日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害

髙橋朔也

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犯人 その捌

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 高田は何日か続けて、早稲田のストーキングを行った。
 翌日、高田は学校に登校して教室に入った。すると、新島が高田の行く手を阻んだ。
「高田! 最近は部室に来てないが、どうしたんだ?」
「関係ないだろ。俺なりに、一応犯人は調べているんだ」
「本当か? 部室に行きづらいとかはないのか?」
「ない」
「体調はどうだ?」
「完璧だ」
「本当か?」
「......うるさいなっ!」
 いつも温厚ではある高田がものすごい形相で怒ったので、教室は一瞬で静かになった。高田は新島の横を通り、自分の席に座った。
 放課後、新島はまた高田の席に向かった。
「高田。今日は部室に来るか?」
「退いてくれ。目障りだ」
「急にどうしたんだ?」
「俺の邪魔をしないでくれ。いつも、新島は邪魔ばかりする。俺はお前がいなくても何も出来ないわけではないし、部室に何日か顔を出さないだけでとやかく言われたくない」
「俺は文芸部の部長だ。部員の助けになってやらないといけない立場なのだ」
「なら、失せろ。それが俺の助けになる」
「といっても......」
「まだ何か用なのか? 俺はお前と友達か何かだったか?」
「俺達は一年生の頃から一緒だろ?」
「......」
 高田は一年生の頃の出来事を思い出した。

 始業式が終わり、新入生はゾロゾロと体育館から校舎へと移っていく。その間に、部活動の勧誘があった。高田は歩くのに障害となっている上級生たちが邪魔に思えて仕方が無かった。ため息をもらして、顔を上に向けた。今の時間に階段を急いで駆けていく足音が聞こえた。不思議に思い、高田も階段を上がっていった。
 途中で人影を見かけなかったから、屋上に目を付けて扉を開いた。屋上の隅には、人が一人立っていた。
「あ、誰ですか?」
 高田の呼びかけに、屋上の先客が応じた。「ん? 私は二年生の土方波だ。君は?」
「新入生の高田っす」
「君が新入生?」
「はい」
「面白い。本は好きかい?」
「え?」
「私は文芸部だ。本は好きなのか? 好きなら文芸部には入らないか?」
 高田は、ここでも部活動の勧誘かと思って肩を落とした。
「いえ。本はまっまく......」
「今年中にあと二人は部員を確保しなくてはならない」
「はい」
「君に協力してもらう」
「協力?」
「カンニングは好き?」
 カンニング。土方の言っている意味がまったくわからなかった。
「どういうことですか?」
「中学校になるとテストの数は減るが、問題は難しくなってくる。どうだい? 私がこの中学校にいるまでテストの答えを入手するから、文芸部に入る気は無いか?」
「答えをどうやって手に入れるんですか?」
「簡単なことだよ」土方はニヤリと笑った。「文芸部の部室はA棟七階だ。他の部活は部室の鍵を部長が所持することになっているが、文芸部は職員室が近いから部室の鍵を職員室に預けてある。私が誰よりも早く部室にいって、鍵を借りに職員室に行く。放課後すぐは職員室に教職員はあまりいないし、鍵を取る好きにテストの答えを盗むんだ」
「じゃあ、先輩はいち早く部室にいるってことですか?」
「そうだ」
 これが、土方が誰よりも早く部室にいることの理由である。
「カンニング......。悪い条件ではないですし、協力しましょう」
「わかった。高田は誰か文芸部に入るように働いてくれればそれで良い」
「わかりました」
 高田は土方と約束し、階段を降りていった。
 それからは誰を文芸部に勧誘するかで頭がいっぱいになっていた。そんな時に、新島が目の前で倒れた。高田は急いで保健室に連れて行き、それから仲良くなったのだ。
「高田のお陰で、俺は助かった。まあ、貧血だったんだけど。あ、それより、どの部活に入部するか決めた?」
 高田は、これだ! と思って、内心でニヤリとした。
「俺は文芸部に入部しようと思ってるけど?」
「文芸部なんてあるんだ。じゃあ、俺も文芸部にしようかな」
「良いね!」
 かくして、高田と新島は文芸部に入部届を提出した。
「え、土方!」
「新島じゃないか!」
 土方と新島は初対面だと思っていたが知り合いだった。その理由は今ならわかる。
 高田と新島の関係など、ただそれだけのものなのだ。つまり、二人は友達同士ではなく、部活動が一緒なだけの二人なのだ。

「なあ、新島」
「なんだ?」
「俺達って、友達じゃないよな?」
 高田は笑顔でそう言った。その言葉は、精神に異常を来していた新島には、あまりにも酷なことだ。唯一の支えは崩れ、どうにか立っていた新島にとどめが刺された。
 人間が極限状態になるとどうなるか。全てを失った新島はどうなるか。それは、ただ何も出来なくなる。怒るでもなく泣くでもなく、新島はその場に倒れた。新島は軸を失い、自力では動けなくなった。そんな彼を横目に、高田はすました顔で立ち上がって教室を出ていった。
 暗くなって静かで寂しい教室には、感情を持たない者がただ一人、一点をずっと見つめていた。その後、何とか動き出した新島は自殺を決意し、学校の階段を何度も転がり落ちていった。最後に頭に致命傷を受け、うつ伏せの状態で目を閉じた。
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