上 下
13 / 31

緋色 その陸

しおりを挟む
 高田は胸ポケットからフェイクシガレットを取りだして、口にくわえた。「探すったって、どうするんだ?」
「前にプルキンエ現象の話しをしただろ?」
「七不思議の六番目の時か?」
「そうだ。青白い火の玉を犯人が出現させた理由はプルキンエ現象で誰かに見せるためかもしれない」
「青白いのは、プルキンエ現象で目立たせるってか?」
「そういうことだ。そして、犯人が火の玉を目立たせるのが目的なら、次のアクションを起こすはずだ。そこを捕まえるのみ」
「そういう作戦か。承知した」
「君津さんを呼んでこい。早速火の玉の件が解決したと伝えるぞ」
「わかった」
 高田は扉を開けて、部室を飛び出して行った。数分後、高田は三島と新田と一緒に部室に戻ってきた。
「よう、新島。帰ってくる時に、二人と合流したんだ」
「二人には赤色の火の玉が解明出来たと伝えたのか?」
「伝えた」
「君津さんはどれくらいで来るんだ?」
「部活動を少し早く切り上げるから、五時半くらいに文芸部の部室に到着するはずだとさ」
 新島は壁にかけられた時計を見た。「首尾は上々だ」
「んじゃ、五時三十分まで本を読んでいよう」
 四人は折りたためるパイプ椅子に腰を下ろし、それぞれ自分好みの本を開いた。

──同日、五時三十分
「失礼します」突如として、扉が開かれた。顔を覗かせたのは、君津静香だった。「君津です。赤色の火の玉の件で来ました」
 しかし、部室を見回しても人影はない。キョロキョロしていると、窓の外に火の玉を見つけた。
 君津が驚いて口をポカンと開けていると、後ろから肩を叩かれた。飛び上がって振り向くと、そこには文芸部の四人がいた。
「君津さん。これが、火の玉の正体です」新島はマッチの燃えカスを君津に見せた。
「?」
「君津さんの家の窓の外に突然現れた赤色の火の玉は、窓に反射した火だったんです」
「そうだったんですか!」君津は目を大きく開いた。
「テーブルの上に置き鏡がありましたよね?」
「ええ......」
「その置き鏡を中継に、窓に火が反射したのだと思われます」
 君津はこめかみに人差し指の先を当てて、首を傾げた。「ということは、青白い火の玉と赤い火の玉は別物だったということですか?」
「そうです。別物だったんです」
 新島は数分間、細かく説明した。君津は納得したようで、表情がパッと晴れた。一度お辞儀をすると、部室を出ていった。
「ふぅ」高田は両腕を上げて伸ばした。「これで火の玉の件は解決したというわけだ」
「いや、違う」
「犯人を捕まえるってことか?」
「そうだ」
「別に明日からでもいいだろ」
「今日からだ。今日も放課後に部室に残って、犯人を捕まえに行こう」
「犯人がアクションを起こしたら捕まえるんだろ?」
「やめた。こちらから犯人に歩み寄る」
「超めんどくさい!」
「諦めろ」新島は冷蔵庫を開けて、ブラックコーヒーの入ったペットボトルを取り出した。キャップを外すと、さっさとコーヒーを口に運んだ。「今日は七時まで張り込むぞ」
 高田はうなり声を上げたが、新島は無視して椅子に座った。高田も仕方ないと腹をくくり、ソファに寝そべった。三島と新田は椅子に座って、テーブルをはさんで雑談を始めた。
 新島はブラックコーヒーを飲み干すと、ペットボトルをゴミ箱に投げて、本棚から本を抜き取って読書を始めた。
 本を百二十ページまで読み進めると、新島はしおりをはさんで立ち上がった。時計の長針は『7』の少し下を指している。首を右手で掻くと、窓に近づいて校庭を見下ろした。
「火の玉だ!」
 新島の声とともに、他の三人も一斉に窓に歩み寄った。そして、校庭を跋扈する青白い火の玉を認めた。
「よし。犯人を捕まえに行くぞ!」
 四人は教職員にバレないように階段を駆け下りて、校庭に飛び出た。しかし、コンマ数秒の差で犯人は校庭の奥へと姿を消していった。
 新島は地団駄を踏んだ。
 高田は火の玉がいたと思われる場所でしゃがみこんだ。「足跡がある。かなり小さい。女性の足跡みたいだ」
「犯人は女だというのか?」
「かもしれないというだけで、実際はこの足跡は生徒のものだかすらわからない。まあ、この足跡は確実に女の物だとしか断定は出来ない」
「周辺に何か落ちてないか?」
「ん」高田は四つん這いになって地面をなめ回すように観察した。「水のような液体が落ちている。発光していないし、過酸化水素水だとは思う」
「その足跡を写真に残す。カメラを持ってこい」
「今日も念のために写真部に行ってカメラを借りてきている」
 新島は高田からカメラを受け取って、足跡を撮影した。「次に八坂中学校指定の外履きかどうか調べる。もし一致すれば、生徒のものではないことがわかる」
「教職員の足跡かもしれないぞ」
「生徒のものではないとわかるだけでも収穫と呼んで差し支えない」
 その後、新島はカメラで足跡を何度か撮影を繰り返した。うまく撮れたか確認してから、またカメラを高田に渡した。「写真を現像しておいてくれ。頼んでもいいか?」
「......わかった。現像しておくよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日常探偵団

