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跋扈 その陸
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その二日後、新島の自宅にシュウ酸ジフェニルが届いた。新島は次の日、学校のカバンにシュウ酸ジフェニルが入ったビンを入れて登校した。
休み時間になると、高田が自ら新島の席に近づいた。
「新島!」
「どうした?」
「シュウ酸ジフェニルは持ってきたか?」
「当然だ」
「なら、よかった」
「俺が忘れるわけがないだろ?」
「それもそうだな」
新島は次の授業の準備を始めた。
「なあ、新島?」
「どした?」
「火の玉をつくりだした犯人の動機は何だろうな?」
「動機? そんなの知らなくてもいいんだよ。気にしないことが大事なんだ」
「犯人は誰なんだ?」
「それも、気にしないことが大事なんだ。俺らは警察でも何でもない。捜査することは唯一、トリックだけなんだ」
「そんか曖昧なことでいいのか?」
「普通に考えて大丈夫だろ?」
「まあ、いい。今夜実行だよな?」
「ああ」
「君津は呼んであるのか?」
「今日は奇跡的に陸上部の午後練習が休みらしいから、多分大丈夫だ」
「そうか。なら、いい」
「火の玉を動かす奴は誰にする?」
「俺がやろうか?」
「高田が?」
「うん」
「わかった。なら、任せよう」
「任された」
放課後になり、二人は部室に向かった。部室では新田と三島が本を読んでいた。
「二人とも」新島は、ダンボール箱から布きれを固めてつくった丸い球体を取りだした。「今夜、火の玉を再現するぞ」
「私、楽しみですー」
「私も、見てみたいですね」
「高田。君津さんを呼んでこい」
「俺? わかったよ......」
「じゃあな」
新島は高田に向けて左手を振った。高田はそれを目の端に入れつつ、扉を開けて部室を出た。
一年生の昇降口で、君津の靴があるかないか確認した。どうやら、靴があるからまだ君津は学校にいるようだ。
高田は一学年教室のある階に上がり、君津を探した。一部屋ずつ目を通していくと、最後の資料室で君津を見つけた。
「どうも。覚えてる?」
「文芸部の......高田弘さんですね?」
「正解だ」
「今日は何の用ですか?」
「青白い火の玉の正体がわかったかもしれないから、再現するんだ。その再現した火の玉を見て、以前見た火の玉と同じだったか確かめてほしいんだ」
「もうわかったんですね。わかりました。確かめてみます」
「文芸部の部室で待機してくれれば、空が暗くなってから実行するよ」高田は愛想笑いをした。「ところで、今は何をしているのかな?」
「担任の先生に頼まれたので、資料を整理していました」
「大変だね」
「いえ、大変というほどでもないです。私は級長なので、頑張らなくてはなりません」
「級長? えっ! 学級長なの?」
「はい、そうです」
「真面目だなぁ」
「級長は小学校の頃からなので、あまり大変には思わないんです」
「ほぉ、なるほどねぇ」
「資料が整理し終わったら、文芸部の部室に向かいますので」
「わかった。先に部室に戻っておくよ」
高田は部室まで小走りだった。
「あれ? 君津さんは?」
「資料を整理してた。整理が終わったら来るってさ」
「わかった」
「新島のおすすめの本はある?」
「おすすめ?」
「そう」
「ジャンルは?」
「ファンタジー」
「なら、俺の管轄外だ。新田か三島に聞けよ」
「マジ?」
「マジだ。──三島! ちょっと来い」
「わかりました」
三島は椅子から立ち上がって、新島たちの元まで歩いてきた。
「ご用は何ですか?」
「高田が、ファンタジーでおすすめの本を探しているらしい」
「了解します。では、探しておきましょう」
「高田も探すの手伝って来い!」
「へいへい」
