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緋色 その陸
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高田は胸ポケットからフェイクシガレットを取りだして、口にくわえた。「探すったって、どうするんだ?」
「前にプルキンエ現象の話しをしただろ?」
「七不思議の六番目の時か?」
「そうだ。青白い火の玉を犯人が出現させた理由はプルキンエ現象で誰かに見せるためかもしれない」
「青白いのは、プルキンエ現象で目立たせるってか?」
「そういうことだ。そして、犯人が火の玉を目立たせるのが目的なら、次のアクションを起こすはずだ。そこを捕まえるのみ」
「そういう作戦か。承知した」
「君津さんを呼んでこい。早速火の玉の件が解決したと伝えるぞ」
「わかった」
高田は扉を開けて、部室を飛び出して行った。数分後、高田は三島と新田と一緒に部室に戻ってきた。
「よう、新島。帰ってくる時に、二人と合流したんだ」
「二人には赤色の火の玉が解明出来たと伝えたのか?」
「伝えた」
「君津さんはどれくらいで来るんだ?」
「部活動を少し早く切り上げるから、五時半くらいに文芸部の部室に到着するはずだとさ」
新島は壁にかけられた時計を見た。「首尾は上々だ」
「んじゃ、五時三十分まで本を読んでいよう」
四人は折りたためるパイプ椅子に腰を下ろし、それぞれ自分好みの本を開いた。
──同日、五時三十分
「失礼します」突如として、扉が開かれた。顔を覗かせたのは、君津静香だった。「君津です。赤色の火の玉の件で来ました」
しかし、部室を見回しても人影はない。キョロキョロしていると、窓の外に火の玉を見つけた。
君津が驚いて口をポカンと開けていると、後ろから肩を叩かれた。飛び上がって振り向くと、そこには文芸部の四人がいた。
「君津さん。これが、火の玉の正体です」新島はマッチの燃えカスを君津に見せた。
「?」
「君津さんの家の窓の外に突然現れた赤色の火の玉は、窓に反射した火だったんです」
「そうだったんですか!」君津は目を大きく開いた。
「テーブルの上に置き鏡がありましたよね?」
「ええ......」
「その置き鏡を中継に、窓に火が反射したのだと思われます」
君津はこめかみに人差し指の先を当てて、首を傾げた。「ということは、青白い火の玉と赤い火の玉は別物だったということですか?」
「そうです。別物だったんです」
新島は数分間、細かく説明した。君津は納得したようで、表情がパッと晴れた。一度お辞儀をすると、部室を出ていった。
「ふぅ」高田は両腕を上げて伸ばした。「これで火の玉の件は解決したというわけだ」
「いや、違う」
「犯人を捕まえるってことか?」
「そうだ」
「別に明日からでもいいだろ」
「今日からだ。今日も放課後に部室に残って、犯人を捕まえに行こう」
「犯人がアクションを起こしたら捕まえるんだろ?」
「やめた。こちらから犯人に歩み寄る」
「超めんどくさい!」
「諦めろ」新島は冷蔵庫を開けて、ブラックコーヒーの入ったペットボトルを取り出した。キャップを外すと、さっさとコーヒーを口に運んだ。「今日は七時まで張り込むぞ」
高田はうなり声を上げたが、新島は無視して椅子に座った。高田も仕方ないと腹をくくり、ソファに寝そべった。三島と新田は椅子に座って、テーブルをはさんで雑談を始めた。
新島はブラックコーヒーを飲み干すと、ペットボトルをゴミ箱に投げて、本棚から本を抜き取って読書を始めた。
本を百二十ページまで読み進めると、新島はしおりをはさんで立ち上がった。時計の長針は『7』の少し下を指している。首を右手で掻くと、窓に近づいて校庭を見下ろした。
「火の玉だ!」
新島の声とともに、他の三人も一斉に窓に歩み寄った。そして、校庭を跋扈する青白い火の玉を認めた。
「よし。犯人を捕まえに行くぞ!」
四人は教職員にバレないように階段を駆け下りて、校庭に飛び出た。しかし、コンマ数秒の差で犯人は校庭の奥へと姿を消していった。
新島は地団駄を踏んだ。
高田は火の玉がいたと思われる場所でしゃがみこんだ。「足跡がある。かなり小さい。女性の足跡みたいだ」
「犯人は女だというのか?」
「かもしれないというだけで、実際はこの足跡は生徒のものだかすらわからない。まあ、この足跡は確実に女の物だとしか断定は出来ない」
「周辺に何か落ちてないか?」
「ん」高田は四つん這いになって地面をなめ回すように観察した。「水のような液体が落ちている。発光していないし、過酸化水素水だとは思う」
「その足跡を写真に残す。カメラを持ってこい」
「今日も念のために写真部に行ってカメラを借りてきている」
新島は高田からカメラを受け取って、足跡を撮影した。「次に八坂中学校指定の外履きかどうか調べる。もし一致すれば、生徒のものではないことがわかる」
「教職員の足跡かもしれないぞ」
「生徒のものではないとわかるだけでも収穫と呼んで差し支えない」
その後、新島はカメラで足跡を何度か撮影を繰り返した。うまく撮れたか確認してから、またカメラを高田に渡した。「写真を現像しておいてくれ。頼んでもいいか?」
