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穏やかに時は過ぎ、私たちがエケルトに住みついてから一年が経った。
少し前に海の向こうの隣国にも行ってみたが、エケルト以上に住みたいと思える場所は見つからなかったので、結局気が済むまでここに住み続けることにした。
エケルトの住人として周囲の人たちにも受け入れられ、友人もできた。
アーレンの愛情にも包まれて、かつての私では思い描くこともできないほどの幸せに満ちた暮らしを送っていた。
ルークさんのところに三人目の赤ちゃんが生まれたこともあり、そろそろ私たちも……と話していた矢先。
なんの前触れもなく、凶報を伝えるとんでもない使者がやってきた。
その日、私はいつものようにルークさんの食堂の片隅で、破れたシャツの袖を縫い合わせていた。
もうすぐアーレンが迎えに来る時間だ。
晩御飯は、この前つくった白身魚のオイル漬けにしよう。
アーレンが好きなベーコンと根野菜のスープと、それから……
針を動かしながら、帰宅した後のことを考えていると、店の入口の扉が開いた。
もうアーレンが来たのかと期待して顔を上げたが、入ってきたのは見たことのない男性五人だった。
身形からして、船乗りではない。
くたびれた田舎の役人といった風情の服装だが、なんだかそれが似合っていない。
そして、食堂に入ってきたというのに、全員がまっすぐに私を見ている。
嫌な予感に冷や汗が滲み出た。
「あの、食堂は、まだ準備中です。それとも、繕い物の依頼ですか?」
絶対に違うと思いながらも、一応問いかけてみた。
「あなたがナディアさんですね?」
そう言ったのは、五人の中で一番線が細い男性だった。
私はエケルトに来てから、アリアという偽名を使っている。
それなのに、この人は私の本名を口にした。
と、いうことは。
「あなたたち、誰なの!?なにが目的!?」
思わず立ち上がったが、すぐ後は壁で逃げ場がない。
よく見たら五人中四人が帯剣している。
さっきの線の細い男性を四人で護衛しているのではないだろうか。
攫われる?それとも殺される?
もう関わらないって手紙に書いてあったのに、嘘だったのか。
「落ち着いてください。あなたに危害を加える気はありません。私は、アーレンに話があるのです」
「アーレンをどうするつもり!?王都に連行するの!?」
「そんなことはしません」
そう言われたところで、信用なんてできるわけがない。
「そうですね。こうしたら、少しは信じてもらえるでしょうか」
そう言って、左手の人差し指の指輪を外すと、男性の髪と瞳の色が変わった。
あの指輪は、私とアーレンが使っているのと同じ魔法具だったようだ。
輝く金髪と、金色の瞳。
オルランディア王家の人は、金色の瞳が多いって以前にアーレンが言っていたのを思い出した。
よく見ると、その面差しはアーレンに似ていなくもない。
「俺の店でなにをする気だ!アリアちゃんから離れろ!」
奥の厨房で仕込みをしていたルークさんが包丁片手に飛び出してきて、ビシッと固まった。
一番最初にアーレンを見た時とは別の種類の驚愕の表情だ。
その時、アーレンが店に駆けこんできた。
そして、アーレンもまた驚愕で金色の瞳を見開き、
「兄上」
と呟いた。
やっぱりそうなんだ。
アーレンのお兄さん。
つまり、ジェラルド・オルランディア第一王子だ。
なんでそんな人がここにいるのか。
アーレンにどんな話があるのだろう。
どう考えても、おめでたい話なわけがない。
嫌な予感が強くなっていく。
少し前に海の向こうの隣国にも行ってみたが、エケルト以上に住みたいと思える場所は見つからなかったので、結局気が済むまでここに住み続けることにした。
エケルトの住人として周囲の人たちにも受け入れられ、友人もできた。
アーレンの愛情にも包まれて、かつての私では思い描くこともできないほどの幸せに満ちた暮らしを送っていた。
ルークさんのところに三人目の赤ちゃんが生まれたこともあり、そろそろ私たちも……と話していた矢先。
なんの前触れもなく、凶報を伝えるとんでもない使者がやってきた。
その日、私はいつものようにルークさんの食堂の片隅で、破れたシャツの袖を縫い合わせていた。
もうすぐアーレンが迎えに来る時間だ。
晩御飯は、この前つくった白身魚のオイル漬けにしよう。
アーレンが好きなベーコンと根野菜のスープと、それから……
針を動かしながら、帰宅した後のことを考えていると、店の入口の扉が開いた。
もうアーレンが来たのかと期待して顔を上げたが、入ってきたのは見たことのない男性五人だった。
身形からして、船乗りではない。
くたびれた田舎の役人といった風情の服装だが、なんだかそれが似合っていない。
そして、食堂に入ってきたというのに、全員がまっすぐに私を見ている。
嫌な予感に冷や汗が滲み出た。
「あの、食堂は、まだ準備中です。それとも、繕い物の依頼ですか?」
絶対に違うと思いながらも、一応問いかけてみた。
「あなたがナディアさんですね?」
そう言ったのは、五人の中で一番線が細い男性だった。
私はエケルトに来てから、アリアという偽名を使っている。
それなのに、この人は私の本名を口にした。
と、いうことは。
「あなたたち、誰なの!?なにが目的!?」
思わず立ち上がったが、すぐ後は壁で逃げ場がない。
よく見たら五人中四人が帯剣している。
さっきの線の細い男性を四人で護衛しているのではないだろうか。
攫われる?それとも殺される?
もう関わらないって手紙に書いてあったのに、嘘だったのか。
「落ち着いてください。あなたに危害を加える気はありません。私は、アーレンに話があるのです」
「アーレンをどうするつもり!?王都に連行するの!?」
「そんなことはしません」
そう言われたところで、信用なんてできるわけがない。
「そうですね。こうしたら、少しは信じてもらえるでしょうか」
そう言って、左手の人差し指の指輪を外すと、男性の髪と瞳の色が変わった。
あの指輪は、私とアーレンが使っているのと同じ魔法具だったようだ。
輝く金髪と、金色の瞳。
オルランディア王家の人は、金色の瞳が多いって以前にアーレンが言っていたのを思い出した。
よく見ると、その面差しはアーレンに似ていなくもない。
「俺の店でなにをする気だ!アリアちゃんから離れろ!」
奥の厨房で仕込みをしていたルークさんが包丁片手に飛び出してきて、ビシッと固まった。
一番最初にアーレンを見た時とは別の種類の驚愕の表情だ。
その時、アーレンが店に駆けこんできた。
そして、アーレンもまた驚愕で金色の瞳を見開き、
「兄上」
と呟いた。
やっぱりそうなんだ。
アーレンのお兄さん。
つまり、ジェラルド・オルランディア第一王子だ。
なんでそんな人がここにいるのか。
アーレンにどんな話があるのだろう。
どう考えても、おめでたい話なわけがない。
嫌な予感が強くなっていく。
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