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序章『転生』
伊達政宗、隻眼になるのは伊達じゃない その弐
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そもそも、殺されたなら犯人はわかりにくい殺し方をするはずだ。なぜなら、現場は学校だからだ。最低でも、端から見たらただ倒れただけのように見える死因だ。そこに他殺ということも加えると、死因は完全に一つに絞られた。毒殺しかありえない。
毒物だと考えると、理科の教師で理科室の鍵も所有している神原正樹が怪しい。しかし、これといって証拠もない。間違えたら地獄行きだから、ここは慎重にいかなくてはならない。
「なあ」
「なんでしょう?」
「死因だけ先に言うのはOK?」
「......まあ、いいでしょう」
「死因は毒殺だろ?」
「正解です」
俺は口元を少し緩めた。だが、また口をキュッと締めると、腕を組んだ。
「死因は簡単にわかったとしても、犯人を当てるのは難しくないか?」
「いえ、簡単です。毒物がどうやって体内に入ったかを考えれば容易に犯人を炙り出すことが出来ますよ」
「毒物は即効性か?」
「はい」
遅効性の毒物なら給食に混入してあって、廊下で歩いている時に効き始めることも考えられるが、使われた毒物は即効性らしい。だったら、記憶が途切れる前後で俺に接触した誰かになる。廊下ですれ違った人物は四人だ。二人は生徒だから除外してもかまわない。となると、容疑者はすれ違った数学科教師の宮本賢三と国語科教師の神林幸志の二人。
でも、また問題が出てくる。即効性の毒をどうやって俺の体内に入れたか、というものだ。
自分の記憶を100%信じるとしたら、皮膚がチクッとした感覚はまったくなかった。ということは、刺して混入させたわけではないわけだ。となると、体の穴部分から毒物が入った、というのが有力。
鼻や目、耳は難しいし、肛門は論外。口からの混入が妥当だ。
口。口かぁ......。あんまり意識なかったから記憶が曖昧なんだよな。
歯の裏に即効性の毒物を仕込ませて、俺がそこを舐めたら......舌は歯の裏全体に常時当たってるから無理か。本格的にややこしくなってきたな。
「犯人がわかりましたか?」
不意に、アーティネスが語りかけてきた。犯人がそんな短時間でわかるわけがない。怪訝そうな顔をした。
「犯人を当てる前に、即効性の毒物を廊下でどうやって混入させられたかがわからないのだが?」
「やっぱり、そこなんですね」
「そこって?」
「犠牲神達もこの部屋で起こっていることを知ることが出来ますが、皆が即効性の毒物をどのように混入させたかが論点になっていました」
「犠牲神様達も、この部屋での出来事を知ってんのか?」
「当然です。犠牲神は八百万の神の中でも下級ですから、結束して情報を共有出来るようにして団体での力を高めているのです」
「人柱さん達は下級なの?」
「そもそも元人間の神の立場は弱いのです。まあ、豊国大明神は別です」
「豊臣秀吉か。......ってか、豊国大明神と会えるの?」
「会えません。あの方は人柱ではないですから。ですが、あなたが伊達政宗に転生する権利を勝ち取れたなら、いずれ配下になる相手です」
配下、か。俺は伊達政宗に転生するなら天下を統一するつもりだ。豊臣秀吉の配下になんぞならん。打倒豊臣秀吉だな。
「アーティネスさん? なら、どうやって体内に毒物を混入させたか知ってるんでしょ? ヒントくれない?」
「ありません。自業自得です」
あまり優しくない女神・アーティネスを端に、俺は部屋の隅に歩いて行った。狭い空間などの方が考えがまとまるのだ。壁にもたれかかり、全体重を壁が支えてくれている。これでやっと、まともに考えられる。
すると、頭の中でアーティネスの『自業自得です』という言葉が何度もリピートしていた。自業自得。俺の死は俺が招いた、ということだろうか? いや、俺は周囲に優しく接していたつもりではあった。もしかすると、自分の行いが結果として体内に毒を入れたのだろうか。
「読めた。犯人が完璧にわかった」
「では、どうぞ」
「犯人は俺が一番親しくしている英語科教師の武中次郎じゃないか?」
「根拠を述べてください」
「即効性の毒物は俺の親指の爪の先に付着していた。俺は集中する時に爪を噛むが、それは全て右手親指の爪だ。そして、水筒のフタを開けるのも右手親指の爪。つまり、水筒のフタ部分に即効性の毒物を犯人が付着させていて、廊下で考え事をして噛んだ爪の先の毒物が俺の体内に混入したんだ。
俺の爪を噛む癖や水筒を開ける爪、利き手についてくわしく知っていて、更には水筒に近づいても怪しくない人物。この条件を満たすのは武中しかいない」
「正解です」
俺は死因や犯人のことは納得した。だが、武中が俺を殺す動機がわからない。
「その様子だと、動機がわからないようですね」
「あ、ああ。まったく動機が不明だ」
「動機は簡単です。あなたは武中さんと気が合うと感じていたようですが、武中さんはあなたに気を合わせていた。しかし、次第にその気に着いていけなくなり、殺した。
実際に起こる殺人の動機はそんなにくだらないことが大半を占めるんですよ」
「そうなのか......」