高田は三島と一緒に本棚の前に並んだ。
「新田は」新島は頭の後ろに両手を回した。「火の玉とか興味ないの?」
「私ですか?」
「うん」
「興味はあります。見てみたいです」
「本物を?」
「本物を見てみたいんです」
「本物を見るのは難しいね」
「人生で一度も見たことがありません!」
「俺も見たことないよ」
「青白い火の玉......再現も楽しみです」
「なら、高田にお礼を言った方が喜ぶぞ。あいつはおだてやすいんだ」
「わ、わかりました」
すると、君津がやってきた。
「失礼します」
「そこら辺の椅子に腰掛けていいよ」
「では......失礼して」
君津は椅子に座った。
「じゃあ、暗くなったら火の玉を再現しますね」
「わかりました」
やがて辺り一面が真っ暗になり、新島は高田に視線を送った。高田は新島の気持ちを汲み取ったらしく、シュウ酸ジフェニルの入ったビンと過酸化水素水の入ったビン、布きれを固めた球体を持った。
「高田!」三島は部室から出た高田の肩を叩いた。「その布の球体は釣り竿に吊り上げた方がいいです」
「ああ、ありがとう」
高田は三島から釣り竿を受け取った。
走って校庭まで出ると、球体に釣り竿の先の針を引っ掛けた。そして、シュウ酸ジフェニルをかけると、次に過酸化水素水をかけた。すると、青白く光った。新島が少し細工をしたようだ。ジフェニルアントラセン、とかいったものを混ぜたようだ。
文芸部部室から見える怪奇現象は、丸く青白い発光体がぐるぐる高速回転している、というものだ。新島は窓から校庭を見下ろして高田がふざけている場面を見ながら、火の玉を動かす係りに選んだことを悔やんでいた。おそらく、布きれを釣り竿につけて振り回しているのだろう。だから、火の玉が高速回転しているのだ。
「どうでしょうか、君津さん。再現している火の玉は、あなたが以前見た火の玉と同じですか?」
「まったく同じです。
前に見た火の玉は、滴のような形でしたが、再現されているのは丸い形。その形が違うだけです」
「なるほど。犯人は火の玉に見えるように、滴の形に布を整形していたのですね......」
休み時間になると、高田が自ら新島の席に近づいた。
「新島!」
「どうした?」
「シュウ酸ジフェニルは持ってきたか?」
「当然だ」
「なら、よかった」
「俺が忘れるわけがないだろ?」
「それもそうだな」
新島は次の授業の準備を始めた。
「なあ、新島?」
「どした?」
「火の玉をつくりだした犯人の動機は何だろうな?」
「動機? そんなの知らなくてもいいんだよ。気にしないことが大事なんだ」
「犯人は誰なんだ?」
「それも、気にしないことが大事なんだ。俺らは警察でも何でもない。捜査することは唯一、トリックだけなんだ」
「そんか曖昧なことでいいのか?」
「普通に考えて大丈夫だろ?」
「まあ、いい。今夜実行だよな?」
「ああ」
「君津は呼んであるのか?」
「今日は奇跡的に陸上部の午後練習が休みらしいから、多分大丈夫だ」
「そうか。なら、いい」
「火の玉を動かす奴は誰にする?」
「俺がやろうか?」
「高田が?」
「うん」
「わかった。なら、任せよう」
「任された」
放課後になり、二人は部室に向かった。部室では新田と三島が本を読んでいた。
「二人とも」新島は、ダンボール箱から布きれを固めてつくった丸い球体を取りだした。「今夜、火の玉を再現するぞ」
「私、楽しみですー」
「私も、見てみたいですね」
「高田。君津さんを呼んでこい」
「俺? わかったよ......」
「じゃあな」
新島は高田に向けて左手を振った。高田はそれを目の端に入れつつ、扉を開けて部室を出た。
一年生の昇降口で、君津の靴があるかないか確認した。どうやら、靴があるからまだ君津は学校にいるようだ。
高田は一学年教室のある階に上がり、君津を探した。一部屋ずつ目を通していくと、最後の資料室で君津を見つけた。
