61 / 245
第三章『家督相続』
伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その伍
しおりを挟む
成実とした会話について小十郎に粗く話した。
「成実が怖い声のトーンだったと?」
「そうだ」
「うーん。病気が嘘じゃないかって病人に聞いたら、誰でも怒るもんじゃねーか?」
「でも、滅茶(めちゃ)苦茶(くちゃ)怖かったんだぞ!」
「普通のことだと思うんだけど」
「違う! あれは普通じゃない。目が鋭くもなってんだ。殺意があったはずだ」
「怒ったら誰でも目が鋭くはなるだろ」
「じゃあ、成実は何で怒ったんだよ」
「だからだな、お前が病気は嘘じゃねーかって聞いたからだ」
「ほらー、成実が犯人だ」
「んー、もう一回言うぞ。誰でも怒るよ、病気が嘘だって言われたら」
「嘘だ、とは言ってない。病気って本当かって聞いただけだ」
「意味は同じだ。めんどくさい奴だなー!」
落ち着いた俺は、小十郎と部屋に入って景頼と愛姫も集合した。
それにしても、本当に成実の声とか怖かった......。あれが病人とは思えない。成実が犯人だという線が急浮上だ。成実に幽霊が取り憑いたわけじゃなくて、ただ幽霊が憑いた演技をしていたのか。体に異常な点もなかったし、成実が犯人と考えても差し支えはない。
景頼と愛姫に成実が怖かったことを、ざっくりと話した。
「やはり、私が申し上げた通り、成実殿が犯人なのでしょうか?」
「それはわからん。わからんが、景頼の報告が正しかったんだな。成実が犯人に、俺は一票入れる」
「じゃあ僕も」
俺に続いて小十郎も一票入れ、それに習って景頼と愛姫も一票ずつ入れた。これで『成実が犯人』に四票入ったことになる。
「んじゃ、名坂が成実に、幽霊のことを言及するってことか?」
小十郎の一言に、俺は狼狽(ろうばい)した。
「俺!? 俺が成実に言及するってことか!?」
「え? 話しの流れからしてそういうことだろ」
「嘘だろ......。成実怖いし、俺じゃなくても良くない?」
「名坂以外に適任はいないと思うんだが」小十郎は景頼、愛姫の表情を見た。「二人も名坂が適任だってさ」
「まだ言ってないぞ! どうなんだ、景頼?」
「私も若様が適していると考えます」
「め、愛姫は......」
「私も、小十郎殿や景頼殿と同じでございます」
本人の意志も通ることなく、俺が成実に言及することとなった。勇気が湧かなかったから、決行は明日となった。
それまでにやっておくことは特にないし、刀の手入れをした。
翌日、その時がきた。バクバクと鼓動(こどう)する心臓を深呼吸で押さえ込んで成実の元に向かった。相変わらず咳き込んで布団で横になっていて、周りには部下が五人か六人いる。
「成実」
「わ、若様......」
「起き上がらなくてもいい。それより、成実と二人で話したい」
「わかりました。──お前ら、席を外せ」
一斉に五人ほどが立ち上がり、部屋を出ていった。俺は自分自身を奮い立たせ、口を動かした。
「一昨日(おととい)の夜、景頼が怪しげな影を見たようだ。そして、その影は成実のようだったと言っていた」
「ええ......それで?」
「三の丸には幽霊が現れる。お前が幽霊の噂の元凶なんじゃないのか?」
「な......何を根拠に?」
「根拠はない。で、お前は何をしていたんだ?」
「その質問には答えることが出来ません」
「何で?」
「答えたくないからです」
「なぜ答えたくないんだ?」
「さあ」
「お、お前は何を企んでいる!!」
成実と話している間に、段々と成実が犯人ではないかと思えてくる。
「私は何も企んでいません」
「わかった。成実、弁明もないのだな?」
「まったくありません」
成実が何も言わないので、何か隠したいことがあると確信した。これから成実をどうするか。もし成実が敵だった場合は困るが、輝宗に報告すれば伊達成実は歴史上から消え去る可能性がある。成実は政宗が成り上がっていく上で重要な駒だ。死なれては大変だ。これではどうやって処分するか、線引きが難しい。
「成実。残念だ。有能な人間だと思っていたが......。俺に着いてこい」
成実は無言でうなずき、俺は扉を思い切り開けた。俺のあとに成実が続いて歩いているから、成実の部下は唖然としていた。その部下が成実のあとを追おうとすると成実自身が、着いてくるな、と言いかえした。
俺が成実を連れてきた場所は、いつも会議に使っている空き部屋だ。しかも、よく小十郎が暇つぶしに使う部屋でもある。例の通り、空き部屋には小十郎がいて、成実と俺が入ってきたことに驚いていた。
「若様、成実殿......どういたしましたか!?」
「成実に逆心の疑いがある。が、父上に報告はしたくない。有能な人材だからだ。なので、小十郎がいるこの部屋に連れてきた」
「連れてきたって、守役の私に押しつけるってことですか!?」
「ま、押しつけるってほどじゃない。責任の分散だ」
「それって同じ意味ですよ」
小十郎を加えた三人で、まずは床に座り込んだ。成実は下を向いて、少ししてから顔を上げた。その表情は、勝算があるようなものだった。はるか先を見据えているような、鋭い眼光。彼の口元は、微妙に緩んでいる印象を受けた。笑みを浮かべているのだ。
