日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害

髙橋朔也

文字の大きさ
上 下
12 / 31

緋色 その伍

しおりを挟む
 新島の行動が気になった高田は、彼の肩を叩いた。「おい、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。気分爽快だ。もしかしたら、火の玉の正体がつかめたかもしれない」
 高田は口を大きく開き、何だって、と叫んだ。
「騒ぐなよ、うるさいなぁ」
「火の玉の正体がわかったんだろ?」
「おそらく、だけどな」
「教えろよ」
「まだその時じゃない。満を持(じ)そうじゃないか」
「やだ!」
 高田は待つのが一番嫌いなのだ。新島に、今教えてくれと頼み込んだ。
「すまん。検証したいこととかがあるから、今は無理だな」
「検証?」
「実験だ」
 実験ってやってもやらなくても変わらないよ、そう言おうとした口を高田自らが必死に押さえた。
「実験して、俺の推理が正しいと判断したら話そうと思っている」
「わかった。実験で新島の推理が正しかったら、ちゃんと話してくれよ」
 新島は無言でうなずいた。すると、三島と新田が部室に入ってきた。
 新島はあくびをして、手を頭の後ろに回した。それから、目を窓の外に向けた。彼なりに考えをまとめているらしいのだ。

 次の日の放課後、高田は新島を探しながら部室に向かって歩き出した。しかし、どこにも新島を見いだせずに部室に到着した。指を鳴らして扉を開けると、新島ではなくあるものを見つけた。窓の外にユラユラと揺れる緋色の火の玉なのだ。高田は急いで窓に近づいて、火の玉を確認した。
「ないぞ! ない! 火の玉が消えたんだ! ない! 火の玉がっ!」
「火の玉とは」高田の背後で、新島はクスクスと笑いながらマッチに燃ゆる火を消した。「俺が手に持っていたマッチの火のことだろ?」
「新島!」
「俺が手に持っていたマッチの火が、窓に反射した。それが、窓の外をのさばる火の玉に見えたというわけだ」
「なんだ、そんな簡単なトリックか」
「これで実験は終わった」
「ってことは、君津邸に現れた緋色の火の玉は窓に反射した火だったのか?」
「そうなんだよ。まったく困った話しだよ......」
「説明しろ」
 新島はマッチをシンクに投げ込んだ。「もちろん、ちゃんと説明するつもりだ。まず、昨日高田に渡された写真であるものを見つけた」
 新島は高田に写真を渡した。高田は写真を受け取って、まじまじと見つめた。「この写真がどうかしたのか?」
「その写真は君津邸のリビングのテーブルを写しているだろ?」
「ああ、テーブルだな」
「そのテーブルに置き鏡が置かれている」
「あるな、置き鏡」
「その置き鏡と一致するほこりの跡がテーブルの上には存在する。ほこりの跡に合わせて置き鏡を置くと、ちょうどL字の直角部分を覆うようになる」
「なるほど、なんとなく読めたぞ。例の火の玉が出現した窓とテーブルを線で結び、その線を直角に伸ばした先にある窓の外は隣りの家の庭が見渡せる。その庭に何らかの理由で火が出現し、置き鏡を中継として窓に反射したんだろ?」
「正解だ。何らかの理由で庭に火が出現したのは調べてみないとわからんが、そこは重要じゃない」
「重要なのは、偶然出来た置き鏡とのメカニズムか」
「そう。これで、緋色の火の玉は解明出来たというわけだ。犯人はいない。偶然の産物だ」
 新島は最期まで言い切ると、ため息をついて椅子に腰を下ろした。
「今話したことを、君津にも伝えるつもりか?」
「俺は高田のようにクズではない。ちゃんと伝えるよ」
「いつ?」
「今日にでも伝える」
 高田は額の汗を拭って、頭を掻いた。「クラスに早稲田木風が転入してきただろ?」
「ああ、来たな」
「気づいているはずだ、お前なら」
「......早稲田が稲田になり、稲葉。木風は楓。ガキは勘違いが多い。俺も勘違いしていた」
「早稲田が、お前の探していた彼女だ」
「高田、知っていたか」
「当然だ。忘れたとは言わせない。中一の頃に、これでもかってくらいに話していただろ」
「確かに、話したな」
「あの子が稲葉楓なんだろ?」
「ああ、そうだ」
「あいつ自身は新島のことを気づいているのか?」
「知らない」
「急いで会いに行こう」
「無駄だ」
「はぁ?」高田は前に出した右足を止めた。「なんで?」
「俺は彼女に合わせる顔がない」
「......そうかよ。だったら、俺はもう知らないぞ」
「そうしてくれるとありがたい」
 新島は手で顔を覆った。
「情けないな」
「自分でもそう思っている。ただ、俺は彼女に酷いことを言ってしまった」
「酷いこと?」
「俺はかなりモテたんだよ。それで、もう一人可愛い子が俺に近づいた。そして、その子と楓ちゃんが並んで俺に言ったんだ。どっちを選ぶのかってね」
「なんて答えたんだ?」
「選べない、と答えた」
「それは酷いな。言い寄ってきたもう一人の子の名前は覚えているのか?」
「全然思い出せない」
「なら、その子より稲葉の方を特別視していたということだ。安心しろよ。彼女だってまだ新島が好きなら、きっと許してくれるはずだ」
 高田は新島の背中を平手で叩いた。新島は顔から手を離して、立ち上がり、窓に近づいた。
「気を取り直して、青白い火の玉を跋扈させた犯人を探してみよう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

怪異探偵事務所

夜乃桜
ミステリー
『橘探偵事務所』の若き所長、橘仁は触れたものの過去を視ることが出来る〈時読みの異能持ち〉。〈異能〉で失せもの探しをする探偵と、依頼者達、人と時折〈人ならぬモノ〉達から依頼を受けていた。 そんなある日、老人からの探し物の依頼で、探し場所のとある家を訪れる。仁はそこで、真白の髪に真紅の瞳をもった白皙の美少女〈火焔の魔女〉と出会う。 〈火焔の魔女〉の異名を持つ〈魔術師〉横山玲奈に、その家で起こる異変の解決に、仁は巻き込まれてしまう。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...