孤独なお針子が拾ったのは最強のペットでした

鈴木かなえ

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 住み慣れた家から旅立ち、あっという間に半年がたった。
 その間に、私はアーレンに連れられていくつもの町を旅した。
 移動中はアーレンに抱きかかえられて運ばれているだけなので、どういったルートを辿っているのかはさっぱりわからない。
 たまに野宿したりもするが、基本的には町の中でそこそこの宿に泊まる。
 食事も美味しいものばかり食べさせてくれるし、この調子では太ってしまうのではないかと心配なくらいだ。

 そんなことをしながらも、路銀は増える一方だった。
 なぜなら、移動中に見つけた魔物をアーレンが次々と狩って、その魔石を売っては現金に変えているからだ。
 アーレンは視力も良くなっているらしく、空の上からだと簡単に魔物を見つけることができるのだそうだ。
 それだけで二人分の宿代も食事代も余裕で稼げるので、空を飛べるということの有難さをつくづく実感している。

「ナディア、あれが見えるか?」
「うーん……狼みたいなのがいるのかしら」
「フォレストウルフという魔物だ。単体だとそう強くもないが、群れになると厄介なんだ」
「へぇぇ。五匹くらい見えるわね」
「正確には七匹だな。これくらいの数になると、小さい集落くらいなら簡単に壊滅させられるだろう。というわけで、次の町への到着が遅れるが、ここで狩ってしまいたい。いいだろうか?」
「もちろんよ!私も素材の剥ぎ取り手伝うわ」
「ありがとう。じゃあ、いくぞ」

 私とアーレンの目の前にいくつもの氷の槍が作り出され、それが魔物の群れに飛んでいく。
 突然の空からの襲撃に魔物は驚いたようだったが、上空にいる私たちに反撃することもできずあっさりと仕留められてしまった。
 最初は唖然としたこんな光景も、今ではもう驚くこともない。

「フォレストウルフは、魔石の他には牙が高値で売れるから、それだけ回収しよう。牙は固いから、ナディアは魔石の方を頼む」
「わかったわ。毛皮は売れないの?」
「売れないことはないが、あまり値がつかない。それに、既に穴だらけだからな。剥ぎ取る手間に見合わない」
「お肉は?」
「食べられないことはないが、はっきり言ってマズいぞ」
「そうなのね。じゃあ、食べるのはナシね」

 私も、魔物の解体に随分と慣れた。
 解体とはいっても、魔石と高額で売れる素材部分をアーレンが買ってくれたナイフで切り取るだけだ。
 たまに肉の部分も美味しい魔物もいるが、流石に運べないのでその場で食べられるだけ食べて、残りは勿体ないけど焼却処分にする。
 食べられない魔物に関しては、焼却処分一択だ。
 そのまま放置すると別の魔物が寄ってきたり、アンデッド化したりすることもあるので放置は厳禁なのだそうだ。

 フォレストウルフはどれも私の二倍くらいの大きさだった。
 私は腕まくりをして、服を汚さないように気をつけながら心臓のあたりにある魔石を取り出していく。
 アーレンの方は、氷で作った槌でフォレストウルフの顎の骨を砕いて牙を取り出している。

 回収が終わると、一まとめにしてアーレンが魔法で全部燃やしてしまう。
 燃え尽きるのを待つ間に、これまたアーレンの魔法で水を出してもらって、汚れた手やナイフを洗い、回収した魔石と素材もきれいにする。

「思ったより時間がかからなかったわね」
「そうだな。夕暮れ前には次の町に着けそうだ」
「次はなんていう町なの?」
「モワデイルという。町というより地方都市だな。それくらいの規模だ。せっかくだから、しばらく滞在して観光してみようか」
「うん!楽しみだわ」

 こうして、私たちは再び空へと舞い上がった。



「モワデイルって、本当に大きな町なのね」
「ああ、オルランディア西部では最大の都市だからな」
「明日は、まずは魔物の素材を売りに行く?」
「そうだな。ここで今まで溜め込んだ分を売ってしまおうか。そろそろ数が増えすぎて邪魔になってきたからな」

 どれもかなり高額で売れるというのに、邪魔扱いするなんてアーレンらしいというか。
 とはいっても、最近は私も嵩張って荷物になると思っていたんだけど。

 二人で旅をするようになってからずっと、私たちは同じ寝台で寄り添いながら眠っている。
 最初は慣れなくて緊張したけど、今ではアーレンの腕に抱かれて眠るのが大好きになってしまった。
 むしろ、アーレンの温もりがなかったら眠れないかもしれない、と思うくらいだ。
 今もシャワーで身を清めてから、二人で寝台に横になって明日からのことを話している。

「有名な劇場もあるぞ。行ってみようか」
「そんなのもあるの?すごい!行ってみたいわ!」

 劇場なんて当然ながらメルカトにはなかった。
 行ってみたいとは言ったが、なんとなくキラキラしたようなイメージがあるだけで、私には劇場がどんな場所か想像もつかない。
 アーレンとの旅は、こんなワクワクの連続だ。

