46 / 245
第二章『祝福の病』
伊達政宗、薬を創るのは伊達じゃない その参
しおりを挟む
俺は大急ぎで、料理人が鍋に投入した毒を用意させた。その毒を小さく切った。翌日、重臣がお腹を押さえて部屋を訪ねてきた。俺は小切りにした毒を皿に出して、机に置いた。
「これは?」
「食べてみてください」
「......」
重臣はパクリと食べてみた。
「どうです? 料理人が作った鍋の中に、この味と同じものが入っていませんでしたか?」
「入っていた。キノコだよ! あのキノコはうまかったんだ!」
「今食べていたキノコは『テングタケ』です。毒キノコですが、かなり美味しい成分も入っています。テングタケを目当てにキノコを探す者もいます。確かに美味しいキノコですが、食べると嘔吐や腹痛になります。少し酔った感じにもなるのですよ。料理人が作った鍋にはテングタケが入っていたのでしょう。テングタケは料理人がおすすめするのもわかる美味しさです」
「今私は毒を食べたのかっ!」
「あのくらい小切りにしたら症状は酷くはなりませんよ。安心してください」
「どうしたら治る?」
「放置したら、少しずつ治っていくはずです。一応、痛み止めに『ハマゴウ』を、吐き気止めに『ハス』を渡しておきましょう」
ハマゴウもハスも薬草だ。ハマゴウもハスも果実を使う。ハマゴウは解熱や痛み止めに最適で、ハスは吐き気をおさえるのに使用する。薬学書に載っていた。
「ありがとうございます」
「いえ」
重臣は薬草を持って立ち去っていった。表情は嬉しそうだった。いやー、良い仕事をしたな。これでまた一人を救ったのだ。
笑顔で飯を食い始めると、以前から気になっていることに目を向けてみた。我が正室・愛姫の具合が悪そうなのだ。食べ物を前にしても、まったく食べようとはしていない。食欲不振。
「大丈夫か、愛姫?」
「ええ、大丈夫です」
それに、なんだが彼女の様子が以前と違う。俺を他人のように扱うのだ。別に、まったくの他人というわけでもないのに、なぜか会話が他人としているような、何とも言えない感じになっている。すごくモヤモヤしていて、不安だ。
「本当に大丈夫なのか!?」
「大丈夫です。少し食欲が湧かないだけなんです」
「そ、そうなのか? 辛かったらいつでも言っていいんだぞ」
「はい、わかりました」
愛姫の容態が急変した場合に備えて、薬などを準備しておいた方が良さそうだ。そのためには、愛姫の病気を調べる必要がある。俺は小十郎と景頼、成実を招集した。
「よく集まってくれたな」
成実は真剣な目差しで俺を見上げた。「若様。なぜ、愛姫様の身辺調査をするのですか?」
「体調が優れていないようだ。だが、彼女は何も話してくれていない。だから、調べて病気を知りたいのだ」
「さすが若様です」
「妻が倒れたら、ショックで俺が倒れるかもしれない。愛姫は私の生涯のパートナーなのだ」
小十郎と景頼は愛姫の容態を調べ、成実は容態から病気を推理するという分担で身辺調査が開始した。俺は本格的に病気のことを勉強するために、また輝宗に道具一式の調達を頼んだ。届いた書物を受け取り、部屋に籠もり、戦国時代の様々な病気を独学で身につけていった。
戦国時代に挙げられる重篤になる病気としては、一番有名なのは『天然痘』だ。この時代では『痘瘡』と呼ぶのが適切だろう。激しい発熱、頭痛、悪寒などで発症すると記載されている。体全体に発疹が広がり、かさぶたを残して消えていく。あばたが生涯永劫で残る奴もいる。戦国時代の例だと、豊臣秀頼だったっけ?
それより、何で俺は天然痘にならなかったのか? この天然痘の対策も考えなくてはならない。薬学書、病理学書を開いて、腕を組んで試行錯誤した。
「天然痘の予防方法はあるのか!?」
指を猛スピードで動かして、ページをめくっていった。各ページの一から十までの文章をものすごい形相で睨みながら、丁寧に読み込んでいく。今必要な情報の書かれた文章を見つけるのに、あまり時間はかからなかった。天然痘への予防対策はない。くそ難病じゃねぇか!
