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第三章『家督相続』
伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その弐
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安土城に侵入する準備は、一週間の内に整った。それから、手際よく四人で安土城への侵入を試みた。なかなかの警備を誇っていた安土城だったが、一ヶ月の苦闘(くとう)の末にようやく安土城に侵入出来た。家臣に化けて、四人バラバラに安土城を周り歩いた。
俺は明智光秀と豊臣秀吉を見てみたい。まずは豊臣秀吉の屋敷、安土城の入り口付近に向かってみるか。
豊臣秀吉の渾名(あだな)は確か、猿じゃなくて『ハゲネズミ』だったな。有名な話しだし、織田信長がハゲネズミと呼ぶ光景を見てみたい。それは後回しにするとして、この先に豊臣秀吉はいるだろうか。いるとしたら──。馬の足跡か。この足跡......。
俺は急いで元来た道を引き返して、小十郎、景頼、愛姫を探した。安土城から早く抜け出さないと、俺達は死ぬことになる。まずい、安土城に来たことが失敗だったか......。
「神辺!」
「うおっ! 名坂!?」
「逃げるぞ。景頼と愛姫も探し出せ!」
「何で?」
「理由は後だ。ミスったら、俺達が全員死ぬことになるかもしれない! 死にたくなきゃ、あいつらを探せ」
「わ、わかった」
小十郎と二人で、景頼と愛姫を探し出した。理由は話さず、まずは米沢城に帰還するために転移を行った。神の使者の恩恵の一つに『転移』がある。神様(アーティネス)に申請して受理されれば、転移することが可能となる。といっても、制約が付く。一ヶ月に一回程度しか使えず、転移の範囲も限られる。神の使者の力といっても、神の監視下では万能とは言えない。あ、一ヶ月に一回しか転移は使えないと言ったが、場合によっては二回までなら使える。それも申請が必要だが、面倒な申請をクリアして、転移によって安土城に行き来したわけだ。
米沢城に入り、部屋に入った。
「名坂。何で、急いで帰ろうとか言ったんだ?」
「馬の足跡を見つけたんだ」
「それがどうしたんだ?」
「戦国時代の馬と、前世の馬は違うんだ。戦国時代の馬は身長が低く、力強い。しかし、安土城で発見した馬の足跡は戦国時代の馬の特徴とは異なっていた。あの馬の足跡の特徴から考えると、前世では一般の馬『サラブレット』だったんだ」
「は?」
「つまり、安土城には未来からの馬がいるということだ。馬ごと、神様が戦国時代に送ることはない。織田信長達と江渡弥平達は深く繫がっている可能性があるということだ」
「嘘だろ......」
「本能寺の変の黒幕は、江渡弥平達かもしれないということだ」
小十郎、景頼、愛姫は顔を真っ青にした。それも当然だ。ホラー映画を見た後で、一人で夜道を歩けるほどの俺でさえ体を震わせているのだから。真っ青にしない奴は異常だ。
「名坂。江渡弥平が織田信長と繫がっているなら、本能寺の変から織田信長を救うのは無理じゃないか?」
「かもしれない」
「かもしれないって......織田信長救出作戦は終わりでいいか?」
「駄目だ」
「何で?」
「織田信長は歴史の鍵なんだ。見殺しには出来んだろ」
四人で会議を重ねた。本能寺の変まではたっぷりの時間がある。気長にやろうと思ったら、のっぴきならない事態が起こった。輝宗に、本丸御殿に呼び出された。
「父上、政宗参りました」
「政宗。重大なことが起きたんだ。直ちに戦の準備をしろ」
「......相馬氏ですか?」
「そうだ。相馬氏との戦いだ」
「承知しました。戦の準備をします」
こんなに早く、また対相馬氏戦をすることになるとは。予想を大きく外れたが、急いで戦の支度をしないといけないな。
本丸御殿を出たら、戦の身支度を始めた。成実、小十郎、景頼に声を掛けて、馬に飛び乗った。
「小十郎、景頼、そして成実! 出陣だ!」
「「は!」」
大勢で馬を走らせ、前進する。
相馬氏との停戦協定まではあと三年くらいか。それまでは、戦を続ける。大変だが、これは戦国時代の転生のデメリットということだ。
馬で駆けること数時間、戦場に到着した。俺と小十郎、景頼、成実の四人は大勢を統率する。俺は牛丸とともに、未来人衆を指揮。戦ほど未来人衆が役に立つイベントはあるまい。
「いいかお前ら! 無駄死にはするな!」
俺は他人の命より自分の命を優先するように、戦のたびに言うようにする。けど、そんなのは綺麗事に過ぎない。大切な者を失った奴ほど、人を助けたがる。自分の命を優先させる奴は、この時代では多い。戦国時代では、戦で命を落とす同朋が多すぎる。自分を優先するように言わないと、彼らは他人を助けるために自分を犠牲にする。
「進め、野郎共っ!」
進んだ。前に進んだ。敵方が見えるまで、見えても死に物狂いで前進した。未来人衆は奮闘した。叫び、相手の体を貫(つらぬ)く。
夜間。輝宗の命令で、夜の行動を未来人衆とともに始めた。この戦は一気に片を付ける。
絶望の瞬間は、夜間行動を開始してすぐに訪れた。未来人衆の先頭、牛丸が馬から落ちた。
「牛丸!?」
「わ、若様......」
牛丸は口から血を流して、地面に伏した。
「牛丸!」
「若様......私は大丈夫でございます。前方、敵襲です」
「牛丸!」
牛丸は二度と動かぬようになった。俺は馬を降りる。
