35 / 245
第一章『初陣へ』
伊達政宗、尻拭いは伊達じゃない その弐
しおりを挟む
医者からの説明を受けたあとで、一通り遺体の外傷を確認して部屋に戻った。
「あ、若様」
小十郎が俺の元に駆け寄ってきた。部屋にはまだオセロ大会参加者が全員そろっていた。
「小十郎。ちょっとこい!」俺は小十郎を部屋の外まで連れ出した。「家督相続の最後の仕上げだ。輝宗からの信頼度を急激に上昇させるために、今回依頼された死因解明と犯人逮捕を一気に解決しよう!」
「?」
小十郎には、輝宗と医者からの話しを細かく伝えた。彼は肩を落として、右手をこめかみに当てた。
「すまん、名坂。なんでいつも、負担の掛かる案件を持ってくるんだよ。今夜も徹夜か......!」
「それは本当に悪いと思ってんだけど、家督を確実に継がなくてはいけないから輝宗からのポイントをぐんぐん上げなくてはいけないわけだ。つまりだな、これをクリアした先に家督相続が待っているんだ」
「手伝うけど、あまり奥さんに手間かけさせるなよ。初の奥さんだし、甘えたくなる気持ちもわかるがな、嫌われるぞ」
「え、マジ?」
「奥さんには優しくしとけ」
「お、おう! わかった!」
端から見たら、小十郎の家臣が俺みたいに見えるだろうな。俺が家臣をリードしなきゃいけないのに、家臣に俺がリードされちゃってるよ! 何なら、俺の首に小十郎がリード(犬の首輪みたいな......あれだよ!)を付けるまであるぞ。
小十郎は景頼と愛姫を部屋に呼び出した。もちろん、景頼の未来の書物の中から医学書を持ってこさせている。愛姫は未来を知らないから医学書に書かれている日本語の活字を読めなくて当然だ。だけど、彼女は俺が一時間教えた程度で日本語をマスターしてしまった。愛姫は日本人だが、時代がまったく違う。一時間で言語を覚えられるとか、神様の域を超えてるよ。俺の前世の時代を生きてたら、英検簡単に取れんじゃん! 少し自慢すると、俺は中学一年生で英検5級と漢検5級を取り、中学二年生で漢検3級を取った! 記憶は得意なのだ! 歴史検定については1級だが、歴史が好きだからこれは自慢にはならない。
自慢は良いとして、それからは医学書を毎晩毎晩読んでいった。医学書を読むのも、意外と大変だ。一般の本と違い、言い回しがややこしいからだ。一文を理解するのが一苦労であり、一冊を読み終えるのに二日、三日かかるのはザラにある。
(伊達政宗の)親の七光りで伊達家次期当主の俺だが、内面は最低のクズ野郎だ。飽き性、怠け癖、金の無駄遣いなど、挙げればきりがない。飽き性は俺自身が自覚しているが、金遣いが荒くはないと思う。親父なんか、一週間でゲームに百万円も課金したんだが......基準にした奴が間違いだったか。言いたいことはつまり、この俺が医学書を十冊も読破したことだ! そしてわかった。医学書の内容はほとんど覚えていない。けど、多分今回の案件に符合することは俺の読んだ医学書には記されていなかった。
翌々日、次の戦に備えて勉強を始めようと心に決めた。輝宗に解決を頼まれた案件は山積みにした。ここで、俺の飽き性が発動されたのである。
戦に備える勉強とは、つまりは戦で参戦する者を敵か味方か見極めるために装備などを頭にたたき込む、というものだ。歴史は好きだが、実戦があるとは思ってもみなかったから服装や装備などは全然覚えようとはしなかった。それを今から、真剣に学ぶ。それでは、誰から学ぶのか。伊達成実からである。成実は才能が突出している。教えるのもうまいから、今回は戦の装備について教えを乞うてみた。
