45 / 245
第二章『祝福の病』
伊達政宗、薬を創るのは伊達じゃない その弐
しおりを挟む
出来上がったカツラは、小十郎にサプライズプレゼントすることにしよう。何はともあれ、カツラを作っている間に薬学の書物が輝宗の元に届いたようだ。
「父上」
「おぉ、政宗。お前が注文した薬学書が届いた」
「ありがとうございます。ありがたく、使わせていただきます」
「うむ」
輝宗から薬学書を受け取り、部屋に帰ってページをめくった。ページごとに面白いことが載っている。その中でも、試したくなる内容の一文があった。
『馬銭の実をひとつまみ、犬にやればたちまちその場に倒れ込む。』
マチンとは植物らしい。ふむ、犬にあげれば気絶するのか。楽しそうだから、家臣に無理矢理調達させた。毒はストリキニーネ。アガサ・クリスティーの小説に登場したあれである。
犬を用意し、マチンの実を犬にあげてみた。犬は嬉しそうに実を頬張り、その場で横たわった。数分で起き上がると、唖然とした表情で歩き回っていた。マチンには気絶させる効果が十分ある。
薬学書を入手してから、その内容をかなり実験してみたりした。それがかなり面白く、薬学にハマる第一歩となった。薬学書を手に入れた当日はまずは小十郎が訪ねてきた。
「名坂。薬学書に抜け毛対策が載ってたか?」
「残念だが......」
薬学書には抜け毛対策について掲載はされてなかった。誰しもが当然だとは言うだろうが......。
「でも安心しろ。ほらっ!」
俺は小十郎に、作ったカツラを見せた。小十郎は嫌な顔にはなったが、現段階ではカツラしか対策方法がないから唇を噛みながらカツラを受け取った。
「絶対似合うぞ」
「馬鹿にしているのか?」
「いや、してないしてない」
小十郎は、カツラをかぶったことで一安心はしていた。俺も良い仕事をしたな、と実感した。
薬学書といっても薬や薬草だけが書かれているわけではなかった。ちゃんと、戦で負った刀傷なんかの治療法も記載されていた。それによると、まずは傷口を蒸留酒で洗うのだそうだ。それから、ヤシの油を塗って、傷口を縫って、また蒸留酒で洗う。卵の白身をヤシの油で練って作った軟膏を包帯に塗ると、その包帯で傷口を巻く。何もやらないよりはマシではあるが、現代医療に比べたらお粗末な処置と言うしかなかろう。
薬学書を読んでから、周囲の体調の悪い者の容態が気になるようになった。そのお陰で小十郎の抜け毛の原因もはっきりとわかった。
「神辺。お前、もしかして皮膚とか炎症してないか?」
「してるけど、どうして?」
「それが抜け毛の原因かもしれない。最近、葉っぱを食べなかったか?」
「食べた。薬売りの奴からすすめられたんだ」
「そういうことか」
「は? どゆこと?」
「薬売りは忍者が化けている可能性が高い。その忍者にオトギリソウを食わされたのか」
「くわしく説明しろ」
「おっと、わかったわかった。お前が食べた葉っぱは、黒い斑点がなかったか?」
「あったな、斑点」
「なら、その葉っぱは『オトギリソウ』だ。薬草なんだが、ヒペリジンが多いんだとさ。紫外線を強く吸収するから、食べてから日光に当たると皮膚が炎症を起こして脱毛することがあるらしい」
「治るのか?」
「オトギリソウの成分を体から出しきれば治るんじゃないか?」
「それならよかった!」
小十郎の抜け毛は徐々に治まっていき、カツラを付けなくても大丈夫になった。薬学書も有用だということが改めてわかってきた。
オトギリソウ。漢字にすると『弟切草』。オトギリソウで傷が癒えることを知っていた鷹匠には弟がいて、そいつが勝手にオトギリソウの効果を広めてしまい、激怒した兄は弟を殺したことから弟切草と名付けられた。葉にある黒い斑点は、弟の血とのこと。信じられない。
薬学の知識もどんどんついていき、怪我を負った者が治療してほしいと来ることも増えてきた。ちょうど今、患者を診察していた。患者は伊達家重臣の一人だ。
「体調はどうですか?」
「ええと......お酒も飲んでもないのに、酔っちゃて......。吐いたり、お腹が痛くなったりしてます」
「いつからですか?」
「き、昨日です」
「何か服用、または食べたりしましたか?」
「おかしなものは食べてないです」
「強いて言うなら?」
「料理人のおすすめ、という料理を食べました。いやぁ、あれは非常にうまかった」
「料理人のおすすめ? どんな料理でしたか?」
「鍋でしたよ」
鍋。うまい料理。料理人のおすすめ。腹痛、嘔吐。普通に考えたら、その鍋に毒が盛られていたのが妥当か。犯人は料理人かもしれない。
