上 下
4 / 5

④ やっぱり大変なお仕事です

しおりを挟む
 こうして、私は先輩の家に週に五日ほど通うことになった。
 時間は状況次第で前後することはあるが、だいたいお昼くらいに来て、なにもなければ夕食後に帰宅するというスケジュールだ。
 
 そう。なにもなければ。

 掃除、洗濯、料理というごく普通の家事だけで終わる日もあるのだが、漫画家のアシスタントのお仕事を求められると、その日は泊まりになる。
 先輩が満足するまでに私は数えきれないくらい絶頂させられてしまうので、ほとんどの場合最後は気を失って、気がついたら朝になっているのだ。
 まだ電車がある時間に目が覚めることもあるが、足腰が立たない状態では自力で帰宅することもできず、結局はそのまま泊まることになる。
 
 アシスタントのお仕事の内容は、その時の先輩の気分により様々だ。
 
 ごく普通のセックスをするだけの時もあれば、裸エプロンで家事をさせられたり、生々しい官能小説を朗読させられたり、スーツや浴衣やコスプレ衣装などを着せられることもある。

 一番恥ずかしかったのは、先輩の目の前で自慰をさせられたことだ。
 私が真っ赤になりながらも、どうにか自分の指で達して見せると、即座に押し倒されていつもより激しく貪られた。
 
 『先輩』ではなく『お兄ちゃん』とか『岸野くん』と呼ばされたこともあるが、いまいちピンとこなかったとのことで、やっぱり先輩という言葉の響きが一番いいということに落ち着いた。

 それから、家事代行なのに私がスカートを履いているのは、その方が見ていて楽しいからと先輩に指示されたからだ。
 動きにくくはあるが、生理や体調不良の時はパンツスタイルにすることで、アシスタントのお仕事ができないということを言葉にせずとも伝えることができるという利点もある。
 そういう日は、料理はいつもより手抜きでもいいし、辛いなら横になっていてもいいと気遣ってくれる。

 先輩はとても優しいのだ。
 なんだったら、正式に付き合っていたはずの元カレより、よほど優しい。
 いろいろと無茶なことも要求されるが、私を傷つけるようなことはしないし、避妊も毎回欠かさずしてくれる。
 
 だからこそ、今日みたいに大人のオモチャを膣内に挿れたまま家事をするなんてことも、断れずに従ってしまうのだ。

 最近は次にどんな要求をされるのかと、ドキドキするようになってしまった。
 恥ずかしいことも、いやらしいことも、最後は全部先輩により気持ちいことに塗り替えられる。
 今も、ローターの振動から意識を逸らしながら皿洗いをしつつ、後から先輩に与えられるであろう快楽を想像し、さらに熱を高めてしまっている。

 いつの間にやら、私はすっかり先輩に翻弄されることに慣れてしまった。
 むしろ、自分からそうされることを求めるようになってしまっている……
 
 皿を落して割るわけにはいかないので、ゆっくり慎重にいつもより時間をかけてやっとシンクに残されていた全ての皿を洗い終えた。

 一仕事終えて、シンクの縁に手をついて吐息を漏らしたところで、

「あぁっ!?あああっ!」

 ずっと一定だったローターの振動が、なんの前触れもなく別のパターンに変わり、思わず声を上げて座りこんでしまった。
 キッチンの入口を見ると、先輩が嬉しそうに瞳を輝かせながらこちらを覗いているところだった。

「せ、せんぱい……」

「次はバスルームの掃除かな?引き続きがんばってね~」

 私の反応を見て満足したらしく、先輩は再び私を残して仕事部屋へと去って行った。
 
 そんなこんなで、掃除や洗濯を終えるのに、いつもの三倍くらいの時間がかかってしまった。
 リモコンはある程度離れたところからでも操作できるようで、先輩は仕事部屋にいるのに振動パターンが変わることが何度かあり、その度に私は身悶えさせられた。