「......わかった。現像しておくよ」
「前にプルキンエ現象の話しをしただろ?」
「七不思議の六番目の時か?」
「そうだ。青白い火の玉を犯人が出現させた理由はプルキンエ現象で誰かに見せるためかもしれない」
「青白いのは、プルキンエ現象で目立たせるってか?」
「そういうことだ。そして、犯人が火の玉を目立たせるのが目的なら、次のアクションを起こすはずだ。そこを捕まえるのみ」
「そういう作戦か。承知した」
「君津さんを呼んでこい。早速火の玉の件が解決したと伝えるぞ」
「わかった」
高田は扉を開けて、部室を飛び出して行った。数分後、高田は三島と新田と一緒に部室に戻ってきた。
「よう、新島。帰ってくる時に、二人と合流したんだ」
「二人には赤色の火の玉が解明出来たと伝えたのか?」
「伝えた」
「君津さんはどれくらいで来るんだ?」
「部活動を少し早く切り上げるから、五時半くらいに文芸部の部室に到着するはずだとさ」
新島は壁にかけられた時計を見た。「首尾は上々だ」
「んじゃ、五時三十分まで本を読んでいよう」
四人は折りたためるパイプ椅子に腰を下ろし、それぞれ自分好みの本を開いた。
──同日、五時三十分
「失礼します」突如として、扉が開かれた。顔を覗かせたのは、君津静香だった。「君津です。赤色の火の玉の件で来ました」
しかし、部室を見回しても人影はない。キョロキョロしていると、窓の外に火の玉を見つけた。
君津が驚いて口をポカンと開けていると、後ろから肩を叩かれた。飛び上がって振り向くと、そこには文芸部の四人がいた。
「君津さん。これが、火の玉の正体です」新島はマッチの燃えカスを君津に見せた。
「?」
「君津さんの家の窓の外に突然現れた赤色の火の玉は、窓に反射した火だったんです」
「そうだったんですか!」君津は目を大きく開いた。
「テーブルの上に置き鏡がありましたよね?」
「ええ......」
「その置き鏡を中継に、窓に火が反射したのだと思われます」
君津はこめかみに人差し指の先を当てて、首を傾げた。「ということは、青白い火の玉と赤い火の玉は別物だったということですか?」
「そうです。別物だったんです」
新島は数分間、細かく説明した。君津は納得したようで、表情がパッと晴れた。一度お辞儀をすると、部室を出ていった。
「ふぅ」高田は両腕を上げて伸ばした。「これで火の玉の件は解決したというわけだ」
「いや、違う」
「犯人を捕まえるってことか?」
「そうだ」
「別に明日からでもいいだろ」
「今日からだ。今日も放課後に部室に残って、犯人を捕まえに行こう」
「犯人がアクションを起こしたら捕まえるんだろ?」
「やめた。こちらから犯人に歩み寄る」
「超めんどくさい!」
「諦めろ」新島は冷蔵庫を開けて、ブラックコーヒーの入ったペットボトルを取り出した。キャップを外すと、さっさとコーヒーを口に運んだ。「今日は七時まで張り込むぞ」
高田はうなり声を上げたが、新島は無視して椅子に座った。高田も仕方ないと腹をくくり、ソファに寝そべった。三島と新田は椅子に座って、テーブルをはさんで雑談を始めた。
新島はブラックコーヒーを飲み干すと、ペットボトルをゴミ箱に投げて、本棚から本を抜き取って読書を始めた。
本を百二十ページまで読み進めると、新島はしおりをはさんで立ち上がった。時計の長針は『7』の少し下を指している。首を右手で掻くと、窓に近づいて校庭を見下ろした。
「火の玉だ!」
新島の声とともに、他の三人も一斉に窓に歩み寄った。そして、校庭を跋扈する青白い火の玉を認めた。
「よし。犯人を捕まえに行くぞ!」
四人は教職員にバレないように階段を駆け下りて、校庭に飛び出た。しかし、コンマ数秒の差で犯人は校庭の奥へと姿を消していった。
新島は地団駄を踏んだ。
高田は火の玉がいたと思われる場所でしゃがみこんだ。「足跡がある。かなり小さい。女性の足跡みたいだ」
「犯人は女だというのか?」
「かもしれないというだけで、実際はこの足跡は生徒のものだかすらわからない。まあ、この足跡は確実に女の物だとしか断定は出来ない」
「周辺に何か落ちてないか?」
「ん」高田は四つん這いになって地面をなめ回すように観察した。「水のような液体が落ちている。発光していないし、過酸化水素水だとは思う」
「その足跡を写真に残す。カメラを持ってこい」
「今日も念のために写真部に行ってカメラを借りてきている」
新島は高田からカメラを受け取って、足跡を撮影した。「次に八坂中学校指定の外履きかどうか調べる。もし一致すれば、生徒のものではないことがわかる」
「教職員の足跡かもしれないぞ」
「生徒のものではないとわかるだけでも収穫と呼んで差し支えない」
その後、新島はカメラで足跡を何度か撮影を繰り返した。うまく撮れたか確認してから、またカメラを高田に渡した。「写真を現像しておいてくれ。頼んでもいいか?」
「......わかった。現像しておくよ」
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