ため息をもらして、書物を閉じた。そんな折に報が入った。米沢城に異人が訪れたらしい。現在は輝宗が対応中で、俺にも呼び出しがあった。俺は急いで客間まで出向いた。異人は椅子にもたれ座り、テーブルに並べられた食べ物を口にしていた。
「父上、参りました」
「よく来た、政宗。この方はイギリスの方なのだ。少し、話してみてくれ。英語は得意だろ?」
「わかりました」
以下、イギリス人と俺の会話は英語で行われたが、日本語に訳して記すことにする。
「初めまして、私はこの城の主の嫡男の政宗と申します」
「ふむ」
「あなたの名前を聞かせてください」
「ここはどこだ? 西暦何年だ?」
「記憶がないのですか!?」
俺が日本国だと伝えようとすると、彼は周囲を見回してから口を開いた。「西暦700年、800年から西暦1600年の間くらいで、国は欧米ではないし日本国だな」
「記憶を思い出したのですか?」
「いいや、初歩的な理屈を使って複雑そうに見せているだけの単純な推理だよ」
「?」
「廊下の壁にはヨーロッパの絵画が飾られていた。描かれていた女性はティーカップのお茶をソーサーに移して飲んでいる。
ヨーロッパにお茶を飲む習慣が出来たのは1600年代初頭で、その頃のティーカップは取っ手がないからお茶が熱くて持てず、ソーサーに移して飲んでいて、ソーサーには液体を溜める溝があった。絵画で描かれているソーサーには溝がないから、ティーカップが広まってすぐのものだとわかる。それは1600年初め頃だから、今は1600年より前だという推理が成り立つ。
周囲を見回すと、ティーカップはなく湯飲みがあり、箸などもあった。中国かとは考えたが、テーブルマナーでピンときた。食べ終わる前に飯に汁を必ず全員がかけていた。これは日本国の戦国時代の、ごちそうさま、の礼儀だ。
日本国とわかれば、湯飲みが日本国に伝わったのは西暦700年くらいからだから時代は絞り込めたわけだな」
一理も二理も通った推理だった。ちなみに、廊下に飾られたヨーロッパの絵は、日本を訪ねた欧米人の話しを聞いて忠実に書いた絵である。輝宗が、欧米にも負けんようにせなあかん、などと言ったからあの絵画が用意された。
「面白い推理をしますね。ここは日本国。西暦1581年です」
話しぶりからして、奴も未来人の可能性がある。
「これは?」
「食べてみてください」
「......」
重臣はパクリと食べてみた。
「どうです? 料理人が作った鍋の中に、この味と同じものが入っていませんでしたか?」
「入っていた。キノコだよ! あのキノコはうまかったんだ!」
「今食べていたキノコは『テングタケ』です。毒キノコですが、かなり美味しい成分も入っています。テングタケを目当てにキノコを探す者もいます。確かに美味しいキノコですが、食べると嘔吐や腹痛になります。少し酔った感じにもなるのですよ。料理人が作った鍋にはテングタケが入っていたのでしょう。テングタケは料理人がおすすめするのもわかる美味しさです」
「今私は毒を食べたのかっ!」
「あのくらい小切りにしたら症状は酷くはなりませんよ。安心してください」
「どうしたら治る?」
「放置したら、少しずつ治っていくはずです。一応、痛み止めに『ハマゴウ』を、吐き気止めに『ハス』を渡しておきましょう」
ハマゴウもハスも薬草だ。ハマゴウもハスも果実を使う。ハマゴウは解熱や痛み止めに最適で、ハスは吐き気をおさえるのに使用する。薬学書に載っていた。
「ありがとうございます」
「いえ」
重臣は薬草を持って立ち去っていった。表情は嬉しそうだった。いやー、良い仕事をしたな。これでまた一人を救ったのだ。
笑顔で飯を食い始めると、以前から気になっていることに目を向けてみた。我が正室・愛姫の具合が悪そうなのだ。食べ物を前にしても、まったく食べようとはしていない。食欲不振。
「大丈夫か、愛姫?」
「ええ、大丈夫です」
それに、なんだが彼女の様子が以前と違う。俺を他人のように扱うのだ。別に、まったくの他人というわけでもないのに、なぜか会話が他人としているような、何とも言えない感じになっている。すごくモヤモヤしていて、不安だ。
「本当に大丈夫なのか!?」
「大丈夫です。少し食欲が湧かないだけなんです」
「そ、そうなのか? 辛かったらいつでも言っていいんだぞ」
「はい、わかりました」
愛姫の容態が急変した場合に備えて、薬などを準備しておいた方が良さそうだ。そのためには、愛姫の病気を調べる必要がある。俺は小十郎と景頼、成実を招集した。
「よく集まってくれたな」
成実は真剣な目差しで俺を見上げた。「若様。なぜ、愛姫様の身辺調査をするのですか?」
「体調が優れていないようだ。だが、彼女は何も話してくれていない。だから、調べて病気を知りたいのだ」
「さすが若様です」
「妻が倒れたら、ショックで俺が倒れるかもしれない。愛姫は私の生涯のパートナーなのだ」
小十郎と景頼は愛姫の容態を調べ、成実は容態から病気を推理するという分担で身辺調査が開始した。俺は本格的に病気のことを勉強するために、また輝宗に道具一式の調達を頼んだ。届いた書物を受け取り、部屋に籠もり、戦国時代の様々な病気を独学で身につけていった。
戦国時代に挙げられる重篤になる病気としては、一番有名なのは『天然痘』だ。この時代では『痘瘡』と呼ぶのが適切だろう。激しい発熱、頭痛、悪寒などで発症すると記載されている。体全体に発疹が広がり、かさぶたを残して消えていく。あばたが生涯永劫で残る奴もいる。戦国時代の例だと、豊臣秀頼だったっけ?
