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緋色 その漆
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高田は、どこで現像すると安いのか、腕を組んで考えを巡らせていた。駅前の三ツ巴ホールディングスの経営するショッピングモールの一階に店を構えるカメラ屋か、それとも隣り街のカメラ屋か。後で調べてみる価値があるな、と結論をつけた。
「では」新島はその場でしゃがみ込み、足跡を注意深く眺めた。「今日の文芸部の活動は終了だ。現地解散とする」
四人はそれぞれ部室に戻って、バラバラに帰宅して行った。
高田はカメラを大切に布に包み、カバンにしまい込んだ。以前に写真部からカメラを借りた際に、カメラに数ミリの傷を負わせてしまって相当怒られたから、今回は細心の注意を払った。カバンは揺らさず、あまり角度を変えないで持つことも心掛けている。カメラは思っているより繊細なのだ。
カバンは背負わず、手で持つことにもしてみた。しかし、正門を出て数歩ほど歩いてから、注意むなしくカバンを地面に落としてしまった。急いでカバンを拾い上げ、中を開けてカメラを確認した。カメラは一応は無事であった。
「ふぅ」高田は自分の胸を撫で下ろした。
次の日、高田は現像した足跡の写真を持って登校した。現像はやはり、駅前のショッピングモールのカメラ屋にした。
他にも参考画像として八坂中学校指定の外履きのゲソ痕(こん)も集めてきた。これならば、昨日の足跡が生徒のものかがすぐにわかる。
写真数枚を制服のポケットに突っ込み、教室に足を踏み入れた。やけに教室内がザワついている。何があったのかと思い、新島の席まで歩いて行った。
「なんで教室が騒がしいんだ?」
「今日の一限目は、体育館にて臨時の朝会があるらしい」
「臨時の朝会だぁ?」
「新しい英語の教師が来るから、朝会で紹介を行うんだとさ。何か、イギリスのネイティブスピーカーだって」
「イギリス人ってことか?」
「そう、イギリス人」
すると、教室に八代が入ってきた。「お前ら、廊下で一列に並んでいろ。体育館に行くからな。廊下に出たら、必ずしゃべらないことだ!」
生徒が一斉に廊下に飛び出して、整列を始めた。先頭の八代が歩き出すと、生徒の列も進み始めた。向かうは体育館である。
体育館は生徒が詰め込まれていた。すき間を慎重に移動し、定位置で床に腰を下ろして体育座りになった。
体育館内が静かになると、ステージに校長が顔を出した。「これより、四月の全校朝会を始める」
校長に続いてステージに上がってきたのは、THEイギリス人のような顔立ちの人物だ。新島達はその人物を知っていた。
「初めまして。イギリスのロンドン生まれでロンドン育ち。Lawrence(ローレンス) Beaupre(ボープレ)です。よろしく」
そのイギリス人はまさに、ボープレだったのだ。
同日の放課後、新島と高田は部室の隣りの職員室を訪ねた。
「失礼します。八坂中学校二年三組の新島真です」
「同じく、高田弘です」
二人に気づいて、ボープレは椅子から立ち上がった。「ミスター新島とミスター高田!」
「どうも、ボープレさん。まさか、八坂中学校の英語教師になるとは思いませんでした」
「新島はこの中学校の生徒なのかい?」
「はい。二学年の生徒です」
「これから英語教師として八坂中学校には一年いる。その一年間、よろしくたのもう」
ボープレが左手を突き出した。新島も左手を出して、握手をした。
「私は職員室の隣りの文芸部部室に放課後はいます。用があったら尋ねてきてください」
「OK。承知した」
新島は一礼してから職員室を出た。左に曲がると、まっすぐと部室に入っていった。高田も後を追う。
部室にはすでに三島と新田が到着していた。しかし、新田の表情は普段と違って曇っていた。不思議に思った新島は、新田に尋ねた。「新田。顔色が悪いが、どうかしたのか?」
「それが」新田の代弁をするように、三島が口を開いた。「新田ちゃんの脳内で言葉が繰り返し流れているみたいで......」
「言葉?」
「ノイズが」新田は頭を抱えて、顔を下に向けた。「酷いんだけど、確かに言葉が聞こえるの......」
高田は眉間に右手の親指の先を当てて、目を閉じた。しかし、少ししてから目を開けた。「それって、もしかしてテレパシーなんじゃないのか? どんな言葉が聞こえる?」
「『助けて』の四文字」
「他には?」
「この声は、友達の獅子倉敏美(ししくらとしみ)ちゃんだと思う」
「じゃあ、その獅子倉が助けを呼んでいるんじゃないのか?」
新島は顔を難しくした。「とりあえず、その獅子倉の元に向かってみよう」
三島と新田は部室で待機してもらい、新島と高田の二人だけで獅子倉を探しに歩き出した。
獅子倉は、新田に尋ねて知り得た事実だと、一年六組で吹奏楽部の部員らしい。ひとまず、吹奏楽部の部室に向かい、新島が扉をノックした。ガチャッ、という音とともに軋む音も発しながら開いた年季の感じる扉。その奥から一人の女生徒が顔を出した。
「吹奏楽部部長の美輪和実(みわかずみ)です。入部希望ですか?」
「文芸部部長の新島だ。俺達が用のあるのは、吹奏楽部部員の獅子倉って人だ」
「獅子倉さんなら、先ほどお手洗いに......」
「トイレか。何階の?」
「B棟六階の吹奏楽部部員専用お手洗いですが、レディーをトイレの前で待ち伏せするのは不粋ですよ?」
