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㊵ 妖精姫は公爵夫人になる ※

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 私がオブライエン侯爵家の養女になってからきっかり半年後、私とテオ様は正式に結婚した。

 私はレティシア・オブライエンから再び名前が変わり、レティシア・エデルマン公爵夫人となった。

 この世でエデルマン姓を名乗っているのは、昨日まではテオ様だけだった。
 そこに今日からは私が加わった。
 テオ様と名実ともに家族になったのだと実感できて、とても嬉しい。

 私のエデルマン公爵邸での部屋も、客室からテオ様の私室の隣にある公爵夫人の部屋に移された。
 前の客室は、タニアとシロがそのまま使い続けることになっている。

 ふたりと距離ができてしまうのは寂しいが、その分テオ様との距離は縮まった。
 タニアももうすぐ七歳になる。
 少しずつ姉離れしてもいい頃なのかもしれない。

 私はまだ見慣れない私室から続く扉をそっと開いた。
 その先は、既に見慣れたテオ様の寝室だ。
 今までは廊下側の扉から寝室に入っていたが、これからは私の私室からの扉を使うことになる。

「テオ様……お、お待たせしました」

 今は結婚式当日の夜。

 つまり、これから初夜を迎えるわけだ。

 テオ様はもう寝室にいて、私を待ってくれていた。

 今更ながらなんとなく恥ずかしくて、扉から入ったすぐのところでもじもじしてしまった。

 ちなみに、今私が着ているのは、ドアニス男爵の元七番目の奥さんである仕立屋がデザインしてくれた、『妖精姫専用ナイトドレス』だ。
 
『レティシア様のお可愛らしさを一つも損なうことなく、そこに妖艶さと華やかさと、さらに儚さまでを絶妙なバランスで演出するデザインとなっております。
 これをお召しになったレティシア様は、ただ可憐なだけではなく、成熟した大人の色気も併せ持つ妖精姫となることができるでしょう!」

 ウェディングドレスに加えてこのナイトドレスもとても気合いを入れてデザインし、お針子たちと一丸となって作り上げてくれた。
 あの仕立屋ともドアニス男爵とも、これから長い付き合いになりそうだ。

「どうした、レティ。こっちにおいで」

 寝台に腰かけたテオ様に、おずおずと近づいた。

「昼間のドレスも美しかったが……これもとても似合っているな。
 脱がせるのがもったいないくらいだ」

 テオ様の大きな掌が私の髪と頬をそっと撫でた。

 ここ数日、私たちは結婚式の準備で多忙を極め、同じ寝台で眠ってはいたが肌を重ねることはしていなかった。
 そして、大勢の人々からの祝福を受けながらテオ様に抱きしめられた幸せな感覚が、まだ全身に残っている。

 今は二人きりで、寝室で、きれいに全身を磨かれて初夜に臨んでいるわけで。
 
 まだ少し触れられただけなのだが、この先のことを期待して体が熱くなってしまうのもしかたがないことだと思う。

 だって、私はテオ様が大好きで、テオ様に触れたくて、テオ様に触れてほしくて……

「私、テオ様を愛しています。これからもずっと側に置いてください」

「それは俺が言うべき台詞だ。
 其方を見ていると、いつかタニアと一緒にシロに乗って消えてしまうのではないかとたまに不安になる」

「そんなことはしませんわ。
 もしどうしてもそうする必要があるなら、テオ様も攫っていくことにしましょう」

「そうしてくれ。
 俺は魔法も剣も得意だから、行った先でもきっと役に立つぞ」

 紅玉と蒼穹の瞳が優しく細められ、テオ様は両手で私の頬を包んだ。

「前は、若い騎士たちが結婚したいとか恋人がほしいと言うのが理解できなかった。
 結婚は家のためにするもので、女が欲しいなら娼館に行けばいいだろうにと思っていた。

 今は彼らの気持ちがよくわかる。
 彼らはきっと、愛しい女と共にあることがどれだけ幸せなのかを知っていたのだな。

 レティシア……愛しているよ。ずっと側にいてほしい」

 私は返事をする代わりに、テオ様にキスをした。
 私からテオ様の口腔に舌を差し入れて貪ると、テオ様の私のより分厚い舌もそれに応えてくれた。
 そうしながらお互いの衣服を剥ぎ取り、縺れあうように寝台へと上がった。