それより、何で俺は天然痘にならなかったのか? この天然痘の対策も考えなくてはならない。薬学書、病理学書を開いて、腕を組んで試行錯誤した。
「天然痘の予防方法はあるのか!?」
指を猛スピードで動かして、ページをめくっていった。各ページの一から十までの文章をものすごい形相で睨みながら、丁寧に読み込んでいく。今必要な情報の書かれた文章を見つけるのに、あまり時間はかからなかった。天然痘への予防対策はない。くそ難病じゃねぇか!
ため息をもらして、書物を閉じた。そんな折に報が入った。米沢城に異人が訪れたらしい。現在は輝宗が対応中で、俺にも呼び出しがあった。俺は急いで客間まで出向いた。異人は椅子にもたれ座り、テーブルに並べられた食べ物を口にしていた。
「父上、参りました」
「よく来た、政宗。この方はイギリスの方なのだ。少し、話してみてくれ。英語は得意だろ?」
「わかりました」
以下、イギリス人と俺の会話は英語で行われたが、日本語に訳して記すことにする。
「初めまして、私はこの城の主の嫡男の政宗と申します」
「ふむ」
「あなたの名前を聞かせてください」
「ここはどこだ? 西暦何年だ?」
「記憶がないのですか!?」
俺が日本国だと伝えようとすると、彼は周囲を見回してから口を開いた。「西暦700年、800年から西暦1600年の間くらいで、国は欧米ではないし日本国だな」
「記憶を思い出したのですか?」
「いいや、初歩的な理屈を使って複雑そうに見せているだけの単純な推理だよ」
「?」
「廊下の壁にはヨーロッパの絵画が飾られていた。描かれていた女性はティーカップのお茶をソーサーに移して飲んでいる。
ヨーロッパにお茶を飲む習慣が出来たのは1600年代初頭で、その頃のティーカップは取っ手がないからお茶が熱くて持てず、ソーサーに移して飲んでいて、ソーサーには液体を溜める溝があった。絵画で描かれているソーサーには溝がないから、ティーカップが広まってすぐのものだとわかる。それは1600年初め頃だから、今は1600年より前だという推理が成り立つ。
周囲を見回すと、ティーカップはなく湯飲みがあり、箸などもあった。中国かとは考えたが、テーブルマナーでピンときた。食べ終わる前に飯に汁を必ず全員がかけていた。これは日本国の戦国時代の、ごちそうさま、の礼儀だ。
日本国とわかれば、湯飲みが日本国に伝わったのは西暦700年くらいからだから時代は絞り込めたわけだな」
一理も二理も通った推理だった。ちなみに、廊下に飾られたヨーロッパの絵は、日本を訪ねた欧米人の話しを聞いて忠実に書いた絵である。輝宗が、欧米にも負けんようにせなあかん、などと言ったからあの絵画が用意された。
「面白い推理をしますね。ここは日本国。西暦1581年です」
話しぶりからして、奴も未来人の可能性がある。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
おれは忍者の子孫
メバ
ファンタジー
鈴木 重清(しげきよ)は中学に入学し、ひょんなことから社会科研究部の説明会に、親友の聡太(そうた)とともに参加することに。
しかし社会科研究部とは世を忍ぶ仮の姿。そこは、忍者を養成する忍者部だった!
勢いで忍者部に入部した重清は忍者だけが使える力、忍力で黒猫のプレッソを具現化し、晴れて忍者に。
しかし正式な忍者部入部のための試験に挑む重清は、同じく忍者部に入部した同級生達が次々に試験をクリアしていくなか、1人出遅れていた。
思い悩む重清は、祖母の元を訪れ、そこで自身が忍者の子孫であるという事実と、祖母と試験中に他界した祖父も忍者であったことを聞かされる。
忍者の血を引く重清は、無事正式に忍者となることがでにるのか。そして彼は何を目指し、どう成長していくのか!?
これは忍者の血を引く普通の少年が、ドタバタ過ごしながらも少しずつ成長していく物語。
初投稿のため、たくさんの突っ込みどころがあるかと思いますが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる