隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也

文字の大きさ
上 下
49 / 245
第二章『祝福の病』

伊達政宗、予防薬を飲ませるのは伊達じゃない その壱

しおりを挟む
 輝宗は険しい表情で、俺に任務を命じた。
「必ず城下町の者達に痘瘡の予防薬を飲ませるのだ!」
「わかりました! この政宗、絶対に任務を遂行させます!」
「頼むぞ!」
 本丸御殿から飛び出した俺は、直ちに小十郎と景頼、成実を集めた。お決まりのメンツがそろった。
 小十郎は疲れたから眠いらしい。彼には酷だが、伊達家の未来のために躍動やくどうしてもらう。民あっての国だからだ。
「他言無用だぞ、お前ら......」
 三人がうなずいたから、俺は痘瘡の感染者が近隣の国から複数人見つかったと伝えた。三人とも予想通り、目を丸くして唖然とした。
 景頼は顎に手を当てた。「若様。つまり、せめて米沢城城下町の者達には予防薬を配りたい、ということですか?」
「そうだ。バレずに城下の奴らに飲ませる」
 四人で方針を決めるために集めたのだが、俺を除く三人が放心状態になってしまった。これでは会議もうまく進まない。だからといって、簡単に解散も出来ない。
 俺は無理矢理飲ませても良いとは思っている。それで生きることが出来たのなら、城下の民は喜ぶはずだ。なのに、輝宗は首を縦には振らなかった。なんとも腑に落ちない。
 小十郎は単純なことを言った。「私達のいずれかが城下の商人に化けて、予防薬を配ればいいのではないですか?」
「商人に化けて予防薬が配れるなら困ったことはない。問題は、何の病の予防薬と言うか、だ」
「痘瘡とは言えないのですか?」
「俺が創った痘瘡の予防薬では乳児が死んだ。痘瘡の予防薬って言ったら怪しむだろ?」
「なら、城下町の上から予防薬をばら撒いては?」
「予防薬を水に溶かしてばら撒く、ということか?」
「はい」
 実行するかしないか少し考えたが、そういう強引な方法は最終手段とした。輝宗もそんなやり方は認めない。
 成実は論理的な結論を出した。井戸に予防薬を溶かし、その井戸の水を城下町の者が飲めばいいと言っている。確かに、井戸水に予防薬を入れれば必ず城下町の者が飲む。忍者も、井戸水に毒を入れて大勢殺したりもする。俺はその意見を取り入れようとしたのだが、景頼は否定した。俺はなぜだ、と尋ねてみた。
「若様が創った予防薬は完璧に水に融解はしません。井戸水に異物が入っていたら不自然です」
「確かに、そうだな」
 俺の創った予防薬は馬痘に感染した者に出来た膿を取って完成させたものだ。水に溶かしても不純物が混ざるし、水の味も苦くなってしまう。ということは、食物などに予防薬を混入させることは難しいのだ。すごく厄介になってきた。
 どのように予防薬を飲ませるかは、実際は問題ということではないのだ。今回の件で、もし失敗をしてしまえば輝宗からの信頼度は急激に低下する。そうなれば伊達家の家督を継ぐことは不可能。失敗は許されない。
 この事件で重要なことは城下町の者に予防薬を飲ませることではなく、米沢城周辺に天然痘感染者を出さないことだ。それさえ出来れば、信頼が無くなることはない。伊達政宗の行く末を左右させる分岐点だ。ここは、数々の手段を慎重に吟味していかないと判断を見誤る。
 首筋に垂れた汗を、指先で拭き取った。
「まずは苦さ。痘瘡の予防薬の、苦さを克服する。俺は予防薬の改良に努めてみる」
 部屋に帰った俺は、予防薬を甘くするために頭を悩ませた。それと、城下町の人数分の予防薬を生産すること。
 薬を保管しているのはつぼだ。予防薬は大量に生産しないといけないから、馬痘のウイルスの量産も必要になる。まあ、牛の体内で馬痘ウイルスを繁殖させるように牛丸に命令してあるから大丈夫だ。壺は底が深くしてあり、大量の馬痘の膿を貯蔵することも可能。準備は着々と進んでいる。
「薬を甘くするには」
 独り言を重ね、ようやく薬を甘くする方法を思いついた。約二日を要したが、予防薬を甘くさせることには成功した。その予防薬を壺の中に移し、飲ませるためにはどうするのか考えを巡らせる。井戸水に溶かすのは名案だけど、予防薬を甘くさせる加工が剥がれることもあり得る。異物も完全に水には溶け込まない。なら、どうすればいいのか。
 頭を掻きむしり、書物を床に落として蹴り飛ばした。右足の指先がジンジン痛くなり、しゃがみ込んで足を押さえる。すると、部屋に誰かが入ってきた。
「若様」
「牛丸か。どうした?」
「牛の体内での馬痘ウイルスの繁殖は、若様の予想通り成功しました」
「そうか。牛から膿を採取して、出来るだけ多くこの部屋に運んでこい」
「承知しました。あ、お屋形様から伺ったのですが、城下町の者に天然痘の予防薬を配るらしいですね」
「ああ、そうだが?」
「私が指揮する未来人衆をお貸ししましょうか?」
「良いのか!?」
「ええ。若様が助けてくださらなければ、我々未来人は今生きてはいません。喜んで力を貸します」
「では、協力してもらう」
 牛丸は笑みを浮かべ、右手で拳を握って胸を叩いた。予防薬を配るための人数は結構集まった。百数人いれば十分だ。輝宗の要望は、あと二日以内に城下町に予防薬を渡さないといけないのだ。俺は口元をキュッと締めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...