「成実が怖い声のトーンだったと?」
「そうだ」
「うーん。病気が嘘じゃないかって病人に聞いたら、誰でも怒るもんじゃねーか?」
「でも、滅茶(めちゃ)苦茶(くちゃ)怖かったんだぞ!」
「普通のことだと思うんだけど」
「違う! あれは普通じゃない。目が鋭くもなってんだ。殺意があったはずだ」
「怒ったら誰でも目が鋭くはなるだろ」
「じゃあ、成実は何で怒ったんだよ」
「だからだな、お前が病気は嘘じゃねーかって聞いたからだ」
「ほらー、成実が犯人だ」
「んー、もう一回言うぞ。誰でも怒るよ、病気が嘘だって言われたら」
「嘘だ、とは言ってない。病気って本当かって聞いただけだ」
「意味は同じだ。めんどくさい奴だなー!」
落ち着いた俺は、小十郎と部屋に入って景頼と愛姫も集合した。
それにしても、本当に成実の声とか怖かった......。あれが病人とは思えない。成実が犯人だという線が急浮上だ。成実に幽霊が取り憑いたわけじゃなくて、ただ幽霊が憑いた演技をしていたのか。体に異常な点もなかったし、成実が犯人と考えても差し支えはない。
景頼と愛姫に成実が怖かったことを、ざっくりと話した。
「やはり、私が申し上げた通り、成実殿が犯人なのでしょうか?」
「それはわからん。わからんが、景頼の報告が正しかったんだな。成実が犯人に、俺は一票入れる」
「じゃあ僕も」
俺に続いて小十郎も一票入れ、それに習って景頼と愛姫も一票ずつ入れた。これで『成実が犯人』に四票入ったことになる。
「んじゃ、名坂が成実に、幽霊のことを言及するってことか?」
小十郎の一言に、俺は狼狽(ろうばい)した。
「俺!? 俺が成実に言及するってことか!?」
「え? 話しの流れからしてそういうことだろ」
「嘘だろ......。成実怖いし、俺じゃなくても良くない?」
「名坂以外に適任はいないと思うんだが」小十郎は景頼、愛姫の表情を見た。「二人も名坂が適任だってさ」
「まだ言ってないぞ! どうなんだ、景頼?」
「私も若様が適していると考えます」
「め、愛姫は......」
「私も、小十郎殿や景頼殿と同じでございます」
本人の意志も通ることなく、俺が成実に言及することとなった。勇気が湧かなかったから、決行は明日となった。
それまでにやっておくことは特にないし、刀の手入れをした。
翌日、その時がきた。バクバクと鼓動(こどう)する心臓を深呼吸で押さえ込んで成実の元に向かった。相変わらず咳き込んで布団で横になっていて、周りには部下が五人か六人いる。
「成実」
「わ、若様......」
「起き上がらなくてもいい。それより、成実と二人で話したい」
「わかりました。──お前ら、席を外せ」
一斉に五人ほどが立ち上がり、部屋を出ていった。俺は自分自身を奮い立たせ、口を動かした。
「一昨日(おととい)の夜、景頼が怪しげな影を見たようだ。そして、その影は成実のようだったと言っていた」
「ええ......それで?」
「三の丸には幽霊が現れる。お前が幽霊の噂の元凶なんじゃないのか?」
「な......何を根拠に?」
「根拠はない。で、お前は何をしていたんだ?」
「その質問には答えることが出来ません」
「何で?」
「答えたくないからです」
「なぜ答えたくないんだ?」
「さあ」
「お、お前は何を企んでいる!!」
成実と話している間に、段々と成実が犯人ではないかと思えてくる。
「私は何も企んでいません」
「わかった。成実、弁明もないのだな?」
「まったくありません」
成実が何も言わないので、何か隠したいことがあると確信した。これから成実をどうするか。もし成実が敵だった場合は困るが、輝宗に報告すれば伊達成実は歴史上から消え去る可能性がある。成実は政宗が成り上がっていく上で重要な駒だ。死なれては大変だ。これではどうやって処分するか、線引きが難しい。
「成実。残念だ。有能な人間だと思っていたが......。俺に着いてこい」
成実は無言でうなずき、俺は扉を思い切り開けた。俺のあとに成実が続いて歩いているから、成実の部下は唖然としていた。その部下が成実のあとを追おうとすると成実自身が、着いてくるな、と言いかえした。
俺が成実を連れてきた場所は、いつも会議に使っている空き部屋だ。しかも、よく小十郎が暇つぶしに使う部屋でもある。例の通り、空き部屋には小十郎がいて、成実と俺が入ってきたことに驚いていた。
「若様、成実殿......どういたしましたか!?」
「成実に逆心の疑いがある。が、父上に報告はしたくない。有能な人材だからだ。なので、小十郎がいるこの部屋に連れてきた」
「連れてきたって、守役の私に押しつけるってことですか!?」
「ま、押しつけるってほどじゃない。責任の分散だ」
「それって同じ意味ですよ」
小十郎を加えた三人で、まずは床に座り込んだ。成実は下を向いて、少ししてから顔を上げた。その表情は、勝算があるようなものだった。はるか先を見据えているような、鋭い眼光。彼の口元は、微妙に緩んでいる印象を受けた。笑みを浮かべているのだ。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる