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第三章『家督相続』
伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その参
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幽霊が来るか来るかと、小十郎と愛姫は目を大きく見開いて待ち構えた。すると、人影がすうっと通ったのだ。成実は小十郎と景頼に合図を出し、小刀を持った二人は人影に襲いかかった。しかし、ちょうど通りかかったただの家臣だった。が、その家臣は幽霊だと思って走って逃げていった。これで幽霊の噂がまた一つ増えたかもしれない。
四時間から五時間が経ち、もうすぐ陽が昇るから急いでそれぞれが寝床へと帰って行った。成実は幽霊が怖かったようで、脚を小刻みに震わせていた。景頼も感じからすると幽霊が駄目そうだが、今回は大丈夫だったようだ。
「眠い」
あくびをすると、体の力を抜いて寝た。
騒々しい音で目が覚めた。空を見上げてみると、正午くらいだということがわかった。走る音がずっと続いていて、寝癖を手で押さえて廊下に出た。
「おい、小十郎!」
廊下に小十郎がいたから、呼び止めた。
「どうしましたか、若様」
「何で騒がしいのだ?」
「伊達成実殿が倒れたのです!」
「成実がか? 何で?」
「何の病だ?」
「わかりません!」
小十郎に案内されて、成実が寝ている部屋に入った。成実は顔面蒼白になっていた。
「成実! 大丈夫か!?」
「わ、若様......」
「話さなくていい。完治するまで安静にしろ!」
「わかりました」
もしかしたら、成実は昨晩の寒さにやられたのか? 寒かったからな。
部屋を出ると、小十郎は周囲を見回して真剣な表情で話し出した。「もしかして成実は、昨日幽霊に憑かれたんじゃないか?」
幽霊に憑かれた? まさか、そんなことがあるわけない。ただ、戦国時代にだけ存在する病があるかもしれない。否定は出来ない。
「悪魔憑きってことか?」
「そんな感じだ。名坂ほど歴史にはくわしくないが、成実は幽霊に取り憑かれたのかも」
「本格的に調べてみるか?」
「幽霊調査?」
「ま、そんなもんかな」
前回の『祝福の病』に引き続いて、今回の騒動も『戦国時代の病』を掘り下げるのか。幽霊が成実に憑いたとして、調べようもない。成実の症状を調べて、実際の病気と照合するか。
薬は万能ではあるが、神の恩恵ではない。つまり、全能には及ばない。薬学だけじゃ解決出来なくなることもあるから、医学も学びたい。あわよくば戦国時代の医療を発展させてみたい。でも神の監視もあるから、神の使者の名目を踏み外せない。江渡弥平を倒すために平均寿命を上げる、なんて言えるわけがない。
やることは一つ。幽霊退治だ。
「よし、神辺。幽霊を退治するぞ」
小十郎は満面の笑みを浮かべ、会議を開くことを押し切った。俺と愛姫、小十郎と景頼の四人で集まり、三の丸に幽霊が現れる理由の考察を始めた。
景頼は米沢城の地図を眺めた。「三の丸から人を遠ざけたいから、という理由ではないのは確かでしょう。この戦国時代、幽霊の話しがあるならすぐに霊媒師とその他の大勢の人が三の丸に集まることになりますからね」
言われてみれば、景頼の言うとおりだな。
「ふむ。それもそうだ」
遠ざける、以外に考えられることと言えば......あとは引き寄せるということだな。引き寄せるのならば一番離れている本丸に用がある、のと同義だ。犯人は本丸に何かあるということだ。本丸で連想されることは、本丸御殿にいる輝宗。輝宗暗殺のために幽霊の噂を流したということか。
小十郎は景頼から地図を取って、地図に入っていない部分を指差した。「三の丸に引き寄せて、犯人は本丸にこっそりと行こうとしているかもしれんな。けど、僕は城下町だと思う」
犯人が本当に用があるのは、本丸ではなく城下町というのか。それもあるな。成実が病で倒れたのは、三の丸に人が集まるように幽霊に憑かれた実例が欲しかったのだろうか?
