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3 決意

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 疲れ果てて無気力に歩く俺は、気がつくと学校の前にいた。
 どれくらい走っていたか分からない。どこに向かって走っていたかも。
 ただ一つ確かなのは、どんなに自分を痛めつけてもこの悪い夢は覚めないということ。

 俺は崩れるように校門の前に座り込んだ。高校での思い出が溢れてくるこの場所にいるのは辛い。だけどもう移動する体力が残っていなかった。
 
 俺は奈美のことが好きだ。いつから好きだったか分からないくらいに。それなのに俺は一度もその気持ちを伝えようとしなかった。そして失うと分かって初めてそのことを後悔している。もう遅すぎるのに……。

「おい、達也。そんなとこ座り込んでなにしてんだ?」

 背後から声がした。
 振り向くと、エナメルのバッグを背負った部活終わりの男子が立っている。

「圭人……」

 頭がぼんやりした状態のまま、なんとか彼を認識した。クラスメイトであり親友の赤井圭人あかいけいとだ。

「なんだ、この世の終わりみたいな顔して」

 圭人は俺と目線を合わせるようにしゃがんだ。
 
「あ、お前もしや泣いてたな?」

「うるっせ……泣いてねーよ」

「いや、どう見ても泣いてたな。何があったか言ってみろよ」

 圭人は心配そうに俺の顔を眺めた。俺は相当ひどい顔をしてるんだろう。

「…………大切な人が……遠くに行っちゃうんだ」

「はぁ、それでお前そんなメソメソしてんのか?」

「うん……」

 俺はそう答えて下を向いた。
 自分がみっとないことぐらい分かっている。ただ他にどうしようも——。

「馬鹿かお前」

 え?

「大切な人が遠くに行っちゃうって時に1人で女々しく泣いてる暇なんかあるのか?」

 圭人はそう言いながら俺の瞳を真っ直ぐ見つめてきた。

「でも……」

「でも、じゃねぇだろ」

 圭人に思いっきり胸ぐらを掴まれる。体に力が入らず、俺は体重を委ねるようにだらんとした。

「本気で大切だと思ってんならな、残された時間全てその人のために使えよ。それができねぇなら軽々しく大切とか言うな」

 圭人は乱暴に俺を揺すったが、目は真剣だ。
 たしかに……圭人の言う通りだ。俺は馬鹿だ。ただ悲しさに押し流されて現実から目を背けた。一番苦しんでいるのが奈美だと分かっていながら、涙を見せられないと言い訳して奈美の前から逃げ出した。

「どうなんだよ、お前の気持ちは。本気で大切なのか? 本気で大切だと思ってんのか?」

「……ああ」

「ならこんなとこ座り込んでんじゃねぇ。敵は時間だけだ。その大切な人の傍に1秒でも長くいろ。根性見せてみろよ!」
 
 圭人の拳から、俺の胸に熱気が伝わってくる。暑苦しい夏日だというのに、熱気が伝わってくる。
 そうだ、気持ちはこうやって伝えるんだ。ただ隣にいるだけでは何も伝わらない。ただ1人で泣くだけでは何も変わらない。
 奈美から告げられた事実は、目を背けたくなるほど苦しいものだ。でもその事実と混同して、俺は自分の気持ちにも目を背けている。少しでも長く一緒にいたい。少しでも長く笑っていたい。そんな気持ち達を、「彼女を傷つけてならない」と抑え込んだ。
 でも俺は間違っていた。彼女のことが本当に大切なら、臆病になっている暇などない。伝えなくてはならない。

「圭人……俺、行ってくる」

 俺は圭人の手をそっと外し、疲れ果てた体を持ち上げた。
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