「いいですか、若様。足軽などの戦での装備は武将の兜(かぶと)と違って質素な『陣笠』という円錐のような帽子をかぶっています。胴体は、『桶川胴』というもので守られ、陣笠や桶川胴には家紋が刻印されています。足軽は腕などは守らずにいます。足軽と武将の装備の鎧の耐久性は基本的には同じです。で、足軽については説明がややこしくなりますよ」
「何でだ?」
「鉄砲が戦の主流となってきた今、鎧を撃ち抜いて鉄の破片と鉛弾が体内に入ると非常に苦しいです。ですので、最近の足軽は陣羽織を羽織る程度のことが多いのです」
「なるほど。つまり、足軽に限っては戦でも軽装なのだな?」
「その通りです」
「ほー! これは勉強になるな。だが、いざ戦場に立つと冷静に味方かどうか見分けにくい。家紋などを見るにしても、余裕はないのではないか?」
「その場合の対処は簡単です。足軽などいつでも補充可能な兵力です。敵味方問わずに首をはねることをおすすめします」
「......足軽は重要な戦力だぞ!?」
「そうなのですが、足軽などいくらでもいます。足軽など所詮は他大勢ですよ」
この時代は、階級が下の者をとことん見下す風習があるらしい。足軽が戦の勝ち負けを分けるほど重要な戦力ではあるが、成実は烏合の衆程度にしか見ていない。これではまずい。俺が家督を継いで伊達家の当主になったら、まずはその意識改革から始めなければならない。足軽を見下していると、いずれ足元をすくわれるのだ。
「あ、若様」
小十郎が俺の元に駆け寄ってきた。部屋にはまだオセロ大会参加者が全員そろっていた。
「小十郎。ちょっとこい!」俺は小十郎を部屋の外まで連れ出した。「家督相続の最後の仕上げだ。輝宗からの信頼度を急激に上昇させるために、今回依頼された死因解明と犯人逮捕を一気に解決しよう!」
「?」
小十郎には、輝宗と医者からの話しを細かく伝えた。彼は肩を落として、右手をこめかみに当てた。
「すまん、名坂。なんでいつも、負担の掛かる案件を持ってくるんだよ。今夜も徹夜か......!」
「それは本当に悪いと思ってんだけど、家督を確実に継がなくてはいけないから輝宗からのポイントをぐんぐん上げなくてはいけないわけだ。つまりだな、これをクリアした先に家督相続が待っているんだ」
「手伝うけど、あまり奥さんに手間かけさせるなよ。初の奥さんだし、甘えたくなる気持ちもわかるがな、嫌われるぞ」
「え、マジ?」
「奥さんには優しくしとけ」
「お、おう! わかった!」
端から見たら、小十郎の家臣が俺みたいに見えるだろうな。俺が家臣をリードしなきゃいけないのに、家臣に俺がリードされちゃってるよ! 何なら、俺の首に小十郎がリード(犬の首輪みたいな......あれだよ!)を付けるまであるぞ。
小十郎は景頼と愛姫を部屋に呼び出した。もちろん、景頼の未来の書物の中から医学書を持ってこさせている。愛姫は未来を知らないから医学書に書かれている日本語の活字を読めなくて当然だ。だけど、彼女は俺が一時間教えた程度で日本語をマスターしてしまった。愛姫は日本人だが、時代がまったく違う。一時間で言語を覚えられるとか、神様の域を超えてるよ。俺の前世の時代を生きてたら、英検簡単に取れんじゃん! 少し自慢すると、俺は中学一年生で英検5級と漢検5級を取り、中学二年生で漢検3級を取った! 記憶は得意なのだ! 歴史検定については1級だが、歴史が好きだからこれは自慢にはならない。
自慢は良いとして、それからは医学書を毎晩毎晩読んでいった。医学書を読むのも、意外と大変だ。一般の本と違い、言い回しがややこしいからだ。一文を理解するのが一苦労であり、一冊を読み終えるのに二日、三日かかるのはザラにある。