「鍋の内容物は何でしたか?」
「野菜、山草、キノコ、肉だったかなぁ」
「なるほど」
毒を盛られたのなら、その毒は何なのか。腹痛と嘔吐程度の症状の毒なら、いろいろなものがある。もっと絞り込みたいが、重臣ということもあるから丁重に扱なければなるまい。ズバズバと尋ねることは出来ない。
「経過を診ましょう。明日、また来てください」
「はい、わかりました」
診察に使っている部屋から重臣が去って、俺は考えられる全ての可能性を思案した。薬学書には載っていなかったから、景頼の保管する医学書もパラパラとめくって、ざっと読んでいった。その医学書には、重臣が食べたのではないかと思われる毒がわかった。その毒の正体は、料理人が鍋に入れたであろうものだった。
「父上」
「おぉ、政宗。お前が注文した薬学書が届いた」
「ありがとうございます。ありがたく、使わせていただきます」
「うむ」
輝宗から薬学書を受け取り、部屋に帰ってページをめくった。ページごとに面白いことが載っている。その中でも、試したくなる内容の一文があった。
『馬銭の実をひとつまみ、犬にやればたちまちその場に倒れ込む。』
マチンとは植物らしい。ふむ、犬にあげれば気絶するのか。楽しそうだから、家臣に無理矢理調達させた。毒はストリキニーネ。アガサ・クリスティーの小説に登場したあれである。
犬を用意し、マチンの実を犬にあげてみた。犬は嬉しそうに実を頬張り、その場で横たわった。数分で起き上がると、唖然とした表情で歩き回っていた。マチンには気絶させる効果が十分ある。
薬学書を入手してから、その内容をかなり実験してみたりした。それがかなり面白く、薬学にハマる第一歩となった。薬学書を手に入れた当日はまずは小十郎が訪ねてきた。
「名坂。薬学書に抜け毛対策が載ってたか?」
「残念だが......」
薬学書には抜け毛対策について掲載はされてなかった。誰しもが当然だとは言うだろうが......。
「でも安心しろ。ほらっ!」
俺は小十郎に、作ったカツラを見せた。小十郎は嫌な顔にはなったが、現段階ではカツラしか対策方法がないから唇を噛みながらカツラを受け取った。
「絶対似合うぞ」
「馬鹿にしているのか?」
「いや、してないしてない」
小十郎は、カツラをかぶったことで一安心はしていた。俺も良い仕事をしたな、と実感した。
薬学書といっても薬や薬草だけが書かれているわけではなかった。ちゃんと、戦で負った刀傷なんかの治療法も記載されていた。それによると、まずは傷口を蒸留酒で洗うのだそうだ。それから、ヤシの油を塗って、傷口を縫って、また蒸留酒で洗う。卵の白身をヤシの油で練って作った軟膏を包帯に塗ると、その包帯で傷口を巻く。何もやらないよりはマシではあるが、現代医療に比べたらお粗末な処置と言うしかなかろう。
薬学書を読んでから、周囲の体調の悪い者の容態が気になるようになった。そのお陰で小十郎の抜け毛の原因もはっきりとわかった。
「神辺。お前、もしかして皮膚とか炎症してないか?」
「してるけど、どうして?」
「それが抜け毛の原因かもしれない。最近、葉っぱを食べなかったか?」
「食べた。薬売りの奴からすすめられたんだ」
「そういうことか」
「は? どゆこと?」
「薬売りは忍者が化けている可能性が高い。その忍者にオトギリソウを食わされたのか」
「くわしく説明しろ」
「おっと、わかったわかった。お前が食べた葉っぱは、黒い斑点がなかったか?」
「あったな、斑点」
「なら、その葉っぱは『オトギリソウ』だ。薬草なんだが、ヒペリジンが多いんだとさ。紫外線を強く吸収するから、食べてから日光に当たると皮膚が炎症を起こして脱毛することがあるらしい」
「治るのか?」
「オトギリソウの成分を体から出しきれば治るんじゃないか?」
「それならよかった!」
小十郎の抜け毛は徐々に治まっていき、カツラを付けなくても大丈夫になった。薬学書も有用だということが改めてわかってきた。
オトギリソウ。漢字にすると『弟切草』。オトギリソウで傷が癒えることを知っていた鷹匠には弟がいて、そいつが勝手にオトギリソウの効果を広めてしまい、激怒した兄は弟を殺したことから弟切草と名付けられた。葉にある黒い斑点は、弟の血とのこと。信じられない。
薬学の知識もどんどんついていき、怪我を負った者が治療してほしいと来ることも増えてきた。ちょうど今、患者を診察していた。患者は伊達家重臣の一人だ。
「体調はどうですか?」
「ええと......お酒も飲んでもないのに、酔っちゃて......。吐いたり、お腹が痛くなったりしてます」
