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01 君が婚約破棄って言ったから
しおりを挟むその宣告は、"いつも通り"生徒が集う舞踏会で行われた。
そうです。
いつもの断罪イベントって奴です。
「ルチア!お前との婚約は破棄する!」
金髪碧眼で背は高く、上品な仕立ての良い儀礼用の服に身を包んだ美青年は、怒りを露わにしてそう言った。
彼はフリードリヒ青年。
どれほど仲良くしていても、突如として現れた主人公的な平民の娘に一目惚れ、
挙句こんなヒステリックな修羅場を公衆の面前で披露する美男子だ。
他の細かい設定は忘れた。
彼が婚約破棄するって言ったから、今日は婚約破棄記念日。
今日で100回目の。おめでとう。
「知ってた」
うっかり口が滑る。
「は……?」
困惑するフリードリヒ。
「いえ、どうぞ、勝手にして結構ですよ」
「なんだその態度は!」
「何って、テーブルの上で屈伸してるんですけど」
オンラインゲームとかでよくやるアレ。
これが非言語コミュニケーション。
君に届け私の思い。
「何を言うかと思えば!しらばっくれるつもりか!こちらには証拠もあるんだぞ!」
届かなかった。
「あれ?会話ってドッジボールだったっけ?あれー?おかしーなー、もしもーし、いらっしゃいますかー?」
テーブルから降り、彼の頭をコツコツ叩きながら尋ねる。
「何を言おうと真実は覆らないぞ!」
このようにイベント中の彼には会話は通じないし、台本が用意されているように、反応も変わらない。
私みたいに台本から逸脱した動作をしても反応してくれない、悲しいね。
「お前はこのクラリスに、再三にわたる嫌がらせを行い虐めていた主犯だ!そうだよな!」
そう言って連れてこられたのは、桃色髪主人公面の少女。
主人公面というか、多分主人公なんだと思うけど……まあ、私原作知らないし。
見た目はゆるふわ可愛いね、クソが。
最初の何周目かは本気で殺そうかと思った、いや、流石に殺したりはしないけど。
うっかり事故が起きたことはあった。
まあ、事故がなにさ、いつかは起こるよそんなもの。
因みにこの子が死ぬと、何故か私が犯人にされ、あっという間に捕まり、裁判もスキップでサクっと処刑される。法治国家って凄い。
「ふ、フリードリヒ様、そうです!このルチア様は私が平民との混血だからと言って──」
始まった罪状の陳列。これは私が何をしたかによって微妙に変化する台詞だ。
「私の靴下を片方隠しました!」
「な、なんと酷いことを……!」
何もしないといつも同じセリフになるから、何かしておいた方が変化があってマシな感じになるのだ。
感じるのだ、生きている実感を。
「唐揚げに勝手にレモンをかけました!」
「なんと身勝手な……!」
しかしまあ、何をしようと処刑する理由になるんだから、これは凄い。
いいな、私も気軽に処刑したい人生だった。
「挙句、毎日私を無理やりお湯で洗った後、強引に豪華な夕食を食べさせ、温かい布団に引き摺り込んで寝かせたのです!」
「それが人間のする事か……!?」
罵詈雑言のガヤが飛ぶ。
「へー、悪い奴もいるものねー私もそんなことされたこと無いわ」
私は誰も反応しない感想を呟きながら、フリードリヒの頭に冷めた紅茶を注いでいた。
「どうだ!もう皆わかっただろう?これがこの女のやり方だ!俺はこの女との婚約を破棄し、クラリスと結婚するっ!」
びしゃびしゃになってもフリードリヒは冷静に断罪している。
流石フリードリヒ様、水も滴るいい男。
「おめでとう、今日も婚約破棄記念日ね」
人生は神ゲーとか言ったのは何処の誰だろう、こんなのどう考えてもクソゲーじゃない。
その後、当然の如く裁判も無しに私はスパッと処刑された。
凄いよね人体、頭が体から離れても暫く生きてるんだからさ。
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