髙橋朔也
ミステリー
 八坂中学校に伝わる七不思議。その七番目を解決したことをきっかけに、七不思議全ての解明に躍動することになった文芸部の三人。人体爆発や事故が多発、ポルターガイスト現象が起こったり、唐突に窓が割れ、プールの水がどこからか漏れる。そんな七不思議の発生する要因には八坂中学校の秘密が隠されていた。文芸部部員の新島真は嫌々ながらも、日々解決を手伝う。そんな彼の出自には、驚愕の理由があった。  ※本作の続編も連載中です。  一話一話は短く(2000字程度。多くて3000字)、読みやすくなっています。  ※この作品は小説家になろう、エブリスタでも掲載しています。

日常探偵団─BEFORE STORY─

髙橋朔也
ミステリー
 八坂中学校での七不思議を解決した新島真ら文芸部。そんな新島と高田が八坂中学校一年生だった時に起こった蜂被害者が急増した事件に迫る。  ※誰も死なないミステリーです。  ※本作は『日常探偵団』の番外編です。

意識転移鏡像 ~ 歪む時間、崩壊する自我 ~

葉羽
ミステリー
「時間」を操り、人間の「意識」を弄ぶ、前代未聞の猟奇事件が発生。古びた洋館を改造した私設研究所で、昏睡状態の患者たちが次々と不審死を遂げる。死因は病死や事故死とされたが、その裏には恐るべき実験が隠されていた。被害者たちは、鏡像体と呼ばれる自身の複製へと意識を転移させられ、時間逆行による老化と若返りを繰り返していたのだ。歪む時間軸、変質する記憶、そして崩壊していく自我。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、この難解な謎に挑む。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、想像を絶する恐怖と真実への迷宮だった。果たして葉羽は、禁断の実験の真相を暴き、被害者たちの魂を救うことができるのか?そして、事件の背後に潜む驚愕のどんでん返しとは?究極の本格推理ミステリーが今、幕を開ける。

RoomNunmber「000」

誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。 そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて…… 丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。 二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか? ※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。 ※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

日常探偵団─AFTER STORY─

髙橋朔也
ミステリー
『クロロホルム? あれは推理小説なんかと違って、吸引させることで眠らせることは出来ない』  八島大学に勤務する高柳真朔教授の元に舞い込んだのは新島真准教授の義弟が親のお金をくすねた事件。義弟の家で大金を探すため、高柳教授はクロロホルムを使うのだが推理小説のように吸引させて眠らせるのは無理だ。そこで高柳教授が思いついた、クロロホルムを吸引させて確実に眠らせることの出来る方法とは──。  ※本作は『日常探偵団』の番外編です。重大なネタバレもあるので未読の方は気をつけてください。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...