「いつからですか?」
「き、昨日です」
「何か服用、または食べたりしましたか?」
「おかしなものは食べてないです」
「強いて言うなら?」
「料理人のおすすめ、という料理を食べました。いやぁ、あれは非常にうまかった」
「料理人のおすすめ? どんな料理でしたか?」
「鍋でしたよ」
鍋。うまい料理。料理人のおすすめ。腹痛、嘔吐。普通に考えたら、その鍋に毒が盛られていたのが妥当か。犯人は料理人かもしれない。
「鍋の内容物は何でしたか?」
「野菜、山草、キノコ、肉だったかなぁ」
「なるほど」
毒を盛られたのなら、その毒は何なのか。腹痛と嘔吐程度の症状の毒なら、いろいろなものがある。もっと絞り込みたいが、重臣ということもあるから丁重に扱なければなるまい。ズバズバと尋ねることは出来ない。
「経過を診ましょう。明日、また来てください」
「はい、わかりました」
診察に使っている部屋から重臣が去って、俺は考えられる全ての可能性を思案した。薬学書には載っていなかったから、景頼の保管する医学書もパラパラとめくって、ざっと読んでいった。その医学書には、重臣が食べたのではないかと思われる毒がわかった。その毒の正体は、料理人が鍋に入れたであろうものだった。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
おれは忍者の子孫
メバ
ファンタジー
鈴木 重清(しげきよ)は中学に入学し、ひょんなことから社会科研究部の説明会に、親友の聡太(そうた)とともに参加することに。
しかし社会科研究部とは世を忍ぶ仮の姿。そこは、忍者を養成する忍者部だった!
勢いで忍者部に入部した重清は忍者だけが使える力、忍力で黒猫のプレッソを具現化し、晴れて忍者に。
しかし正式な忍者部入部のための試験に挑む重清は、同じく忍者部に入部した同級生達が次々に試験をクリアしていくなか、1人出遅れていた。
思い悩む重清は、祖母の元を訪れ、そこで自身が忍者の子孫であるという事実と、祖母と試験中に他界した祖父も忍者であったことを聞かされる。
忍者の血を引く重清は、無事正式に忍者となることがでにるのか。そして彼は何を目指し、どう成長していくのか!?
これは忍者の血を引く普通の少年が、ドタバタ過ごしながらも少しずつ成長していく物語。
初投稿のため、たくさんの突っ込みどころがあるかと思いますが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
天冥聖戦 伝説への軌跡
くらまゆうき
ファンタジー
あらすじ
狐の神族にはどんな過去があって人に封印されたのか?
もはや世界の誰からも忘れられた男となった狐神はどうにかして人の体から出ようとするが、思いもよらぬ展開へと発展していく…
消えている過去の記憶を追い求めながら彼が感じた事は戦争のない世界を作りたい。
シーズンを重ねるごとに解き明かされていく狐の神族の謎は衝撃の連発!
書籍化、アニメ化したいと大絶賛の物語をお見逃しなく
練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~
さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。
衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。
そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。
燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。
果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈
※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770
アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―
碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。
騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。
主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる