60 / 245
第三章『家督相続』
伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その肆
しおりを挟む
景頼の考えである、米沢城の埋蔵金はあり得る。確かにあり得るが、突拍子過ぎる。一応、埋蔵金が目的ってことで話しが進んだが成実についてまったく触れていなかったことを、寝る直前で思い出した。
幽霊が人によって作られたかどうかも話していなかった。というか、成実が倒れたことと幽霊が関係あるかどうかもわからない。あの会議が意味を持っていなかったことを理解する。
「あー」
前に進まない会議をしてしまい、頭を掻きむしった。
次の日、久しぶりに休みたくなった。最近、仕事がずっと続いていたから疲れるばかりだ。
何で遊ぼうか。景頼の持ってた未来の本とかは焼かれたし、将棋とオセロは飽きた。鷹狩りは体力使うから駄目。なら何をすれば良いんだ......。
トランプでも作ってババ抜きとかしようか。景頼は手先が地味に器用だから、作るのを手伝わせよう。木材を薄くスライスし、墨で絵を描いていく。細かい作業だ。
「景頼!」
「どういたしましたか、若様」
「トランプを作る」
「承知しました。手を貸しましょう!」
「うん」
景頼には未来人の記憶があるから、何かと未来の道具を作る際は重宝している。
木材を薄く切り出す作業を俺と景頼の二人でしていた時、成実の叫び声が聞こえてきた。何事かと二人で廊下に飛び出すと、成実のいる部屋が騒がしくなっていた。その部屋に突入すると、成実は部下を怒鳴りつけていた。
「どうした、成実」
「若様。こ、これは失礼いたしました」
「いや、良い。急に声が聞こえてきたから焦ったが、体は大丈夫か?」
「徐々に治ってきています」
「安静にしろよ」
成実の怒鳴った勢いで額から垂れた汗を拭き取ると、景頼が俺に耳打ちする。「昨日の夜、怪しげな行動をしていた者がいまして尾行しました。あの時は暗くて誰かわかりませんでしたが、今成実殿の歩き方を見て確信しました。昨日の夜に見た黒い影は成実殿でした」
「マジか!」
「はい。確かです」
幽霊の犯人が成実ってことか? 成実に限ってそんなことはない気がする。
「その話しをあとでくわしく聞かせてくれ」
「わかりました」
まずはトランプを一セット作り終えて、小十郎と愛姫を部屋に招き入れた。そして、先ほど俺に話したことを再度景頼に説明するように命じた。
「昨日(さくじつ)の夜、成実殿が周囲を警戒しながら二の丸三の丸を歩いておりました」
小十郎は驚き、俺と同じく成実に限ってそんなことはないと否定していた。でも、景頼が嘘を言っているわけがない。成実が夜におかしな行動をしていたのは本当だろう。昨日なら病で布団に伏していたはずだが、成実は歩いていた。病も仮病ということなのか。
「政宗様は成実殿を疑っているのでしょうか? 私は、成実殿が悪いことを企んでいるとは思えないのですが......」
「俺も、成実が悪人とは考えられん。本人の前で言及してみるのも一つの手なんじゃないか?」
「確かに、名坂の言うとおりだな。僕は賛成だ」
景頼も納得し、成実に言及することになった。言及する前に成実のことを調査もするんだけど、これがまた面倒だ。成実はずっと布団で寝ていて、その周りを部下が囲っているからだ。調べようにも、部下の目があっては思い通りには出来ない。
どうしようか腕を組んで悩んだ末に、俺が成実の病状を看るという口実で部屋に入って調べることになった。
成実の部屋をノックした。「成実~! 大丈夫か?」
部屋に足を踏み入れてみると、成実は咳き込んでいた。
「成実!!」
「あ、若様! わざわざ足を運んでもらえて、一介の家臣として名誉でございます」
「辛いならしゃべらないで、ゆっくり横になれ。ちょっと体を診てみたい。良いか?」
「若様の診察、ということですね? 大丈夫です。喜んで脱ぎましょう」
「ちょっ! 下は全部脱がんでも大丈夫だ。恥部は隠せ!」
「これはこれは、見苦しい姿をお見せしました」
成実は上半身を脱ぎ、俺はひとまず体に異常がないか確かめた。体に異常はなく、咳き込む原因も表面上はなかった。やっぱり仮病なのかもしれない。部屋を見回す。これといって変なものはない。武士として当たり前の日本刀もちゃんとある。部下は、きょろきょろする俺をじっと見ていた。
「成実。もう服を着て良いぞ」
「どんな病はわかりましたか?」
「さっぱりわからない。俺は薬学しか学んでないし、それも独学だ。俺の診察にも限界はある。独眼竜と呼ばれるようになったが、竜ほど能力も無い」
「そうですか......」
「一つ質問がある」
成実は服を着て、顔を上げた。「何でしょうか?」
「ぶっちゃけて尋ねるけど、本当に病気?」
暫しの沈黙があった。三十秒程度だったが、結構長く感じられた。その静寂を、成実の声が破った。
「私には病気かどうか判断出来ませんが、体調が優れていないのは本当です」
「そ、そうか。い、痛い部分はあるか?」
「体で痛いところですか......えっと右足の膝が痛いですかね」 「右足の膝? わかった」
俺は成実の右足の膝を手で触ったりして確認する。別に痛そうではないな。
「今日はここらで引き上げる。じゃあな、成実」
「若様も、お気を付けて」
部屋から出ると、廊下を走り抜けて小十郎に泣きついた。
「何で泣いてんだよ」
「成実の声が怖かったー」
成実に病気って嘘じゃないかって聞いた時、あいつの声が怖い。恐怖を感じた。
幽霊が人によって作られたかどうかも話していなかった。というか、成実が倒れたことと幽霊が関係あるかどうかもわからない。あの会議が意味を持っていなかったことを理解する。