「あぁ、テオ様……お願いです、早く」

「そう焦るな。まだ夜は長い。せっかくの初夜なのだから」

 早くほしいと強請る私に、テオ様は丁寧に愛撫をした。
 首にも胸にも腹にも、体中のいたるところにキスをされ、赤い花びらのような痕が増えるたびに体が震えた。
 胸の頂きは集中的にキスされて舌先で転がされ、それだけでイってしまいそうなくらい気持ちよかった。

 私の秘部はすっかり準備が整い、蜜を垂れ流すくらいになっているというのにまだ愛撫は続く。
 指で膣内の弱いところを摩られながら陰核を吸われ、あっという間に絶頂に達してしまった。

 大きく弓なりに背をしならせ痙攣している間に、太腿にまた花びらが増えた。
 やっと体が弛緩し、きっともうほしいものをくれるだろうと期待したのに、また同じ愛撫をされた。

「ああっ……テオ様、もう……お願い、ほしいっ……」

 指では届かない奥が、苦しいくらいに切なく疼いている。
 涙を流して鳶色の短い髪をかきまわしながら懇願したのに、またあっけなくイかされてしまった。

「あああっ!……え、あ、ああああああっ!」

 びくびくと私の体が痙攣しだすと同時にテオ様はさっと体勢を変えて、痙攣を続ける私の中にぐっと侵入し、そのまま奥まで抉られた。
 イっているところをさらにイかされたような形になり、やっとほしいものが与えらえた私の膣は貪欲にテオ様を絞めつけ蠢いた。

「は……絡みついて……レティは中も可愛いな」

 テオ様はそんな私の胎内を堪能しながら感嘆の声を漏らした。

「レティ……今日、俺にかけられていた避妊魔法は解除された」

 テオ様の手が私の下腹部に触れた。

「今夜から、ここに本物の子種を注ぐ。いいな?」

 今までも数えきれないくらい体を重ねて奥に精を注がれてきたが、あれは子種ではなかった。
 避妊する必要がなくなった今夜以降は、テオ様の子種を私の胎内で受け入れることになる。

「嬉しい、です……たくさん、ほしい……赤ちゃんが、早くできるように……」

 私は下腹部のテオ様の手に自分の手を重ねた。
 
 
 ここに熱い飛沫となった子種を感じる瞬間を想像すると、それだけでぞくぞくとする。

「いい子だ、レティ……望み通り、たくさん注いであげよう」

 テオ様はゆっくりと律動を始め、私は両手足をテオ様の大きな体に絡めて必死で縋りついた。
 二色の美しい瞳が獰猛な獣のようにギラギラと輝きながら私を見下ろしている。

 私の瞳も、きっと同じように輝いているはずだ。
 獣のように求め貪っているのは私も同じなのだから。
 
 この夜、私は覚えているだけで三回は子種を注がれた。

 それから五日間は蜜月だからと寝室から出してもらえず、その間はほぼずっとテオ様の腕の中にいた。

 こんなにも長い間タニアとシロの顔を見ずに過ごしたことはなかったので少し心配だったが、六日後にやっと会いに行くと、いつも通りのニコニコ笑顔で飛びついてきてくれた。
 
 最初にメイドと護衛騎士と偽って、タニアとシロをエデルマン公爵邸に連れて来たのは、一年以上前のことだ。
 タニアは表情豊かになっただけでなく、随分と大きくもなった。
 タニアが元気に成長しているのはとても嬉しいのだが、こうして抱きついてくれるのももうすぐ終わりかもしれないと思うと、少し寂しい気もする。

 そんなことを思っていた約一年後、私は元気な男の子を産んで、寂しい気持ちは霧散した。

 大きな産声を上げる小さな赤ちゃんを抱いて、テオ様はぽろりと涙をこぼした。

 タニアとシロもテオ様の腕の中の甥を覗きこんで、嬉しそうに笑った。



 私とテオ様は四人の子供に恵まれた。

 かつては静まりかえっていたというエデルマン公爵邸は、賑やかな笑い声が絶えない邸となった。 

 『氷血公爵』という二つ名はいつしか忘れ去られ、『子煩悩公爵』という新たな二つ名があるとかないとか。
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