「どうも。覚えてる?」
「文芸部の......高田弘さんですね?」
「正解だ」
「今日は何の用ですか?」
「青白い火の玉の正体がわかったかもしれないから、再現するんだ。その再現した火の玉を見て、以前見た火の玉と同じだったか確かめてほしいんだ」
「もうわかったんですね。わかりました。確かめてみます」
「文芸部の部室で待機してくれれば、空が暗くなってから実行するよ」高田は愛想笑いをした。「ところで、今は何をしているのかな?」
「担任の先生に頼まれたので、資料を整理していました」
「大変だね」
「いえ、大変というほどでもないです。私は級長なので、頑張らなくてはなりません」
「級長? えっ! 学級長なの?」
「はい、そうです」
「真面目だなぁ」
「級長は小学校の頃からなので、あまり大変には思わないんです」
「ほぉ、なるほどねぇ」
「資料が整理し終わったら、文芸部の部室に向かいますので」
「わかった。先に部室に戻っておくよ」
高田は部室まで小走りだった。
「あれ? 君津さんは?」
「資料を整理してた。整理が終わったら来るってさ」
「わかった」
「新島のおすすめの本はある?」
「おすすめ?」
「そう」
「ジャンルは?」
「ファンタジー」
「なら、俺の管轄外だ。新田か三島に聞けよ」
「マジ?」
「マジだ。──三島! ちょっと来い」
「わかりました」
三島は椅子から立ち上がって、新島たちの元まで歩いてきた。
「ご用は何ですか?」
「高田が、ファンタジーでおすすめの本を探しているらしい」
「了解します。では、探しておきましょう」
「高田も探すの手伝って来い!」
「へいへい」
高田は三島と一緒に本棚の前に並んだ。
「新田は」新島は頭の後ろに両手を回した。「火の玉とか興味ないの?」
「私ですか?」
「うん」
「興味はあります。見てみたいです」
「本物を?」
「本物を見てみたいんです」
「本物を見るのは難しいね」
「人生で一度も見たことがありません!」
「俺も見たことないよ」
「青白い火の玉......再現も楽しみです」
「なら、高田にお礼を言った方が喜ぶぞ。あいつはおだてやすいんだ」
「わ、わかりました」
すると、君津がやってきた。
「失礼します」
「そこら辺の椅子に腰掛けていいよ」
「では......失礼して」
君津は椅子に座った。
「じゃあ、暗くなったら火の玉を再現しますね」
「わかりました」
やがて辺り一面が真っ暗になり、新島は高田に視線を送った。高田は新島の気持ちを汲み取ったらしく、シュウ酸ジフェニルの入ったビンと過酸化水素水の入ったビン、布きれを固めた球体を持った。
「高田!」三島は部室から出た高田の肩を叩いた。「その布の球体は釣り竿に吊り上げた方がいいです」
「ああ、ありがとう」
高田は三島から釣り竿を受け取った。
走って校庭まで出ると、球体に釣り竿の先の針を引っ掛けた。そして、シュウ酸ジフェニルをかけると、次に過酸化水素水をかけた。すると、青白く光った。新島が少し細工をしたようだ。ジフェニルアントラセン、とかいったものを混ぜたようだ。
文芸部部室から見える怪奇現象は、丸く青白い発光体がぐるぐる高速回転している、というものだ。新島は窓から校庭を見下ろして高田がふざけている場面を見ながら、火の玉を動かす係りに選んだことを悔やんでいた。おそらく、布きれを釣り竿につけて振り回しているのだろう。だから、火の玉が高速回転しているのだ。
「どうでしょうか、君津さん。再現している火の玉は、あなたが以前見た火の玉と同じですか?」
「まったく同じです。
前に見た火の玉は、滴のような形でしたが、再現されているのは丸い形。その形が違うだけです」
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