「あー」
前に進まない会議をしてしまい、頭を掻きむしった。
次の日、久しぶりに休みたくなった。最近、仕事がずっと続いていたから疲れるばかりだ。
何で遊ぼうか。景頼の持ってた未来の本とかは焼かれたし、将棋とオセロは飽きた。鷹狩りは体力使うから駄目。なら何をすれば良いんだ......。
トランプでも作ってババ抜きとかしようか。景頼は手先が地味に器用だから、作るのを手伝わせよう。木材を薄くスライスし、墨で絵を描いていく。細かい作業だ。
「景頼!」
「どういたしましたか、若様」
「トランプを作る」
「承知しました。手を貸しましょう!」
「うん」
景頼には未来人の記憶があるから、何かと未来の道具を作る際は重宝している。
木材を薄く切り出す作業を俺と景頼の二人でしていた時、成実の叫び声が聞こえてきた。何事かと二人で廊下に飛び出すと、成実のいる部屋が騒がしくなっていた。その部屋に突入すると、成実は部下を怒鳴りつけていた。
「どうした、成実」
「若様。こ、これは失礼いたしました」
「いや、良い。急に声が聞こえてきたから焦ったが、体は大丈夫か?」
「徐々に治ってきています」
「安静にしろよ」
成実の怒鳴った勢いで額から垂れた汗を拭き取ると、景頼が俺に耳打ちする。「昨日の夜、怪しげな行動をしていた者がいまして尾行しました。あの時は暗くて誰かわかりませんでしたが、今成実殿の歩き方を見て確信しました。昨日の夜に見た黒い影は成実殿でした」
「マジか!」
「はい。確かです」
幽霊の犯人が成実ってことか? 成実に限ってそんなことはない気がする。
「その話しをあとでくわしく聞かせてくれ」
「わかりました」
まずはトランプを一セット作り終えて、小十郎と愛姫を部屋に招き入れた。そして、先ほど俺に話したことを再度景頼に説明するように命じた。
「昨日(さくじつ)の夜、成実殿が周囲を警戒しながら二の丸三の丸を歩いておりました」
小十郎は驚き、俺と同じく成実に限ってそんなことはないと否定していた。でも、景頼が嘘を言っているわけがない。成実が夜におかしな行動をしていたのは本当だろう。昨日なら病で布団に伏していたはずだが、成実は歩いていた。病も仮病ということなのか。
「政宗様は成実殿を疑っているのでしょうか? 私は、成実殿が悪いことを企んでいるとは思えないのですが......」
「俺も、成実が悪人とは考えられん。本人の前で言及してみるのも一つの手なんじゃないか?」
「確かに、名坂の言うとおりだな。僕は賛成だ」
景頼も納得し、成実に言及することになった。言及する前に成実のことを調査もするんだけど、これがまた面倒だ。成実はずっと布団で寝ていて、その周りを部下が囲っているからだ。調べようにも、部下の目があっては思い通りには出来ない。
どうしようか腕を組んで悩んだ末に、俺が成実の病状を看るという口実で部屋に入って調べることになった。
成実の部屋をノックした。「成実~! 大丈夫か?」
部屋に足を踏み入れてみると、成実は咳き込んでいた。
「成実!!」
「あ、若様! わざわざ足を運んでもらえて、一介の家臣として名誉でございます」
「辛いならしゃべらないで、ゆっくり横になれ。ちょっと体を診てみたい。良いか?」
「若様の診察、ということですね? 大丈夫です。喜んで脱ぎましょう」
「ちょっ! 下は全部脱がんでも大丈夫だ。恥部は隠せ!」
「これはこれは、見苦しい姿をお見せしました」
成実は上半身を脱ぎ、俺はひとまず体に異常がないか確かめた。体に異常はなく、咳き込む原因も表面上はなかった。やっぱり仮病なのかもしれない。部屋を見回す。これといって変なものはない。武士として当たり前の日本刀もちゃんとある。部下は、きょろきょろする俺をじっと見ていた。
「成実。もう服を着て良いぞ」
「どんな病はわかりましたか?」
「さっぱりわからない。俺は薬学しか学んでないし、それも独学だ。俺の診察にも限界はある。独眼竜と呼ばれるようになったが、竜ほど能力も無い」
「そうですか......」
「一つ質問がある」
成実は服を着て、顔を上げた。「何でしょうか?」
「ぶっちゃけて尋ねるけど、本当に病気?」
暫しの沈黙があった。三十秒程度だったが、結構長く感じられた。その静寂を、成実の声が破った。
「私には病気かどうか判断出来ませんが、体調が優れていないのは本当です」
「そ、そうか。い、痛い部分はあるか?」
「体で痛いところですか......えっと右足の膝が痛いですかね」 「右足の膝? わかった」
俺は成実の右足の膝を手で触ったりして確認する。別に痛そうではないな。
「今日はここらで引き上げる。じゃあな、成実」
「若様も、お気を付けて」
部屋から出ると、廊下を走り抜けて小十郎に泣きついた。
「何で泣いてんだよ」
「成実の声が怖かったー」
成実に病気って嘘じゃないかって聞いた時、あいつの声が怖い。恐怖を感じた。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
信長の秘書
たも吉
歴史・時代
右筆(ゆうひつ)。
それは、武家の秘書役を行う文官のことである。
文章の代筆が本来の職務であったが、時代が進むにつれて公文書や記録の作成などを行い、事務官僚としての役目を担うようになった。
この物語は、とある男が武家に右筆として仕官し、無自覚に主家を動かし、戦国乱世を生き抜く物語である。
などと格好つけてしまいましたが、実際はただのゆる~いお話です。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる