるだけだ」
「そこが肝なんですよ」
仁和はニヤリとほくそ笑んだ。
牛丸の後継者である仁和との軍事会議を終えた俺は、体を軽く伸ばしてから小十郎と景頼に合流した。
「よう名坂。仁和との会議はどうだった?」
「ヘルリャフカを倒すための作戦は完璧で抜かりがなかった。さすが未来人って感じだ。俺達も未来人なんだけど、仁和には頭がある。学があるんだ」
「まあ、そうだな」小十郎は刀を鞘に収めた。「これからが本題だ。信長救出だろ?」
「織田信長が殺される6月2日まではあと半年程度か。本格的に作戦を練ろう」
「って言っても、無謀だろ」
「いや、そうでもねぇよ。神力があるから、何とかなる。いや、何とかしてみせる」
俺は扉を閉めて、腰を下ろした。
問題は織田信長と江渡弥平の関わりなんだ。安土城にあった未来の馬の足跡......。江渡弥平が味方をしている可能性は否めない。
「牛丸殿のためにも、私もヘルリャフカを倒したいです」
「もちろんだ。景頼の言うとおり、牛丸という優秀な未来人衆統率官を奪った罪は重い。けど、俺はアーティネスの方が許せねぇんだ」
小十郎も景頼も、首を縦に振った。俺の考えに納得だ、という意思表示だな。
それよりもアーティネスだ。ヘルリャフカの苗床を倒した方法が気に入らない。それだけは許すことが出来ない。
俺は耳を掻いてから、立ち上がった。すると、目の前がパッと白に包まれた。また神界に連れてこられた。しかし、そこにいたのはレイカーではなかった。
「アーティネス!」
「名坂横久、度々神界に連れてきたことは謝ろう」
「本当だよ。いくら何でも俺が神界に来る比率が高すぎるだろ。ちょっとは調整しろよ」
「微調整しておきましょう」
「''微''調整!?」
「はい」
『微』がいらない、などという前置きは吹っ飛ばす。「アーティネス」
「何でしょう?」
「牛丸の件だ」
「ああ......なるほど。レイカーから事情諸々を聞いています」
「じゃあ、俺が言いたいことは全てわかってるんだな?」
アーティネスは小さくうなずいた。
「牛丸を生け贄とし、ヘルリャフカを苗床から引きずり出したんだな?」
「はい」
牛丸の遺書には『犠牲』という単語があった。しかし、犠牲には『犠牲』と読む以外にも読み方がある。『犠牲』だ。本質的な意味は変わらないが、唯一変わることがある。
「犠牲は、神様への供物として生きた動物を捧げることだ。牛丸を犠牲として殺し、牛丸の死の力を使ってやったんだな?」
「その通りです。牛丸を殺したのはヘルリャフカではなく、私です」
「テメェ、何て言ってるかわかってんのかっ!」
「前にも言ったでしょう? 神は下々に力を酷使出来ないと。それの抜け道が犠牲なのです。彼のお陰で、あなたは死なずにすんだ。私があなたたちの犠牲を牛丸一人に縮小してあげたのですよ?」
アーティネスの言っていることは正論だ。アーティネスがヘルリャフカを苗床から出さなければ、俺達は全員戦死したはずだ。だが、それでも......牛丸を殺した事実は変わらない。
「アーティネス! 世の中、正論が良いって訳じゃない。社畜として生きた前世の知人の持論だった」
「ええ。しかし、あなたが今ここで生きていることもまた事実。いちいち計算せずとも、見ただけで一目瞭然です。私の行いが正しかった」
「......牛丸を生き返らせろ」
「無理ですよ? 神の使者として認められているのは名坂横久だけですから」
俺は唇を噛みちぎった。下唇から血が垂れて、それが顎にまで達したが関係ねぇ。牛丸を復活させる。
「アーティネス、貴様の都合でアーティネスは死んだ」
「それはそうですが......牛丸以外の名も無き者だったら誰でも良いんですか? そういうことではないですよね?」
アーティネスの言っていることは全てが正論。だからだろう。一語一句、胸に刺さる。
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