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桐壺(光源氏誕生から12歳まで)
皇子誕生
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帝と、この桐壺更衣は前世にも宿縁が深かったのであろうか、二人の間にはこの世の美しさではないような、それはそれは玉のような皇子がお生まれになった。桐壺は出産のために実家に下っていたために、帝は「まだか、まだか」と気をお揉みになっており、出生の連絡を受けると急いで宮中に召し上げた。ようやく帝が対面なさったその皇子は、この世のものではないような美しいご容貌であった。
しかし、この皇子は帝にとって二番目の子であった。第一の皇子は、右大臣家出身の弘徽殿女御が産んだ男の子である。弘徽殿女御の祖父は現役の右大臣という、しっかりとした後ろ盾があり、この第一の皇子は、まったくもって疑いのない世継ぎの君として世間の人々も大切にお仕え申し上げた。けれども、第二の皇子の美しさには到底かなうはずもなく、帝は兄宮をそれなりに大切に思うだけで、弟宮のほうを自らの宝物のように思っていた。
この桐壺更衣というお方は、そもそも帝のお傍にずっとお仕えして身の回りのお世話をなさる普通の女という身分ではなかった。世間からも品のある高貴な女性と尊敬されていた。しかしながら、帝が何事にも近くに桐壺を置きたがるので、管弦のお遊びや風情のある催しの際には誰を差し置いても真っ先に、このお方をご指名なさる。しかも、無理を承知で寝室に泊まらせて、朝になっても引き留めてなかなか帰そうとしないこともあり、世間の人々からは次第に軽い身分の者のように見られることもあった。しかしながら、この皇子が生まれてからというもの、帝も思い改められて、皇子の母「御息所」として適切な扱いをなさった。すると第一の皇子を産んだ弘徽殿女御が、この第二の皇子が次の皇太子になるのではないかと不安に思いなさる。この弘徽殿女御は、ここ宮中に仕える誰よりも早くに入内し、帝のご寵愛もそれなりに受けてきた自負もあり、皇子や女皇子までも産んでいた。それゆえ帝も、このお方の意見だけは、疎ましくとも無視できないものであった。
一方、桐壺更衣は帝のご寵愛と庇護だけが頼りであった。しかし、それだけではどうしようもなく、他に仕える女たちには、あらさがしをしたり蔑んだりする者も多かった。桐壺自身、病弱で追い込まれているので、帝に寵愛を受ければ受けるほど気苦労なさる。
更衣のお部屋は桐壺である。女性たちが与えられた部屋には壺庭があり、そこに桐が植えられていたので桐壺と呼ばれていた。帝はひっきりなしに、多くの女御、更衣の部屋を通り過ぎ、帝の住む清涼殿から離れた桐壺まで向かう。素通りされた方々はやきもきされるのも致し方ないことである。また、逆に桐壺から、帝のところに参られることが度重なった折々は、橋や渡り廊下などの通り道に、とんでもない汚物やらがまき散らされていることもあった。桐壺更衣を送り迎えする女房たちの着物の裾が台無しになってしまうほどであったという。またある時は、そこを通らずには進めない馬道の両端の扉を閉めてしまい、桐壺が進退できないようにして困らせることもあった。
このように、何かにつけて沢山ひどい目に遭わされてきたので、桐壺更衣は悲しみに打ちひしがれていらっしゃる。帝はますます不憫に思われて、帝の近くの部屋に仕えている更衣たちの部屋を他にお移しになり、そこを桐壺更衣の控えの間としてしまわれた。当然ながら、その部屋を追われた更衣の恨みつらみは他の方よりも深いのであった。
しかし、この皇子は帝にとって二番目の子であった。第一の皇子は、右大臣家出身の弘徽殿女御が産んだ男の子である。弘徽殿女御の祖父は現役の右大臣という、しっかりとした後ろ盾があり、この第一の皇子は、まったくもって疑いのない世継ぎの君として世間の人々も大切にお仕え申し上げた。けれども、第二の皇子の美しさには到底かなうはずもなく、帝は兄宮をそれなりに大切に思うだけで、弟宮のほうを自らの宝物のように思っていた。
この桐壺更衣というお方は、そもそも帝のお傍にずっとお仕えして身の回りのお世話をなさる普通の女という身分ではなかった。世間からも品のある高貴な女性と尊敬されていた。しかしながら、帝が何事にも近くに桐壺を置きたがるので、管弦のお遊びや風情のある催しの際には誰を差し置いても真っ先に、このお方をご指名なさる。しかも、無理を承知で寝室に泊まらせて、朝になっても引き留めてなかなか帰そうとしないこともあり、世間の人々からは次第に軽い身分の者のように見られることもあった。しかしながら、この皇子が生まれてからというもの、帝も思い改められて、皇子の母「御息所」として適切な扱いをなさった。すると第一の皇子を産んだ弘徽殿女御が、この第二の皇子が次の皇太子になるのではないかと不安に思いなさる。この弘徽殿女御は、ここ宮中に仕える誰よりも早くに入内し、帝のご寵愛もそれなりに受けてきた自負もあり、皇子や女皇子までも産んでいた。それゆえ帝も、このお方の意見だけは、疎ましくとも無視できないものであった。
一方、桐壺更衣は帝のご寵愛と庇護だけが頼りであった。しかし、それだけではどうしようもなく、他に仕える女たちには、あらさがしをしたり蔑んだりする者も多かった。桐壺自身、病弱で追い込まれているので、帝に寵愛を受ければ受けるほど気苦労なさる。
更衣のお部屋は桐壺である。女性たちが与えられた部屋には壺庭があり、そこに桐が植えられていたので桐壺と呼ばれていた。帝はひっきりなしに、多くの女御、更衣の部屋を通り過ぎ、帝の住む清涼殿から離れた桐壺まで向かう。素通りされた方々はやきもきされるのも致し方ないことである。また、逆に桐壺から、帝のところに参られることが度重なった折々は、橋や渡り廊下などの通り道に、とんでもない汚物やらがまき散らされていることもあった。桐壺更衣を送り迎えする女房たちの着物の裾が台無しになってしまうほどであったという。またある時は、そこを通らずには進めない馬道の両端の扉を閉めてしまい、桐壺が進退できないようにして困らせることもあった。
このように、何かにつけて沢山ひどい目に遭わされてきたので、桐壺更衣は悲しみに打ちひしがれていらっしゃる。帝はますます不憫に思われて、帝の近くの部屋に仕えている更衣たちの部屋を他にお移しになり、そこを桐壺更衣の控えの間としてしまわれた。当然ながら、その部屋を追われた更衣の恨みつらみは他の方よりも深いのであった。
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