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虚空塔攻略戦:後編

ファンタズマゴリア虚空塔店

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 フュリアスは慎重に話し始めた。

「エステル様、その……守護者というのは……?」
 
「脅されていたのです、洗脳術もかけられましたが、聖女パワーで軽減してます」

 エステルはこともなげに言う。

「聖女パワー……」

 ランプラは、回復術師として素直に驚いている。

「表向きは従順になる事で、洗脳術の強制力から逃れていましたが、明確に反旗を翻した以上、のんびりしていられません、裏道を使います」

「そんなものが?」

「眷属や魔物達が使う乗り物です……ここらへんでしょうかね」

 大樹のウロに札をかざすと、樹皮が二つに割れて開く。

 裏道と称された横道は、ジメジメとした空気が流れていた。

「直ぐに来るので下がって下さい」

「……何でありまっ!ひゃっ!」

 アローニアが覗き込もうとした瞬間、洞窟の奥から明かりが見え、汽笛のような音と共に、真四角の列車が停車した。

「な、なんでありますか、これは!」

「魔人が作らせた列車です。一部の配下が持つ、この札を使うと、虚空塔のほとんどへ行けます」

「これでは攻略隊などいりませんな」

 レパルスは苦笑いする。

「こう見えて私、上から数えて二つ目の階層守護者ですから、他じゃあこうは行きませんから!」

 ふんすと、鼻を鳴らすエステル。

「そ、そうでありますか」

 すっかり本来の調子に戻ったエステルに、面を食らう一堂であった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「……え?私のではここまで?何で?私、偉いんですよ?」

《守護者エステル、その札はここまでだ、先へ行きたければ、更新をするように》

 蜥蜴のような魔物に、途中で列車から降ろされ、抗議するエステル。

「何を言ってるかわかりませんが、魔物の車掌なのに妙にしっかりしてますね……」

「そりゃ、魔人の根城でありますし、もうそういうものでありますよ……たぶん」

 その背後でアローニアとランプラは物珍しそうに眺めていた。

「だが……どうする?」

「表示によれば、二つほど階層を飛ばせたようですな」

「行くしかないか」

 振り返ったフュリアス達の前に広がるのは、果てしなく続く巨大な倉庫のような場所だった。

◆◆◆◆◆◆◆◆


「私にいい考えがあります、ここで札を新調しましょう、幸い、この階層で手に入らない品はありません」

「ここで……?」

「この階層に並んでいるものは、全て商品です。対価として魔力さえ支払えば持っていけますが……危険なのでやめましょう」

「なぜですか?」

「必要な魔力が人間には高すぎるので、おそらく負債を抱えることになるでしょう」

 とかいう話をしていると、離れた場所でアローニアの騒ぐ声が響く。

「な!何でありますか!こんなもので魔力がこんなに吸われるなんて!あり得ないであります!え、あれ?うそ……動けな……」

 力なく崩れ落ちるアローニア。

《眷属、魔力が不足しております、お支払い方法を……》

 妖精のような魔物が、彼女周りを旋回しつつ警告していた。

「何してるんだアローニア……」

 呆れるフュリアス。

「問題ありません、《私が代わりに支払う》」

《守護者エステル、これ以上の支払いは……》

「《まだ上限ではないな?》」

《ですが……》

「《魔人様の為だ》」

《……了解しました、エステル様の負債はこれで限度額となりましたので、ご了承ください》

「《わかった》」

 エステルの負担によって、アローニアの魔力は返還された。

「う、動けるようになったであります」

「急性魔力欠乏症ですね……しかし瞬時に治るとは一体なぜ……」

 アローニアの容体を見ていたランプラ。

「……聖女パワーです」

 エステルは嘘をついた。

「聖女パワー……!」

 ランプラとアローニアは、もはやエステルのことを疑わなかった。

「ところでアローニアは何を取ろうとしたんだ?」

「それはその、この手甲です……」

 取り立てて変わった様子のない、無骨な手甲だった。

「ここにある以上は、何かしらの使い道があるはずですよ、えっと……」

 エステルは、棚の上で寝ていた妖精に話しかける。

「《これには、何の使い道がある?呪いは?》」

《むむ……それは、眷属達が拾ってきたもの、随分と保有魔力が多い、しかし引き出すことが出来ないので、ここで魔力と交換された、呪いは無い》

「《ガラクタか》」

《一応頑丈では》

 ガラクタだな、とエステルは思った。

「……安全だと思うので、使えそうなら人は持っていてもいいかもしれません」

「鑑定も無しに……まさかこれも……」

「聖女パゥワーです」

「聖女パゥワー……!!!」

「では行きましょう、しばらく階段を上ったり下りたりするでしょうが、これ以上商品には触れないように」

「はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆


《誰かと思えば破産眷属ではないか、魔人様のお気に入りとは言え、勝手が過ぎるのではないか?人族?》

 応接間で踏ん反り返っていたのは、蜥蜴の顔をした太った魔物だった。

「《なんとでも言うがいい、虚空塔に還元すべき魔力を隠しているお前に言われたくはないな》」

 エステルは、魔術語にポカンとしているフュリアス一行の前で、厳しい言葉を投げかける。

《何のことやら、正しく虚空塔内の魔物や眷属達の魔力の均衡・再分配はなされているだろう》

 すっとぼけた様子の魔物。

「《抜け抜けと、お前とその配下を除いて、と但し書きがつくだろうが》」

《して、人族、何の用だ?このバックリー率いるファンタズマゴリアに》

「《名前ばかりは……いや、そんな話をしている暇はない。単刀直入に言う。バックリー。お前の持っている札をよこせ、予備ぐらい持っているだろう?》」

《グハハッ!更新を怠ったか小娘!それとも、更新費用すら払えんのか破産眷属では!》

「《出せるか、出せないか。私が聞きたいのはそれだけだ》」

《良いだろう、何を言っても魔人様の為と言われては我々には従う他ないからな……だが……》

「《なんだ?こちらに払えるものはないぞ》」

《お前の連れている人族を何匹かこちらへよこせ、なに殺しは止められているからな》

「《殺しはしない--》」

《ああ、もちろん。殺しはしない。--加工するだけだ》

 大量の黒服をきた蜥蜴達が裏から出てきた、その手には鈍く光る黒い杖。

「《貴様、幽閉していた者達を!?》」

《そうしたいのは山々だが、魔人様がお望みではないのでな、だが、すぐに戻せれば文句はあるまい!》

「《屁理屈をっ!》」

「《それが大人の仕事というものだ、小娘。虚空塔の均衡を預かっているのは、我々ファンタズマゴリアだという事を忘れてもらって困る》」

 魔術の光が部屋に満ちる。
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