「名乗れ。名乗れ、牛丸を討った者よ!」
「貴殿、強き者と見受ける」
「名乗れ! 俺は伊達政宗! 今し方、討たれた者の主である」
「面白い。我が名は無きに等しい。この体を拝借しているまでだ」
拝借。......人間の体に直接干渉し、取り憑く。神では出来ない行為。アーティネスが言っていた。──悪魔憑きだ。
俺は明智光秀と豊臣秀吉を見てみたい。まずは豊臣秀吉の屋敷、安土城の入り口付近に向かってみるか。
豊臣秀吉の渾名(あだな)は確か、猿じゃなくて『ハゲネズミ』だったな。有名な話しだし、織田信長がハゲネズミと呼ぶ光景を見てみたい。それは後回しにするとして、この先に豊臣秀吉はいるだろうか。いるとしたら──。馬の足跡か。この足跡......。
俺は急いで元来た道を引き返して、小十郎、景頼、愛姫を探した。安土城から早く抜け出さないと、俺達は死ぬことになる。まずい、安土城に来たことが失敗だったか......。
「神辺!」
「うおっ! 名坂!?」
「逃げるぞ。景頼と愛姫も探し出せ!」
「何で?」
「理由は後だ。ミスったら、俺達が全員死ぬことになるかもしれない! 死にたくなきゃ、あいつらを探せ」
「わ、わかった」
小十郎と二人で、景頼と愛姫を探し出した。理由は話さず、まずは米沢城に帰還するために転移を行った。神の使者の恩恵の一つに『転移』がある。神様(アーティネス)に申請して受理されれば、転移することが可能となる。といっても、制約が付く。一ヶ月に一回程度しか使えず、転移の範囲も限られる。神の使者の力といっても、神の監視下では万能とは言えない。あ、一ヶ月に一回しか転移は使えないと言ったが、場合によっては二回までなら使える。それも申請が必要だが、面倒な申請をクリアして、転移によって安土城に行き来したわけだ。
米沢城に入り、部屋に入った。
「名坂。何で、急いで帰ろうとか言ったんだ?」
「馬の足跡を見つけたんだ」
「それがどうしたんだ?」
「戦国時代の馬と、前世の馬は違うんだ。戦国時代の馬は身長が低く、力強い。しかし、安土城で発見した馬の足跡は戦国時代の馬の特徴とは異なっていた。あの馬の足跡の特徴から考えると、前世では一般の馬『サラブレット』だったんだ」
「は?」
「つまり、安土城には未来からの馬がいるということだ。馬ごと、神様が戦国時代に送ることはない。織田信長達と江渡弥平達は深く繫がっている可能性があるということだ」
「嘘だろ......」
「本能寺の変の黒幕は、江渡弥平達かもしれないということだ」
小十郎、景頼、愛姫は顔を真っ青にした。それも当然だ。ホラー映画を見た後で、一人で夜道を歩けるほどの俺でさえ体を震わせているのだから。真っ青にしない奴は異常だ。
「名坂。江渡弥平が織田信長と繫がっているなら、本能寺の変から織田信長を救うのは無理じゃないか?」
「かもしれない」
「かもしれないって......織田信長救出作戦は終わりでいいか?」
「駄目だ」
「何で?」
「織田信長は歴史の鍵なんだ。見殺しには出来んだろ」
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「父上、政宗参りました」
「政宗。重大なことが起きたんだ。直ちに戦の準備をしろ」
「......相馬氏ですか?」
「そうだ。相馬氏との戦いだ」
「承知しました。戦の準備をします」
こんなに早く、また対相馬氏戦をすることになるとは。予想を大きく外れたが、急いで戦の支度をしないといけないな。
本丸御殿を出たら、戦の身支度を始めた。成実、小十郎、景頼に声を掛けて、馬に飛び乗った。
「小十郎、景頼、そして成実! 出陣だ!」
「「は!」」
大勢で馬を走らせ、前進する。
相馬氏との停戦協定まではあと三年くらいか。それまでは、戦を続ける。大変だが、これは戦国時代の転生のデメリットということだ。
馬で駆けること数時間、戦場に到着した。俺と小十郎、景頼、成実の四人は大勢を統率する。俺は牛丸とともに、未来人衆を指揮。戦ほど未来人衆が役に立つイベントはあるまい。
「いいかお前ら! 無駄死にはするな!」
俺は他人の命より自分の命を優先するように、戦のたびに言うようにする。けど、そんなのは綺麗事に過ぎない。大切な者を失った奴ほど、人を助けたがる。自分の命を優先させる奴は、この時代では多い。戦国時代では、戦で命を落とす同朋が多すぎる。自分を優先するように言わないと、彼らは他人を助けるために自分を犠牲にする。
「進め、野郎共っ!」
進んだ。前に進んだ。敵方が見えるまで、見えても死に物狂いで前進した。未来人衆は奮闘した。叫び、相手の体を貫(つらぬ)く。
夜間。輝宗の命令で、夜の行動を未来人衆とともに始めた。この戦は一気に片を付ける。
絶望の瞬間は、夜間行動を開始してすぐに訪れた。未来人衆の先頭、牛丸が馬から落ちた。
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牛丸は口から血を流して、地面に伏した。
「牛丸!」
「若様......私は大丈夫でございます。前方、敵襲です」
「牛丸!」
牛丸は二度と動かぬようになった。俺は馬を降りる。
「名乗れ。名乗れ、牛丸を討った者よ!」
「貴殿、強き者と見受ける」
「名乗れ! 俺は伊達政宗! 今し方、討たれた者の主である」
「面白い。我が名は無きに等しい。この体を拝借しているまでだ」
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