アーティネスは咳払いをした。「では、あなたに伊達政宗転生の権利を与え、輪廻の輪に届けます」
頭上から光りが差した。体の重力がどんどんと減っていき、終いにはプカプカと浮き始めた。これから、俺は伊達政宗に転生する。
毒物だと考えると、理科の教師で理科室の鍵も所有している神原正樹が怪しい。しかし、これといって証拠もない。間違えたら地獄行きだから、ここは慎重にいかなくてはならない。
「なあ」
「なんでしょう?」
「死因だけ先に言うのはOK?」
「......まあ、いいでしょう」
「死因は毒殺だろ?」
「正解です」
俺は口元を少し緩めた。だが、また口をキュッと締めると、腕を組んだ。
「死因は簡単にわかったとしても、犯人を当てるのは難しくないか?」
「いえ、簡単です。毒物がどうやって体内に入ったかを考えれば容易に犯人を炙り出すことが出来ますよ」
「毒物は即効性か?」
「はい」
遅効性の毒物なら給食に混入してあって、廊下で歩いている時に効き始めることも考えられるが、使われた毒物は即効性らしい。だったら、記憶が途切れる前後で俺に接触した誰かになる。廊下ですれ違った人物は四人だ。二人は生徒だから除外してもかまわない。となると、容疑者はすれ違った数学科教師の宮本賢三と国語科教師の神林幸志の二人。
でも、また問題が出てくる。即効性の毒をどうやって俺の体内に入れたか、というものだ。
自分の記憶を100%信じるとしたら、皮膚がチクッとした感覚はまったくなかった。ということは、刺して混入させたわけではないわけだ。となると、体の穴部分から毒物が入った、というのが有力。
鼻や目、耳は難しいし、肛門は論外。口からの混入が妥当だ。
口。口かぁ......。あんまり意識なかったから記憶が曖昧なんだよな。
歯の裏に即効性の毒物を仕込ませて、俺がそこを舐めたら......舌は歯の裏全体に常時当たってるから無理か。本格的にややこしくなってきたな。
「犯人がわかりましたか?」
不意に、アーティネスが語りかけてきた。犯人がそんな短時間でわかるわけがない。怪訝そうな顔をした。
「犯人を当てる前に、即効性の毒物を廊下でどうやって混入させられたかがわからないのだが?」
「やっぱり、そこなんですね」
「そこって?」
「犠牲神達もこの部屋で起こっていることを知ることが出来ますが、皆が即効性の毒物をどのように混入させたかが論点になっていました」
「犠牲神様達も、この部屋での出来事を知ってんのか?」
「当然です。犠牲神は八百万の神の中でも下級ですから、結束して情報を共有出来るようにして団体での力を高めているのです」
「人柱さん達は下級なの?」
「そもそも元人間の神の立場は弱いのです。まあ、豊国大明神は別です」
「豊臣秀吉か。......ってか、豊国大明神と会えるの?」
「会えません。あの方は人柱ではないですから。ですが、あなたが伊達政宗に転生する権利を勝ち取れたなら、いずれ配下になる相手です」
配下、か。俺は伊達政宗に転生するなら天下を統一するつもりだ。豊臣秀吉の配下になんぞならん。打倒豊臣秀吉だな。
「アーティネスさん? なら、どうやって体内に毒物を混入させたか知ってるんでしょ? ヒントくれない?」
「ありません。自業自得です」
あまり優しくない女神・アーティネスを端に、俺は部屋の隅に歩いて行った。狭い空間などの方が考えがまとまるのだ。壁にもたれかかり、全体重を壁が支えてくれている。これでやっと、まともに考えられる。
すると、頭の中でアーティネスの『自業自得です』という言葉が何度もリピートしていた。自業自得。俺の死は俺が招いた、ということだろうか? いや、俺は周囲に優しく接していたつもりではあった。もしかすると、自分の行いが結果として体内に毒を入れたのだろうか。
「読めた。犯人が完璧にわかった」
「では、どうぞ」
「犯人は俺が一番親しくしている英語科教師の武中次郎じゃないか?」
「根拠を述べてください」
「即効性の毒物は俺の親指の爪の先に付着していた。俺は集中する時に爪を噛むが、それは全て右手親指の爪だ。そして、水筒のフタを開けるのも右手親指の爪。つまり、水筒のフタ部分に即効性の毒物を犯人が付着させていて、廊下で考え事をして噛んだ爪の先の毒物が俺の体内に混入したんだ。
俺の爪を噛む癖や水筒を開ける爪、利き手についてくわしく知っていて、更には水筒に近づいても怪しくない人物。この条件を満たすのは武中しかいない」
「正解です」
俺は死因や犯人のことは納得した。だが、武中が俺を殺す動機がわからない。
「その様子だと、動機がわからないようですね」
「あ、ああ。まったく動機が不明だ」
「動機は簡単です。あなたは武中さんと気が合うと感じていたようですが、武中さんはあなたに気を合わせていた。しかし、次第にその気に着いていけなくなり、殺した。
実際に起こる殺人の動機はそんなにくだらないことが大半を占めるんですよ」
「そうなのか......」
アーティネスは咳払いをした。「では、あなたに伊達政宗転生の権利を与え、輪廻の輪に届けます」
頭上から光りが差した。体の重力がどんどんと減っていき、終いにはプカプカと浮き始めた。これから、俺は伊達政宗に転生する。
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