「素材を売って身軽になってから、劇場を見に行こう。まずはどんな演目をやってるのか確かめないとな。きみが好きそうなのがあるといいんだが」
「そうね。でも、私はアーレンが連れて行ってくれるなら、どんなのだって楽しいと思うわ」
「俺も、きみが隣にいてくれるなら、いつだって楽しいよ」

 そう言うと、アーレンは私の上に覆いかぶさってキスをした。

「ん……ふっ……」

 私たちは毎晩必ずキスをする。
 そして、ほぼ毎晩肌を重ねる。
 アーレンが私に触れる手はとても優しく、私はいつもトロトロに溶かされてしまう。

「ナディア……」

 ほしい、と耳元で囁かれると、それだけで私の体は愛撫を受け入れる準備を始める。
 アーレンも私がそのバリトンに弱いことをよく知っていて、こんなことをしてくるのだ。
 ズルい、と思いつつも毎回受け入れる私は、つまりはアーレンに弱くなってしまったのだと思う。

 さらさらした黒髪を右手の指で梳いて左手で広い背中を撫で、承諾の意を伝えると、さっきよりも激しいキスが降ってきた。

 慣れた手つきで寝間着も下着も剥ぎ取られて、全身をアーレンの口と手が這いまわる。
 私はいつもされるがままで、服を着たら隠れるところに赤い痕をいくつも散らされながら喘ぎ声を上げてしまう。
 花芯を舌で転がされて今晩最初の絶頂に押し上げられた。
 それだけだと体の奥の疼きが激しくなる一方だというのに、そこにはなかなか触れてくれない。
 いつもは優しすぎるくらい優しいのに、この時だけはアーレンはとても意地悪になる。

「ああ、アーレン……お願い、もう……」

 アーレンの長い指でも届かない奥まで満たしてほしくて、涙目で強請った。
 最近は私がこうして強請るまで挿れてくれないのだ。
 自分からこんなことを言うのは恥ずかしいのに、蓄積していく疼きと熱に耐えられなくて結局はアーレンの望むように導かれてしまう。
 悔しい気もするが、経験値の差はどうしようもない。

 とは言っても、アーレンもかなり我慢していたようで、私のおねだりを聞くとすぐに熱杭が私の隘路を奥まで押し広げた。

「ああああっ!」

 一気に奥まで侵入され、その衝撃で私は声を上げてのけ反った。
 そのまますぐにゆっくりと律動が始まり、私は必死にアーレンの逞しい体に縋りつく。

 律動は最初は緩いペースで始まる。
 そこからすぐに激しく貪られるような動きになることもあれば、緩いペースながら私の弱いところを集中的に刺激し、快楽に溺れさせられることもある。
 どちらも頭が真っ白になるくらい気持ちいいので、私は大好きだ。

「ナディア……」

 ゆっくりと腰をつかいながら、アーレンは欲情で輝く金色の瞳で私を見下ろした。

「明日の予定、変更してもいいか?」
「いいけど……なにをするの?」
「観光は明後日からだ。明日は、ずっとこの部屋にいたい」

 つまり、明日は一日中私を可愛がり続けたい、ということだ。

「いいだろう?ナディア……」

 また耳元で囁かれ、ぞくぞくとしてアーレンをきゅっと締めつけてしまった。
 そんなことしなくても私が断るわけないのに、徹底的に退路を断つように私を追いつめるのはやっぱり意地悪だと思う。

「うん……アーレンの、好きにして……」

 導かれるように私がそう言うと、アーレンは嬉しそうに笑って、それから私は気を失うまで貪られ続けた。

 翌朝は当然ながら寝台から動けず、アーレンは雛の世話をする親鳥のように私の口に朝食を運んだ。

「すまない、無理をさせすぎた」
「ううん、いいの。私も……気持ちよかったし」

 本心ではあったが、ここでそう応えたのは後になって考えるとよくなかったのかもしれない。
 昼頃にやっと歩けるくらいまで回復したというのに、またアーレンに押し倒されて、気がついたらもう夜になっていた。
 そこからさらに求められて、結局三日三晩宿から出ることができなかった。

 観光するのを楽しみにしていた私は恨めしくも思ったが、動けない私の世話をするアーレンはなんだか楽しそうだった。
 
「ナディア……」
「もうダメよ!これ以上は無理だから!明日もまた動けなくなっちゃうわ!」
「……わかった」

 三日目の夜、当然の如く求めてきたアーレンを、私は必死で押しとどめると、渋々と引き下がってくれた。

 あれだけシたのにまだ足りないとか、信じられない!
 こんなペースで求められ続けたら、私は永遠にこの部屋から出られなくなってしまう。 

 もしかして、祝福の影響で、この方面もアーレンは強くなってしまったのだろうか。
 尋ねてみたい気もするけど、その答を聞くのがちょっと怖い。
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