 カウチに倒れこんで荒い息をついていると、バスルームから髭をきれいに剃った上半身裸の先輩が出てきた。

「お疲れ様。よく頑張ったね」

 大きな手で頭を撫でらるだけで、体が反応してしまう。
 膣が締まってさらに振動を強く感じ、私は先輩の胸に縋りついて懇願した。

「せんぱいっ……おねがい、もう……」
 
 限界だ。これ以上は、頭も体もおかしくなってしまう。

「ああ、いい顔になったね。可愛いよ、詩乃ちゃん」

 ギラギラと輝く瞳を眇め、先輩は嬉しそうに笑った。

「夕食はなにが食べたい?
 ピザにする?それとも弁当みたいなのがいいかな」

「せんぱいが、たべたいっ」

 私がこう答えることをわかっていたはずなのに、あえて意地悪な質問をしたのだ。
 必死に訴える私をひょいと抱えて、先輩は寝室まで運んでいった。

「ほら、好きなだけ食べていいよ」

 私を床に座らせてベッドに腰かけた先輩は、私の目の前にまだ硬くなりきっていない肉棒を晒した。
 
 私は反射的にそれにしゃぶりつき、先輩に教えられた通りに舌と唇をつかって夢中で扱いた。

「はぁ……フェラ上手になったね。気持ちいいよ」

 みるみるうちに硬く大きくなっていくそれを口に含んだまま涙目で見上げると、先輩も切れ長の目元を赤く染めて僅かに息を乱しながら私を見ていた。

 ああ、先輩も気持ちいいんだ。
 先輩を、私が気持ちよくしているんだ。

 そう思うと、もうダメだった。

「んぅっ……んんんんっ!」

 ずっと耐えていた快楽が暴走し、腹の奥でパチンと弾けた。
 すっかり臨戦態勢になった肉棒を咥えたままびくびくと体を震わせる私に、愉しそうな声が降ってきた。

「あれ?もしかして、フェラしながらイっちゃった?
 そんなにオレのが美味しいの?」  

 美味しい。とても美味しい。
 この美味しいものを、もっと別のところで味わいたいのに。
 
「ううぅ……」

「ああ、泣かないで。
 ごめんごめん、意地悪しすぎたね。
 ほら、おいで。たくさんシてあげるから」

 私はあっという間に服を剥ぎ取られ、ベッドの上に転がされた。

「詩乃ちゃんのここ、すごいことになってるよ。
 ローターが気持ちよかったんだね。
 でも、オモチャより本物のほうがいいよね?」

「あ……せん、ぱ……」

 私を煩悶させ続けていたローターの振動が止み、膣内からちゅるんと引き抜かれた。

 ほっと息をついた次の瞬間、先輩の太く硬い肉棒で一気に奥まで貫かれ、声も出せずにのけ反った。
 ほしくてほしくておかしくなりそうだったものがやっと与えられ、挿入されただけで私は深い絶頂の波にさらわれてしまったのだ。
 
 それなのに、先輩は最初からトップスピードの律動で攻めたててくるものだから堪らない。
 すっかり先輩の形になってしまった私のナカは、貪欲に蠢き快楽を貪る。
 そんな私の弱いところを知り尽くしている動きで、奥の一番感じるところをガツガツと抉られて頭の中が真っ白になって、逞しい肩に縋りつくこともできず、ただがくがくと体を震わせ続けることしかできなかった。
 
 そして、先輩が強く腰を打ちつけて、薄い避妊具越しに欲望が爆ぜたのを感じたところで私の意識は闇に落ちた。 

 私を雇ってから、元々売れっ子だった先輩はさらに順調に売上を伸ばしているのだそうだ。
 住空間がきれいに整い、和食を中心にバランスのとれた食事をするようになったことだけでなく、良質なネタがぽんぽん出てくるようになったからだ、と先輩は言っていた。
 今日の大人のオモチャを使った行為も、近いうちにネタとして昇華されるのだろう。
 私でも誰かの役に立てる。
 それは、とても嬉しいことだ。

