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第三章『家督相続』

伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その漆

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 幽霊騒動を起こした犯人さえ見つけられれば、成実は解放されて俺の重臣となる。そのためには輝宗が成実を罰する前に成実を助けることだ。
 四人で力を合わせて幽霊騒動の真犯人を探した。しかし、なかなか見つからない。成実が処罰されてしまう時間は刻一刻と迫っていた。俺達は次第に焦ってきた。特に俺は、成実を失わないために必死になった。そうして、見つけた真犯人。そいつは紛れもなく成実だった。幽霊騒動を巻き起こしたのは、成実だ。そう結論付いた。
 俺は自分の目を疑った。これは真実なのだろうか。片目を斬って隻眼となってからは、残っている左目を鍛えた。視力も高いし真実も見抜ける。今、その左目は濁(にご)ったりはせず、ただ真実だけを伝えていた。幽霊騒動の真犯人は『伊達成実』。これは変わることのない事実だ。
 また部屋で四人で集まり、成実が本当に犯人なのか会議が始まった。小十郎は真っ先に、『成実が犯人』に一票を入れた。すると景頼も、小十郎に続いて成実が犯人に一票投入した。
 俺は愛姫に視線で、『成実が犯人じゃない』に一票、と頼んだ。それを知ってか知らずか、愛姫は成実が犯人じゃないと言い切った。それに続き、俺も成実は犯人じゃないと主張をした。
「名坂。これで意見が二つに割れたな」
「神辺。成実が犯人だと本当に思うのか?」
「思う。成実は絶対に怪しいぞ」
「お前は成実を知らない。奴は優しい。優秀な者だ。将来、成実の俺への貢献度は高い」
「その程度か」
 小十郎、景頼と意見が真っ二つになったまま、『成実が犯人の場合は』という条件付きで動機を調べることになった。
 動機と言ってもたくさん考えられる。一つに絞り込むことは容易ではない。だが、城下町に用があるのが一番妥当だということになって、愛姫を除く俺と小十郎と景頼の三人で城下町に繰り出すことになった。
 城下町は活気がある。前に天然痘の予防薬を飲ませるために城下町に降りた時よりも、さらに活気が増している気がする。俺は懐にある城下町の地図を取り出した。
「小十郎! 城下町の中には我が米沢城と関わっている施設などはあるか?」
「僕に聞かれても......。あ、鍛治屋とかは城下町に集められているんじゃなかった?」
「ああ、鍛治屋か」
 以前、火縄銃工作時に役に立った鍛治屋。火縄銃工作してた時は城下町に行くのが面倒だから、輝宗にお願いして米沢城の一室に鍛治屋を集合させていたんだけど、実際は鍛治屋ってのは戦国時代だと城下の一角に集められていたらしい。鍛治屋が城下にいたことは、伊達政宗に逆行転生してから知った事実だ。
「行くか、鍛治屋のいるところまで」
 小十郎と景頼も同意し、鍛治屋の元へ向かった。中に入ると、まず熱気がすごかった。辺りを見回すと、火縄銃工作に協力してくれた一人である鍛治屋がいた。
「権次(ごんじ)!」
「これは、若様ですか。どうしましたか?」
「ここに成実が来なかったか? 今日じゃなくても、ここ最近で」
「なぜそんなことをお尋ねになるのです?」
「成実が父上に捕らえられて牢にぶち込まれたんだ。何とかして助け出したいんだが、何も話そうとしない。それで、俺達は話さない理由を探しにきたんだ」
「なんと、成実殿が牢に!?」
「そうなんだ。優秀な奴だが、困ったよ......」
「そういえば、成実殿がここに来ていたが」
「本当か!? 本当なのか!?」
「若様に嘘を言う人はいませんよ。はい、確かに成実殿がここに来たんですよ」
「いつだ?」
「一週間前程度からです」
「くわしく話せ」
「私はあまりくわしくはないです。成実殿と親しく会話を交えていたのは、あそこにいる鍛治屋でしたね」
「奴の名前は?」
「兼三(けんぞう)です」
「兼三か。わかった。あいつと話す」
 俺は権次から離れて、成実と親しいという兼三に話しかけた。
「どうされましたか、若様?」
「成実と仲良くしていたそうだな。会話の内容は?」
「あ、いや、それは......」
「教えろ。会話の内容を忘れたわけではないのだろう?」
「忘れてはないですが、成実殿との約束でして......特に若様には話せないのです」
「教えろ。俺は伊達政宗だぞ? あ?」
 伊達政宗という身分は、こういう時に本当に役に立つな。
「仕方ありませんか。若様には全てお話ししましょう。ですが、成実殿には私が言ったとは言わないでください。場合によっては私が斬り殺されますから」
「成実には話さない」
「では、ご説明しましょう。何から何まで」
 俺は兼三から、全てを聞いた。成実がなぜ何も話さないのか、それは俺が原因だったのだ。成実に悪いことをしたことを後悔した。俺の好意が、災いを招いたか......。
 この事実を早く輝宗に伝えないと、成実の身に危険が及(およ)ぶ。
「いろいろわかった。ありがとうな、兼三」
「ええ、役に立てて光栄です」
「うん。小十郎、景頼! 急いで城に帰るぞ! 成実の身が危ない!」
 城下町を走り抜けると、急いで米沢城に戻った。城に入ると、輝宗のいる本丸御殿まで駆けた。
「父上!」
「おお、政宗か」
「成実が無言の理由がわかりました! 成実を、牢から出してください」
「うむ。成実を解放しよう」
「ありがとうございます」
 俺は牢から解放された成実を、部屋に招き入れた。
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