日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害

髙橋朔也

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それぞれ列挙された点は繋がり、線と成します その壱

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 学校の階段で頭を打った新島は、動くことが出来ずに停止していた。頭を打った時の鈍い音を聞いた教員は急いで駆けつけてきた。頭から血を流している新島を見つけた教員は、顔を真っ青にしながらも新島の意識があるか確かめた。意識がないことに気づき、教員は救急車を呼んだ。
 他の教員も集まってくる。新島の頭からはものすごい勢いで血が流れ出していた。一人の教員は、布を使って止血を始めた。その行為を、後々医者は褒め称えた。
 医者いわく、あともう少し頭から血が流れ出ていれば新島には後遺症が残る可能性もあり、死に至ることは五割程度はあったらしい。
 救急車に、教員が新島を運び入れた。救急車は近くの病院に入り、急いで新島に処置を施す。

 次の日。新島は目覚めると病院のベッドで横たわっていた。目をパチパチとさせて、周囲をきょろきょろと見回す。新島の隣りには、医者が立っていた。
「大丈夫かい、新島君」
「あ......」
「しゃべらなくても大丈夫だよ。君の頭を何針か縫ったから、当分は激しい運動をしては駄目だ。念のため、あと二日は入院してもらおう」
 医者の言っていることが、うまく頭に入ってこない様子の新島だった。ポカンと、ただ医者の口元をじっと眺めていた。医者は伝えることを全て伝えて、さっさと新島のいる部屋を出て行った。それと入れ替わりに、土方が新島の病室に入ってきた。
「お、目が覚めたのか」
「せ、先輩」
「ん、新島。多少は話せるようになったのか」
「俺は自殺をしようとしていたのだが......」
「自殺!? 何があったんだ!」
「高田と一悶着(いちもんちゃく)あった」
「そうか」
「寝ている(意識がない)時に、夢を見た」
 新島が突然変なことを話し出したから、土方は目を丸くさせた。
「夢?」
「その夢は、今までの一連の事件のことだった。その夢が、俺に答えを教えてくれた」
「答え?」
「犯人を示してくれた」
「犯人?」
「高田だ。高田は火の玉を生み出し、テレパシー能力を新田に与え、果ては獅子倉の膝を殴打した」
「高田が犯人だと言うのか!?」
 新島はニヤリと笑った。「今まで文芸部で起きたことがそれぞれ『点』です。その点はやがて繫がっていき、線となるのです」
「は?」
「それぞれ列挙された点は繋がり、線と成します」
 新島は突飛なことを言い出した。土方は首を傾げた。
「新島。説明してくれ」
「良いでしょう」
 新島は土方に、丁寧に教えていった。一時間もする頃には、土方は事件の真相を完全に理解した。
「すごい洞察力だ、新島」
「この推理を、では烏合の衆の会議で話してみましょう」
「無論、その時の会議には獅子倉も呼ぶんだろ?」
「当然だ」
 新島と土方は協力し、犯人に推理を披露するためのステージを用意した。新島は唇をかみ切り、薄気味悪い笑い方をした。
 二日後、新島は頭に包帯を巻いて学校に登校した。誰かは新島に声をかけて、体が大丈夫か確かめる光景はない。新島の人々に向ける鋭い目差しは、万人を哀れむ目なのだ。哀れみ、見下し、呪う。新島だけは世界の理(ことわり)を正しく理解しているのだ。
 教室に入り、自席に座る。新島は右手で頭を押さえ、左手で拳を握る。両足で貧乏揺すりをし、顔は黒板を見る。
 放課後、新島は肩を大きく動かしながら笑い、高田の席に向かった。高田もその笑い方を見て、多少体を震わせた。
「高田」
「どうしたんだ、新島」
「それぞれ列挙された点は繋がり、線と成します。文芸部の部室に、まずは行こうじゃないか」
 高田は不気味に思いながらも、仕方なく新島のあとを着いていった。A棟七階、寂しいくらいの静けさの中でひときわ静かな部屋の扉の前に新島が立った。鍵穴に鍵を差し込み、文芸部の部室に入る。新島がソファに腰を下ろし、高田は椅子に座る。やがて三島と新田も部室に到着し、殺気を感じる部屋に踏み込んだ。
 新島はソファから立ち上がって、窓辺まで歩み寄った。「空が青い。良い天気だ。まあ、農家の方には非常に酷だ。雨が降らないのに良い天気なんて、農家の前が口が裂けても言えんよ」
 言い終わり、新島は自分の言ったことを自分で笑った。高田は気味の悪さに舌打ちした。新島は尚も続けた。「これから一連の事件の推理を始めよう。犯人はベタな推理小説と同じく、登場人物の中にいるのは言うまでもないだろ? なあ、高田」
 高田の体は凍りついたように固まった。いや、新島以外文芸部の部室にいる者、つまり三島と新田も固まってしまったわけだ。部室の空気も、凍りついた。新島はそんな状況でも笑みを絶やさなかった。
「新島。俺が犯人だと言いたげな口調だな」
「いや、犯人は複数人いる。だよな、三島」
 新島が三島を見ると、三島の顔はみるみるうちに真っ青になり、床によろよろと倒れていった。
 高田は、最後の望みをかけて、椅子から立ち上がって口を開いた。「その通り。俺が獅子倉の膝を殴打した。殺そうと思ったのだが、どうやら失敗したようだ。どうする? 警察にでも突き出すのか?」
 文芸部には高田と新島という、狂気な者が集っていた。二人とも、後には引けないのだ。背水の陣、という奴だろうか。
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