隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也

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第二章『祝福の病』

伊達政宗、薬を創るのは伊達じゃない その肆

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「失礼ですが、名前を教えてください」
「僕の名前はシャーロック・ホームズ。ロンドン在住だった。ある方から強制的にここに転移させられた」
 シャーロック・ホームズ!? 小説の人物じゃん。なら、あの方ってアーティネスか。多分、シャーロック・ホームズが実在する世界もあるのだろう。彼は異世界から来た人間ということか。が、決めつけるのはよくない。アーティネスかどうか、一応尋ねてみよう。
「あの方、とは?」
「あの方ってのはアーティネス。アーティネスという神が、異世界の使者になれっていってここに僕を転移させた。使者といってもたった一ヶ月間。『伊達ダテ政宗マサムネ』という少年に、薬について指南するだけの仕事のようだ。君が伊達政宗?」
「まあ、はい」
「OK。薬のことをいろいろと教えるよ」
「ありがとうございます」
 アーティネスは俺のためにシャーロック・ホームズを異世界から連れ出したのか。すごい頑張りだな。
 その後、一ヶ月たっぷりとホームズから薬の知識を得た。戦国時代より進んだ医療に出会うことが出来たのだ。そして、天然痘の対策をも知ることに成功した。
 馬痘という馬の天然痘があり、それは人間にも感染はするが症状が軽度だという。その馬痘に感染していれば、天然痘にも感染はしない。
 アーティネスとホームズには感謝しなくてはならない。ホームズは俺に知識を与えてくれた。ホームズに教わった一ヶ月の間で、小十郎と景頼は愛姫の症状がわかってきた。食欲不振、吐き気、嘔吐、めまい、立ちくらみ、眠気などだ。この症状を知った成実は結論を出した。
「若様。愛姫様の症状はアヘンと酷似しています」
「アヘンだと!?」
 アヘン。ホームズから教わった麻薬だ。ケシの実の果汁を乾燥させたもので、一度服用したら中断することは難しい。愛姫がアヘンを摂取しているなら、症状が回復するのは困難だ。
 小十郎は首を傾げた。「アヘンを使用しているとなれば、どこか体に痛い部分があるのではないですか?」
「そのためにアヘンを使っていることも考えられるか......」
 四人で会議した結果、嗅覚を癒やしてはどうかということになった。つまり、現代で言う『アロマ』を作るということだ。葉や花をガラスの小瓶に詰めて、良い香りを作ってみた。アロマといえば、全然違う。まったくの別物だ。だが、香りはまあまあ良いから良しとしよう。それを右手で握りしめ、愛姫の元まで向かった。
「愛姫」
「政宗様。どういたしましたか?」
「良い香りのする葉とか花を小瓶に詰めたから、まあ、使ってみて」
「あ、はい。......わかりました」
 愛姫は恐る恐る、その小瓶を受け取った。これで症状が治っていけばいいのだが、そんなんで治ったら医者はいらねぇ。毎日愛姫の状態を確認しないとならない。もし、アヘンを使っているならやめさせるのは難しい。どうにかして症状を軽減させたいものだが......。
 俺達四人は日夜会議を重ね、愛姫の病について改善策を打ち出していった。四日ほとんど寝てなかった俺は、布団に入るなり眠り、遅い時間起きた。
「寝過ぎた!」
 机に向き合い、ホームズに教わった天然痘の予防に使える馬痘の研究を始めた。馬痘の膿は人から採取した。その膿を食べさせて馬痘に感染させると、ホームズから学んだ。この膿を、これから取り組む天然痘予防新薬にうまく使うというわけだ。粉薬にするから、焼いて粉砕させればいいのだ。
 数日後、試作品となる天然痘予防新薬を完成させた。治験をするために、成実にお願いしてみた。
「成実。天然痘予防の新薬を作った。治験を行いたいから、実験台になってくれるか?」
「若様の願いとあらば、この身を捧げます!」
 俺は成実に粉末状にした馬痘の膿を手渡した。それを口に放り込み、水を飲んでいった。
「どうだ?」
「この薬は、まずいです......」
「ああ、そうか。味か」
 薬の味のことを完璧に忘れていた。さすがに馬痘の膿だけではまずいのも当然か。改良の余地はありそうだ。
「これから毎日、成実の体の状態を確認する。いいか?」
「はい、わかりました!」
 馬痘の膿の粉末を甘く、美味しくするためには何を混ぜるとよいのだろうか。それからも試行錯誤は続いた。ただ、やっぱり一番しっくりきたのはハチミツだ。現代人なら誰しも薬とハチミツを混ぜて食したことはあるだろ? それを試してみたところ、成実はうまいと言っていた。これだ、と思って正式に養蜂家と契約を結んで、輝宗に申し出て伊達家家臣限定で治験もした。かなり美味しく、そして天然痘の予防に効くならすごい、と評判は高かった。
 今回の天然痘予防の新薬のように画期的な薬は門外不出の秘伝の薬として一門がレシピを保管する。ただ、輝宗はクズではなかった。天然痘による死亡率を下げるためには全国に行き届くように新薬を配ることが必要だと、輝宗は身を乗り出して話していた。俺もそれに賛成し、全国に展開しようとした矢先に報が流れた。その報は、天然痘予防新薬では乳児が死亡してしまうというものだ。しまった、と思った。常識過ぎて抜け落ちていたが、乳児はハチミツが駄目だったのだ。幸い伊達家家臣への治験の時だったから良かったが、その一件で天然痘予防新薬の信頼はガクンと右肩下がりである。
 こうなってしまえば、ハチミツのせいとも言えない。新薬を信じる者は消え去った。
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