(伊達政宗の)親の七光りで伊達家次期当主の俺だが、内面は最低のクズ野郎だ。飽き性、怠け癖、金の無駄遣いなど、挙げればきりがない。飽き性は俺自身が自覚しているが、金遣いが荒くはないと思う。親父なんか、一週間でゲームに百万円も課金したんだが......基準にした奴が間違いだったか。言いたいことはつまり、この俺が医学書を十冊も読破したことだ! そしてわかった。医学書の内容はほとんど覚えていない。けど、多分今回の案件に符合することは俺の読んだ医学書には記されていなかった。
翌々日、次の戦に備えて勉強を始めようと心に決めた。輝宗に解決を頼まれた案件は山積みにした。ここで、俺の飽き性が発動されたのである。
戦に備える勉強とは、つまりは戦で参戦する者を敵か味方か見極めるために装備などを頭にたたき込む、というものだ。歴史は好きだが、実戦があるとは思ってもみなかったから服装や装備などは全然覚えようとはしなかった。それを今から、真剣に学ぶ。それでは、誰から学ぶのか。伊達成実からである。成実は才能が突出している。教えるのもうまいから、今回は戦の装備について教えを乞うてみた。
「いいですか、若様。足軽などの戦での装備は武将の兜(かぶと)と違って質素な『陣笠』という円錐のような帽子をかぶっています。胴体は、『桶川胴』というもので守られ、陣笠や桶川胴には家紋が刻印されています。足軽は腕などは守らずにいます。足軽と武将の装備の鎧の耐久性は基本的には同じです。で、足軽については説明がややこしくなりますよ」
「何でだ?」
「鉄砲が戦の主流となってきた今、鎧を撃ち抜いて鉄の破片と鉛弾が体内に入ると非常に苦しいです。ですので、最近の足軽は陣羽織を羽織る程度のことが多いのです」
「なるほど。つまり、足軽に限っては戦でも軽装なのだな?」
「その通りです」
「ほー! これは勉強になるな。だが、いざ戦場に立つと冷静に味方かどうか見分けにくい。家紋などを見るにしても、余裕はないのではないか?」
「その場合の対処は簡単です。足軽などいつでも補充可能な兵力です。敵味方問わずに首をはねることをおすすめします」
「......足軽は重要な戦力だぞ!?」
「そうなのですが、足軽などいくらでもいます。足軽など所詮は他大勢ですよ」
この時代は、階級が下の者をとことん見下す風習があるらしい。足軽が戦の勝ち負けを分けるほど重要な戦力ではあるが、成実は烏合の衆程度にしか見ていない。これではまずい。俺が家督を継いで伊達家の当主になったら、まずはその意識改革から始めなければならない。足軽を見下していると、いずれ足元をすくわれるのだ。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
おれは忍者の子孫
メバ
ファンタジー
鈴木 重清(しげきよ)は中学に入学し、ひょんなことから社会科研究部の説明会に、親友の聡太(そうた)とともに参加することに。
しかし社会科研究部とは世を忍ぶ仮の姿。そこは、忍者を養成する忍者部だった!
勢いで忍者部に入部した重清は忍者だけが使える力、忍力で黒猫のプレッソを具現化し、晴れて忍者に。
しかし正式な忍者部入部のための試験に挑む重清は、同じく忍者部に入部した同級生達が次々に試験をクリアしていくなか、1人出遅れていた。
思い悩む重清は、祖母の元を訪れ、そこで自身が忍者の子孫であるという事実と、祖母と試験中に他界した祖父も忍者であったことを聞かされる。
忍者の血を引く重清は、無事正式に忍者となることがでにるのか。そして彼は何を目指し、どう成長していくのか!?
これは忍者の血を引く普通の少年が、ドタバタ過ごしながらも少しずつ成長していく物語。
初投稿のため、たくさんの突っ込みどころがあるかと思いますが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる