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第二章『祝福の病』

伊達政宗、妻を助けるのは伊達じゃない その弐

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 俺は小瓶に入っていた植物を知るべく、草の図鑑を輝宗に頼んでおいた。じきに届く。
 家臣らに尋ねてはみたが、皆目わからない、と口を揃えて言っていた。この植物が、麻薬かもしれない可能性も考えた方がいい。
 それよりも、愛姫の病だ。どんな病なのかが未だにわからない。その病がまた、未知だったなら、その特効薬があるのかも不明だ。愛姫の体を丁寧に診ることが出来れば、病気が何かは判明する。だとしたら、愛姫が寝ている間に簡易検査をしてみよう。端から見たら、完全に変態に成り下がるがそれしか方法はない。歴史知識が全て無くなろうと、愛姫の病が治ることに全力を尽くす。力尽きて死のうとも、愛姫を守り助ける。この時代でのチートである未来の知識を利用して、何が何でも完治させる。
「ハァ、ハァ......名坂っ!」
「ん?」
 小十郎は息を切らせて部屋に駆け込んできた。
「どうした」
「景頼の保管する史料その他が、炎上した!!」
「はぁ!? どういうことだ!」
「とにかく、着いてこい!」
 小十郎の後を追っていくと、煙が上がっている場所に到着した。とある小屋なのだが、燃える小屋の前でどうにか火を消そうと景頼が苦悶くもんの表情を浮かべていた。
「景頼! 俺達も応戦する!」
 小十郎と俺、近くにいた成実、その他家臣が加わって火消しが行われた。完全に鎮火した頃に景頼が小屋の中を覗く。俺も景頼の後ろから覗いた。小屋の内部は焼け焦げていて、保管されていた史料などは原型をとどめていない。
「誰の陰謀だ!?」
 俺が叫び、続いて景頼もわーぎゃー騒ぎ立てた。
 史料、医学書いろいろ役に立っていた書物は何者かの手によって故意に火を着けられた。犯人の心当たりはある。チームから脱退(?)した景頼の持つ未来の書物が邪魔になってきた歴史改変計画の奴らだ。多分な。つまり、江渡弥平!
 史料も手放すことになり、俺は額に手を当ててため息をついた。
 後日、俺は輝宗に呼び出されて本丸御殿に足を踏み入れた。そこには、笑みを浮かべる輝宗の顔があった。
「政宗」
「どうしたんですか?」
「愛姫の体調が優れないと聞いた」
 なんだ、その件のことか。
「まあ、はい。具合が悪いようです」
「とっておきの奴を呼んだ。愛姫の体調も良くしてくれるだろう」
「誰ですか?」
「能力者。そう呼称した方が聞こえは良い」
 能力者か。ついに来た。安倍晴明あべのせいめいみたいな、かっちょ良いのが来る。それに、そいつなら治せるかもしれない。
「その方はいつ来るのですか?」
「六日後、ということにはなっている」
 六日も先か。その間に愛姫の体調が崩れたらどうすると言うのだ。何やってんだ、この輝宗は。大股のじじい。
 六日の間に、俺にも何かやることは出来そうだ。
 それから、俺は輝宗に届いた植物図鑑を確かめてみたが、小瓶に入っている植物はまったくわからなかった。ついでに、未知の植物がどのような気候で育つのか、その点についても調べてみた。だから、そこら辺の奴より気象にはくわしくなってしまった。といっても、戦国時代の気象学なので現代に比べたらくわしくはない。
 精神年齢50代にして、五日ぶっ続けで勉強をした。体は10代でも精神年齢が半世紀を超えていたら、かなり疲れる。学生の頃は元気はあったが、自分はもう歳なのだと自覚する。
 輝宗の言うところの能力者が偉そうに米沢城に入り、俺達と会話を交えた。口調からして、チャラい。いつも笑みを浮かべ、腕を組んでいる。なぜか鼻につく野郎だった。
「私の得意とするのは神に力を借り、借りた力を酷使するというものです。私自身に能力が備わっているわけではないのです。神の使者、とでも考えてくれれば結構ですね」
 ヘラヘラと笑いながら、能力者は言った。
 っていうか、俺も神の使者だし、能力が備わっていないなら能力者ではないじゃんかよ!
「失礼。私は何をすればいいかな?」
 輝宗は顎に手を当てて、人差し指で一回掻いた。「城下の井戸水が少なくなっているのだが、最近は日照りが多い。能力者の基本である雨乞いをしていただきたい」
「......良いでしょう。雨乞いは得意分野の一つですから」能力者は指を鳴らした。
 能力者、俺、輝宗の三人と名も無き家臣で外に出た。能力者は服を着替えて、雨乞いの姿勢となった。何度も何度も合掌がっしょうし、何かを叫んでいた。一時間もすれば、空からポツポツとしずくが降ってきた。雨だ。
「私は雨乞いが得意なのです」
 また能力者が言った。ちなみに、能力者には真壁まかべ河親かわちかという名前があるらしい。
 補足する。これは能力者が雨を降らせたわけではない。この雨乞いは、天気の状態を確認し雨が降りそうになった時に始まった。真壁は気象学に精通しているようだ。種も仕掛けもある雨乞いだ。実にくだらない。三日前にうろこ雲が空にあった時点で、俺も雨が降るだろうとは思っていたが......。こいつは能力を持っていない。期待外れだ。
 俺はアーティネスによって神の使者と認められた。なら、俺にも能力が使えるかもしれない。右手を天に向けて拡げ、雷をイメージした。そのためには雨雲。雨雲はあるから、雷の原理を考える。ただ頭を雷一色に染めた。途端に黒い色の雲が俺の頭上にのみ現れ、雨が激しくなり雷が落ちる。
 周囲から歓声が上がる。調子に乗って雷のイメージを強めると、その雷は俺に落ちた。その場に倒れ込む。
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