 結局私が目を覚ましたのは、外がすっかり暗くなってからだった。
 先輩がネットで注文したピザを二人で食べた後、「さっきは一回だけで詩乃ちゃんが寝ちゃったから」と再び押し倒され、気がついたら朝になっていた。

 朝起きて、最初に目に入るのが先輩の寝顔というのは、何度経験しても慣れない。
 起きている時より色気は抑えられているが、その分どこか少年のようなあどけなさがあって、ドキドキしてつい見惚れてしまうのだ。
 
 長いまつ毛が震えて、切れ長の瞼が持ちあがった。

「う……ん……詩乃ちゃん?」

 寝起きの掠れた声。
 しっかりと筋肉がついた腕が伸びてきて、ぎゅっと胸に抱きしめられた。

「おはよ、詩乃ちゃん」

「……おはよう、ございます」

 ボクサーパンツ一枚で寝ていた先輩の温かな肌に包まれる心地よさに、私はうっとりと浸った。
 
 できることなら、ずっとこうしていたい。 
 だが、当然ながらそんなわけにはいかない。
 先輩には、ちゃんとご飯を食べさせなくてないけないのだ。

「朝食は……和食と洋食、どっちがいいですか?」
 
「和食がいいな。詩乃ちゃんの卵焼きが食べたい」

「わかりました。美味しい卵焼き、つくりますね」

「うん。お願い」

 先輩は甘めの卵焼きが大好物なのだ。
 
 冷蔵庫にある食材を思い浮かべ、献立を考えながらベッドから出ようとした私の腕を先輩が掴んで引き戻した。

「待って。おはようのキス、忘れてるよ」

 そうだった。これも先輩が定めたルールの一つだ。

 こうやって一緒に目覚めた朝は、私から先輩におはようのキスをしないといけないことになっている。
 散々肌を重ねておいて今更だとは思うが、自分からキスをするのはやっぱりまだ恥ずかしい。

 私は少し赤くなりながら先輩の頬を両手で包み、そっと触れるだけのキスを落した。
 こうすると、先輩はとても嬉しそうに笑うので、私はまたドキドキしてしまう。

「シャワーを浴びて来てください。
 その間にご飯をつくっておきますから」

 名残惜しいのを堪えて、私は着替えてキッチンに向かった。
 こうして私が泊まる時のために、先輩の家には私の服を数着置いてあるのだ。
 
 作り置きの副菜を活用しつつ、先輩がさっぱりした顔でバスルームから出てくるタイミングに合わせて味噌汁とご飯を器によそい、食卓に並べた。

 今朝の献立は、リクエストの卵焼き、豆腐とワカメと大根の味噌汁、キュウリの浅漬け、ゴボウのサラダ、雑穀を混ぜて炊いたご飯だ。
 二人そろって手を合わせて「いただきます」と言ってから、一緒に食べる。

「卵焼きもだけど、このキュウリも美味しいね」

「キュウリは今が旬ですから。
 またつくって、冷蔵庫にいれておきますね」
 
 料理を美味しいと言われるのは、とても嬉しい。
 もっと腕を上げて、美味しいものをたくさんつくってあげなくては、とやる気が満ちてくる。

 先輩のおかげで、私は心身共に元気を取り戻すことができた。
 ストレスが無くなり、以前より健康的な食事をとるようになったせいか、肌も髪もツヤツヤになった気がする。
 私を雇ってくれた先輩には、感謝してもしきれない。

 ただ、今朝のように先輩の隣で目覚めて抱きしめられた時、そこに特別な感情があるのではないかと勘違いしてしまいそうになることだけが今の私の悩みだ。

 私は家政婦兼アシスタントで、先輩は雇い主。
 それを忘れてはいけない、と日々自分に言い聞かせつつ、これからも先輩を支えていこうと思っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

処理中です...