「神辺。もし犯人の狙いがこっそり城下町に行く目的なら、城下町に何の用があるんだ?」
「それは......」
俺の質問に、小十郎は慌てふためいた。身振り手振りで説明を試みていたが、言葉が出ていないので考えがまとまらなかったんだな。
家臣の誰かが城下町に用があったのだとしても、何の用かがわからない。城下町には米沢城に関係あるものはほとんどない。関係あるものが少ない分、何の用か絞りやすいが、城下町に米沢城と関係のあるものがあるか考えるのが面倒だ。全然思い出せない。それはあとで、じっくりと考えよう。
「政宗様。幽霊は、犯人が意図したものではないのではないでしょうか?」
愛姫が突飛なことを言った。
「えっと、犯人は幽霊の噂を流す気ではなかったけど、幽霊になっちゃったってこと?」
「はい。多分犯人は、夜な夜な三の丸で何かを探していたのだ思います」
「探し物か」
小十郎の考えよりは筋が通っているような......。まあ何を探していたかったって話しになるが、その方向性で調査してみよう。
景頼は自分の顎を撫でた。「三の丸で探し物をしていたとなると、落とした物ではないでしょう。財宝など、かなり以前から埋まっていた物だと思われます」
「埋蔵金ってことか!?」
米沢城に埋蔵金? まさか、そんなことがあるわけない。聞いたことないぞ。ただ、あり得るかもしれない。
四時間から五時間が経ち、もうすぐ陽が昇るから急いでそれぞれが寝床へと帰って行った。成実は幽霊が怖かったようで、脚を小刻みに震わせていた。景頼も感じからすると幽霊が駄目そうだが、今回は大丈夫だったようだ。
「眠い」
あくびをすると、体の力を抜いて寝た。
騒々しい音で目が覚めた。空を見上げてみると、正午くらいだということがわかった。走る音がずっと続いていて、寝癖を手で押さえて廊下に出た。
「おい、小十郎!」
廊下に小十郎がいたから、呼び止めた。
「どうしましたか、若様」
「何で騒がしいのだ?」
「伊達成実殿が倒れたのです!」
「成実がか? 何で?」
「何の病だ?」
「わかりません!」
小十郎に案内されて、成実が寝ている部屋に入った。成実は顔面蒼白になっていた。
「成実! 大丈夫か!?」
「わ、若様......」
「話さなくていい。完治するまで安静にしろ!」
「わかりました」
もしかしたら、成実は昨晩の寒さにやられたのか? 寒かったからな。
部屋を出ると、小十郎は周囲を見回して真剣な表情で話し出した。「もしかして成実は、昨日幽霊に憑かれたんじゃないか?」
幽霊に憑かれた? まさか、そんなことがあるわけない。ただ、戦国時代にだけ存在する病があるかもしれない。否定は出来ない。
「悪魔憑きってことか?」
「そんな感じだ。名坂ほど歴史にはくわしくないが、成実は幽霊に取り憑かれたのかも」
「本格的に調べてみるか?」
「幽霊調査?」
「ま、そんなもんかな」
前回の『祝福の病』に引き続いて、今回の騒動も『戦国時代の病』を掘り下げるのか。幽霊が成実に憑いたとして、調べようもない。成実の症状を調べて、実際の病気と照合するか。
薬は万能ではあるが、神の恩恵ではない。つまり、全能には及ばない。薬学だけじゃ解決出来なくなることもあるから、医学も学びたい。あわよくば戦国時代の医療を発展させてみたい。でも神の監視もあるから、神の使者の名目を踏み外せない。江渡弥平を倒すために平均寿命を上げる、なんて言えるわけがない。
やることは一つ。幽霊退治だ。
「よし、神辺。幽霊を退治するぞ」
小十郎は満面の笑みを浮かべ、会議を開くことを押し切った。俺と愛姫、小十郎と景頼の四人で集まり、三の丸に幽霊が現れる理由の考察を始めた。
景頼は米沢城の地図を眺めた。「三の丸から人を遠ざけたいから、という理由ではないのは確かでしょう。この戦国時代、幽霊の話しがあるならすぐに霊媒師とその他の大勢の人が三の丸に集まることになりますからね」
言われてみれば、景頼の言うとおりだな。
「ふむ。それもそうだ」
遠ざける、以外に考えられることと言えば......あとは引き寄せるということだな。引き寄せるのならば一番離れている本丸に用がある、のと同義だ。犯人は本丸に何かあるということだ。本丸で連想されることは、本丸御殿にいる輝宗。輝宗暗殺のために幽霊の噂を流したということか。
小十郎は景頼から地図を取って、地図に入っていない部分を指差した。「三の丸に引き寄せて、犯人は本丸にこっそりと行こうとしているかもしれんな。けど、僕は城下町だと思う」
犯人が本当に用があるのは、本丸ではなく城下町というのか。それもあるな。成実が病で倒れたのは、三の丸に人が集まるように幽霊に憑かれた実例が欲しかったのだろうか?
「神辺。もし犯人の狙いがこっそり城下町に行く目的なら、城下町に何の用があるんだ?」
「それは......」
俺の質問に、小十郎は慌てふためいた。身振り手振りで説明を試みていたが、言葉が出ていないので考えがまとまらなかったんだな。
家臣の誰かが城下町に用があったのだとしても、何の用かがわからない。城下町には米沢城に関係あるものはほとんどない。関係あるものが少ない分、何の用か絞りやすいが、城下町に米沢城と関係のあるものがあるか考えるのが面倒だ。全然思い出せない。それはあとで、じっくりと考えよう。
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「はい。多分犯人は、夜な夜な三の丸で何かを探していたのだ思います」
「探し物か」
小十郎の考えよりは筋が通っているような......。まあ何を探していたかったって話しになるが、その方向性で調査してみよう。
景頼は自分の顎を撫でた。「三の丸で探し物をしていたとなると、落とした物ではないでしょう。財宝など、かなり以前から埋まっていた物だと思われます」
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