「忠告感謝する。仕方ないから、B棟五階の階段で待たせてもらう」
「わかりました。では、失礼します」
美輪は深いお辞儀をして、古い扉を閉めた。
「では」新島はその場でしゃがみ込み、足跡を注意深く眺めた。「今日の文芸部の活動は終了だ。現地解散とする」
四人はそれぞれ部室に戻って、バラバラに帰宅して行った。
高田はカメラを大切に布に包み、カバンにしまい込んだ。以前に写真部からカメラを借りた際に、カメラに数ミリの傷を負わせてしまって相当怒られたから、今回は細心の注意を払った。カバンは揺らさず、あまり角度を変えないで持つことも心掛けている。カメラは思っているより繊細なのだ。
カバンは背負わず、手で持つことにもしてみた。しかし、正門を出て数歩ほど歩いてから、注意むなしくカバンを地面に落としてしまった。急いでカバンを拾い上げ、中を開けてカメラを確認した。カメラは一応は無事であった。
「ふぅ」高田は自分の胸を撫で下ろした。
次の日、高田は現像した足跡の写真を持って登校した。現像はやはり、駅前のショッピングモールのカメラ屋にした。
他にも参考画像として八坂中学校指定の外履きのゲソ痕(こん)も集めてきた。これならば、昨日の足跡が生徒のものかがすぐにわかる。
写真数枚を制服のポケットに突っ込み、教室に足を踏み入れた。やけに教室内がザワついている。何があったのかと思い、新島の席まで歩いて行った。
「なんで教室が騒がしいんだ?」
「今日の一限目は、体育館にて臨時の朝会があるらしい」
「臨時の朝会だぁ?」
「新しい英語の教師が来るから、朝会で紹介を行うんだとさ。何か、イギリスのネイティブスピーカーだって」
「イギリス人ってことか?」
「そう、イギリス人」
すると、教室に八代が入ってきた。「お前ら、廊下で一列に並んでいろ。体育館に行くからな。廊下に出たら、必ずしゃべらないことだ!」
生徒が一斉に廊下に飛び出して、整列を始めた。先頭の八代が歩き出すと、生徒の列も進み始めた。向かうは体育館である。
体育館は生徒が詰め込まれていた。すき間を慎重に移動し、定位置で床に腰を下ろして体育座りになった。
体育館内が静かになると、ステージに校長が顔を出した。「これより、四月の全校朝会を始める」
校長に続いてステージに上がってきたのは、THEイギリス人のような顔立ちの人物だ。新島達はその人物を知っていた。
「初めまして。イギリスのロンドン生まれでロンドン育ち。Lawrence(ローレンス) Beaupre(ボープレ)です。よろしく」
そのイギリス人はまさに、ボープレだったのだ。
同日の放課後、新島と高田は部室の隣りの職員室を訪ねた。
「失礼します。八坂中学校二年三組の新島真です」
「同じく、高田弘です」
二人に気づいて、ボープレは椅子から立ち上がった。「ミスター新島とミスター高田!」
「どうも、ボープレさん。まさか、八坂中学校の英語教師になるとは思いませんでした」
「新島はこの中学校の生徒なのかい?」
「はい。二学年の生徒です」
「これから英語教師として八坂中学校には一年いる。その一年間、よろしくたのもう」
ボープレが左手を突き出した。新島も左手を出して、握手をした。
「私は職員室の隣りの文芸部部室に放課後はいます。用があったら尋ねてきてください」
「OK。承知した」
新島は一礼してから職員室を出た。左に曲がると、まっすぐと部室に入っていった。高田も後を追う。
部室にはすでに三島と新田が到着していた。しかし、新田の表情は普段と違って曇っていた。不思議に思った新島は、新田に尋ねた。「新田。顔色が悪いが、どうかしたのか?」
「それが」新田の代弁をするように、三島が口を開いた。「新田ちゃんの脳内で言葉が繰り返し流れているみたいで......」
「言葉?」
「ノイズが」新田は頭を抱えて、顔を下に向けた。「酷いんだけど、確かに言葉が聞こえるの......」
高田は眉間に右手の親指の先を当てて、目を閉じた。しかし、少ししてから目を開けた。「それって、もしかしてテレパシーなんじゃないのか? どんな言葉が聞こえる?」
「『助けて』の四文字」
「他には?」
「この声は、友達の獅子倉敏美(ししくらとしみ)ちゃんだと思う」
「じゃあ、その獅子倉が助けを呼んでいるんじゃないのか?」
新島は顔を難しくした。「とりあえず、その獅子倉の元に向かってみよう」
三島と新田は部室で待機してもらい、新島と高田の二人だけで獅子倉を探しに歩き出した。
獅子倉は、新田に尋ねて知り得た事実だと、一年六組で吹奏楽部の部員らしい。ひとまず、吹奏楽部の部室に向かい、新島が扉をノックした。ガチャッ、という音とともに軋む音も発しながら開いた年季の感じる扉。その奥から一人の女生徒が顔を出した。
「吹奏楽部部長の美輪和実(みわかずみ)です。入部希望ですか?」
「文芸部部長の新島だ。俺達が用のあるのは、吹奏楽部部員の獅子倉って人だ」
「獅子倉さんなら、先ほどお手洗いに......」
「トイレか。何階の?」
「B棟六階の吹奏楽部部員専用お手洗いですが、レディーをトイレの前で待ち伏せするのは不粋ですよ?」
「忠告感謝する。仕方ないから、B棟五階の階段で待たせてもらう」
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美輪は深いお辞儀をして、古い扉を閉めた。
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